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「アンソーシャル・ディスタンス」 金原ひとみ 著 新潮文庫

山崎怜奈さんのラジオ番組に出演した金原ひとみさんが、なんとも自然でいい感じだったのと、「アンソーシャル・ディスタンス」という題名に惹かれて読みました。

ストーリーはフィクションなのでしょうが、小説には、嘘もごまかしも妥協もないのだなと思いました。小説家は、根性が据わっています。

短編集です。コロナ禍での人々の不安を伴うどこかカリカリした心理が、至る所に表現されています。

振り返ってみると、コロナ禍という異常事態が、人々の心の暗部を表面化させていた時期だったと思います。

「アンソーシャル ディスタンス Unsocial Distance」に登場する小嶺沙南は、十歳の時、生まれて初めて本気で自殺を考え、十三から数年間に亘りリストカットを繰り返し、十六の時脱法ドラッグにハマって廃人化し高校を中退。過食と拒食を繰り返しながら大学検定に合格し卒業が決まりますが、大学生時代にはパパ活に勤しんだ女性です。ゼミの一年先輩であった幸希と付き合い始めパパ活を止めました(p.173)。彼女には、希死念慮があります。

彼氏の幸希は、事なかれ主義で、無害に見えますが、ずっと人にひた隠し一人で守ってきた個があります。しかし、その「個」は、表現されたことがなく、おそらく自分でもそれを見失い、その結果自己嫌悪になっています。

幸希の母は、外からは、優しく子ども思いのように見えるかもしれませんが、決して幸希が道を外すことを許しません。

ちょっと長いけど、母親と幸希の会話を引用します。
「おかえり。手洗った? うがいした?」
「洗ったよ」
「うがいは?」
「してない」
「いい加減にしてよこの家に住む以上ちゃんとルールは守って。ほらやってきて。イソジンでね」
中略
「いい加減外出控えた方がいいわよ。遊び歩いて入社前に感染でもしたら印象も悪いし、もし会社でクラスター源になりでもしたら会社員人生どうなるか分からないわよ」
「ロックダウンになればさすがに出ないよ」
「ロックダウンになれば沙南さんに振り回されることもなくなるかしら。だとしたらさっさとして欲しいくらい」(p.199)


幸希の母親は、恐ろしいです。

沙南と幸希の共通項は、生きる希望を失っていることです。
ネタバレになるのでここでは書きませんが、死に向かう彼らを引き留めたものはほんの小さな、しかしとても大切な一瞬です。


全ての短編の主人公は、どこか傷ついている女性です。おそらく彼女たちの母親も、かつて傷ついた経験があるのでしょう。

主人公たち、美奈、愛菜、茜音、沙南、芽衣は、自分の人生を歩むことができるのでしょうか?

逃げる時は、逃げましょうって思いました。

・・・てな感想を書くと、「そうやって、いつも母親が悪者になるのですね」という声が聞こえてくるかもしれません。そんな声が聞こえたら、僕は、一目散にダッシュしますねぇ。それとも空飛ぶ自動車で逃げようか・・・。

しかし、この小説を電車の中で読むのは、ちょっと冷や汗・・・な描写が結構たくさんありました。

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