ミュージカル 「ボニー&クライド」 観劇レビュー 2025/03/15

公演タイトル:「ボニー&クライド」
劇場:シアタークリエ
企画・制作:ホリプロ・東宝
脚本:アイヴァン・メンチェル
歌詞:ドン・ブラック
音楽:フランク・ワイルドホーン
上演台本・演出:瀬戸山美咲
出演:柿澤勇人、桜井玲香、小西遼生、有沙瞳、太田将熙、霧矢大夢、鶴見辰吾、石原慎一、彩橋みゆ、池田航汰、神山彬子、焙煎功一、広田勇二、三岳慎之助、安田カナ(観劇回のキャストのみ記載)
公演期間:3/10〜4/17(東京)、4/25〜4/30(大阪)、5/4〜5/5(福岡)、5/10〜5/11(愛知)
上演時間:約2時間35分(途中休憩20分を含む)
作品キーワード:ミュージカル、ギャング、ラブストーリー、アメリカ西部、オールドアメリカン
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆
日本では1968年に公開されたアメリカ映画『俺たちに明日はない』で知られている、1930年代にアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返した、実在人物であるボニー・パーカーとクライド・バロウを描いたミュージカル『ボニー&クライド』を観劇。
今作は2011年にブロードウェイで上演され、その翌年の2012年には日本で初上演された。
さらに2022年にはイギリスのロンドン・ウエストエンドでも再演され、2023年には日本の宝塚歌劇団雪組でも上演されている人気作である。
今回の上演では上演台本と演出を、演劇ユニット「ミナモザ」の主宰であり、読売演劇大賞で優秀作品賞受賞経験や、岸田國士戯曲賞にもノミネート経験のある瀬戸山美咲さんが担当している。
瀬戸山さんの演出作品は数多く観ており、音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』(2022年8月)の上演台本と演出が非常に素晴らしかったので今作も観劇することにした。
『ボニー&クライド』に関しては映画も含めて未見の状態で観劇した。
また今作はダブルキャストで上演されており、ボニー役を桜井玲香さんと海乃美月さんが、クライド役を柿澤勇人さんと矢崎広さんが、ボニーの幼馴染で保安官代理のテッド役を吉田広大さんと太田将熙さんがキャスティングされており、私は桜井玲香さん、柿澤勇人さん、太田将熙さんの回を観劇した。
物語は、世界恐慌下の1930年代のアメリカテキサス州が舞台。
退屈な田舎町に住む若き女性のボニー・パーカー(桜井玲香)は、ハリウッド映画のスターを夢見ながらウェイトレスで働いていた。
その当時、イーストハム刑務所からはバック・バロウ(小西遼生)とクライド・バロウ(柿澤勇人)兄弟が脱獄したことで大騒ぎとなる。
そしてボニーは脱獄したクライドと出会い恋に落ちる。
ボニーは既婚者であるにも関わらず夫が刑務所に入れられているのを良いことにクライドと浮気する。
バックに関しては、脱獄して美容院を経営している妻のブランチ(有沙瞳)の元に帰る。
しかしブランチからは、脱獄するのではなく刑を全うしてから戻ってくるようにと再び刑務所に追い返されてしまう。
一方でクライドはボニーと共に逃亡し、殺人に強盗を繰り返していたが...というもの。
まずは、1930年代のアメリカ中西部が舞台ということで西部劇のような世界観に魅了された。
オープニングから銃声の嵐で始まって、もうそれだけで一気に西部劇の世界へと誘われたかのようになる。
そして、テッド(太田将熙)やシュミット保安官(鶴見辰吾)などの保安官たちの姿や、巨大な星条旗、オールドアメリカンを感じさせるような音楽など、当時のアメリカの世界観がステージから客席に伝わってきて贅沢な空間だった。
私はディズニーランドが好きだが、それはアメリカの西部開拓時代の世界観が好きだからであり、そういう方には間違いなく刺さる世界観だと思った。
