舞台 「Lovely wife」 観劇レビュー 2025/03/08


公演タイトル:「Lovely wife」
劇場:本多劇場
劇団・企画:劇団青年座
作・演出:根本宗子
出演:高畑淳子、井上夏葉、横堀悦夫、麻生侑里、綱島郷太郎、小暮智美、尾身美詞、伊東潤、本田清佳、君澤透、西田茉莉、伊勢志摩、早織、横山由依、岩松了
公演期間:3/6〜3/16(東京)
上演時間:約1時間55分(途中休憩なし)
作品キーワード:ホームドラマ、コメディ、日常、回転舞台、笑える
個人満足度:★★★★★★★★☆☆
新劇の劇団の一つである「劇団青年座」の公演を初観劇。
「劇団青年座」は公式HPによると、「創作劇の上演」を趣意書に謳い、1954年に結成された劇団である。
「劇団青年座」はこれまで、「パラドックス定数」の野木萌葱さん、劇団「温泉ドラゴン」のシライケイタさん、ピンク地底人9号さん、「劇団チョコレートケーキ」の古川健さんなどの現代演劇を代表する劇作家たちの新作を上演してきた。
そして今回は、劇団青年座創立70周年記念公演第5弾で第260回公演ということで、演劇団体「月刊「根本宗子」」の主宰である根本宗子さんの新作公演を上演した。
根本さんの作品は、『宝飾時計』(2023年1月)、『今、出来る、精一杯。』(2019年12月)を観劇したことがあり、ミュージカル『ワイルド・グレイ』(2025年1月)では根本さん演出での上演を観劇したことがある。
今作は、若い頃は小説家として売れていたが今では鳴かず飛ばずとなった坂東晋太郎(岩松了)と、妻の坂東秋江(高畑淳子)の夫婦の、現在と若い頃を回想するホームドラマである。
物語は、夢乃坂銀雪(君澤透)という新人小説家が名誉ある賞を受賞してその授賞式がホテルで行われるシーンから始まる。
夢乃坂は感極まって涙を流しながら長文のスピーチをしている、そして恋人に宛てたメッセージも長々とスピーチしている。
そんな様子を見ていた晋太郎は、この後スピーチをするのかと気が引けていた。
しかしそんな晋太郎は、家では妻の秋江から呆れられていた。
晋太郎は編集者の小林早苗(本田清佳)と不倫などをしていた頃があり、秋江から愛想尽かされていた。
秋江には幼馴染の親友の並木都(伊勢志摩)がおり、二人で晋太郎のことについて愚痴を言っている。
並木は若い頃から晋太郎のことも知っているので、回想シーンでは晋太郎と秋江のシーンに並木もよく登場する。
そんな晋太郎と秋江の間には坂東もも(横山由依・西田茉莉)という娘もいて...という話である。
結論、今まで観てきた根本さんの作演出作品の中で最も面白い芝居だったと感じた。
役者陣も皆上手いのもあるが、笑って泣けて、そして最後に幸せを噛み締められてホッコリする極上の観劇体験だった。
基本的にストーリー展開としては、夢乃坂という新人小説家の授賞式で晋太郎がスピーチをするというのが現在で、そこから晋太郎と秋江の若い頃や、ももが生まれたばかりの頃、晋太郎が小林と不倫をしていた頃など様々な時代の回想が途中に登場する。
秋江の若き日は横山由依さんが演じたり、晋太郎の若き日は伊東潤さんが演じたりと同じ人物を若い時代と今とで別の俳優が演じることで、回想シーンに今の秋江や晋太郎が乱入するシーンもあり、非常に演劇的に物語を進めている点が構成として上手いと思った。
そして何よりも、家族間の日常会話のやり取りが本当にリアリティあって見事だった。
晋太郎・秋江の、お互い長年夫婦をやってきて呆れ返っているのだが、その仲の悪さが険悪という感じはしなくて、会話を聞いているだけでずっとクスクス笑ってしまう。
喧嘩するほど仲が良いというか、夫婦ってこういう形が日常に多いよねというのを見事に再現していて、そのリアリティに私は釘付けだった。
そしてタイトルの「Lovely wife」という言葉にも色々グッとくるものがあった。
