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進化的ミスマッチ───石器時代の脳(ストーンブレイン)を使用して21世紀の環境を生きることから生じる数々の障害について。 #misma |進化心理マガジン『HUMATRIX』


" もし私たちの古代の祖先が、現代のロンドン、マドリッド、シドニー、シンガポール、ブエノスアイレス、ケープタウンの地に蘇ったなら、その第一印象は「楽園に降り立ったぞ」ではないかと容易に想像がつく。そして、日常の些細な悩みを訴える住民たちをあざ笑うことだろう。

しかし、復活したご先祖様には、現代社会の素敵な第一印象に惑わされることなしに、よく観察してみることをお勧めしたい。現代人が抱える問題をよく掘り下げてみると、それは決して笑えるものではない。

それどころか、カフェラテを飲み、スマートフォンでつながりあう、ポストモダンでポストインダストリアルな世界に生きる私たちは、北アフリカの草原で狩猟採集民の祖先が直面したのと同じ問題にいまだに直面している。そしてある意味、私たちは彼らよりも悪い状況に置かれているのだ。" *

───ダグラス・T・ケンリック & デイヴィッド・E・ルンドバーグ=ケンリック( 『Solving Modern Problems With a Stone-Age Brain (石器時代の脳で現代の問題を解決する) 』)
*D. Kenrick & D. Lundberg-Kenrick (2022).


#misma シリーズの記事



✔︎〈人類1.0〉のままのボディ&マインド



人類がこれまで適応してきた環境と、人類がいま生息している21世紀の環境には〝進化的ミスマッチ(evolutionary mismatch)〟がある。

────ちょっとまって。なんでミスマッチ/不一致が起こるんだよ?だって、進化論によれば、生物のデザインは、生息環境にマッチ(適応)するように進化するはずじゃんか。

それは、環境は時として急速に変化するからだ。

遺伝子進化の進みは牛歩のように遅い。それに対して生物の環境は、たとえば隕石衝突によって急変した恐竜たちが暮らした地球のように、一気に大胆に変化することがある。

とりわけヒトという動物の生息環境には〝文化〟という環境ファクターがある。ヒトの文化は進化が追いつくにはあまりに速く変化しているのだ。たしかに文化には「先祖の伝統を受け継ぐ」という変化を拒絶する固着性のベクトルがある*。しかしそれでも何万年スパンで変わっていく遺伝子進化に比べれば、数十年数百年スパンで変化していく文化の変化は急速だ。

*A. Mesoudi (2011)


ここにミスマッチが生じる。文明が進み、スマホやパソコンのOSがどんなにアップデートされようと、俺たちの身体デザインはホモサピが出現した20万年前からほぼ変わらない〈人類1.0〉のままなのだ。

石器時代仕様のままのヒト=ボディと現代文明環境のミスマッチは、さまざまな病を引き起こしている。サイエンスライターのジェフ‪·‬ホイールライトは、ハーバード大の進化人類学者D. リーバーマンのベストセラー『人体600万年史』を読みながらそのことを痛感させられたようだ *;

" クッション付きのデスクチェアに座り、背中を丸めて、パソコンでメモを取りながら『人体の物語(The Story of the Human Body, 邦題:人体600万年史)』という本を読んでいた。"

" それは、自分の有する体というものについていよいよ不快なほどに意識させられるような本だった。腰痛を和らげようと、私は体をよじった。ふと窓の外を見ると、庭がかすんで見える。眼鏡はどこいった? つま先が蒸しかゆい。どうやら水虫が再発しつつある。"


" 私は本に戻った。「この章では、あなたが今まさにやっているであろう3つの行動に焦点を当てています:靴を履く、読書をする、そして座る。」ああ、まさにその通りだ。これ以上に〝ふつう〟のことなんてあるだろうか?"

" 著者であるハーバード大学のヒト進化生物学者ダニエル・リーバーマン氏によると、靴、本、クッション付きの椅子といったものはまったく〝ふつう〟ではないそうだ。私の体はこれらのアクセサリーのために設計されていないので、不満を訴えるのも当然なのだ。"

座りすぎは腰痛の原因になった。幼い頃に本やコンピューターの画面にばかり集中していたため、近視が進行した。クッション付きの密閉された靴は、外反母趾、足指の間の真菌症、足底筋膜炎(弱くなったアーチの下の組織の炎症)など、さまざまな足のトラブルを引き起こす要因となる・・・・・・。"

*J. Wheelwright (2015)



リーバーマンのこの著書についてはこのマガジンで以前も取り上げたことがある。このベストセラー本では、進化によって形成された人体と現代環境のミスマッチをテーマに取り扱っている。

>参考


母なる進化はなんで腰痛なんて仕組みをつくったんだ! なんでこの迷惑な痛みを除去してくれなかったんだ!いい加減な設計すぎるだろ!────と文句を言う人は多いが、進化はそもそも一日12時間イスに座り続ける現代人の奇妙なライフスタイルを〈想定〉していない。人体がデザインされた時に進化が〈想定〉していたのは、つねに立ち歩き、はしゃぎ回り、座るにしても椅子ではなくうんこ座りをする狩猟採集生活だからだ。



腰痛のようなミスマッチ病とはつまり、進化が定めた「人体の取り扱い説明書」を全く読まずに変な使い方をしたせいで起こった故障だということだ。本当に、進化という製造者にその責任があるだろうか?そんな訴えをして、はたして保証されるのだろうか?

まあまあ、それはさすがに進化の肩を持ちすぎだとしても、使用者である我々も少しは人体の使い方を改める努力をしたほうがいいだろう。


────さて、ミスマッチが発生するのは身体だけではない。

脳も身体と同じく、進化に設計された臓器である以上、ミスマッチを起こす。


文明が進み、スマホやパソコンのOSがどんなにアップデートされようと(Re)、俺たちはいまだに太古仕様のWindows BC10,000がOSとして搭載された脳を使いつづけているというのだから、それはそれは生きるのが大変で仕方がない。ボディ同様、マインドも〈人類1.0〉のままだからだ。

俺たちはWindows2000どころか、Windows BC10000を使い続けているのだ


今回取り上げる〝進化的ミスマッチ(evolutionary mismatch)〟という概念とは要するに、

母なる進化が定めているヒトというマシーンの推奨動作環境と、実際にヒトが実行される動作環境が異なることによって、ヒトマシーンの挙動にさまざまな「バグ」や「エラー」が発生すること

を言う。

人間が愚かな行動を起こす理由は「ただバカなだけ」と片付けられがちだ。なぜ?バカな人間のバカな行動を合理的な理由で説明づけるよりも、その個体の知能面を攻撃する方がステイタスゲームでは有利になるからだ。

だが、人間がバカになる論理はきちんと存在している。それを解き明かす手助けをしてくれるのが、この〝進化的ミスマッチ〟という思考道具なのだ。


「このバカが」と罵るのもいいが、バカになる理由を解明できればその挙動を修正できるかもしれない




✔︎幽霊とダンス──自殺するウミガメの謎


進化的ミスマッチが引き起こす不可解な生物学的現象を、著名な進化生物学者で進化心理学者のD.S.ウィルソンは「幽霊とダンス」というメタファーに喩えている *D.S. Wilson (2007);

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