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自分の本が生まれた日、愛しくて表紙をなでた

「本って、自分でつくっていいんだ⋯!」

知らなかった。世の中に存在するすべての本は、どこかの誰かに「どうか本にしてください」と懇願され、どこかの誰かの役に立つことを前提として生み出されるものだと思っていた。

わたしがつくりたいからつくる。そんな本があってもいいのだ。


去年の終わり頃、noteでたまたま見かけたレポート記事がきっかけで、初めて文学フリマに足を踏み入れた。文学フリマ=文学作品を対象とした即売会のこと。小説・短歌・俳句・詩・評論・エッセイなど、自分が文学だと信じるものであればどんな作品でもOKだという。

東京ビックサイトの大きなホールに、端から端まで並んだブース。ここにいる全出店者が、自分の言葉で書きたいことを書き、名前(タイトル)をつけて、本として生み出した。テーマも装丁もさまざまだけれど、どの本も堂々とした顔で通路を歩くわたしを見ている。

本って、自分でつくっていいんだ。こんなにたくさんの人が自由に本をつくっているのだから、わたしだって本をつくっていいはずだ。

たくさん買い込んだ本の重さを片手に感じながら、帰りの電車で、半年後に東京で開催する文学フリマの出店者申込みフォームを送信した。その後知ることになるのだ、本づくりの楽しさを。


本をつくるにあたり、自ら本をつくった先人たちのnoteやブログをたくさん読んだ。本づくりについて書かれた本も買って読んだ。おかげでなんとか本をつくり上げることができたのである。

けれどつくり手ではなく、物理的に本を生み出す印刷所視点で本づくりを語る本は初めて出会った。それが藤原印刷の『本が生まれるいちばん側で』である。

一貫して伝わるのは「自分の衝動に従って本をつくるのって、とんでもなく楽しいよ!」ということ。つくり手の衝動を、背景を、想いを、葛藤を、いちばん側で伴走してきたからこそ書けるエピソードがぎゅっとつまっている。


冒頭では実際に藤原印刷から生まれた本がカラーで紹介されていて、細かい仕様や部数や予算まで教えてくれる。思い入れのある生地やワンピースを表紙に貼ったり、写真のように場面を切り取る短歌から着想を得て表紙や本文の紙を切り取ってみたり、写真集の表紙に使うため段ボールをひとつずつくり抜いていたり、見たことのない表現にときめいてしまう。

もちろん個人の状況によって、本づくりに至るまでの背景や想い、かけられる予算もさまざまだ。藤原印刷はそれらの事情を丸ごと抱えながら、つくり手の「やってみたい」に一緒に悩んで一緒にベストを見つけてくれる。

その過程にたまらなくワクワクしたし、生まれた本たちはどれもみんないい顔をしていた。


人が本をつくる理由のひとつに「儀式として、綴じて、閉じて、次へ進むため」と書かれている。わたしが本をつくった理由もこれかもしれない。

人生の区切りとして、これまでの良いことも悪いことも言葉にして書き出して、本にして綴じて、閉じた。「人生第一章、これにて完結!」という爽やかな気持ちになり、第二章・第三章に向けて歩めている気がする。

登場するつくり手たちが「どうしてもいま、形として本に残したかった」と言う気持ちがよくわかる。いましか書けないことがあるから。十年後のわたしが忘れていることも、いまのわたしなら新鮮な感情をまるごと書くことができるから。

こうしてネットで文章を読み書きできる気軽さも大好きだけれど、自分の家で、どこかの誰かの家で、触れられる形で言葉が残っていくことの特別さを改めて感じた。


本文は兄の隆充(たかみち)さんと弟の章次(あきつぐ)さんが半分ずつ書いており、本づくりに対するふたりの想いの熱さ、それぞれの強みであるリーダーシップや特攻力が見える。プロの仕事をやり抜く藤原印刷の社員や製本会社などの協力を得てひとつの本をつくっていく過程は、いち企業の物語としても読みごたえがある。

読み進めるうちに本をつくりたい欲が高まっていくのだが、最終章では「本をつくるために決める7つのこと」を教えてくれる。「まさに今知りたかった⋯!」というタイミングであらわれるのでとてもありがたい。

そしてこの本自体で印刷の面白さを体感できるようにもなっている。紙の色、厚さ、手触り、文章の色。触れて読む、まさに紙の本ならではの楽しさがあった。

ああ、早く本をつくりたい。次はどんな本をつくろうか。そんなことをワクワク考えながら大事に大事に読んだ。


自分の言葉が目に見える形で存在していることの嬉しさ。印刷所から届いた段ボールを開けたときの紙とインクの香り。表紙をさらりとなでて、本文をぱらぱらとめくっては何度も手触りを確かめたこと。愛しくて本をなでる日がくるなんて思わなかった。本づくりは、今までに感じたことのない感情や経験をくれるのだ。

本が生まれるいちばん側で』から終始伝わってくる、本をつくる人が増えたらいいな、という想い。まったくもって同意見である。本をつくることは、とんでもなく楽しくて嬉しい。つくる過程での大変だった瞬間さえも、一緒に綴じてしまえばなぜかいい思い出になっている。完成した本を手にしたとき、きっと愛しくて思わずなでてしまうだろう。

本は自分の意思で自由につくっていいのだと。そう言って隣で優しく肩を組んでくれるような、本をつくる人のお守りになるような、そんな本だった。




本が生まれるいちばん側で』の第1章が全文公開されていたので、試し読みにぜひ!


こちらはわたしが初めてつくった、とても愛しい本たち。好き勝手に書きたいことを書いた。本づくりは本当に楽しい。

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