世間にありがちな歳を重ねた夫婦の会話で、そこから幸せを最後に感じられるからこそ、私たちの日常もやっぱり何がともあれ幸せなんだと思わせてくれる。
とても心が温かくなる作品だった。
そして役者陣も本当に見事だった。
秋江役を演じる高畑淳子さんと晋太郎役を演じる岩松了さんの夫婦役が、本当に長年夫婦をやってきたんじゃないかと思うほどリアルで、ここまではっきり愚痴を言い合える、そしてその愚痴が決して険悪なものでなくコミカルに見えて日常を感じてしまうのが本当に素晴らしかった。
根本さんが、ベテラン俳優である岩松さんや高畑さんにここまでの役をやってもらえるのは、作演出家と俳優たちの信頼関係あってなのだろうとも思って、色々今作の座組の素晴らしさも考えさせられた。
そして秋江の親友である並木都役の伊勢志摩さんの強烈ぶりも本当に見事だった。
秋江と並木の親友同士の会話も本当にリアルでクスクス笑える。
そして並木はいつも秋江のことを思ってくれて、その友情もじんわり伝わってくるからヒューマンドラマって良いなと思う。
笑えるシーンも沢山あるし、観劇しながら自分の家族のことについても考えたりするので現実と繋がって泣けてくる時もあると思う。
けれど、最後はこういう家族との日常こそが幸せなのだと思わせてくれるホッコリする演劇作品だったので多くの人におすすめしたい。

【鑑賞動機】
「劇団青年座」の公演は観たことなくいつかは観ていたいと思い機会を窺っていた。そして、今作は月刊「根本宗子」の根本さんが作演出を担当すると聞いて興味があったので観劇することにした。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
新人小説家の夢乃坂銀雪(君澤透)がステージ上に上る。そして他の関係者と思しき人々も集まってくる。夢乃坂はスピーチする。今回は自分の小説が名誉ある賞を受賞して大変喜んでいることを涙ながらに語る。そして自分の彼女に向かってのお礼のスピーチなども話して25分以上話している。
その様子を、ベテラン小説家の坂東晋太郎(岩松了)と編集者の森本泉(早織)は二人で聞いていた。晋太郎は新人小説家の夢乃坂のスピーチを聞いて気が引けている。スピーチ中に泣いてしまう奴だろうなと思っていたが、案の定泣いてしまう奴だったし、如何せん彼女に向けたメッセージが長くて呆れていた。この後自分がスピーチをするのかと思うと気が引けるといった様だった。
舞台セットは回転し、坂東家のリビングになる。ダイニングテーブルに坂東秋江(高畑淳子)と友人の並木都(伊勢志摩)が座っている。二人は、若かった頃の思い出話などをして盛り上がる。並木は秋江のことが恋人として好きだったと言う。当時はそれを打ち明けると笑われてバカにされるだけだったので言わなかったのだけど、もしそれを打ち明けていたら付き合っていたかもと話す。そこから秋江は、晋太郎と結婚するんじゃなかったなどと話し始める。
再び舞台セットは回転し、若き日の秋江(横山由依)と若き日の晋太郎(伊東潤)が登場する。二人はホテルにいたらしい。そしてこの後どうしようかという話をしている。それに対して、若き日の晋太郎はどこでも良いと言う。そのどこでも良いという言葉に若き日の秋江は腹が立つ。そして喧嘩になる。そこに現在の秋江もやってきて、二人で若き日の晋太郎を責める。
しかし、そこに仲裁にやってくるのは、一緒に旅行に出かけていた並木だった。並木だけは若き日の並木役は存在せず、伊勢志摩さんがそのまま登場して仲裁する。きっと晋太郎は判断を秋江に委ねても良いと言う優しさからそういう返事をしたのではないかと。そう言われると確かにと秋江は納得し、怒りは収まっていく。
しかし、晋太郎の女ったらしの性格は酷いものでと場面転換する。喫茶店では、編集者の小林早苗(本田清佳)と若き日の秋江が口論していた。どうやら、小林は晋太郎と不倫をしていたらしく。二人で食事に行って、寿司、焼肉、しゃぶしゃぶ、すき焼きなど色々ご馳走してくれたらしい。
