しかれども日常。
「水没して捨てようと思ってた
古い、ipod、知りませんか?」
洗濯物を干し終えて部屋に戻ると、
夫が聞いてきた。
朝から部屋をゴソゴソしていると思ったら、
どうやら探し物をしていたらしい。
その口調から、
流行語にもノミネートされた名探偵津田の
「長袖を、くださいっ!」
に匹敵する勢いを感じた私は、真摯に返答した。
「知らないよ。捨てたんじゃないの?
そもそもipodを水没させたことすら知らなかったわ」
それを聞くと、彼はまた自分の部屋をゴソゴソやり始めた。
夫は物を捨てるのが苦手だ。
使えなくなったものも大事に溜め込んでいて、
自分で処分するということをあまりしない。
結婚当初、
流石にこれはもう履かないだろう、
という穴開き靴下をこっそり捨てたら、
即日バレた。
「ねぇ、穴の開いてた赤い靴下、知らない?」
普段、使いもせず、
箪笥の奥に転がしているだけなのに、
こっそり処分すると、謎の第六感を働かせて
信じられないくらいの速さでそのことを察知する。
そのくせ、嫁=私の髪が短くなっていようが、
一向に気付かない。
あまりにも一向に気付かな過ぎるので
「髪切ったんだよ」
と言ってみると、
「ほんとだー!!」
とロバーツ監督と同じ歳のおっさんとは思えないくらい無邪気な反応が返ってくる。
その第六感、他でも使ってくれ。
-
彼の発言を文字に起こしてみると
ちょっと可愛いロバーツ監督と同じ歳のおっさん
を想像される方もいると思うが、
そんなことは全くない。
とにかく頑固でこだわりが強く、
めちゃくちゃ面倒臭い。
その証拠に彼が現在使っている携帯電話は
2006年に発売された
SO901iWP+
というwikipediaさんにも載っている歴史的な機種だ。
それを頑なに変えようとせず、
壊れても、同型を見つけてきては
使用し続けている。
写真を載せようとも思ったのだが、
今現在使っている人を全く見たことがないので、
身バレするんじゃないかと思い、やめた。
最近では、
電話をかけると呼び出し音の前に
「お客様がお使いの携帯電話は2026年〇月をもちましてサービスを終了し、ご利用ができなくなります」
と、日本で100人くらいしか聞いたことがないんじゃないか
というくらいのウルトラレアメッセージが流れるようになっていて、
「これ聞いてみて」
と嬉しそうに私にも聞かせてくれる。
その嬉しそうな顔の意味が分からんのよ。
「変えればいいじゃん。不便でしょうよ」
という私の意見が取り入れられる気配は
今のところ、当然のように、ない。
更に面倒なことには
事前アドバイスは完全無視なわりに
何かが起きると
「これどうしたらいいと思う?」
と尋ねてくることだ。
その度に
「だから言ったじゃん!」
と私にキレられ、
「もういい!」
と逆ギレするという喧嘩を繰り返している。
-
とはいえ、結婚生活も数年が過ぎると、
私も”諦める”ということを覚え、
遂には
嫁旦那不可侵条約
を締結するに至った。
私からは何も言わないので、
何かあっても頼らないでください!
それ以降、基本的には均衡が保たれているのだが、
年に数回、今回のipodのような事件が発生する。
大事に物をため込んでいるのに、
いざ探すと、それが見つからない。
あの第六感はどこへ行った?
と思うくらい、絶対に見つからない。
そして、今回もあの第六感は全く機能しないまま、
彼は出勤時間を迎えた。
「ショックだなぁ。とっておいたはずなんだけどなぁ」
-
そう、
そして何故だか知らないが、
こういう物は大体、嫁が探すと見つかる運命にあったりする。
夫の部屋に侵入し、
ここか?・・・違うか。
を繰り返すこと10分。
ほらね。あった。

津田さんに次ぐ名探偵は夫ではなく、
私なのだよ。
こうなったらついでに名探偵っぽく言っておこう。
「不要な物を捨てて、くださいっ!」