音楽に関しても、オールドアメリカンで耳に残る楽曲が多い印象だった。
物語に関しては、とにかくクライドの自由奔放ぶりと社会への反発のようなものが強烈に描かれていて、非常に若くて熱量あって元気を貰えた。
令和を生きる私にはそんな熱い感情にはあまり共感出来ないのだけれど、そんな彼を見ていても憎めないものがあって魅力的に感じる。
そして、そんな自由奔放なクライドについて行こうとするボニーがとても格好良かった。
今作のテーマには女性の自立も感じられた。
"クライド&ボニー"よりも"ボニー&クライド"の方がしっくりくるといった描写があることからも女性の自立を感じたし、それを象徴するかのようにボニーが非常に一人の人間として逞しかった。
役者に関しては、とにかくボニー役の桜井玲香さんとクライド役の柿澤勇人さんの演技と歌声に魅了された。
桜井さんに関しては、舞台『SLAPSTICKS』(2022年2月)、ミュージカル『この世界の片隅に』(2024年5月)と演技を拝見していたが、今作の演技力と歌声が今までより段違いに素晴らしくて感動した。
個人的に最も気に入った楽曲は『How' Bout a Dance?』だったのだが、ボニーが天井から吊り下げられたブランコに乗って優雅に歌い上げるシーンが堪らなく良かった。
これは、桜井さんの歌声が素晴らしかったのもあって魅力的に映ったのかもしれない。
また、桜井さんが演じる非常にアメリカンな主張の強い逞しい女性というのが似合っていて適役だと感じた。
柿澤さんのクライドに関しては、非常に無鉄砲で熱量と勇気だけあるような男らしい存在が良かったし、それなのに時にチャーミングな部分を見せるから凄く魅力的なキャラクターだと感じた。
瀬戸山さんは、小劇場演劇出身の方と思えないほどハイクオリティなミュージカル作品の上演台本と演出をされていて素晴らしかったのと、オールドアメリカンな楽曲と世界観の魅力が詰まったミュージカルなので、多くの人に届いて欲しいと思う。

↓PV映像
【鑑賞動機】
観劇の決め手は、瀬戸山さんがミュージカルの上演台本と演出を担当されていたから。以前観劇した音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』が非常に素晴らしかったので、また瀬戸山さんの上演台本・演出のミュージカルを観てみたいと思ったから。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
ステージ上の幕が上がると共に、四方八方から銃声が鳴り響く。シルエットで保安官たちが映し出される。
明転すると、車の中にはボニー・パーカー(桜井玲香)とクライド・バロウ(柿澤勇人)の二人が座っていて、その車には何十発の銃弾が打ち込まれていたようだった。ボニーとクライドはそんな最期を迎えたようである。
時間は遡る。ボニーは田舎町のアメリカン・カフェで働いている。カフェの掃除をしながら、いつかはハリウッドの映画スターになることを夢見ていた。ボニーは『アメリカン・カフェ』を歌う。
そんな中、兄弟であるバック・バロウ(小西遼生)とクライド・バロウはイーストハム刑務所を脱獄する。二人が脱獄したことは新聞でも大きく取り上げられる。
ボニーが一人いる所へ、クライドが現れる。クライド自身が脱獄犯であることをボニーに知られてしまうと、最初はボニーは警戒する。しかしクライドは、自分はアル・カポネに憧れていて、彼のように社会に反発して自由に生きて有名になることを夢見て、このまま脱獄して保安官から逃げ続けることを決意していると言う。『残すのさ、名前を』を歌う。そして、そんなクライドの熱い言葉に惹かれたボニーはクライドとキスをする。
一方で、クライドと一緒に脱獄したバックは、自分の妻であるブランチ(有沙瞳)の元に帰ってくる。ブランチは美容院を経営していて、そこには三人の婦人が美容院で髪のメンテナンスをしていた。しかしブランチは夫のバックに対して早く刑務所へ戻るように言い渡す。クリスチャンであるブランチは、まずは犯した罪を償うために刑罰を受けてから出所して幸せに暮らそうと言う。罪を償いきれてない中で一緒に暮らすのは良くないと。『戻って刑務所へ』を歌う。
