拘禁反応とガラテア効果と体制崩壊
※文中に性的虐待に関する記述が出てくるため、苦手な方は閲覧を控えられることをお勧めします
るなさんの件で拘禁反応の情報を引用する必要があり、Wikipediaを参照した際、このような記述を見かけた。
願望妄想群:赦免妄想、革命妄想
調べてみると、次のような解説が見つかった。
V 拘禁反応と訴訟能力
1 拘禁反応の意義と訴訟能力
(1) 拘禁反応は、拘禁を契機として発生した反応性の精神障害で、生活上の自由を制限されるというストレス環境への反応として引き起こされる精神面の異常全般をいう。その分類や症状は多岐にわたり、拘禁に対する一般的な心身反応から拘禁精神病といわれる重度な精神障害まで幅広い状態像を含み、幻覚、妄想、興奮、昏迷、的はずれ応答などを引き起こすものとされている。
この際の妄想には、被害妄想、無罪妄想、赦免妄想、好訴妄想などがある。死刑囚に本反応が現われる率はかなり高く、革命妄想すなわち革命や戦争の勃発で自分が解放されるとの妄想や、蘇生妄想すなわち処刑後息を吹き返すという考えも根強く、奇跡を信じる心理が存在するという。また、急性の不安定な反応を示し、ともに原始反応、慢性の被害妄想、赦免妄想、それに混合状態によって特徴付けられる劇的な気分障害、「限定された時間に対する恐怖」(時間の閉所恐怖症)といった現象が見られるともいう。
拘禁状態を契機とする精神障害であるから、環境の操作(たとえば釈放)や状況の操作 (たとえば早急な判決)により、軽快が期待できる可能性も少なくない。なお、A意見書によれば、X は、投薬を含む治療的措置を要するものとされている。
拘禁は身体にも著しい変化を与え、例えば、収容時と釈放時の著しい体重変化、拘禁時の身体的違和感の増大、自律神経の異常な緊張等、様々な変調を引き起こすとされている。
(31) 拘禁反応については、A意見書、B鑑定、小木・前掲注 (1)書 229頁以下、大熊輝雄『現代臨床精神医学』(1995 年改訂第 6 版、金原出版) 350 頁、福島章『犯罪心理学研究 II』(1984 年、金剛出版)239 頁以下、懸田克躬編集代表『現代精神医学大系 24・司法精神医学』(1976 年、中山書店) 403 頁以下〔稲村博執筆〕、風祭元ほか責任編集『臨床精神医学講座 19・司法精神医学・精神鑑定』(1998 年、中山書店) 361 頁以下〔朴光則・山上皓執筆〕、松下正明編集代表・前掲注 (15) 書 240 頁〔阿部恵一郎執筆〕等による。
拘禁反応で革命妄想が現れるのは、それだけではないと考える。
無実の罪で収監され、地獄の責め苦を味わわされる。
いわれのないことで執拗な衆人環視をされ、精神的苦痛を与え続けられる。
このような理不尽さ、不公平さ、不公正さに疑問を感じるのが正常な思考である。
こんな理不尽が許されてよいはずがない、そのような行為が行われている国は必ずや潰れる。
そのような思考も一因となって、革命妄想は生まれるのだろう。
ここまで読まれた方はお気づきかと思うが、これは妄想ではなくて、正常な思考がもたらす推論や考察に過ぎない。
拘禁反応や拘禁反応を引き起こすような行為は、被害者に、革命やクーデターが起きて、理不尽で腐りきった国家が崩壊するとの思想を植え付ける。
心理効果としてガラテア効果というものがある。
どういうものかというと、自分にはできると信じ込むことによって、自分の能力が実際に成長し、能力以上の出来事が達成される、という心理効果だ。
相手の実力や全体像を理解できない初心者であるがゆえに、自分の能力を必要以上に優れていると感じる効果をダニング=クルーガー効果という。
ダニング=クルーガー効果は有名だから聞いたことがある人も多いだろう。
実はこれらの現象と効果の中に、革命が引き起こされる原理が隠れている。
革命や民衆の大規模反乱が起きた王朝や国家には、共通する特徴がある。
反王家、反国家の人々を取り締まる秘密警察的な機関が存在することだ。
反王家の場合、他民族に征服された異民族がいるなどの理由からそのような勢力が存在することもあるが、大抵は、王侯貴族や役人らが重税を課して民を食い物にし、極度に腐敗した政治を行っていて、その恨みや怒りを根源として庶民の間に広がった反発に由来する。
そのような人たちを、王朝を守るために徹底的に弾圧するのだから、多くの人たちは恐れおののいて見て見ぬふりをするが、義憤に駆られ、憎しみや恨みを燃え上がらせる人たちの数はどんどん増えていく。
そうしてちょっとでも歯向かえば弾圧される、役人が気に食わなくても虐待されるという酷い抑圧状況に置かれれば、拘禁反応が発生する条件が整う。
また、秘密警察に相当する機関に弾圧されたり、虐待された人たちは当然、拘禁反応が起きている可能性が高く、この国は天罰が下って必ず滅びるという感情を強くする。
ダニングクルーガー効果が働いている人間は、国家の力を必要以上に小さく見積もることになる。その状況で、同時並行でガラテア効果が働いたとする。圧政で拘禁反応が生じていて、多くの人たちから、この国はもう駄目だ、必ず天罰が下って滅びるだろう、などと革命妄想を口にしているような状態にあったとしたら、果たして何が起きるだろうか。
政府を倒すための反乱軍の結成と挙兵、あるいは、革命が起きる。
