舞台 「見よ、飛行機の高く飛べるを」 観劇レビュー 2025/05/24

公演タイトル:「見よ、飛行機の高く飛べるを」
劇場:こくみん共済 coop ホール / スペース・ゼロ
劇団・企画:悪童会議
作:永井愛
演出:茅野イサム
出演:七木奏音、今村美歩、美花、夏目愛海、MIO、佐藤美輝、川原琴響、松本むち、木原瑠生、千葉雅子、砂田桃子、ザンヨウコ、新原武、柳下大、唐橋充、俵木藤汰
期間:5/21〜5/25(東京)
上演時間:約3時間(途中休憩15分を含む)
作品キーワード:明治時代、青春、学校、女性解放運動
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆
劇団「二兎社」の主宰である作演出家の永井愛さんが、1997年に「劇団青年座」に向けて書き下ろした戯曲である『見よ、飛行機の高く飛べるを』を、ミュージカル『刀剣乱舞』などの2.5次元舞台の演出で有名な茅野イサムさんと株式会社マーベラスの創始者である中山晴喜さんで立ち上げた演劇ユニット「悪童会議」の第3回公演として上演されたので観劇。
今作と同年に発表した戯曲『ら抜きの殺意』で永井さんは芸術選奨文部大臣新人賞を受賞している。
今回の上演での演出は茅野イサムさんが担当した。
私は、『見よ、飛行機の高く飛べるを』の作品に触れること自体初めてである。
また「悪童会議」の公演については、第1回公演の『いとしの儚』(2023年7月)を観劇したことがある。
今作は、明治時代の終わり頃の愛知にある女子師範学校を舞台にした物語である。
女子師範学校には新庄洋一郎(木原瑠生)という男性教師が国語教師として赴任してきて生徒たちの間で人気である。
女子生徒たち4人はテニスラケットを持ちながら岡崎女子に勝ったと大喜びしていた。
テニスの試合を他校と開催したらしいが、光島延ぶ(七木奏音)は学校で留守番をしていた。
夜、光島や下級生の杉坂初江(今村美歩)、そして他の女子学生と共に学校内で平塚らいてふの雑誌や与謝野晶子の文学に触れていた。
彼女たちの文章には、女性の新しい生き方についての記述があり、女子学生たちを熱狂させていた。
しかし、そうやって女子学生たちが夜に学校に集まって女流文学に触れている所を目撃されてしまい...というもの。
「悪童会議」は、普段2.5次元舞台を手がける茅野イサムさんが、2.5次元舞台の客層に向けて日本の上質なストレートプレイを届けたいという思いで発足した演劇ユニットである。
私は、このような永井愛さんの傑作が若い女性客を中心に届けられていて、小劇場演劇好きとして凄く嬉しい気持ちになった。
『見よ、飛行機の高く飛べるを』は、このように明治時代末期の女性解放運動を題材とした作品なので、ジェンダー観が大きく変化しつつある令和の現在でも観客の心に響くものだと思ったし、そういう傑作が普段小劇場演劇を観ないであろう客層に届いていて良かった。
第一幕の終盤までは、特に物語としては大きな展開を迎えることはなく、ただ明治時代末期の女子師範学校の日常が描かれる。
イケメンで最近赴任してきたばかりの新庄先生の噂話をする女子学生たちの様子は、現代の女子高校などでもありそうな男性教師に対する憧れのようなものを描いていて非常に親近感を覚えるような描写だったと思うし、夜の学校で大人たちに内緒で女流文学に触れるシーンには、観客たちをどこかドキドキさせる要素があって、観客も一緒に学生時代を懐かしく思わせる描写が沢山詰まっていて素晴らしかった。
現代とは全然異なる時代を扱う作品なのに、ここまで自分たちが体験してきた学生時代の経験とリンクさせながら物語を進める永井さんの筆力には感服した。
そして第一幕終盤から第二幕に入っていくと、いかに時代というものがまだまだ女性にとって厳しいものなのかを突きつけられるシーンが沢山登場する。
女性が自由な行動を唱えることが、そういった学校の方針によって大きく左右されてしまういかに脆いものなのかを痛感させられる。
