「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」 町田そのこ 著 新潮文庫
人生ままならないです。思い通りになんてうまくことが進まない。やったと思ったら、奈落の底にまっしぐら。
未来は予想できず不安の中でウロウロし、過去を振り返り今を見つめれば絶望という言葉が浮かぶ。
でも、ほんの小さな優しさが、人を絶望の淵から救うのかもしれないなんて思いました。
短編集です。
最初の「カメルーンの青い魚」は、
*****
大きなみたらし団子にかぶりついたら、差し歯がとれた。しかも、二本。私の前歯は、保険適用外のセラミック差し歯なのだ。
休みを利用して、遠くまで足を運んで食べに来た人気店のみたらし団子。もちもちして美味しいと評判のみたらし団子。最初の一口目で、歯がとれた。
香ばしそうな焼き目を甘じょっぱいタレが覆った団子に、仲良く歯が並んで刺さっている。それを一瞬、哀しい思いで眺めた。それから、とても面白くなって、私は正面で団子を頰張っていた啓太に見せた。ほらほら、見て! 団子に、歯が!
*****
という文章で始まります。
みたらし団子に差し歯が2本。気味悪い、恥ずかしいなんていう人もいるかもしれません。でも、この主人公たちにとっては、「ほらほら、見て! 団子に、歯が!」なのです。
こういうのって、幸せだよなって思いました。成長だ!自己肯定感だ!自己実現だ!・・・じゃなくて、どうでもいいことに笑えるとき、何もないときに理由もなく幸せだなと感じるとき、生きてるっていいなって感じられるのかもしれないですね。
短編集なのですが、バルザックの「人間喜劇」のように、登場人物が再登場します。それぞれの人にそれぞれの人生があるんだなと、その登場人物たちに再会するたびに、なんだか嬉しくなります。そんな小説でした。

