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時間の質 幕間一|揺れの内部

試合が揺れているように見えるとき、私たちは「どちらにも流れがある」と考えやすい。

攻める時間が続き、流れが何度も変わる。
次のゴールがどちらに生まれるのか、わからない。

しかし、同じように揺れて見える試合でも、その中身は同じではない。
何度もゴールへ向かう揺れがある。

静かに待ち、少ないチャンスだけを選ぶ揺れもある。
さらに、どちらも待とうとした結果、一方がボールを持たされ、まだ攻撃の方向を作れない時間もある。

この記事で見るのは、どちらが多く攻めたかではない。
相手の守備が弱くなる瞬間を、どこに見ているのか。

その瞬間を何度も作ろうとしているのか。
一度だけ大きなチャンスを待っているのか。
それとも、そこへ向かう道さえ作れていないのか。

私は、守備の力が弱くなる瞬間を「谷」と呼ぶ。

揺れは、ただ試合が落ち着かない時間ではない。
谷をどう読むかによって、その形は変わる。
この幕間では、揺れの中身を見る。


Ⅰ|揺れは一様ではない


揺れは、いつも同じ形ではない。

第1回では、揺れを「方向が一つに決まらず、いくつもの可能性が残ったまま、試合が動き続ける時間」と考えた。
そのときは、揺れの中身までは見ていなかった。

しかし、ノルウェーのブラジル戦とイングランド戦という二つの九十分を見たことで、揺れにも違いがあることがわかってきた。

何度もゴールへ向かう揺れがある。
静かに待ち続ける揺れもある。

その違いを決めるのは、チームの性格だけではない。
相手の守備がどの時刻に弱くなるのか。
どの場所にすき間ができるのか。
それをどう読むかで、揺れの形は変わる。

私は、守備の力が少し弱くなり、攻撃が通りやすくなる瞬間を「谷」と呼ぶ。揺れは、谷の位置によって形を変える。


Ⅱ|跳ねる揺れと、冷える揺れ


揺れには、跳ねる揺れと、冷える揺れがある。

跳ねる揺れは、何度もゴールへ向かう。
一つの攻撃が止められても、次の攻撃を出す。
それも消えたら、また次を出す。

試合の熱は広がり、何度もチャンスが生まれる。
そして最後には、その広がった熱を一つのゴールへ集めようとする¹。

冷える揺れは、攻撃の回数をしぼる。
通らない攻撃を何度も続けるのではない。
本当に通る瞬間が来るまで、静かに待つ²。

最初は、この二つをチームの性格だと考えていた。
攻め続けるチームと、待ち続けるチーム。
その違いだと思っていた。

しかし、次の試合で、その考えは変わった。

前の試合では七十九分まで待っていた側が、次の試合では三十六分に先制した³。冷えていた側は、いつも冷えているわけではなかった。
相手によって、待つ長さが変わったのである。

守備の谷が七十九分に来る相手なら、七十九分まで待つ。
三十六分に来る相手なら、三十六分で攻撃を出す。
冷える揺れは、性格ではなかった。
谷の位置を読む方法だった。

跳ねる揺れは、谷が何度も来ると読む。
だから、何度も攻撃を出す。

冷える揺れは、谷は多くないと読む。
だから、少ない瞬間を待つ。

攻撃の回数が違うのは、性格が違うからではない。
谷をどう読むかが違うからである。

どちらの読みが正しいかは、試合が終わるまでわからない。


Ⅲ|持たされる時間


持たされる時間は、揺れそのものではない。揺れが始まる前の問いである。

待つチーム同士が向かい合うと、どちらかがボールを持たなければならなくなる。

本当は待ちたい。
相手が前へ出てくるのを見たい。
その後ろにできた場所を使いたい。

しかし、相手も出てこない。
そのため、一方がボールを持たされる。
これが、持たされる時間である⁴。

この時間は、跳ねる揺れでも、冷える揺れでもない。
谷を探したいのに、その前に自分たちで攻撃の方向を作らなければならない。

相手の守備が弱くなる瞬間を待ちたいのに、ボールを持つことで、自分から前へ進むことを求められる。

持たされた側は、方向を作ろうとする。
作れなければ、試合は動かない。

何も起きないまま、時間だけが過ぎていく。
作ることができれば、その次に谷が生まれる。

持たされる時間では、谷を読む前に問われることがある。
自分たちで方向を作れるかどうかである。

方向ができて、初めて揺れが始まる。
そのあとで、谷を読む意味が生まれる。


Ⅳ|準決勝への三つの問い


準決勝では、出口の時刻を予想するのではなく、谷がどこに現れるかを見る。

ここまでの試合から、三つの問いが残った。

一つ目は、谷を読む力が同じくらいのチーム同士では、何が勝敗を分けるのか。
どちらも相手の守備が弱くなる瞬間を読めるなら、
最後の差になるものは何なのか。

二つ目は、持たされる時間の中で方向を作れなかった側が、
そのあと、どう試合を立て直すのか。
前半に何も作れなかったとしても、選手交代や立つ場所の変化によって、
もう一度方向を作ることはできるのか。

三つ目は、小さな谷を二つ見つけることと、大きな谷を一つ見つけることに、同じ価値があるのか。
二度の小さなチャンスを持つ側と、
一度だけ大きなチャンスを持つ側では、どちらが試合を閉じやすいのか。

これまでは、揺れの型から出口の時刻を予想しようとしていた。
早く動くのか。
終盤まで待つのか。
しかし、準決勝では、その予想をしない。

揺れの形だけを見て、出口を決めつけない。
見るべきものは、谷である。

どこで守備の力が弱くなるのか。
その谷は一度なのか、何度も来るのか。
そして、その瞬間に何を出せるのか。
九十分を通して、それを見る。


Ⅴ|二つの準決勝


二つの準決勝は、試合を閉じる時間が違う。

フランスは、ここまでの五試合を、すべて延長に入ることなく終えている。谷を早く見つけ、九十分の中で試合を閉じてきた側である⁵。

スペインは、終盤まで力を残してきた。
上位ラウンドの二試合では、途中から入った選手が最後の時間を動かした⁶。

谷そのものは、早くから開いていたのかもしれない。
しかし、そこへ攻撃を出す役目を持つ選手は、終盤まで残されていた。

早く谷を見つけ、早く閉じる側。
谷が開くまで力を残し、終盤に攻撃を出す側。

二つの時間が向かい合う。

どちらの谷が先に開くのか。
何分に開くのか。
そこへ何を出すのか。
まだ地図にはできない。

地図は、場所を先に決める。
しかし、谷は試合の中で動く。
相手の出方によって深くなり、選手交代によって埋まり、
疲れによってもう一度開く。

だから、谷は地図として見ることができない。
天気として見るしかない。
九十分の中で変わり続けるものとして、その形を追う。

揺れは、予想するものではない。その中身を見るものである。


脚注

  1. ブラジル対ノルウェー戦。ブラジルはシュート十四本。PKを二本得て、一本は止められ、もう一本は後半アディショナルタイムに決めた。

  2. 同じ試合のノルウェー。シュートは九本。得点は七十九分と九十分だった。

  3. ノルウェー対イングランド戦。ノルウェーは三十六分に先制した。

  4. ノルウェー対イングランド戦。ボール支配率はイングランド五二%、ノルウェー四八%。相手ペナルティーエリア内でのタッチ数は、両チームとも三十一回だった。

  5. フランスは、ここまでの五試合をすべて延長に入ることなく終えている。

  6. スペインは準々決勝で、途中出場した選手から二分弱で決勝点が生まれた。その前のラウンド16でも、延長に入ってから得点している。



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