秋江は小林を問い詰める。既婚者と一緒に二人で時間を過ごして何が楽しいのかと、そこに愛情なんてないじゃないかと言う。小林は愛情なんていらなくて、ただ小林にとっては美味しい食事を奢ってもらえるのが得だし、晋太郎にとっても若い女性と二人だけの時間を過ごせて楽しいのなら、それはウィンウィンで良いんじゃないかと。
若き日の秋江は、そんな小林に対して水をかける。小林は、紅茶と水がテーブルに置かれていて、紅茶でなく水をかけてしまうくらいあなたが優しくてお人好しだから、こうやって旦那にいいようにされるのだと言う。
そこへ並木が小林に対して責め立てる。そして、テーブルにあった紅茶を小林にかける。小林は去っていく。
場面転換して、坂東家での年始の出来事。若き日の坂東家と現在の坂東家が同じ空間にいる。若き日の秋江は赤子の娘のももを抱いている。一方で、現在の時間軸での坂東家には秋江の姉妹で次女の磯村夏子(井上夏葉)と夫の磯村健(綱島郷太郎)、三女の山川春子(麻生侑里)、四女の西原冬美(小暮智美)が集まっていた。
三女の山川は最近結婚したばかりで晩婚だった。しかし、山川の旦那はこういう親戚の場に顔を出すような旦那ではなくその場にいない。そういう旦那持つと後々大変だよと口々に言われる。そして山川は急遽自宅に帰ることになりいなくなる。
一方で、晋太郎も自宅にはいるものの、別の場所でずっと新聞を読んでいた。秋江姉妹と混ざることはなかった。磯村健は妻の夏子の元にいて親戚の集まりを楽しんでいる。秋江と晋太郎はお互いに口をきかず、磯村健に伝言しながら会話をしていた。秋江の姉妹たちはそれを滑稽がる。秋江は、晋太郎が喉に餅を詰まらせれば良いのにと呟く。
すると若き日の晋太郎も、現在の晋太郎も同時に喉に餅を詰まらせて一大事になる。若き日の晋太郎は、若き日の秋江に面倒を見てもらいながら応急処置をしようとする。現在の晋太郎に関しては、秋江は見向きもせず妹たちが掃除機を持ってきて、晋太郎の口の中に入れて吸引させる。なんとかどちらの晋太郎も餅を吐き出してことは落ち着く。
再び、夢乃坂の賞の授賞式の会場であるホテルに移る。そこには秋江と並木がいる。このホテルは、かつて秋江と晋太郎が結婚式を挙げた会場でもあった。秋江はその場に再び足を踏み入れることに気が進まなかった。
まだ、ホテルの壁には晋太郎が酔っ払ってワインをぶちまけてしまった後が残っている。
そこへ編集者の小林早苗(尾身美詞)がやってくる。秋江はあの時のと過去のことを思い出す。どうやら夢乃坂の担当者は小林だったらしい。色々と秋江も並木も納得していた。
再び舞台セットは回転して、坂東家の食卓になる。そこには秋江と磯村夫婦、山川、西原がいる。山川は大泣きしている。どうやら旦那と離婚したようである。旦那の言動に理解が追いつかず離婚したと。周囲は、やはりこの歳まで結婚していなかった男性というのは、どこかに問題があるんだと言う。
山川と旦那の山川時雄(横堀悦夫)は、一度もセックスをしたことがなかったのだと言う。その時点でおかしいと周囲はいうが、実は山川時雄はマザコンだったのだそう。時雄はブラジャーを持って下半身裸で春子の前に現れて喧嘩してしまいそのまま離婚する。
それでいくと、磯村夏子と磯村健の夫婦は仲が良いなという。そこから妊活はしているけれど子供が出来ないという話になり、その会話を発端として健は夏子を傷つけてしまう。夏子は一生懸命妊活頑張っているのに、健はもう難しいんじゃないかと諦めてしまって、それを発端に夏子は大泣きしてしまう。
四女の西原は独身で、恋愛はするけれど結婚は考えていないといった感じだった。周囲からは悩みがなさそうと言われ、そんなことない悩みはあると言われる。