ボニーはクライドに恋焦がれて、森で『HowBout a Dance?』を歌い上げる。天井からはブランコが降りてきて、ボニーはそれに乗りブランコに座って高く吊り上げられ歌い上げる。
ボニーは自分の家にクライドを連れてやってくる。ボニーの母親であるエマ(霧矢大夢)が現れる。クライドはエマに明るく挨拶するがエマはそっけない。ボニーは既婚者がいて、その既婚者が刑務所に入っているから、不倫になってしまうから冷たいのである。エマは男性だと仕事がないでしょとクライドに尋ねる。どうやって生計を立てていくつもりかと。エマは旦那のウクレレの話をする。
ボニーが夜遅くに自宅のポーチにいると、ボニーの幼馴染で保安官をやっているテッド(太田将熙)が現れる。テッドは脱獄したクライドを探しているのだが知らないかと尋ねる。ボニーは知らないと言う。そしてボニーとテッドはボニーの祖母が亡くなった時の話をする。祖母の遺体を見て祖母は本当に亡くなってしまったのだなあと、衝撃を受けたようであった。
ボニーとクライドと、バックとブランチの4人で会う。バックはブランチに言われて、まずは罪を償うべきだと思って刑務所に出頭しようと思うと言う。だからクライドも一緒に出頭しようと。しかしクライドは断る。自分は自由を求めて逃亡するのだと。アル・カポネのように社会に反逆して自由を手に入れるために逃げて有名になりたいのだと。結果、バックは出頭してクライドは逃げ続け殺人や銀行強盗を繰り返す。
牧師(石原慎一)が信徒たちと教会で『教会』を歌っている。その中にクライドも紛れ込んでいる。しかし、それを保安官に見つかってしまって逮捕される。
バックとクライドは再びイーストハム刑務所に入れられ牢獄生活を送る。ボニーはクライドが刑務所に入ってしまって会えなくなってしまったのが苦しかった。ボニーは何度も何度もクライドが閉じ込められている刑務所に足を運んで牢屋越しに会いに行った。
ボニーはエマにこう言われる。あなたはどうしてそんなにクライドに会いに行くのかと。クライドはイーストハムにいるというがイーストハムには刑務所しかないではないかと。まさか、クライドも囚人でボニーはそんな囚人に恋をしているのかと追及される。ボニーは違うと嘘を答える。
バックは刑務所生活を終えて無事出所したのだが、クライドは脱獄中に銀行強盗や殺人を犯したのでさらに懲役を科せられて牢獄生活を延長することになった。
ボニーは足に銃を忍ばせてイーストハム刑務所へ向かう。途中で保安官に呼び止められて脚などチェックされるが、銃の存在はバレなかった。そしてボニーは銃を使ってクライドの脱獄を助けて逃げる。
イーストハム刑務所では大騒ぎになる。何者かが銃を使ってクライドの脱獄を手伝った奴がいると、テッドはシュミット保安官(鶴見辰吾)から、まさかボニーが脱獄を手伝ったのではないかと疑われていたが、テッドは幼い時からボニーのことをよく知っているのでそれは違うと否定する。保安官たちはクライドを捕まえるために指名手配を出し、新聞でも告知する。
ボニーとクライドは車に乗って逃亡していた。新聞には、アル・カポネの見出しの横にクライドの指名手配の記事が載っていた。クライドは喜ぶ。
ここで幕間に入る。
ステージには巨大な星条旗が垂れ下がり、アメリカの国民たちはみんな下を向きながらファーガソン州知事(霧矢大夢)の元、配給されたスープを受け取って貧しい食事をしていた。
ファーガソン州知事は、シュミット保安官に英雄化されつつあるクライドを捕まえて射殺するように命じられる。シュミット保安官などの保安官たちはクライドを始末するために動き出す。
一方で、ボニーとクライドは逃亡中に喧嘩などもして『手遅れなんだ』を歌う。しかし結局仲直りしてボニーとクライドの仲は深まっていきキスをする。
