舞台 「なんかの味」 観劇レビュー 2025/04/02


公演タイトル:「なんかの味」
劇場:下北沢OFF・OFFシアター
劇団・企画:ムシラセ
脚本・演出:保坂萌
出演:有馬自由、橘花梨、中野亜美、松永玲子
期間:4/2〜4/9(東京)
上演時間:約1時間35分(途中休憩なし)
作品キーワード:家族、ヒューマンドラマ、笑える、泣ける
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆
保坂萌さんが作・演出を務める演劇プロデュースユニット「ムシラセ」の新作公演を観劇。
「ムシラセ」の公演は、過去に『ナイトーシンジュク・トラップホール』(2024年7月)を観劇したことがある。
物語は、とある音楽バーで繰り広げられる。
音楽バーには、父の秋平(有馬自由)と娘の迪子[みちこ](橘花梨)がいる。
迪子はユタカという男性と結婚して挙式を挙げる準備をしている。
しかし、今日は父の秋平に呼び出されたので久しぶりに帰省したところである。
母は迪子が小さい頃に亡くなってしまっていて、兄弟・姉妹はいないようである。
秋平は、ずっと夢だった迪子の結婚式の余興でギターを弾きたいと言い出す。
しかし、迪子は断る。
そこへ薫(松永玲子)という女性がやってくる、薫はバーを経営しているらしい。
薫は秋平と仲が良いらしく、一緒にバンドを組んで迪子の結婚式の余興で披露させてくれと言う。
迪子は断り続ける、いかんせん薫は今日初めて出会った人であるのに、自分の結婚式で余興をしてもらうのは認めないと。
そこへ璃[あき](中野亜美)という女性が店に入ってくる。
璃は非常に奇抜な服装をして男まさりな印象である。
璃は薫の経営するバーのアルバイトだが、非常に口が悪く初対面の迪子の悪口も言ってくる。
しかし、璃と迪子の二人だけが音楽バーに残って話し込んでいると璃が心を割って話してくれて...という話である。
結論、まさに下北沢OFF・OFFシアターという小劇場での演劇らしく、心温まるヒューマンドラマとしてクオリティの高いものに仕上がっていた。
まず舞台美術が素晴らしかった。ステージ一面に音楽バーが再現されており、バーカウンターも使い古されて趣があり、飾られている楽器なども雰囲気があって自分もぜひ足を運んでお酒を飲みたいと思わせる音楽バーだった。
今作の時代設定はいつの時代なのか分からないが、昭和かな?と思わせる感じのレトロさがあって、その空間に浸っているだけで心にじんわりとくるものがあった。
そしてそこに舞台照明や舞台音響が効果的に演出されることで、上質な演劇空間が立ち上がり魅了されていた。
今作はなんといっても脚本が素晴らしかった。
やや物語設定が恣意的で現実としてここまでカオスなことは起きないだろうとも思ったが、その違和感をあまり感じさせないくらい脚本に心動かされて感動した。
登場人物が4人しかいないのだけれど、その登場人物たちがそれぞれどんな家庭環境だったかを想像することができる。
そこから、登場人物たち全員に感情移入できる。
だからこそ彼女たちの境遇に胸を打たれて、自分がもしそうだったらと考えると泣かせられる。特に迪子と秋平の父と娘の関係や、迪子と璃の関係が素晴らしかった。
迪子と秋平の父と娘の関係には分かり合えなさもある。
それは父親であるから、そして娘であるからこその分かり合えなさで普遍的なものだが、徐々に二人の親子関係の過去のことなどが明らかになってくると、そこには確かに愛情があるのだなと感じさせられて胸を打たれた。
そして迪子と璃の関係も、最初は璃は迪子を呼び捨てにしたり初対面とは思えないくらいの扱いをするのだが、徐々に歳が近いもの同士で心を割って話すようになる。
璃がそんな尖ったキャラクターであるにも関わらず、璃なりの苦労を抱えて生きてきたことが分かると急に感情移入出来て好きなキャラクターになっていく。
そして最後には、この二人の関係性にも感動させられる。
4人しかいない登場人物とのやりとりを丁寧に描いて演劇にした作品だと感じた。
4人の出演者陣はとても豪華だったが、非常に演技も素晴らしかった。