その時の女子学生たちには共感しやすいように脚本が書かれているのが見事である。
100年以上時代が異なっていても、登場人物たちの行動に感情移入して入り込みやすい点が、今作が現代の多くの人々、特に若い世代にまで支持される所以なのだなと思った。
出演者も皆素晴らしかった。
主人公の光島延ぶ役を演じた七木奏音さんは、以前悪童会議『いとしの儚』でも演技を拝見しているが、その時の演技と比べて安定感もあって抜群に素晴らしくなっていたように感じた。
あんなに穏やかな四年生がいたらそれは後輩たちから慕われるだろうなと思う。
この人についていったら大丈夫と思わせる落ち着いた存在感がとてもよく、けれど新庄先生には動揺してしまうキャラクターがとても良かった。
また、杉坂初江役を演じた今村美歩さんも素晴らしかった。
凄く真面目で人見知りであまり内面を外に出してくれないキャラクターだが、平塚らいてふや与謝野晶子に影響を受けて、女性の新しい生き方について希望を見出しながら生きている姿は凄く素敵に見えた。
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』などでも取り上げられているように、女性が自由に生きるということがますます重要な世の中になっている昨今で、今作のような小劇場演劇の素晴らしい名作戯曲が多くの観劇客に広まったことを心から嬉しく思うし、多くの人におすすめしたい。

↓創作現場密着PV
【鑑賞動機】
「悪童会議」という演劇ユニットが好きなのと、『見よ、飛行機の高く飛べるを』はタイトルだけは知っていてずっと観たいと思っていたから。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
明治時代の終わり頃、愛知県にある女子師範学校の大広間、新庄洋一郎(木原瑠生)という若い男性の国語の先生がやってくる。その大広間には、女子師範学校二年生の杉坂初江(今村美歩)がいた。杉坂は新庄が入ってくるのを確認すると、何かを隠すようにしてその場を去っていく。そのまま新庄もその場を去る。
女子師範学校四年生の光島延ぶ(七木奏音)が大広間にやってきたところへ、テニスの試合にいっていた女子学生4人が帰ってくる。彼女たちは、岡崎女子にテニスの試合で勝ったと勝利の喜びを光島に報告していた。光島は、色々とやらなければいけない仕事があって忙しくテニスの試合に行けなかったらしい。テニスの試合に行った4人は、試合時のファインプレーなどについて語り盛り上がっている。
上手側にある扉が閉められた個室から、音程の外れたピアノの演奏が聞こえてくる。女子学生たちは、その音程の外れたピアノの音を聞いて、弾いている人の演奏の腕を下手だと馬鹿にしている。
夜になる。大広間には、光島、杉坂、大槻マツ(美花)、山森ちか(夏目愛海)、小暮婦美(MIO)、梅津仰子(佐藤美輝)、石塚セキ(川原琴響)、北川操(松本むち)といった女子師範学校の四年生〜一年生が一同に集まって、与謝野晶子の女流文学を読んでいた。特に杉坂は女流文学に熱狂的で、そういった自由な女性の生き方の思想に憧れを抱いて希望を胸にしていた。
そこから女子学生たちは、新庄先生についての話をする。新庄先生は最近この学校に赴任してきたばかりなのだが、実はかつて新庄先生には奥さんがいて病気で先立たれてしまったばかりだということだった。そのため、いつも新庄先生に話しかけても心ここにあらずなリアクションをするのだと言う。それは大層辛かろうと、みんなで新庄先生を慮る。
大広間に誰かがやってくる。女子学生たちは見つかってはまずいと慌てて隠れる。
やってきたのは、寄宿舎の賄い婦の板谷わと(ザンヨウコ)とその息子の板谷順吉(柳下大)だった。わとは息子に残飯を食べさせている。寄宿舎で余ったご飯を息子に食べさせているようである。そのまま二人は大広間を去る。