場面転換して、坂東家に秋江と晋太郎がいる所に、編集者の小林が急に尋ねてくる。彼女はフェミニストになったらしく、その活動の布教をしにやってきた。色々説明されるが話が全然入ってこない。秋江は、晋太郎があんな女性に手を出すからこういう目に遭うんだと呆れ返る。
小林は、あの時晋太郎にご馳走になった食事などを全て持ってきてお返しをして帰る。
リビングには秋江と晋太郎がいるが、お互い口を利かない。そこへ娘のもも(横山由依)がやってくる、私も家族の一員なのにずっと秋江と晋太郎の夫婦のみで物語が進んでしまってと。ももは、秋江と晋太郎の伝言を伝える役になる。お互い口を利かないものだから、娘が仲裁している。そんな状況に嫌気が差し、お互い別々の老人ホームに通い出したら、自分が両方の老人ホームを行き来しないとで大変じゃないかと言う。それはまだ先の話だと秋江は言う。秋江はももにこう言う、ももはいつも晋太郎の肩を持って一言も悪いことを言わないじゃないかと、よくもそこまで真っ直ぐ育ったねと。秋江はリビングから立ち去る。
晋太郎は新聞を読んでいる。そして新聞の記事にああだこうだと自論を展開している。それを聞いてももは大笑いする。お父さんっていつもそうやって時間を潰しているの?と。晋太郎は、仕方がないじゃないか暇なんだからと言う。
晋太郎は、秋江が袋に詰めていた昔使っていたバッグを取り出して、これ使ったらとももに提案する。ももは、このバッグを私が使っていたら母がまた怒り出すでしょと言う。お父さんは本当に分かっていないんだからと。
晋太郎は並木に電話をかける。お金は出すから、明日から二人でどこか好きな所に旅行にでも行けと。並木はそんな急に言われてもと言う。
結局、並木と秋江は二人でハワイに旅行に行くことになる。並木と秋江はハワイのビーチで日光浴をしている。フラダンスを見ていても、そのゆったりとしたダンスにイライラするし、マカダミアナッツを食べても歯に詰まってイライラする。旅行中でも晋太郎に対するイライラが止まらない秋江に対して、並木は今度からハワイ旅行はなしにしよう、お金の無駄だからとなる。
夢乃坂の授賞式で、晋太郎はスピーチすることになる。晋太郎は、最近の自分の近況や家族のことについて話し、自分がここまでやって来られたのも妻の秋江のおかげだと語る。そして最後に、秋江のことを「Lovely wife」だと言ってスピーチを終える。
その後、リビングでは秋江と並木は大爆笑していた。晋太郎が性に合わないスピーチをしていて、そして最後に秋江のことを「Lovely wife」とか言ってしまって、そんなこと普段は思ってもいないくせに、こういう公の場ではそんな綺麗事を言ってと大爆笑だった。これで許されると思ったら大間違いだと。
ここで上演は終了する。
ストーリー展開があるというよりは、授賞式という今の時間軸に対して、秋江と晋太郎の夫婦が歩んできた過去を回想する形で劇が展開していく感じで、なかなか演劇的な構成の面白さがあって素晴らしかった。
回想シーンの中に、過去の秋江や晋太郎と、現在の秋江や晋太郎が登場して、それをコミカルに描いている戯曲構成が見事だった。こんなに笑える根本さんの戯曲は初めてだったかもしれないと思った。それは、登場人物のリアルさがあることもそうだが、回想と現実の時間軸を上手く操作しているから笑いが起こるというのもあると思う。
また、『宝飾時計』など根本さんの戯曲を拝見していて思うのは、本当に登場人物のキャラクターの描き方がリアルで解像度高くて良いなと思う。今作は『宝飾時計』に続いて群を抜いてその点が素晴らしかった。30代前半の若い劇作家だからこそ描ける鋭くストレートな台詞が多くてグッと刺さった。私は凄くリアリティあって楽しませてもらったが、シニアの夫婦など今作を観てどう感じたのか気になった。まるで自分の家族を観ているような気持ちにさせられて好き嫌いははっきり分かれるかもしれない。