迪子役を演じた橘花梨さんの、非常に真面目で不真面目な父親を厳しく叱りつける感じが堪らなかった。
そして、秋平と薫の結婚式の余興でバンドをやろうというやり取りを白い目をして聞いている感じも凄く印象に残った。
そんな真面目な迪子だからこそ、幸せになって欲しいなと思うのに後半の展開になってしまうので本当に感情を揺さぶられた。
璃役を演じた中野亜美さんも奇抜な演技がとても似合っていた。
中野さんは『アンサンブルデイズ-彼らにも名前はある-』(2025年3月※観劇レビューは残っていない)で演技を拝見したばかりだったので、こんな2週間以内でこれだけの台詞量の役を演じ切ってしまう俳優魂としての素晴らしさに感動した。
そして、普段はもっと純粋な若き女性をやるイメージなので、ここまでグレた中野さんの演技を観たのは初めてだったが、こんなにも役者として幅のある方だったのかと驚かされた。
「ムシラセ」はまだ2回しか演劇を拝見していないが、今作は一作前の『ナイトーシンジュク・トラップホール』と比べて全く系統の異なるものをこのクオリティで完成させられる素晴らしさに拍手を送りたい。
小劇場で演劇を観たい、家族もののヒューマンドラマで心動かされたい人に間違いなくおすすめできる傑作である。

【鑑賞動機】
「ムシラセ」は過去に観た『ナイトーシンジュク・トラップホール』(2024年7月)が非常に面白かったので、また観てみたいと思っていたのと、出演者陣4人が凄く豪華で、この4人をOFF・OFFシアターで観れるのは貴重だと思い観劇した。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
音楽バーには、父の秋平(有馬自由)がいる。そこへ娘の迪子(橘花梨)が入っている。迪子はどうやらお店の火災報知器が鳴ったので火事でも起きていないかと心配で様子を見に行ったが問題なかったとのことだった。
迪子は、今秋平とは一緒に住んでおらず、ユタカという男性と結婚式を挙げることになっていた。しかし秋平に呼び出されたので、実家に戻ってきたという状況だった。本当は迪子は戻ってきたくはなかったが、秋平が電話では伝えられないことがあると言ってわざわざ呼び出したのである。
秋平はカワグチという男性の話をする。カワグチは娘と3,4つ年上の女性と再婚するそうである。その話を聞いて迪子は、娘が可哀想だと言う。
ユタカとの結婚式は10日後である。そこで秋平は、迪子とユタカの結婚式の余興でギターを弾きたいと言い出す、音楽バーにあるギターを触りながらジャズをやりたいと言い続ける。迪子は断る。自分の結婚式でそんなことを父親にして欲しくないと。
そこへ薫(松永玲子)が音楽バーにやってくる。薫と秋平は仲睦まじそうに会話するが、迪子は薫のことを全く知らないようである。薫はバーを経営しているママであり、最近秋平と仲良くなったようである。そして薫も音楽が出来るので、秋平と薫でバンドを組んで、迪子の結婚式の余興でバンドをやりたいと言っている。
迪子は猛烈に反対する。そもそも薫という女性を迪子は今ここで初めて知ったし、自分たちの結婚式に勝手に割り込んで欲しくないと言う。秋平は結婚式のプログラムを見て、迪子が退場した後にもう一度戻ってきてバンドの余興をやるとか、ユタカの結婚式のスピーチを短くしてもらってバンドの余興をやるとか、色々提案するが全て迪子は断る。絶対に向こうの親も許さないだろうと。
秋平にとって、バンドをやって娘の結婚式の余興で演奏することが夢であった。迪子は、そんな父の夢に付き合わせてしまい申し訳ありませんでしたと薫に謝って、薫をこの場から退出させようとする。
その時、音楽バーには璃(中野亜美)がやってくる。迪子も秋平も璃と初めて会う。璃はどうやら薫の店のアルバイトらしい。璃は、奇抜な黒い服装とメイクで人々を睨みつけている。
璃は薫のことを指差して、この女はバツ4だよと言う。薫は、そんなことを人に言いふらさないでと叱る。特に2つ目の結婚に関してはなかったことのようなものだからと言う。
それから璃は迪子を睨みつけて名前を聞く。迪子は自己紹介すると、いきなり璃は迪子を呼び捨てしてくる。そんな璃の言動に迪子もさすがに憤る。そのまま璃は店を出て行ってしまう。
