マニキュア模様と海風の文字
夢を見たので、急いで書き残している。
内容はドラマ撮影で、この回で主役を演じるは私。
顔ははじめて見たけれど、話し方も身振りも懐かしい感じがする皆さんが登場。
知らない海沿いの下町が舞台。古本屋の街で、一箱棚主たちばかり。主婦や八百屋のおじさん、海軍学校の生徒さんまで皆さん本のことが大好き。
おまけに書くことも皆大好きで、その街では手書きの薄い新聞がよく刷られていた。
私は物書きを目指す、自分でも冴えないと思っている中年にさしかかる女性だった。
爪は不揃いのマニキュアで飾られていて、何か心に思うことがあると無意識にはがしてしまう。
だから、床はところどころ歪でカラフルな水玉模様ができていた。
私は思いついたことを住んでいるアパートのあらゆる部屋の床に書いてしまう癖を持つ。
自分の癖に恥ずかしさを感じているが、書きたい言葉が捕まえられそうなところに来てしまうと、止められない。
床には黒いボールペンの跡が走る。
時々、申し訳なくなって除光液でマニキュアも言葉も溶かしてしまおうとするから、このアパートの床はところどころまだらだ。
ドラマは、街の棚主に取材の企画が来たという回。
内気な私の奇妙な癖に興味を持った街のテレビ局のスタッフがやってきた。
ドキュメンタリー風ドラマを一本撮りたいということだが、演技など当然できない。
案の定私はスタッフやご近所さんに迷惑をかけるが、皆文句は言うものの笑って許してくれる。それを見る私はほっとしたようでいて、どこか言葉にできない気持ちを抱えていた。
私が許されたのはなぜ。容姿も性格も周りより劣っているから?
自分の棚、誰かの棚にある本の表紙をなぞるときだけ自由に息ができるような気がする。
私には本がたどってきた歴史が少しだけ見えてしまう。それはパッと浮かぶ一枚の絵で、後から遅れて感情が少しだけついてくる。
私はいつも、私にしか見えないものを言葉で掬い取るために床に這いつくばる。私の爪はこの歳になっても抜けない噛み癖のせいで短く、今日も先端のマニキュアは剥げかけている。
リノリウムの床で踊る文字の隣で、マーブル模様の水玉がでこぼこに光る。
街の皆は慣れっこで、誰も私のことは気にしない。日常は私を一拍遅れた世界に置いて、するすると流れていく。
ついにこれ以上、惨めな思いをしたくなくて撮影から逃げ出した。ドタドタと街の細い路地を走る。路面に並んだ本に触れては、イメージの渦で足がもつれそうになる。
最後、アパートの屋上でドラマの女性プロデューサーが、トレードマークの黄色いカーディガンをなびかせ仁王立ちで私に質問する。
「あなたにとって、本は?書くこととは?」
肩を揺らし、俯いていた私は顔を上げた。女性の背中から入道雲が見える。海風が強く吹くので、私たちの髪も洋服もぐちゃぐちゃだ。
「私にとって、書くことはー」
というところで、目が覚めた。
今日の私はひどい睡眠不足で、眠れても30分程度で目が覚める。おまけに頭痛までしてきた。
こういうときは決まって夢見が悪いのだが、今回の夢はやけに印象的で、起きた後も不思議と胸に引っかかっていた。
あの黄色いカーディガンの女性はことばとさんかもしれない。
そう思い、忘れないように今これを必死に携帯画面にたたき込んでいる。
まだことばとさんのメンバーシップ「書く部」に入ってから10日くらいしか経っていない。
それでも、書く部に入った後のメンバー同士の交流を通して、書くことに向き合えた気持ちが少しある。
特に、「#30日書けるプログラム」は、普段お題でものを書かない私を大いに刺激した。
こんな楽しい居場所をつくったことばとさんや、メンバーの方、書く部を経てパワーアップした記事を読んでくださる方にお礼が言いたい。
ありがとうございます。
あの夢で私はなんて答えたのか、わからない。
海風がすべてをさらってしまった。
私にとって書くこととは?
あなたにとって読むこと、書くこととは?
見えないだけで本当は、人それぞれの形をした文字が私たちの足元には転がっているのかもしれない。
音羽しーなさんが提案した「ことばとさんへの感謝を書こうという企画」、「#ことばとさんへ2026」に参加します。
お礼の手紙になっているかわかりませんが、私なりの感謝の言葉を風に乗せてお届けします。
▼この夢のきっかけとなった、
「書く部」さんに関することばとさんの記事
▼今回のことばとさんへのお手紙企画を、
提案してくださった音羽しーなさんの記事