また、夫婦だけでなく秋江の妹たちの夫婦、恋愛関係、生き方もみんな解像度が高くて、こういう人たち確かにいるなと思わせられる。みんなそれぞれ違って事情を抱えて生きているよなと、生きる希望も与えてくれた。

【世界観・演出】(※ネタバレあり)
根本宗子さんの作品でよく登場する回転舞台を巧みに用いて上品な舞台演劇として仕上がっていた。そしてホームドラマなのだけれど、演劇でしか出来ない演出を沢山取り込んでいて非常に根本さんの演出力も光る作品だった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。
まずは舞台装置について。
先述した通り、舞台装置は回転舞台になっていた。回転舞台は、片方が夢乃坂銀雪の授賞式の会場のスピーチのステージになっていて、もう片方が坂東家のリビングになっている。全体的にクリーム色で出来た舞台美術で、そこに家具などが墨絵のような感じで描かれていて、全体的に漫画のような世界観に思えた。作品自体が日常を描いたホームドラマなので、ほのぼのとしたアニメっぽさを演出するための舞台美術のようにも個人的には感じた。今にも登場人物たちから吹き出しで台詞が出てきそうな感じのある世界観で、それがまた良かった。
スピーチのステージの舞台セットは、背後に巨大な壁面があって、そこに墨絵のようなものが描かれていた。あとは中央にマイクが一台置かれているだけである。回転舞台以外のセットでいくと、上手側に晋太郎と森本泉が立ちながらスピーチを聞いていたので、そこに丸テーブルのようなものがあったと記憶している(うろ覚えなので違うかもしれない)。
一方で、坂東家のリビングの舞台セットでは、ステージ中央にダイニングテーブルがあり、そこに複数の椅子が置かれていた。そして、下手側奥には玄関へと通じると思われる捌け口があった。壁面には本棚やタンスなどが墨絵で描かれている。また、回転舞台以外のセットでは、晋太郎がよく座っていた座椅子のようなものが下手側に一つ配置されていた。
基本的には、坂東家で起きることは坂東家のリビングで、授賞式のシーンやそれ以外のことが展開されるシーンは授賞式のスピーチ用のステージで展開される。また、回転舞台自体は秋江の娘であるもも役の西田茉莉さんによって動かされるシーンが多かった印象である。
小林が並木や秋江から飲み物をかけられる喫茶店のシーンは、下手側手前にテーブルがセットされて繰り広げられていた。
根本さんの回転舞台は、今まで観てきた根本さんの演出作品(『ワイルド・グレイ』『宝飾時計』『今、出来る、精一杯。』)では必ず登場する演出だったが、今作でもその回転舞台の構造はとてもテンポ良く場面転換できる仕掛けとして機能していたと思う。
次に舞台照明について。
基本的にホームドラマで、特段派手な舞台照明はなかった印象。授賞式のスピーチのシーンは、スピーカーに向けられていた。
あとは、三女の山川春子と旦那の山川時雄の夫婦のシーンでは、照明が薄暗くシリアスになっていた印象だった(記憶違いだったらすみません)。
次に舞台音響について。
基本的に会話が中心となる舞台なので、音楽はあまりかかっていなかった印象。秋江と並木がハワイ旅行に行っていたときは、フラダンスの音楽が流れていた。そして並木と秋江の声が音声で流れていたのも良かった。こういう演出も良いなと思った。
最後にその他演出について。
まず最初のシーンで、夢乃坂銀雪のスピーチから始まるのだが、そのスピーチがまるで本多劇場にいる観客に向けられている感じに捉えらえる演出が非常に見事だった。夢乃坂を囲うように晋太郎や森本たちもステージ手前側から夢乃坂のスピーチを聞くような体制になっていて、晋太郎たちも私たち観客と同じ気持ちで夢乃坂のスピーチを聞いている感覚にさせていた。そして晋太郎たちが夢乃坂に向かって拍手をするものなので、私たち観客も連れられて拍手をしそうになる(実際に拍手をしている観客もいた)。こうやって、序盤から客席も巻き込んで作品に没入させていく演出は本当に巧みだなと思って素晴らしかった。