女子学生たちが様子を窺いながらのこのこ出てきて、その親子の様子を不審がる。息子に残飯を食べさせるなんてと。
日中、新庄の元へ女子学生が何人かやってきて、自分から新庄の手を触りにいったのに手が当たったとキャッキャしている。杉坂は、いつも新庄の前に来ると緊張しているかのような態度をする。
夜になる。再び大広間には、光島たちをはじめ女子学生が集まって、女流文学に触れていた。今日は、平塚らいてふの雑誌「青鞜」を読んでいた。「原始、女性は太陽であった」から始まる文章を女子学生たちは音読している。
そこへ、一人の男が急に大広間に姿を現す。それは板谷順吉だった。板谷順吉は、女子学生たちが夜にこっそり集まって女流文学に手を出していることを知り、その行動がいかに危険なものなのかを伝える。婦人解放運動は、社会主義思想のそれと大差はないと。社会主義者たちは大逆事件で多くの人が処罰されたと言う。一人の女子学生が大逆事件とは何かと聞く。板谷順吉は大笑いする。大逆事件を知らないとはびっくりしたと。
そして板谷順吉は、そのまま小暮と強制的にキスを迫りしていしまう。周囲の女子学生たちは驚き悲鳴をあげてしまう。小暮はしばらく放心状態になってしまう。
ここで幕間に入る。
日中、女子師範学校の大広間にかけられている「質実剛健」の文字の入った飾り物は、習字の先生である中村英助(唐橋充)によって「温順貞淑」に置き換えられてしまう。女性は女性らしく、逞しくあるのではなく慎ましやかにせよとの校風になってしまう。
ある日、女子学生たちが大広間にいると、小暮は校長の難波泰造(俵木藤汰)に呼び出されてしまう。それは、以前木暮が板谷順吉という男性と学校内でキスをしたという噂が広まってしまったからである。
女子学生たちが大広間にいると、木暮がスーツケースに荷物を入れて難波校長と一緒にやってくる。木暮は板谷順吉とキスをしたという理由で退学になってしまった。木暮は他の女子学生たちに別れを告げて女子師範学校を後にする。
光島、杉坂たちを始め、女子学生たちは大広間に集まって、木暮が退学になってしまったことについて語る。校風も「温順貞淑」を掲げ、まるで与謝野晶子や平塚らいてふが掲げる女流文学の思想のように、女性も自由に生きられる環境とは程遠くなってきている。そんな女子師範学校に対してストライキを起こそうというムードになる。英語の先生である安達貞子(砂田桃子)も光島たち女子学生に味方して、学校の方針に対して一緒に反対してくれて味方であった。光島たちは、先生までもそうやって味方してくれて心強く思う。
光島はこのストライキに向けて準備を始める。一年生から四年生まで声をかけて、四年生、三年生、二年生は全員ではないがこのストライキに参加してくれる女子学生たちは多くいて、一年生に関しては全員がストライキに参加してくれるようだった。
夜、光島たちが大広間で集まっていると、誰かが外からやってくる。それは英語の先生の安達だった。安達は、今すぐ女子学生たちにストライキを止めるように言う。光島は驚く、今まで安達は自分たちの味方でいてくれて協力してくれると思っていたのに止めにかかるなんてと。安達は、今女子学生たちがストライキを起こしてしまったらみんなの将来が台無しになると言う。みんな頭がよくて将来有望なのに、こんなことで人生が棒に振ってしまったら台無しだと。
光島たちは、安達の忠告を受けてストライキを中止する。
日中、外では女子学生たちが運動会をしている。大広間には光島と杉坂が二人でいる。女子学生のうちの一人が、運動会から戻ってきて大広間にいる光島や杉坂に話しかける。
杉坂が大広間から席を外す。そこへ、新庄が大広間にやってくる。光島と新庄で二人で話す。光島は動揺している様子である。
新庄は立ち去る。すぐに杉坂が戻ってくる。杉坂は光島の様子が自分が大広間から席を外した時と違うことに気がつき、これは光島が新庄と二人きりであったのだろうとすぐ予想できた。杉坂は、大広間から席を外すのではなかったと後悔する。
