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「となりの陰謀論」 鳥谷昌幸 著 講談社現代新書

陰謀論とは「出来事の原因を誰かの陰謀であると不確かな根拠をもとに決めつける考え方(p.17)」です。

誰もが人生の中で何度かその影響を受けると言って良いでしょう。

著者自身、落合信彦の『ケネディからの伝言』を夢中になって読んだとのことですが、ケネディの暗殺は、最近公開された報告書によれば、オズワルドの単独犯で間違いないのだそうです。

実は、僕自身も同じ経験をしています。高校時代から最近まで、ケネディは、なんらかの陰謀により殺害されたのだと信じていました。ですから、僕自身も、陰謀論から完全に自由というわけではないのです。

「陰謀論はなぜ生まれるのか」について、著者は、2つの仮説を挙げています。

それは
・世界をシンプルに解釈したいという欲望を人間が持っている(p.20)
・何か大事なものを「奪われる」感覚が陰謀論を誘発する(p.21)
です。

世界に目を向けてみると、2つの仮説は妥当性があるように思えます。例えば、アメリカのラストベルトの人たちは、かつての繁栄を「奪われた」という思いを持っています。自分たちが努力をしているのに、敬虔なキリスト教信者なのに、こんな目にあっているのには、何か理由がなければ納得がいかないのです。そうした状態を作り出した犯人は、悪魔に魂を売った連中だろうということになります。それが、IT長者たちで、億万長者で、高学歴のエリートたちが作っているディープステイトだということになるのでしょう。

本当は、ラストベルトが現在のような状況になったのには、複雑な要因が絡み合っているのですが、ディープステイトの仕業とした方がシンプルで納得しやすいのです。

そして、「広める人」がいて、それがネット上で拡散されると、陰謀論は、強大な力を持ってしまいます。その「広める人」が、例えば、ドナルド・トランプです。

トランプは、アイビーリーグの一つであるペンシルベニア大学を卒業した高学歴エリートで億万長者の一人なのですが、エリートと民衆に二分された世界観の中で、民衆からは、こちら側の人間(=民衆の味方 p.118)と見られているのです。彼は、公共の舞台で乱暴な態度をとり、「君たちの味方だ」と証明し続けることによって、「奪われた人たち」からの信頼を勝ち取っている(p.118)のでしょう。

陰謀論の暴走を防ぐ一つの方法として、この本の中で、ファクトファースト・ピラミッドが紹介されています。

ファクトファースト・ピラミッドとは、偽情報を用いた集中的な攻撃に対抗する記者たちが、事実を共有するために市民社会の中に構築する重層的なネットワークのことです(p.158)。

ファクトファースト・ピラミッドは、ファクトチェック、メッシュ、調査、説明責任の4つの層からできています。

「となりの陰謀論」p.159


ファクトチェックの層においては、記者たちが、大規模な為情報の拡散が起きた時に、それらの情報のファクトチェックを迅速に行います。メディア企業の壁を越えて、ファクトチエックの成果が業界内で共有されます(p.159)

次に二番目のメッシュと名付けられた層は、市民社会の様々な集団からなる層です(p.160)。そして、それぞれの集団が、市民社会にファクトチェックの結果を拡散します。

三番目の層が、大学や研究機関の研究者らの層です(p.160)。ここでは、研究者たちがデータを分析し、偽り情報がどのような影響を与えているのかについての報告書をまとめて、定期的に発表します。

最後の四番目の層が、弁護士ら法曹関係者らのネットワークです(p.160)。ここでは、法律の専門家たちが、偽り情報による攻撃を食い止めつつ、攻撃を受ける側の人たちを保護します。

このファクトファースト・ピラミッドは、フィリピンのドゥテルテ大統領(当時)と壮絶な死闘を戦い抜いた、フィリピンのネットメディア「ラップラー」の共同創設者であるマリア・レッサにより考案されたものです。これは、陰謀論に対抗する一つの有効な手段だと言えるでしょう。マリア・レッサは、2021年にノーベル平和賞を受賞しました。


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