薫も、結局は迪子の結婚式での余興でバンドを演奏することは認められないのでと理子は言って、この場から退出してもらう。
迪子と秋平の二人だけが残る。迪子の母親は迪子が2歳の時に亡くなった。そこから秋平と祖母と迪子で暮らしていた。迪子が小さい頃、母親からもらったピアノを楽しく弾いて演奏していた。しかし、祖母がそのピアノを捨ててしまった。迪子自身ももっとピアノを弾きたかったと言う。
夜の音楽バー、迪子が一人いる所に璃がやってくる。最初は迪子は璃があんな感じの人間だったので距離を置いている様子だったが、璃が迪子のことを気に入ったらしく距離を縮めてくる。
迪子の父親である秋平は、薫に対して好意を抱いていることを璃は話す。迪子もそのことには薄々気がついていた。父は嘘をつくときにすぐに指を回す癖があったが、薫のことについて話している時がまさにそうだったと。
迪子はココアを飲む。しかし璃は、そのココア牛乳が入っていないから美味しくないだろうと言い出す。牛乳を入れた方が美味しいからと璃は牛乳を入れてくれる。迪子は、祖母が牛乳が嫌いであったため、基本的にココアも全て水で薄めていたと言う。迪子は牛乳の入ったココアを飲む。
璃はここで一つ内緒話をする。実は、璃は薫のアルバイトなのではなく薫の娘なのだと言う。薫の2番目の結婚相手の娘だと。しかし、これは薫の前では絶対に言ってはいけないと言う。
あくる日、迪子は吹っ切れたような素振りで音楽バーにやってくる。そこには秋平と薫と璃が店にいる。迪子は、ユタカとの結婚式が無くなったのだと言う。ユタカは実は別の女性とも付き合っていて、その二人の間で子供が授かったからだと言う。ユタカからは特に連絡はなく、ユタカの母親から迪子宛てにそのように電話で連絡があったのだと言う。だからこれによって迪子とユタカの結婚式は無くなったので、余興をやるやらないの議論も関係なくなったと迪子は言う。だからもう用事はないから実家から戻ると。迪子は薫と璃に今までお付き合いくださいましてありがとうございましたと言って、店を去ろうとする。
薫は激怒する、そんなこと許してはいけないと。薫と秋平は、こうなったらユタカとその別の女性の結婚式に乱入して、結婚式に相応しくない音楽でも演奏しようと言い出す。秋平は、ユーミンの『翳りゆく部屋』はどうかと言って、音楽バーにあるピアノで『翳りゆく部屋』を演奏しながら歌い始める。そして、この曲ってユーミンが荒井由実の時代に作った曲だから相当古い音楽だよねと言う。
迪子は、もういいよとキッパリと結婚式でバンドを演奏することについては諦めさせようとする。
夕方、迪子と秋平は二人きりになり、扉の向こうで話をしている。迪子が秋平に聞く。お母さんってまだ死んでいないの?と。戸籍にはまだ母親の名前があったと言う。
秋平は、その通り迪子の母はまだ生きていると言う。最近も会ってきたと言う。すると迪子は泣き叫び、お互い相手に逃げられた身なんじゃんと言い、もっと私に寄り添ってよと秋平に言う。
秋平は、母に会いにいくかと迪子に聞く。迪子は怒る、会いに行きたいと思う訳がないじゃないかと、全然お父さんは私の気持ち分かっていないと。迪子は母には会いに行かないと言う。
照明が切り替わって、迪子が中学生の時の祖母が亡くなった過去に回想される。秋平は音楽バーに置かれているギターをいじっている。そこへ制服姿の迪子がやってくる。迪子は、ここにいたの?祖母の葬式に遅刻しちゃうよ喪主なんだししっかりしてよと秋平に声をかける。秋平は迪子に声をかけられてようやく立ち上がって店を後にする。
暗転する。
音楽バーには、薫と秋平と迪子がいる。迪子はもう帰省の用事は終わったのでと自宅へ帰ろうとする。そこへ璃がバールのようなものを持って音楽バーへ駆け込んでくる。薫はびっくりする。璃が持っているそれは何?と聞くと、バールのようなものだと説明するので、バールのようなものではなくバールでしょとツッコミを入れる。
璃は、これを持って結婚相手だった男の家に押しかけようと言う。こんなこと許されてはならないから仕返ししてやらないとと。このまま向こうの家庭が幸せになってたまるもんかと。迪子はありがとうと璃に言いつつ、もういいんだよと諦めた素振りで言う。