銀行の付近で市民たちが大勢集まって賑わっている。そこへボニーとクライドも姿を現す。二人はギャング・カップルとして名を馳せていた。クライドだけでなくボニーも銃を握りしめているので二人ともギャングだった。「クライド&ボニー」と人々は口にするが、ボニーは「ボニー&クライド」の方がしっくりくると言う。その時、どさくさに紛れて銃が発砲されクライドは撃たれてしまう。
クライドの手当てをするボニー、クライドは腕を撃たれていてそこに包帯を巻く。そして風呂に浸かりながらゆっくり治療する。
ボニーとクライドは隠れ家にいる。その時、コンコンというノックの音が聞こえる。もう終わったかと身構えした二人だったが、やってきたのはバックとブランチだった。二人の様子を心配してやってきてくれたのだった。
ブランチとボニーで会話をする。ブランチは、馬鹿な真似はやめた方が良いとギャングになろうとしているボニーを止める。しかしボニーは言うことを聞かず、もしブランチがこれ以上同じことを言ってきたら最初の犠牲者にすると脅す。ブランチはボニーがクライドの影響で本当にギャングに変わってしまったのだと悲しくなっていた。
エマの元にテッドがやってきて指名手配中のボニーのことについて事情聴取する。エマはボニーのことを庇う。どうしてそこまで庇うのかと問い正すが、それは娘だからだと答える。
ボニーとクライドの隠れ家には、バックとブランチもいたが、その時突如異常なまでの銃声が聞こえて攻撃される。四人とも命を守ろうと必死だったが、バックは撃たれて死んでしまい、ボニーも脚を撃たれて血だらけになってしまう。
クライドは必死にボニーの手当てをする。ボニーは痛いと悲鳴を上げている。
一方でブランチは、亡くなってしまったバックの元で大泣きしていた。そこへ保安官がやってきて、ボニーとクライドという指名手配犯を見逃した罪で逮捕されてしまう。その後バックの元に母のカミー(安田カナ)がやってきて大泣きする。
ボニーとクライドは逃亡し続ける。『短くても悪くない』をボニーとクライドで歌う。ここで上演は終了する。
どうしてそこまでクライドは社会に反発して、脱獄者として新聞に載って有名人になりたいのか、ボニーはどうしてそんなろくでもない男を好きになってしまうのかは、今を生きる私たちには共感しにくいかもしれない。しかし、どこか一つの夢に向かってどこまで真っ直ぐで情熱的な姿に魅了される。時代背景をもっと詳しく知っていれば、この二人の感情がどういったものなのか理解も深められるであろうと思った。
一番の見どころは、ボニーがどんどんクライドに染まっていきながらギャングとしても身を染めていく所。最初はドレスを着て、ウエイトレスで働く普通の女性だったが、クライドに出会ってどんどん格好よくなっていって、最後には銃を保持して人を殺すことも厭わなくなってしまった変わり様に驚かされる。こんなにも若い女性は、男性の色に染まってしまうものなのかと。
ボニーは女性の自立を唱えるが如く、ボニー&クライドと称したり、銃を持ち歩いたりするが、男性と一緒になって安定したいといった結婚願望も持っていて、逞しさと女性らしさが共存しているキャラクター性もあって魅力的に感じた。
また、アメリカの物語に触れるといつも思うのが、正義と悪の二元論である。保安官たちは自分たちの行いを正しいことと信じて、悪であるボニーとクライドを逮捕しようとする。クリスチャンであるブランチもキリストの教えに従って罪を犯したものは法で裁かれるべきということを遵守していた。しかし、結果的にブランチはボニーたちを逃して逮捕されてしまうなど、改めて正義とは何か、悪とは何かを考えさせられた。

【世界観・演出】(※ネタバレあり)
そこまでステージ上にセットを作り込んでというほどではなかったけれど、オールドアメリカンな舞台セットと衣装から1930年代のアメリカ中西部を彷彿させる世界観が素晴らしかった。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。
まずは舞台装置から。