その時、女子師範学校の上空で飛行機が飛び去る音が聞こえる。光島と杉坂は窓から空を見上げる。いつか自分たちも飛行機のように高く飛べる日を願う。ここで上演は終了する。
明治時代の終わりという100年以上も前の時代なのに、ここまで現代の人に響く形で物語を描写できる永井愛さんの創作力は素晴らしいものだなと感じた。第一幕は、あまり大きな展開は終盤以外になく、女子師範学校の女子学生たちがテニスの試合でキャッキャしていたり、新庄先生に対してキャッキャしていたりと、本当に学生そのものの日常を描いていて、凄く親近感を感じられた。だからこそ、そういう希望に満ち溢れている女子学生たちに自由を与えたいという思いが込み上げて来ながら物語を見ていた。
今作のキーマンとなる板谷順吉が木暮とキスをしたことで物語は大きな展開を迎えるが、そこから女子学生たちの心に一気に火がついて行動を開始する展開に物語の面白さを感じた。それまでずっと女子学生たちの心の中では、与謝野晶子や平塚らいてふに憧れて、女性が自由に生きられる世の中というものを夢見ていたが、このことをきっかけにその機運に一気に火がついた感じが好きだった。
結局は、安達の言う通り、彼女たちはストライキを起こさなかったことはある意味で正解だったのかなとも思った。ここでストライキを起こしていたら、きっと彼女たちの未來は台無しになっていたであろう。安達は彼女たちのことを本当に思っていたからこそ、ストライキを止めたのだろうなと思う。だからこそ、ある意味光島たちの未来も守られたとも言えると思う。守られたからこそ、その女性も自由に生きられる社会にしたいという思想もずっと影を潜めて今まで続いて来たのではないかなとも感じた。

【世界観・演出】(※ネタバレあり)
ステージ上には、明治時代終わり頃の女子師範学校の校舎が作り込まれていて没入感のある舞台美術となっていた。明治時代にタイムスリップしたかのような空間でとても好みだった。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。
まずは舞台装置について。
ステージ下手から中央にかけて、主にメインのシーンが進行する大広間がある。女子学生たちが夜に女流文学について音読して、それらの思想に憧れを持つシーンはここで展開される。大広間の奥には外に通じている大きな窓があり、そこから終盤に安達がやってきてストライキを止めるシーンがある。その下手側横には、第一幕では「質実剛健」と書かれた大きな横長の飾り物があったが、それが第二幕では「温順貞淑」に変えられてしまう。まるで、時代の潮流によって女性たちは慎ましやかに生きるべきと諭されているようで彼女たちの居心地の悪さを感じさせる。
大広間の手前側には大きな机があり、その周囲に複数の椅子が置かれている。どの机や椅子も厳しくいかにも明治時代の終わりの趣あるインテリアといった感じがある。
ステージ中央にはこの大広間へと入るための大きな木造の扉が設置され、その上手側にはもう一つ大きな木造の扉が設置されている。上手側の扉の中はあまり劇中では描かれることなく、物語前半で音が外れたピアノの演奏が聞こえてくる場所として使われている。
大広間と、その音の外れたピアノの演奏が聞こえてくる部屋の間には廊下と思われる空間があるが、その奥に縦長の大きな窓が階段を少し登ったところにある。そこから一番最後のシーンで飛行機が空高く飛んでいく音が聞こえる。
凄く扉と窓が象徴的に感じられる舞台セットだなと思った。扉をゆっくり開ける感じなどが、当時の女子師範学校の雰囲気を醸し出しているように思えた。
次に衣装について。
衣装も明治時代の終わりの女学生という感じで、ハイカラさんといった感じの衣装が凄くお洒落で可愛らしかった。みんな女学生は同じ格好をしているのかというとそうでもなく、それぞれ若干違った衣装を着ていてどれもが素敵だった。