今作は、回想シーンと現在の時間軸のシーンがあって、晋太郎と秋江、小林に関しては若い頃のキャストと今を演じるキャストが異なる。それを逆手に活かして、回想シーンで今の自分が登場してしまったりという演出が非常にコミカルに働いていて良かった。また並木が昔も今も同じキャストで敢えて演じているのが面白い。これは、並木に関しては今も昔も変わらないキャラクターということを暗示しているように思う。秋江と晋太郎は結婚して子供を産み、それぞれ回想シーンの頃と今ではまるで別人のようにも振る舞っている。例えば、秋江は昔よりも今の方が夫の晋太郎に愛想を尽かしている。逆もそうだと思う。そのように結婚をすれば人も変わっていくものだが、並木は独身で昔から変わっていないからではないかと思った。また、あくまでこのホームドラマは秋江と晋太郎が中心で、秋江からみて並木は昔と変わっていないから同じ役者で演じているというのもあるのかもしれない。それ以外だと、小林早苗も昔と今で別の役者が演じていたが、彼女も晋太郎と不倫していた時とフェミニストとして働く今とで別人のようにも思えるので、やはり役者が変わっているということはキャラクター性が変わったからと認識して良いのかもしれない。
また、娘の坂東もも役が横山由依さんと西田茉莉さんで二人いるのが謎だった。横山由依さんが演じるのは凄く良くわかった。横山さんは、秋江の若い頃も演じていたので、親と子供は似るものだから娘のももも横山さんが演じるのは良くわかる。西田さんがももを演じている時は、どこか秋江が娘を子供扱いしている時のような感じがした。秋江にとってはももが何歳になっても子供なので、そう見えるのかもしれない。
ラストの晋太郎のスピーチの「Lovely wife」がここで登場したことにグッときた。当の本人の秋江には大笑いされてしまうが、この言葉のセンスには、やはりかつて小説家として名を馳せた晋太郎だからこそ生み出せるものがあると感じて説得力があった。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
劇団青年座でお馴染みの役者さんと、様々な舞台作品で活躍している役者が混在して出演されている座組で、非常にバランスよく素晴らしい芝居だったと思う。
特に印象に残った役者について見ていく。
まずは、坂東秋江役を演じた高畑淳子さん。高畑さんの演技を劇場で拝見するのは初めて。
31歳である自分の母は違うけれど、自分の母と同世代の女性でこんな感じの人はいるなと思う。夫には愛想を尽かしてしまって仲が悪いながらも離婚せずに一緒にいる。娘のことは可愛くていつまでもももを子供扱いする。本当に令和の時代の60歳くらいの既婚女性の解像度が高くて驚かされる。
岩松了さんの晋太郎役とは本当に長年夫婦をやってきたんじゃないかと思わせるほどのリアルさがあった。晋太郎と二人でいる時の気まずさが本当にリアルで半端ない。でもしらけることなく、それをコミカルに出来てしまうのがまた凄いと感じた。
並木都役の伊勢志摩さんとのやり取りも本当に解像度が高くて驚いた。まさに、自分の母親が友達と会話しているかのようなリアルさだった。夫の晋太郎のことをあそこまでネタにして話している感じなど、本当にリアルでだからこそヒューマンドラマとして非常に楽しめた。
秋江は、本当は晋太郎のことをどう思っているのだろうなと考えさせられる。もちろん、晋太郎はダメな男だと感じられるけれど、ずっと愚痴ばかり言うものの離婚することはしない。もし晋太郎の具合が悪くなってしまった時、秋江は晋太郎の看病をするのだろうかと考える。看病はするのだろうなと思う、そして晋太郎がお年を召して亡くなってしまった後は、もっと夫との時間を大事にすれば良かったと後悔する未来像も思い浮かぶなと思う。夫婦ってそんなものなのかなと考えさせられた。
