理学療法士・作業療法士のバーンアウトと職業ストレス
論文の紹介
タイトル
Burnout Syndrome and Work-Related Stress in Physical and Occupational Therapists Working in Different Types of Hospitals: Which Group Is the Most Vulnerable?
(異なるタイプの病院で働く理学療法士・作業療法士におけるバーンアウト症候群と職業性ストレス:最も脆弱なグループはどれか?)
著者・雑誌・発行年
Ju-Hyun Kim, Jong-Moon Hwang ほか
International Journal of Environmental Research and Public Health, 2020
論文の概要
本研究は、理学療法士(PT)と作業療法士(OT)のバーンアウトと職業ストレスを調査し、どのような人が最も影響を受けやすいのかを明らかにすることを目的とした研究です。
医療職は、他の職業と比較して精神的負担が大きい職種とされています。
特にリハビリ専門職は、
・患者さんの身体的苦痛
・心理的苦痛
・長期的な関わり
・高い治療責任
などに日常的に直面するため、慢性的なストレスやバーンアウトのリスクが高いと考えられています。
バーンアウトは主に次の3つの要素で構成されます。
Emotional Exhaustion(情緒的消耗)
仕事によって精神的エネルギーが消耗してしまう状態
Depersonalization(脱人格化)
患者さんに対して冷たい態度や距離を取るようになる状態
Personal Accomplishment(達成感)
仕事に対する達成感や有能感
本研究では、韓国の複数の病院に勤務するPT・OTを対象に調査を行い、
・病院規模
・性別
・年齢
・収入
・職務経験
などの要因とバーンアウトの関係を分析しています。
研究対象は325名(男性131名、女性194名)で、以下の質問票を使用して評価されました。
Maslach Burnout Inventory(MBI)
バーンアウトを測定する代表的な尺度
Job Content Questionnaire(JCQ)
職業ストレスを評価する尺度
さらに、生活の質を評価するためにSF-36(Quality of Life)も用いられました。
主な研究結果
▶ 病院規模とバーンアウト
本研究では、小規模・中規模病院で働くセラピストほどストレスとバーンアウトが高いことが示されました。
職業ストレス(JCQスコア)
大病院
1.88 ± 0.27
小・中規模病院
1.80 ± 0.26
この尺度では数値が低いほどストレスが高いため、小規模病院の方がストレスが強いことが示されています。
バーンアウトの各指標でも同様の傾向が見られました。
Emotional Exhaustion
大病院
1.74 ± 0.67
小規模病院
2.07 ± 0.65
Depersonalization
大病院
0.98 ± 0.58
小規模病院
1.38 ± 0.59
さらに、Personal Accomplishment(達成感)は小規模病院の方が低く、バーンアウトが強いことが示されています。
▶ バーンアウトが高い人の特徴
分析の結果、バーンアウトが特に高いグループには次の特徴がありました。
女性・20代・小規模・中規模病院勤務
つまり本研究では、「小規模病院で働く20代女性セラピスト」が最も脆弱なグループであることが示されました。
▶ 年齢とバーンアウト
年齢による比較では、20代のセラピストは30歳以上よりも Emotional Exhaustion が高いことが示されています。
これは、
・臨床経験が少ない
・業務への適応途中
・責任や負担への慣れがない
といった要因が関係している可能性があります。
▶ 生活の質(Quality of Life)
研究では、バーンアウトの高いグループは生活の質(QOL)も低いことが示されました。
特に次の項目で低い傾向が見られました。
・Physical functioning
・General health perception
・Vitality
・Mental health
特に精神的健康(mental health)において大きな差が見られています。
つまり、バーンアウトは単なる仕事の問題ではなく、生活全体の幸福感にも影響する可能性が示唆されています。

全体像として重要なポイント
この研究で重要なのは、バーンアウトが個人の問題だけではなく「環境の問題」としても理解されている点です。
医療従事者のバーンアウトは、
・患者ケアの質低下
・医療ミス
・離職
・メンタルヘルス悪化
などにつながる可能性があります。
そのため、単に「ストレスに強くなる」ことだけではなく、職場環境そのものを改善することが重要であると指摘されています。
例えば、
・福利厚生
・職場文化
・業務負担
・サポート体制
など、組織レベルの要因がバーンアウトに大きく関係する可能性があります。
結論
本研究では、理学療法士・作業療法士のバーンアウトに影響する要因を分析した結果、小規模・中規模病院で働く20代女性セラピストが最もバーンアウトリスクが高いことが明らかになりました。
また、バーンアウトの高いグループでは
・職業ストレスが高い
・生活の質が低い
ことも確認されています。
そのため、
・業務負担の調整
・職場環境の改善
・メンタルヘルス支援
などの取り組みが、医療職のバーンアウト予防に重要であると結論づけられています。
面白かった点
本研究で興味深かったのは、若手セラピスト、特に臨床に出て間もない時期の支援の重要性が示唆されている点です。
研究では20代や経験年数の少ないセラピストでバーンアウトが高い傾向が示されており、個人的には臨床に出てからおよそ5年目までの成長過程をどのように支えるかが重要だと感じました。
また、「安心して働ける環境」といっても、その意味は人によって異なります。例えば、
・仕事の要求の高さ
・職場環境
・人間関係
など、影響する要因は様々です。本研究の健康関連QOLの結果を見ると、特に「心の健康」をどう担保するかが重要であることが示唆されており、この点が印象的でした。
教育・マネジメントへの示唆
この研究から得られる示唆は、医療教育や組織マネジメントにも重要な示唆を与えると感じました。
バーンアウトを予防するためには、個人の努力だけではなく、組織としての支援体制が重要になります。
例えば、次のような取り組みが考えられます。
メンター制度(若手セラピストを支える指導体制)
ピアサポート(同僚同士で相談できる環境)
業務負担の調整(過度な担当数や業務量の見直し)
心理的安全性の確保(意見や悩みを共有できる職場文化)
医療現場では、
・患者の生命
・専門職としての責任
・高い業務量
など、多くのストレス要因があります。
そのため、「個人が耐える」のではなく「組織が支える」仕組みが今後さらに重要になると感じました。