そして特に映えていたのは、新庄洋一郎である。白いバシッと決まっているスーツを着ていて、これなら女子学生たちも憧れるだろうなという感じの衣装だった。この時代にこんなイケメンで、こんな格好をしている男性がいたら、女子学生たちが憧れるのも無理はないなと思った。
そしてその他の先生たちの衣装も個性豊かだった。体操の先生である青田作治や習字の先生である中村英助は、スーツと袴姿がとても似合っていた。一方で女性の先生はみんな同じような衣装なので、その辺りでも男尊女卑というのは色濃くあるのだろうなと思う。
次に舞台照明について。
基本的に、日中の照明と女子学生たちが大広間で女流文学にこっそりと触れる夜の2つのシーンの照明が印象的だった。日中の照明は、ステージ中央奥の縦長の窓から日光が差し込んでいるような照明で、凄く全体的に明るい印象を感じた。一方で夜間の照明は、薄暗く青い感じの照明が全体的に当てられているような感じだった。この2つの照明の対比がとても良かった。
次に舞台音響について。
舞台音響で印象的だったのは、第一幕の前半に登場する音程の外れたピアノの演奏、その演奏は登場人物たちの間でも話題にされていて場を和やかにしてくれる。
そして場面転換などで度々音楽が流れるのも良かった。こういう音楽を流すことで、普段ストレートプレイに馴染みのない観客にも親しみやすい演出になっているように感じる。
舞台終盤の運動会の掛け声が外からガヤとして聞こえてくるのも良かった。学生っぽさを感じる。そしてラストの飛行機の音がなんといっても象徴的だった。
最後にその他の演出について。
女子学生たちの元気の良さが際立つシーンが多かったように思う。テニスの試合に行ってきて打ち負かしてきたと豪語するシーンなど、お淑やかな女性は少なく自由に伸び伸びと生きている女性が多くて印象的だった。だからこそ、「温順貞淑」を求められて反発する彼女たちも無理はないよなと思う。若くて異性があって強気な女性たちが多いからこそ、観ていて元気をもらえるし、やっぱりこうあって欲しいなと思うからこそ、この時代の女性の生きづらさは残酷なものだよなと思う。
方言も良かった。最初は関西の方だろうけど関西弁とはちょっと違うなと思いながら聞いていたが、名古屋弁に近いらしい。この辺りの方言も出演者たちは特訓して話せるようにしたのだろうなと思う。方言指導が、オイスターズの平塚直隆さんで納得だった。

【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
「悪童会議」でお馴染みのキャストや、2.5次元舞台が主流のキャスト、そして「扉座」でお馴染みのキャストが多数という座組だったが、どの役者も非常に素晴らしい演技だった。
特に印象に残った役者について見ていく。
まずは、主人公の光島延ぶ役を演じた七木奏音さん。七木さんは『進撃の巨人』-The Musical-の出演など2.5次元舞台を中心に活躍されており、私は悪童会議『いとしの儚』(2023年7月)で演技を拝見している。
『いとしの儚』を観てから2年ぶりに七木さんの演技を拝見したが、非常に演技に安定感があって上から目線になってしまうが舞台俳優として凄く成長したなと感じた。悪童会議の旗揚げ公演では、どちらかというと周囲の役者たちに助けてもらってメインキャストを務めている感じがあったが、今回の舞台では七木さんが他の女子学生役の俳優たちを引っ張っていっている、そんな印象を受けて座長的役割を担っていた。
光島は、杉坂と同じく与謝野晶子や平塚らいてふといった新しい女性の生き方に憧れを抱くとともに、そんな思想に憧れる後輩の女子学生たちに信頼される先輩でもあった。光島のその堂々と落ち着いた態度やその優しさから、後輩たちから頼りにされている感じがあるなと思う。
そして物語上の設定では、「国宝君」と呼ばれるくらいの優等生でもあった。大人しく聡明で知的な感じからその印象も窺えた。