次に、坂東晋太郎役を演じた岩松了さん。岩松さんの演技は、『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』(2023年6月)で演技を拝見している。
よくぞここまでの老害を演じ切れるなという思いで観ていた。晋太郎の役は誰が観てもただのダメな老害にしか見えないのに、ここまでの役を岩松さんは完璧に演じてキャラクター性を作り上げて演じているのは本当に凄いと思う。根本さんも岩松さんにここまでの役をやらせてしまうのも、根本さん岩松さんの間で信頼関係があってこそだなと思う。
本当に60歳くらいの男性の解像度が高すぎて驚く。昔は小説家として売れたけれど今では鳴かず飛ばずで仕事もない、新聞の一番どうでも良い欄を読んで、ああだこうだ持論を展開している感じ、そして妻とは口を利かずでつっけんどんにものを申す態度が本当に老害そのものだった。
突然お金だけ渡して明日からどこか旅行に行って来いと言い出すのも勝手過ぎて面白いなと思う。そしてこういうこと言ってくる年配の男性はいそうだなと思う。この進言自体も、男尊女卑にも思えてしまうよなと思う。
劇序盤から終盤までずっと老害を演じていたが、ラストのスピーチのシーンになると凄く映えるのがまた良い。やっぱりスピーチには説得力があるしこういう脚本構成にしている根本さんはやはり素晴らしいなと思う。
個人的に印象に残ったのは、友人の並木都役を演じた伊勢志摩さん。伊勢志摩さんの演技は、『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』(2024年8月)、『世界は笑う』(2022年8月)と演技を拝見したことがあるが、ここまで出番の多い役として演技を拝見したのは初めてだったかもしれない。
本当にキャラクターとしてパンチがあるのだけれど、どこまでも親友の秋江思いでほっこりする。回想シーンに度々登場して、秋江のことを思って立ち振る舞ってくれて、秋江はどんなに幸せ者なんだろうと思わせてくれる。自分もこう言う一生ものの親友が欲しいなと思わせてくれる。
一番印象に残ったシーンは、若き日の小林と秋江の喫茶店でのやり取りのシーン。秋江は水を小林にかけるが、並木は紅茶を小林にかけるほどの秋江想いで良いなあと思ってしまう。序盤で並木は秋江のことを恋愛対象だと口にしていたが、本当にこの二人の関係は良いなと思わせてくれる。むしろ、こう言う親友という距離感だからこそ長続きして良い関係になるんじゃないかとさえ思った。
坂東夫妻の娘の坂東もも役と若き日の坂東秋江役を演じた横山由依さんも素晴らしかった。横山さんの芝居は、『ハザカイキ』(2024年4月)で演技を拝見したことがある。
正直、こんなにももって真っ直ぐ育つのかなと思ってしまった。ここまで母の秋江が夫の晋太郎のことを悪く言っていたら、娘も同じように父のことを悪く言いそうだけれどそうでもないのかと思った。
個人的にグッときたのは、ももと晋太郎の二人のシーン。晋太郎は新聞を読んで記事に対してああだこうだ言っているが、それをももは滑稽だと捉えている。そこにはももの晋太郎に対する悪意は全くない。このホッコリするやり取りがなんとも素敵で良かった。こういう光景を見ていると将来的に娘が欲しいなと思えてくる。
あとは、ここで書くことではないかもだが衣装も素敵だった。白地に黒い線の引かれた衣装で、ちょっとアンドロイドっぽく見える。そんな演出にどんな意図があったのか分からなかったがとても素敵な衣装だった。
最後に、若き日の小林早苗役を演じた本田清佳さんも素晴らしかった。本田さんは2021年に劇団青年座に所属した俳優で、私は初めて演技を拝見した。