今作では非常に様々なシーンで物語が展開されるので、場面展開しやすいように大型の舞台セットを作り込んで仕込むことはせず、移動しやすい小さめの舞台セットだけを仕込ませたり、天井から降りてくるセットでその場の世界観を作り出すものが多かった。
まず一番印象に残るのは、イーストハム刑務所での牢屋の鉄格子が降りてくるシーン。ステージ天井に鉄の檻が吊り上げられていて、それが降りてくることによってバックとクライドが刑務所に囚われているシーンを表現していた。その鉄の檻を挟んでクライドとボニーが会話するシーンはとても印象的である。こういうシーンは演劇だけでなく映画などでも多いと感じる。
あとは印象的に残るのは、ボニーとクライドが乗った自動車の舞台セット。ステージ中央に置かれた自動車は、ボディはないもののハンドルと運転席と助手席だけが置かれて自動車を表現している。その自動車がとてもレトロでオシャレだった。このオールドアメリカンな自動車にギャングの格好をしたクライドが運転席へボニーが助手席に銃を背負って乗り込むシーンは本当に格好良かった。
序盤でボニーがウエイトレスで働くシーンでは、喫茶店のような舞台セットが置かれ、ブランチの経営する美容院では3つの美容院のセット椅子が置かれていた。ボニーの家ではソファーとテーブルが置かれ、ポーチのシーンでは玄関を表現する鉄の門がセットされた。
森で『How' Bout a Dance?』をボニーが歌い上げる時の、天井から降りてくる巨大なブランコと、巨大な光り輝くアーチも素敵だった。恋するボニーを美しく表現する演出で、これを考えた人凄いなと思う。
下手隅にあったタイヤが複数縦に積まれたセットや、「GAS」とかかれた看板などがウエスタンアメリカを想起させられて良い雰囲気を出していた。
第2幕になると、巨大な星条旗がステージに垂れ下げられていて雰囲気があった。アメリカの星条旗を見るたびに、正義と悪という二元論を感じる。「BANK」と書かれた銀行を表現した移動式のセットもレトロで可愛らしかった。
あとは、バスタブの舞台セットも好きだった。そのバスタブにクライドが浸っているシーンなども素敵だった。
次に衣装について。本当に衣装が素敵過ぎて素晴らしかった。
まずはボニーに着目すると、最初はドレス姿で普通のアメリカの女性という感じなのだが、最初から性格はかなりキツイ。そしてクライドに感化されて足に銃を潜ませるようになり、やがてギャングとして衣装もまるっきり変わってくる。このギャップが本当に堪らなかったし素晴らしかった。
そして保安官の衣装も好きだった。少しカウボーイのようなクリーム色の衣装で、西部劇のあらゆる映画を想起させられる。その世界観に浸っていられるだけで好きだった。
次に舞台照明について。
まず驚かされたのは一番最初の演出シーン。銃声が嵐のように鳴り響き、天井には白く輝くボールのようなものが回転し、保安官たちのシルエットだけ浮かび上がる演出が格好良かった。これだけで一気に西部劇に引き込まれる。
あとは獄中の暗い照明も、クライドがいかに刑務所で極悪な環境で生きているかを物語るかのような照明演出だった。
それ以外は全体的に黄色く温かみのある照明に思えた。時代背景としては世界恐慌下でアメリカは苦しい時代だったと思うが、照明自体は明るく温かく思えた。それはボニーとクライドの熱い愛情を表現しているのかもしれない。
次に舞台音響について。
まず効果音でいくと発砲音が多くてびっくりした。最近自分自身が発砲音に対して苦手になってしまって鳴るたびにびっくりしてしまう。まずは銀行のシーンでクライドが何者かに撃たれるシーンがある。物語を事前に知らなかった私はそこでクライドが撃たれると知らなかったので、本当にびっくりした。公式HPにもトリガーアラートが書かれていたが確かに注意喚起は必要かもしれない。それだけでなく、最後にボニーたちの隠れ家に保安官たちがやってきて襲われるシーンでも発砲音がして、それもびっくりした。バックは死んでしまうし、ボニーも脚に怪我をしてしまう。