そんなことよりシチューがあるよと薫はシチューを持ってくる。迪子はあまりシチューが好きではなかった、祖母が作るシチューはいつも苦手だったからと。しかし璃はハッとし、それは祖母がシチューに牛乳を入れていなかったからではと思う。きっとこのシチューはそんなことはないから食べてと言う。
迪子はシチューを口にして何かに気が付く。ここで暗転して上演は終了する。
やや物語の設定が恣意的ではあるが、その違和感を全く感じさせないくらい物語にのめり込み、心動かされた。登場人物が4人しかいないにも関わらず、それぞれの登場人物の家族との関わりや過去どんなことがあったかは容易に想像できるし、だからこそ感情移入してしまう。誰もが歪な家族構成によって人生を狂わされてきた身であるからこそ、その苦しみとそこから逃れたい、考えたくないとしている登場人物たちのやり取りに色々と考えさえられてしまう。
それぞれの登場人物とのやり取りが良い。特に秋平と迪子の親子関係は、秋平の不器用さと迪子の生真面目さが良い意味で噛み合わず葛藤してしまう光景にグッとくる。自分はこのような親子関係ではなかったが、共感できる方はきっといるはずだと思う。
同世代同士の迪子と璃のやり取りも良い。というか璃というキャラクターがとてもずるい。あんな奇抜でやんちゃな風貌なのに、中身はめちゃくちゃ大人で魅了される。その二人が家族関係で悩んできたことを共通項として心を通わせていくあたりが凄く良かった。

【世界観・演出】(※ネタバレあり)
下北沢OFF・OFFシアターという小劇場に、非常にレトロな感じで音楽バーが仕込まれていてその舞台装置だけで引き込まれた。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。
まずは舞台装置について。
ステージ全体が音楽バーになっていた。下手側の壁側には、ピアノとギターが置かれている。そしてその奥には、音楽バーのトイレへと通じる古びた扉があってデハケとなっていた。中央の壁面にはウイスキーのイメージキャラクターとしてお馴染みの「アンクルトリス」の絵画が架けられている。
ステージ上手側はバーカウンターになっている。手前にはバーカウンターの椅子が4つほど置かれている。そして、バーカウンターの棚には沢山のウイスキーが並べられている。バーカウンターの上手奥側は厨房になっているものと思われ、デハケとなっている。薫がシチューを持って登場したりなどするとき、ここから現れる。また、上手手前側の壁側には一つの扉が設置されていて音楽バーの入り口となっている。薫や璃もここから登場する。
全体的に昭和の音楽バーといった感じで、建物に趣があってレトロな印象を受けた。舞台照明が入るとよりこの舞台セットの雰囲気は引き立てられる。
次に、舞台照明について。
劇中に登場するシーンが、夕方だったり夜だったりするので、どちらかというと薄暗い感じの舞台照明が印象的だった。最初の迪子が音楽バーに帰ってきた時のシーンは夕方だったので、全体的にオレンジ色に照らされていたように感じられた(違っているかもしれないが)。また、迪子と璃の二人のシーンでは、薄暗い夜であったので、全体的に暗い感じの照明に思われた。逆に迪子の結婚式が無くなったと分かったシーンでは日中の舞台照明だった記憶。
また、迪子と秋平の祖母の葬式の過去の回想シーンがある。あのシーンも夕暮れのように感じられたが、となると祖母の葬儀は夜行われたのだろうかと考えた。夕日だったのか朝日だったのか分からないが趣のある照明だった。
また、暗転してシーンが切り替わるので、どのシーンがいつの時間軸なのかがはっきり分かった。舞台照明による演出の上手さが公演を観やすいものにしてくれている感じを受けた。
次に舞台音響について。
基本的に暗転中に音楽が流れていた。音楽も非常に穏やかな音楽だった印象で、心が温まる思いだった。
