Excel教信者たちへ贈る鎮魂歌
いつの間にか私たちは、緑の格子に魂を売り渡していた。
今日もどこかのオフィスで、誰かがExcelのセルを右クリックしながら「これ、本当はデータベースでやるべきじゃない?」と心の奥で呟いている。
でも口には出さない。
なぜなら、もう後戻りできないほど深く、Excel沼にハマってしまったからだ。
※先に明言しておく、私はExcelが好きだ
神エクセルという名の現代アート
「これ、Excelで作ったんですよ」
同僚がドヤ顔でディスプレイを指差す。
そこには色とりどりのセルが踊り、まるで現代アートのような複雑怪奇な表が広がっている。
マクロが20個、関数が入れ子で7層、そして謎の結合セルが織りなすカオス。
これを「神エクセル」と呼ぶらしい。
確かに神だ。
旧約聖書に出てくる、人間の傲慢を戒める神である。
私は過去10年以上、数々の企業を見てきた。そこで学んだ真理がひとつある。
作業において
「Excelで解決できない問題は割と少ない。
ただし、Excelで解決すべきでない問題がほとんどだ」
民族大移動の現場
ある日、私は製造業のクライアント先で衝撃的な光景を目撃した。
「在庫管理システム」と呼ばれる巨大なExcelファイルが、なんと27個のシートから構成されていたのだ。しかも、それぞれのシートが相互参照の蜘蛛の巣を張り巡らせ、一つのセルを変更すると、どこか遠いシートの数字が謎めいて変化する。
「これ、開くのに5分かかるんですよ」
担当者は苦笑いを浮かべながら言った。
そのファイルサイズも巨大。もはやExcelではない。これは文明である。
さらに驚愕の事実が判明した。
この「システム」を理解しているのが、会社に数人しかいないのだ。
その人が休むと、工場の生産計画が止まる。
まさに現代の巫女である。
中毒症状の進行過程
Excel中毒には段階がある。
第一段階:入門者の楽園
SUM関数を覚えて天才になった気分。
VLOOKUP関数でドヤ顔。この段階ではまだ引き返せる。
第二段階:関数マニアの誕生
INDEX MATCH の組み合わせを使いこなし、配列数式に手を出す。
周囲から「Excel博士」と呼ばれ始める。快感物質が脳内に分泌される。
第三段階:マクロ依存症
VBAを覚え、ボタンを押すと魔法のように処理が走る仕組みを作る。
「私がいないと会社は回らない」という全能感に支配される。
第四段階:システム化妄想
「Excelでなんでもできる」と信じ込む。
基幹システムをExcelで構築しようとする。
もはや現実と仮想の境界が曖昧である。
終末段階:Excel教 教祖
「世の中の問題はすべてExcelで解決できる」と本気で信じる。
新しいツールの提案を「邪教」として弾圧する。
なぜ我々は格子の虜になったのか
実は、Excelが愛される理由は明確だ。
まず、直感的である。
マウスでクリックして数字を入れるだけ。
プログラミングの知識は不要。
グラフもピボットテーブルも、ウィザードが手取り足取り教えてくれる。
次に、柔軟性が異常に高い。
表計算ソフトの枠を超え、文書作成、プレゼン資料、データベース、システム開発まで、なんでもござれ。
万能薬のような存在だ。
そして何より、「一人で完結できる」点が魅力的だ。
システム部門に依頼する必要もなければ、予算承認を待つ必要もない。今すぐ、自分の手で問題を解決できる。
しかし、この手軽さこそが罠なのである。
沼から這い上がる道筋
では、どうすればExcel沼から脱出できるのか。
まず現実を受け入れることから始まる。「これ、本当にExcelでやるべき作業?」と自問自答する習慣をつけるのだ。
データが数万件を超えたら、素直にデータベースを検討する。
毎月同じ処理を手作業で繰り返しているなら、専用システムの導入を提案する。5人以上で同じファイルを共有しているなら、クラウドサービスへの移行を考える。
そして何より大切なのは、「Excel以外の世界」に興味を持つことだ。
Google スプレッドシート、Notion、Airtable、Power BI。世の中には素晴らしいツールがたくさんある。
もちろん、Excelそのものは優秀なツールだ。
ちょっとした計算や分析、一時的なデータ整理には最適である。
問題は、それを万能視してしまうことなのだ。
愛すべき格子との適切な距離感
結局のところ、私たちが目指すべきは「Excel教」からの脱宗教化ではないだろうか。
Excelを道具として愛用するのは素晴らしい。
しかし、それが唯一絶対の解決策だと信じ込むのは危険である。適材適所、場面に応じて最適なツールを選択する柔軟性こそが、現代のビジネスパーソンに求められる能力だろう。
たまには、いつものExcelを閉じて、窓の外を眺めてみてほしい。そこには緑の格子ではない、本物の緑があることに気づくはずだ。
あなたは今日、何個のセルをクリックしただろうか?
いいなと思ったら応援しよう!
もし「この文章、なんか刺さったな…」と感じたら、チップで気持ちを表現してくれると、調子に乗ってもっと書きます。