ちょっとキツめの若い女性役がハマっていた。性格の優しい秋江とは対照的で既婚者と不倫してもさして悪く思っていなそうなのが伝わってくる。良い意味で、性格の悪い感じの役がハマっていて良かった。
今作では、喫茶店の秋江とやり合うシーンくらいが見どころだったが、もっと本田さんの演技は観てみたいと思った。

【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは、晋太郎と秋江の夫婦については沢山述べてきたので、今作のメインではないものの登場はしていた秋江の姉妹の家族に言及しながら今作のキャラクター像について考察していく。
秋江には四人の姉妹がいた。次女の磯村夏子と三女の山川春子と四女の西原冬美である。四人姉妹にそれぞれ春夏秋冬が入っていて良いなと思う。
次女の夏子に関しては、磯村健と結婚しているが子供がおらず妊活中である。三女の春子はなかなか良い人と出会えず結婚できなかったが、最近山川時雄と結婚したものの劇中で離婚してしまっている。四女の冬美に関しては、結婚願望はなく恋愛はするけれどずっと独身で身軽に生きていきたいといった感じだった。
まず、次女の夏子と旦那の健について。健はとても優しい男性で妻のことをいつも思ってくれている様子である。正月の親戚の集まりにもいつもついてきて、夏子の横にいる。そして、なぜか秋江と晋太郎の伝言すら託されてやってしまうくらいお人好しである。
しかし、二人の夫婦には子供が出来ずずっと妊活を頑張っている。妊活を頑張っているのは夏子が子供を欲しいからだった。健も夏子の出産願望を実現するべく妊活を続けてきたが、なかなか子供が出来なかったので諦めを促すようなことを言ってしまって夏子を怒らせてしまう。
女性の出産願望については男性である私もどういうものなのかわからない部分もあるが、妊活を諦めさせてしまうというのは、単純に夏子の一つの願いを諦めさせるというだけでなく、長女の秋江は子供を産んでいるのでそこに対するコンプレックスもあるからなのかと感じた。健はお人好しなので秋江夫婦に対してコンプレックスなどは抱かない気がするが、夏子はそれを機にするのではないかと思うのでそれも原因にあるんじゃないかと考えた。
三女の春子はようやく山川時雄という男性を見つけたが、結果離婚してしまった。原因は時雄がマザコンだったからだと認識している。
春子は今まで一度もセックスをしたことがないと言っていて、周囲の人々は驚いていた。やはり歳を取ってからの結婚というのは、結婚相手に何かしら今までに結婚が出来なかった原因みたいなものがあることを暗示していて、歳を取っても結婚できない人に恐怖を抱かせる脚本だなと思った。
四女の冬美に関しては、結婚願望がなくてたしかに悩みとかなさそうには一見感じる。冬美は周囲から悩みなさそうと言われて反論していたが、姉貴たちの悩みよりはマシだなどと言われてしまう。
どうして結婚願望がないのかは分からないが、歳を取った時に一番寂しい思いをするんじゃないかなと思う。それは私の勝手な思い込みかもしれないけれど。
いずれにせよ、どの夫婦のあり方もそれぞれに悩みや大変な一面を描いているのが根本さんらしいなと思う。そしてそう考えると、子供のいる夫婦が一番幸せに感じるのではないかとさえ思えてくる。つまり秋江と晋太郎夫婦である。
今作を通じて、夫婦って結局色々あってぶつかることばかりだけれど、そのぶつかっていること自体が幸せなのかもなと思わせてくれる作品なのが素晴らしかった。決してネガティブな思いをせずに、自分も今のままの夫婦関係が一番良いのかもしれないと思わせてくれる。
そういう優しい戯曲に感じられて良かったと思う。
↓根本宗子さん過去作品
↓伊勢志摩さん過去出演作品
↓横山由依さん過去出演作品
↓早織さん過去出演作品
↓岩松了さん過去出演作品