生音は、ユーミンの『翳りゆく部屋』のピアノの演奏だったと思う。結婚式で『翳りゆく部屋』を歌われてしまったら迪子の未練がユタカに伝わって、想像しただけでやばいなと思ってしまう。また秋平を演じた有馬自由さんの歌も非常に感情がこもっていて好きだった。もちろん、これをもしユタカの結婚式で歌うのなら迪子の未練が伝わると思うが、きっとこの歌を歌いながら秋平は妻のことを思い出して歌っていたのだろうなと思った。
最後にその他演出について。
迪子が制服姿に早着替えするという演出があるが、トイレの奥で迪子と秋平の声だけの会話シーンを経ることで、その早着替えを可能にしているという構成の上手さが素晴らしかった(と記憶している)。きっと橘さんは、トイレの奥のスペースで制服姿に着替えながら台詞もこなしていたのかなと想像している。出演者が少ないからこその早着替え演出で見事だった。
序盤にカワグチという男性の再婚についての話が出てきたのだが、この話は特にメインの物語で言及されなかったのが気になった。これは、今作のメインテーマの伏線という理解で良いのだろうか。親が再婚するものの子供のことを全く考えない父親の話ということで、秋平と迪子の親子にも通じる話だからこそ伏線と捉えられるのだろうか。いや、おそらくこの時点で秋平は薫のことが好きで、薫と再婚しようと思っているのだけれど、娘の迪子はどう思うだろうというのを、別のカワグチという人の例をとって迪子の気持ちを確かめたかったのかもしれないとも思った。直接秋平が薫を好きだということなく、遠回しに再婚しても迪子はなんとも思わないかを探ったのかもしれない。

【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
出演者が4人しかいない演劇作品だったが、出演者が全員実力俳優で豪華だったので非常に素晴らしいものを観た感覚だった。
4人しかいないので出演者全員に言及していく。
まずは、迪子役を演じた橘花梨さん。橘さんの演技は、舞台『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』(2024年8月)、ぽこぽこクラブ『あいつをクビにするか』(2023年8月)、果報プロデュース『あゆみ』(2022年10月)で演技を拝見している。
橘さんはいつも真面目な女性の役をやる印象が強く、今作でも迪子というしっかり者で真面目な女性を演じていて見事だった。どうしようもない父親秋平をいつも叱りながら、でも父親だからどこかに親への愛情を感じられる部分もあって素敵だった。秋平と薫が二人でバンドを組んで迪子の結婚式の余興で演奏しようと言い出した時の、迪子の呆然とした目と態度が印象的だった。絶対こんなことを親にされたら嫌だろうなと思うから非常に共感できる。
2歳の時に母親は亡くなったとされて父と祖母に育てられた迪子は、おそらく祖母とは上手くいかなかったのだろうと思う。ピアノを捨てられたという描写からそれを類推できる。きっと家族というものに対して迪子は良い印象はなかったと思う。父親の秋平はあんな感じだし、自分がしっかりしないとと思って育って疲れてしまった部分もあったと思う。
だからこそ秋平のもとを離れて、自分が好きになった男性と結婚してこの家との縁を半ば断ち切りたかったのかもしれない。しかし、結果ユタカにも裏切られてしまった。こんな真面目でしっかりしている迪子が、こんなにも恵まれない状況になってしまうのには腹が立ってくる。あの吹っ切れた感じの迪子の様子を観ていると涙をそそられる。
だからこそ、秋平をもっと頼りたいと訴えてくる迪子の言動にグッときた。橘さん、素晴らしい演技だった。
次に、秋平役を演じた「劇団扉座」所属の有馬自由さん。有馬さんの演技は、タカハ劇団『ヒトラーを画家にする話』(2023年9月)、劇団扉座『解体青茶婆』(2021年7月)、キ上の空論『脳ミソぐちゃぐちゃの、あわわわーで、褐色の汁が垂れる。』(2020年9月)で演技を拝見したことがある。
妻にも逃げられてしまって、娘の迪子にも愛想尽かされてしまったダメな親父役であるが、それが見事にハマっていて素晴らしかった。きっと秋平は秋平なりに、ずっと妻は亡くなってしまったということを家族に嘘をつきながら辛く寂しい生活をずっと送ってきたのだと思う。その辛さは計り知れない。