以前にも書いたことがあるが、国家そのものは物理的実態を持たない。
例えば、鉄は実際に実物ある。鉄の塊なんてあちこちにあるから説明不要だろう。車もある。家もそうだ。
それに対して国家は概念上の存在なので、目に見える形では存在していない。国家が所有する建物や土地などはあっても、国家そのものの実物はどこにもない。
人々がその存在を認識し、社会制度として共有することで成立している。
国家という存在は巨大で、強力である反面、人の認識によって存在しているだけの代物なので、非常に脆く、あっけなく崩れる。
ダニング=クルーガー効果とガラテア効果、拘禁反応から生じた革命妄想が合わさると、国家は容易に消え去ってしまう。
帝政ロシアではオフラーナと呼ばれる秘密警察(内務省警察部警備局)が存在し、常軌を逸した異様な弾圧を行った。
ルジェノフスキーの顔面にリボルバーを打ち込み、暗殺に成功したスピリドーノワは、その場で自殺を図ったが憲兵隊によって阻止され逮捕された。当局によって逮捕されたスピリドーノワは、顔面の殴打や乳房を焼かれるなどの拷問に加え、酷い陵辱を受けた。
令嬢その五:スピリドーノワ嬢
5番目の令嬢はマリーヤ・スピリドーノワ嬢。彼女も貴族の出身だが、育ったのはロシアの中央黒土地帯にあるタンボフ県、古都ではあるがモスクワやペテルブルグの華やかさとは程遠く、凶作の年には農民蜂起を間近に見る環境に育った。タンボフのギムナジウムの上級コースを途中退学し、父の死後、県庁に2年務める。この辺が既に他の令嬢とは違う。そしてこの頃からエスエル(社会革命党)とかかわりがあったようだ。
そして党の任務として、蜂起した農民に過酷な処罰を行うルジェノフスキー(郡警察長官)暗殺を実行する。その場で逮捕され、拷問とレイプを受けた彼女の手紙が新聞に公表され、大きな反響を呼び、死刑判決が無期懲役に減刑される。1906年ロシアの片田舎でおきた若い女性による殺人テロ、拷問レイプ、そしてその事件がアメリカにまで発信されているのは驚きだ。
現在ネットで拾うことのできる情報はこれだけだが、マリア・スピリドーノワが受けた拷問は、こんな記述が生易しく見えるほどの、本当に凄惨なものだった(もっと悲惨な話があるのだが、記憶違いの可能性もあるし、また、そのような記述に意味があるのかもわからないため、控える)。
このような異常な拷問を受けた人たちが数多く存在し、拘禁反応によって革命妄想をさらに強化させたり、絶対にこんな腐りきった国は打倒しなければならないという思いをより強固にさせたとしたら、どのような結果を招くのか。
ちなみにこのオフラーナの異常性は旧KGBに継承され、ソ連崩壊後は、結局、シロヴィキと呼ばれる旧KGBなどを含んだ勢力がロシアを支配するに至っています。
何が言いたいのかというと、危険な政治勢力だからといって、締め付けをやり過ぎると、逆に革命が起きるリスクを高めてしまう、ということです。
現在のプーチン政権のやり方を見ていると、ロシア正教会やロシアの伝統文化が政権と一体化することによって、正教会や伝統文化に対する国民の拒絶感を引き起こして、共産主義のような既存の政治・社会秩序を全面的に否定するイデオロギーに心酔する人たちを大量に生み出して、再び革命でも起きるのではないか、と既視感を覚える(※)わけですが、恐らく気づいていないんでしょうね。
といった感じで、秘密警察を設置して、帝政ロシアのような度を越した弾圧を実行した場合に革命が起きるメカニズムは、拘禁反応とガラテア効果、ダニング=クルーガー効果を組み合わせることで、一定程度説明できるのではないか、と考えるようになったわけです。
(※)かつての帝政ロシアも、近代化を進める一方で専制政治・ロシア正教会・ロシア的民衆性という独自の伝統的価値観を絶対視し、政権の延命に利用した。しかし、その結果、政治の民主化を求める知識人や、近代化の歪みで苦しむ労働者たちの反発を招き、既存の体制を根底から覆すマルクス主義の台頭を許した。現在プーチン政権が伝統への回帰を掲げて抑圧を強める姿は、まさに100年前、自ら革命の土壌を耕してしまったロマノフ王朝の愚行と完全に重なって見える。
この部分をAIにわかりやすく補足して貰った。
この既視感が歴史的に正しいと言える理由
この洞察は100年前の「あるスローガン」を引くとさらによくわかる。
帝政ロシア(19世紀)には、国家の公式イデオロギーとして「専制・正教・国民性」という三原則(ウヴァーロフの三原則)があった。
専制: 皇帝の独裁こそがロシアに必要だ
正教: ロシア正教会こそが国民の精神的支柱だ
国民性: ロシア独自の伝統(西欧とは違う)を大事にしよう
現在のプーチン政権がやっていることは、驚くほどこれの焼き直しである。西欧的なリベラル(民主主義や人権)を否定し、ロシア正教会を巻き込んで「伝統的価値観の防衛」を叫ぶ。
しかし、歴史が証明する通り、国家が伝統や宗教を「弾圧の免罪符」として使えば使うほど、反発する人々はより極端で過激な思想(100年前ならマルクス主義、現代なら無政府主義や過激な反体制思想)に流れていく。
当時の知識人(インテリゲンツィア)たちが、国家と癒着したロシア正教会を激しく嫌悪し、神を否定する唯物論(マルクス主義)に傾倒していったプロセスは、まさに筆者が今のロシアに感じている危うさそのものである。
