ノーワークがハローワークで、優しさにふれた15分間
会社をやめたら、明日から自由の身だ!
と思いきや、無職の初期段階は意外と忙しい。
保険や年金の切り替えを行うべく、区役所に行く必要がある。そして当面の生活費を確保すべく、ハローワークに行き失業保険の手続きも行う。
わたしの場合はメンタルを病んだことによる退職だったので、病院で診断書を発行したり、医療費の負担を減らすための手続きがあったり、さらにやるべきことが増えた。
公的な施設を、毎日行ったり来たり。あれが足りない、これが足りない。「この手続きを行うためには先にこの書類が必要で⋯」みたいなことも多くある。
なぜ1箇所ですべての手続きを終えられないんだろう。どうして正しい持ち物や順番をだれも教えてくれないんだろう。公式サイトに書いてある?動線が複雑で、情報が多すぎてわけがわからない⋯!
メンタルを病んでいたわたしには、この怒涛の手続きイベントが本当にしんどかった。これ、ぜったい途中であきらめてしまう人もいるよなあ⋯と思う。
失業保険を受給するには、毎月ハローワークに状況報告をする必要がある。就職活動はしたのか、就労意思があるのかを確認し、職員からの認定を受けることで受給対象者になれる。憂鬱だった。
ハローワークでの窓口相談も、就職活動として認められるらしい。受付をす済ませると、待ち合いスペースのイスは埋まっていて、たくさんの人が順番まちをしていた。
状況や経緯はわからないけれど、いま仕事をもっていない人がこんなにたくさんいるんだなあ。わたしだけじゃない、という状況に勝手ながら少しホッとした。
名前が呼ばれ、区切られたブースに向かう。担当の職員は、自分の親世代の女性だった。書類を手渡すと、「今日が初めてなんですね」と内容を確認している。退職理由までひと通り読んだあと。
「大変だったでしょう。疲れちゃったね。ゆっくりで大丈夫だからね」と、目を見て声をかけてくれた。大げさにせず、流れるように自然なトーンだった。
こんなの、よくある状況なのかもしれない。仕事として、目の前のお客さんに丁寧に対応してくれたのだ。だけどその言葉がスッと刺さってしまって、なぜだか涙が出てしまい、マスクをもち上げて顔を隠した。
「一応ね、希望条件にあわせていくつか求人票を出してみたんだけど。持ち帰って、落ちついてから見てみてくださいね。とはいえこれから就職活動の実績も必要にはなるんだけど⋯できそうなことからで大丈夫だから」
会社での人間関係に疲れて、直近の手続きイベントで疲れて、なんかもうぜんぶイヤになってしまって。そんなときにかけられた「少しずつで大丈夫」という言葉は、わたしにとっての救いだった。
帰り道。これからのことはなにも決まっていないけれど、いつかは大丈夫になるかもしれない。そんなふうに思えたのは久々だった。
その後もハローワークには何度か行ったけれど、担当する職員はそのときによって変わるため、あのときの女性には二度と会えなかった。そしてハローワークで仕事が決まることもなかった。
でもそこから時間はかかったけれど、人生が少しずつ大丈夫になってきた。自分の選んだ仕事を、大丈夫な範囲でやっている。
あの日ハローワークの窓口で、たった15分間の優しさにふれたこと。いまでもよく覚えている。もう名前もわからないけれど、ずっと感謝している。