秋平は音楽に人生を救われた人なんじゃないかと思う。どんなに辛く悲しいことがあっても、楽器を弾けるということだけが自分の中での唯一の希望だったのだと思う。だからこそ祖母が亡くなった時も、ギターの前にずっといた。
娘の迪子の結婚式の余興でギターの演奏をするということも、きっと秋平にとっては一つの夢だったのだと思う。秋平が叶えたい夢。しかし、いくらなんでもそれを自分の今好きである薫と一緒にバンドを組んで余興をしようというのは、秋平の自分勝手過ぎるなと思う。あまり娘の身にはなっていないよう思えてしまい、親のエゴになってしまっているとは思う。
そんな不器用だけれど、秋平の置かれた立場の辛さも分かるからこそ非常に共感してしまう。そんな秋平役を演じた有馬さんは素晴らしかった。
そして、薫役を演じた「ナイロン100℃」の松永玲子さん。松永さんの演技は、ナイロン100℃『江戸時代の思い出』(2024年6月)、『Dont freak out』(2023年3月)、『イモンドの勝負』(2021年11月)で演技を拝見したことがある。
松永さんが演じる薫のスナックママ的な気さくで明るい感じの女性のキャラクターが良かった。薫もバツ4と離婚を何度も経験している。いつも夫婦関係が上手くいかなかった女性である。だからこそ、迪子がユタカとの結婚が亡くなってしまったことを聞いて、一番怒ってくれて真摯に相談に乗ってくれた点が好きだった。
最後に、璃役を演じた中野亜美さんも素晴らしかった。中野さんは、あやめ十八番『六英花 朽葉』(2023年8月)と、先日まで公演を行なっていたコクーンアクターズスタジオ1期生卒業公演『アンサンブルデイズ-彼らにも名前はある-』(2025年3月)で演技を拝見したことがある。
中野さんの演技は、どちらかというと真っ直ぐで熱量のある若き女性を演じる印象があり、今作のようなグレた奇抜なスタイルの女性の役を観るのはなかなか新鮮だった。しかし、全く違和感を感じずにそんな奇抜な役を演じ切っていたので役者としての演技の幅の広さを感じた。
迪子同様に、璃も家庭環境は恵まれておらず、母の薫からは娘として外では扱われていない。だからこそここまでグレてしまったのもあるかもしれないと思うが。
しかし、すぐに璃は迪子にシンパシーを感じて近づいていく。そして、見た目は奇抜だけれど、人の気持ちを分かってくれる内面はしっかりしている女性であることに気付かされる。このギャップが璃という女性を魅力的なものにしている。
最後にバールを持ってユタカの家に押しかけようという意気込みが好きだった。自分も過去に家庭環境で痛い目を見ているからこそ、迪子に感情移入してそういう言動に至ったのだろうと思う。とても勇敢で格好良かった。
『アンサンブルデイズ-彼らにも名前はある-』に出演したばかりなのに、よくぞここまで役を落とし込んで本番を迎えられたなと思う。本当に中野さんという人間そのものが演劇愛に満ち溢れていて高い熱量で挑まれているのだろうなと感じてますます応援したくなった。

【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは4人の登場人物の過去や心境に思いを馳せながら、「なんかの味」について考察していこうと思う。
まずは主人公の迪子についてだが、2歳の時に母は亡くなったと思い込んで今まで生きてきた。当然2歳なので母親との思い出は記憶にない。父の秋平と祖母によって育てられた。迪子はピアノを演奏することが小さい頃好きであったし、だからこそ楽器を演奏するということは好きなことであったに違いない。しかし祖母によってピアノを捨てられてしまう。
この時、迪子は祖母のことも恨んだだろうし、本当はピアノを弾くことが好きだったのに弾くことが出来ない状態となり、楽器を演奏するという行為について思ったこともあったに違いない。父はいつもギターを弾いているが、自分は好きなピアノを弾くことが出来ない。そういう感情が秋平と迪子の親子関係に水を差したとも考えられる。