きっと令和の時代に光島が生まれていたら、バリバリと社会で活躍する女性になっていたのだろう。しかし時代は明治時代の終わりでまだまだ女性の社会的進出が程遠い時代だったので、賢い女性は女子師範学校を出て教師になるくらいしか選択肢はなかったのだろう。
しかしそこでストライキを起こさなかったからこそ、光島の思想はその後も後世たちに脈々と受け継がれて今があるのかなと思った。
次に、杉坂初江役を演じた今村美歩さん。今村さんも舞台『文豪ストレイドッグス』などの2.5次元を中心に活躍しており、私はCCCreation『白蟻』(2024年6月)、広川碧という名で活躍していた頃は、キ上の空論『PINKの川でぬるい息』(2021年2月)などで演技を拝見している。
今村さんが演じる陰キャの杉坂が本当にキャラクターとして好きだったし良かった。ずっとメガネをかけていて、自分のことをあまり周囲にアピールできない引っ込み思案な性格があるが、与謝野晶子や平塚らいてふに憧れて女性が自分らしく生きることに希望を見出し続けている姿はとても魅力的だった。
今村さんは本当に役者として器用で、こういう引っ込み思案の性格の役も卒なくこなすのかと感心した。今村さんは他の作品だと元気一杯の威勢の良い演技をする印象があったが、陰キャのずっと怖気付いているような役もぴたりとハマって且つ魅力的に感じるよなと思った。
次に、新庄洋一郎役を演じた木原瑠生さん。木原さんもミュージカル『刀剣乱舞』など2.5次元舞台を中心に活躍されており、私は木原さんの演技は初めて拝見する。
最初登場した時に、こんな白いスーツをバシッと決めた先生が女子師範学校に現れたらそれは女子学生たちは影響してしまうよなと思いながらコミカルに観ていた。女子学生たちと、手が触れたなどのやり取りをしているシーンを観ているだけで、学生時代女子生徒たちはこんなテンションでイケメン男子に接していたなと懐かしくも思うし、だからこそ今も昔も根本は変わらないよなと思わされた。
ビジュアルは非常にイケメンだけれど、ところどころ面白いシーンや演技を見せてくれるから会場が和む。
若干他の座組と浮いている感じがしたが、だからこそこの作品が成立している部分もあるのかなと思ったのでこれはこれでアリかなと感じた。
個人的に好きだったのは、英語の教師である安達貞子役を演じた「扉座」の砂田桃子さんのキャラクターがとても素敵だった。砂田さんの演技は、タカハ劇団『ヒトラーを画家にする話』(2023年9月)、東京夜光『悪魔と永遠』(2022年2月)、扉座『解体青茶婆』(2021年7月)、東京夜光『いとしの儚』(2021年3月)で演技を拝見している。
砂田さんは前から安定感のある演技をされていてずっと好きだったのだが、今作の安達の役では非常に物語のキーパーソンとなるような重要な役を演じられていて、それが非常に見事だったので印象に凄く残っている。
教師の中でも安達は生徒側の人間で、女子学生たちの与謝野晶子や平塚らいてふに影響される気持ちというのは、同じ女性というのもあり凄くよく分かっていた。そして女子学生たちもそういう安達先生だからこそ信頼もしていたと思うし大好きだった。
だからこそ安達にストライキを止められた時、女子学生たちは凄く悔しい思いだっただろうなと思う。安達自身もとても辛く言い難いことだったと思う。女子学生たちがストライキに向けて本気になっているのを知っているし、気持ちも分かるから。けれど、今彼女たちがストライキを起こしてしまったら、この先の長い人生が狂ってしまう。彼女の将来のことを思うと止めるしかなかった。本当に立派な先生だなと思った。
安達というキャラクターが本当に好きになったシーンだった。
最後に、今作のキーマンである板谷順吉役を演じた柳下大さん。柳下さんは、舞台だけでなくテレビドラマ出演など幅広く活躍されている。私は舞台で演技を観るのは初めて。
第一幕の最後のインパクトは凄かった。何も世間のことを知らない女子学生たちに大逆事件のことなどを語る順吉は恐ろしかった。とても良い役どころだったなと思う。

