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愛を支配に変えてしまった女 フェイ・ダナウェイ主演『愛と憎しみの伝説』

子どもの頃に、テレビで偶然観て、なぜか心に残り続けている映画があります。

面白かったとか、感動したとか、そういう単純な言葉では片付けられない。むしろ観終わったあと、何とも言えない居心地の悪さと、強烈な映像だけが頭に焼きついて離れなかった作品です。

その一本が、『愛と憎しみの伝説』(1981年)でした。

この映画は、1920年代から1960年代にかけて活躍したハリウッドの大女優、ジョーン・クロフォードの養女クリスティーナが出版した暴露本『親愛なるマミー/ジョーン・クロフォードの虚像と実像 Mommie Dearest』を原作にした作品です。

監督はフランク・ペリー。
そして、ジョーン・クロフォードを演じたのが、1970年代を代表する名女優、フェイ・ダナウェイでした。

公開当時、本作は大きな話題を呼びます。
しかしその一方で、批評家たちからは激しい酷評を受け、第2回ゴールデンラズベリー賞で作品賞や主演女優賞などを受賞。後には「1980年代最低作品賞」にまで選ばれてしまいました。

けれど、私は「最低映画」という言葉だけでは片付けられない作品だと、昔から感じていました。

むしろ、強烈すぎる個性と、フェイ・ダナウェイの凄まじい演技が、多くの観客を圧倒しすぎた作品なのではないか。そんな気がしてなりません。

《スタッフ》
◎監督:フランク・ペリー
◎原作:クリスティーナ・クロフォード
◎製作:フランク・ヤブランズ
◎脚本:ロバート・ゲッチェル ほか
◎音楽:ヘンリー・マンシーニ
◎美術ビル・マレイ
◎衣装:アイリーン・シャラフ
《キャスト》
◎ジョーン・クロフォード:フェイ・ダナウェイ
◎クリスティーナ:ダイアナ・スカーウィッド

《ストーリー》
ハリウッドを代表する押しも押されもせぬ大女優ジョーン・クロフォード。彼女は世間からの好感度を上げる目的で、子供を持ちたいと考えるようになります。ところが、不妊体質である上、2度の離婚歴のある身でなかなか養子縁組はまとまりません。

弁護士の恋人グレッグのコネを使って、ようやく女の子の赤ちゃんを養女として迎え入れることに成功。その子にクリスティーナと名づけて養育するも、独善的な価値観から次第に過剰なほどのしつけを行うようになっていきます。

クリスティーナが反抗的な態度を取り始めたこと、さらに映画製作会社「MGM」との契約破棄など自身のキャリアが低迷し始めたことでストレスはピークに!子供に個人的な苛立ちをぶつけ、虐待ともいえる行動へとエスカレートしていくのでした…。

ジョーン・クロフォードは、貧しい家庭に生まれ、本名ルシール・ルスールとして巡業劇団でダンサーをしていたところからキャリアをスタートさせました。強い野心と努力でMetro-Goldwyn-Mayer(MGM)との契約を勝ち取り、1920年代には流行の最先端をいくスター女優として人気を確立します。

サイレント映画からトーキーへの移行にも成功し、1932年の『グランド・ホテル』では、グレタ・ガルボら大スターと肩を並べる存在となりました。しかし、その後は新しいスターたちの台頭によって人気が低下し、1943年にMGMとの契約を終了します。

その後、ワーナー・ブラザーズへ移籍し、『ミルドレッド・ピアース』で見事復活。初のアカデミー主演女優賞を受賞し、「キャリア最高の演技」と絶賛されました。

以後も女優活動を続けましたが、年齢とともに主演作は減少。『何がジェーンに起ったか?』では再び注目を集めたものの、その後はホラー作品などへの出演が増え、次第に表舞台から遠ざかっていきます。

そして1977年、マンハッタンの自宅で心臓発作のため亡くなりました。貧困から這い上がり、栄光と挫折を繰り返しながら、“スターであり続けようとした女優”だったのです。

スターとしての栄光。老いていくことへの恐怖。仕事を失っていく焦り。愛情と支配の混同。そうした感情が少しずつ歪み、母と娘の関係は、愛と憎しみが絡み合った壮絶なものへ変わっていくのです。

この映画を観ていて強く感じるのは、ジョーン・クロフォードという人物の“異様なまでの執念”です。

貧しい家庭に生まれ、ハリウッドの頂点まで登りつめた彼女は、努力と自己演出によってスターになった女性でした。

だからこそ、転落を恐れる。美が衰えることを恐れる。忘れ去られることを恐れる。
その恐怖が、彼女を少しずつ壊していくのです。

そして、その壊れ方を、フェイ・ダナウェイが鬼気迫る熱量で演じ切っています。

顔の角度。歩き方。視線。怒声。感情の爆発。まるでジョーン・クロフォードそのものが憑依したかのような演技でした。

だからこそ、この映画は観ていて疲れる。
観客を安心させてくれない。常に緊張感が漂っている。

批評家の中には「怪獣のようだ」と酷評した者もいたそうですが、私はむしろ、そこまで壊れた姿を晒しながら演じ切ったフェイ・ダナウェイの覚悟に圧倒されました。

しかも本作は、単なる暴露映画では終わっていません。

ジョーン・クロフォードを、一方的な怪物としてだけ描いているわけでもない。

時には優しく、時には孤独で、時には滑稽で、そしてどうしようもなく哀しい。

スターという幻想に人生を捧げた、一人の女の痛々しい姿がそこにはあります。

また、豪華な衣装やヘアメイク、当時のハリウッドの空気感を再現した美術も素晴らしく、映画全体がどこか悪夢のような華やかさに包まれています。

その絢爛さの奥で、ゆっくりと人間が壊れていく。そこが、この映画の恐ろしさであり、同時に強烈な魅力でもあるのでしょう。

『愛と憎しみの伝説』は、確かに万人受けする映画ではないと思います。「最低映画」でもない。

むしろ、フェイ・ダナウェイという女優が、自分自身を削るようにして作り上げた、異様な熱量を持った一本だったと思うのです。

そこには、スターという夢に人生を呑み込まれてしまった女の、痛々しいまでの叫びが刻まれていました。

人によっては笑ってしまうかもしれない。
人によっては嫌悪感を抱くかもしれない。

しかし、観たあとに忘れられなくなる。
それこそが、この映画の持つ危険な魅力なのかもしれません。

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