その後どういう経緯を経たのか分からないが、迪子は秋平の元を出ていき、どこか別の場所で暮らしていた。そしてユタカという男性と結婚式を挙げることになっていた。きっと、祖母が亡くなってからは特に父の秋平があんな感じだったので、自分がしっかりしないとと思って生きてきたに違いない。そしてそうやって家族に縛られた生活が嫌になって、重荷を感じて秋平の元を出ていったんじゃないかと思う。
一方で父の秋平は、迪子が2歳の時に妻に逃げられてしまった。そして、自分のことを探して欲しくないからか、自分が死んだこととして扱うように秋平に言ったのだろうなと思う。そこからずっと娘の迪子には嘘をつき続けながら生きてきた。
きっと秋平は秋平で家族の中で孤独だったのだろうなと思う。家族である迪子には本当のことを話すことは出来ない。だから楽器を弾いたりして気を紛らわしていたのかもしれない。
そんな中、薫という女性に出会う。相手もバツ4で離婚経験があって音楽を弾くという共通の趣味もある。だからこそ二人は引かれていったのだろうなと思う。しかし、薫と再婚したいとは娘に言い出せなかったので、せめて結婚式の余興で二人でバンドメンバーとして演奏を披露したいという気持ちがあったのだと思う。
しかし、迪子の結婚相手に裏切られ迪子は捨てられた。迪子が自分の母親が実は生きていたということを知った時、どんな感情だったのだろうか。秋平を恨んだのだろうか、いやもっと複雑な心境だったろうなと思う。自分と一緒だったから秋平の苦しみを理解したのだと思う、それと同時になんでもっと自分に寄り添ってくれないのかという怒りはあると思う。このなんとも言えない感情はなんなのだろうか。
父親と娘の関係で、分かり合えないけれど、でも家族だからこそ何かに期待してしまう感情がそこにはあるから、複雑な感情が込み上げてそのような事態になるのかなと思う。父親は年配で且つ男性、娘は若くて女性、性別も年代も正反対である。だからこそわかり合ってはもらえないことも沢山あると思う、それが手に取るように分かるし苦しいからこそ人々は心打たれる。
薫と璃の関係はどうだろうか。璃も自分が薫の娘であるということを隠している親子関係である。そこにも、親子としての複雑な絡み合いを感じずにはいられない。薫は自分のエゴで二人目の結婚相手、つまり璃を産んだこととその父親との関係は何らかの事情でなしにしたいのだろうなという印象を受ける。薫がその旦那に何をされたのか劇中の描写からは分からないが。
璃も何らか事情は知っているのかもしれないが、そこまでは劇中では話していない。ただ事実なのは、薫と璃は血のつながった親子であることと、薫はその事実を認めたくないということである。
秋平と迪子同様、何らかその時の旦那に嫌な思いをさせられて、その憎しみをずっと抱えたまま生きているのだろうなと思う。
迪子にとって、祖母や秋平との生活は散々なものだったのだろうなと思う。その生活を味で例えると、牛乳の入っていないココアやシチューの味なのだと思う。なんの甘味もない薄い味しかしなかったのだと思う。だからシチューは苦手意識を持っていた迪子だった。
しかし、ユタカにも裏切られて居場所を失った迪子でもあった。そこで薫の作ったシチューを食べる。最後に暗転して終わるので、シチューを食べた後の迪子は想像するしかないが、きっと牛乳の入ったシチューというのは今まで食べたことなかったシチューの味がして美味しかったのではないかと思う。
これは一つの事実でもあるが、同時に迪子の心境の変化を表す比喩でもあると思う。今までは秋平との生活に良い味を感じていなかったが、薫がやってくることによって生活に良い味が加わる。つまり、秋平が今後薫と再婚する可能性を示唆すると同時に、迪子も秋平、薫の夫婦の娘として生活することで今までの家族にはなかった新たな家族の形を見出すことが出来るという希望にも感じられる。
秋平、薫、迪子、璃の親子4人の家族はなかなか良いものなんじゃないかという気がしてくれる。お互いに今まで家族に裏切られてきた者同士が集まった家族。シチューのように良い味がしてきそうな家族の形を感じられる。

↓ムシラセ過去作品
↓有馬自由さん過去出演作品
↓橘花梨さん過去出演作品
↓松永玲子さん過去出演作品
↓中野亜美さん過去出演作品