【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは、今作と女性解放運動について考察していきたいと思う。
「良妻賢母」という言葉がある。「良妻賢母」とは夫に対しては良い妻であり、子どもに対しては賢い母である理想的な女性像を指す言葉である。女性は専業主婦として家事や子育てに励むことが美徳とされてきた明治時代に流行った言葉である。今作に登場する女性たちも、「良妻賢母」という言葉のもと子供を産んで専業主婦として育てることが当たり前だと教育されてきた。
それに対して、平塚らいてふは女流文芸雑誌『青鞜』において、女性は「原始、女性は太陽であった」と主張し、女性の自由と解放を訴えた。彼女は、女性も男性と同じように社会で活躍できる存在であるべきだと考えた。当時の風潮ではこのような新しい思想は当然受け入れられず批判される対象となった。しかし、この女性解放運動は間違いなく日本全国の女性に多大な影響を与え賛同が起きたのである。
この平塚らいてふが発表した『青鞜』は、劇作家のイプセンの『人形の家』の影響を受けていると言われている。『人形の家』は、夫に愛され平和に暮らしていたノラが、自分が男性のための人形であったことに気がつき一人の人間として自立していく話である。ノラは世界的に新しい女性の代名詞となって女性の社会進出の機運が高まるきっかけにもなった作品である。
明治時代の終わりには、平塚らいてふや与謝野晶子の女流文学だけでなく、このような世界から輸入された文学によっても女性の社会進出というものは強く主張されるようになったのだと思う。
しかし、明治時代の終わりから大正時代というと、そういう自由思想にあやかって社会から危険視されるリスクもかなりあった。今作の舞台である1911年の一年前には、大逆事件という歴史的な事件も起きている。大逆事件は、幸徳秋水ら社会主義者が明治天皇を暗殺しようとしたとして糾弾された事件である。当時社会主義者は日本社会からも冷たい視線を向けられており、この事件をきっかけに社会主義者の弾圧は始まったと言える。
大逆事件は、特に詳細な取り調べもせず社会主義者が天皇を殺そうとしたとして多くの人が処刑されている。
しかし、この事件のことについて女子師範学校に通う女子学生たちは知らなかった。政府から危険な思想だと判断されると、このような仕打ちになるという恐ろしさを何も知らず、女子学生たちは平塚らいてふや与謝野晶子の思想に触れて自由を切望していたのである。
現在では、明治時代よりも女性の社会的進出は進み、男女平等の社会は徐々に実現する方向には進んでいると思う。平成に生まれた私にとっては、そんなの当たり前だと思うのだが、それはこうやって100年以上前の平塚らいてふなどがこういう運動を起こしてきたからこその今があるんだろうなと、今作を通じて実感する。決して当たり前のことではないのだなと。
そしてそれは、そうやって不利な立場にあった人たちが声を上げていったから解消されていったことを考えると。やはりおかしいと思ったことは声をあげていかないと世の中変わっていかないよなということでもあると思う。
現在でも、まだまだ男性と女性で壁や格差はたしかに存在し、それによって苦しめられている人たちもいると思う。そういう負というものを私たちはどんどん声をあげて変えていかないといけないよなということを思い起こされた。
飛行機の高く飛べるを見上げるがごとく、現状のまま我慢して何もしないのではなく、女子師範学校の生徒たちのように行動していかないと、今後生きる後世の人たちまで苦しめることになってしまうよなと感じた。

↓永井愛さん過去作品
↓悪童会議過去作品
↓今村美歩さん過去出演作品
↓佐藤美輝さん過去出演作品
↓千葉雅子さん過去出演作品
↓砂田桃子さん過去出演作品
↓ザンヨウコさん過去出演作品
↓新原武さん過去出演作品