あとは裁判官の声が音声なのも良いと思う。割と裁判官の声が音声のみという演出はやりがちだと思うがつくづく良いなと思う。
楽曲自体は全体的にオールドアメリカンを思わせて優雅なものが多かった。凄く聞き心地が良くて耳に残る楽曲もあった。
特に好きだったのは『How' Bout a Dance?』。ボニーの歌声がとても素晴らしかったのだが、楽曲としても演出としてもこのシーンは満点だと思う。恋するボニーの気持ちと感情がこれでもかというくらいにその楽曲に乗せられていてうっとりした。
あとは牧師と一緒に信徒たちが熱唱するシーンも好きだった。ミュージカル『VIOLET』(2024年4月)でもそうだが、この時代のアメリカ西部の話には必ず牧師など宗教的なものも登場するよなと思う。
↓『How' Bout a Dance?』
最後にその他演出について。
クライドのチャーミングさはこの作品をより観客に親しみやすいものにしていたと思う。私の観劇回が柿澤勇人さんだったので矢崎広さんのクライドがどうなのかは分からないが、非常に男らしく社会に反抗して自由を求める熱量は凄いのだが、その一方でお茶目でチャーミングなキャラクターであるのは、柿澤さんが演じるからこそだと思う。
とにかくオールドアメリカンなセットと衣装と音楽、演出が満載で、それに浸れている贅沢な舞台空間だった。
今作で特に重要なのは、ボニーとクライドのバランスだと思う。ボニー役を桜井さんが演じて、クライド役を柿澤さんが演じていたが、そのバランスが絶妙でクライドの方が目立ちすぎても作品のテーマ的にバランスが崩れてしまうので適度にボニーを際立たせないといけない。それがしっかり演出され演技で体現されていた。良い意味で、クライドはボニーほど目立ち過ぎることなく、「ボニー&クライド」ということでボニーが主役になっている所に作品としてのバランスも取られていて良かった。

【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
メインを飾るキャスト陣はそこまで多くなかったものの、それぞれが非常に良い個性を放っていて素晴らしい演技だったと思う。
特に印象に残った役者について見ていく。
まずは、ボニー・パーカー役を演じた桜井玲香さん。桜井さんの演技は、KERA CROSS『SLAPSTICKS』(2022年2月)、ミュージカル『この世界の片隅で』(2024年5月)で演技を拝見している。
桜井さんの演技は今回で3度目の拝見となるが、本当に過去の桜井さんの演技を見ていると今回は見違えるくらい素晴らしい演技力だったなと思った。
まず桜井さん自身がボニーという役に非常にハマっていた。最初はワンピースを着た、いかにも普通のアメリカの若き女性という印象なのだが、性格はなかなか逞しかった。いつかはハリウッドの映画スターになることを憧れていて、序盤からクライドに対して大きな態度をとる。そこから段々とクライドに染まっていって仕舞いにはギャングとして衣装まで変わっていってしまう。決して最初は真逆のお淑やかな女性という訳ではなかったのだが、そういう性格と夢に向かって情熱を注ぐクライドにも惹かれてそんなキャラクターになっていったのかなと思う。
この非常に逞しい態度というか、男性をものともしない態度が桜井さんにはピッタリハマっていた。桜井さんは非常に声が力強く通るので、そういった逞しい女性を演じやすいのかもしれない。
また、単純に男まさりなのかというとそうでもなく、しっかりと女性らしい一面も見せてくれるからよりキャラクターとして魅力に感じられる。クライドといる時は、早く安定したい、楽になりたいという言葉を口にしている。ここには、一生独身で一人の人間として自立したいのではなく、好きな男性と共にいたいという願望も見られて女性らしさを内面的に感じさせてくれる。
また、劇終盤のシーンで隠れ家に保安官が襲撃してきた時に受けた銃弾を喰らってしまって痛がっている時も、その痛みに慣れていなくて悲鳴を上げる姿などもあり、逞しくも女性らしさを持つからこそ魅力的感じられた。
そして、桜井さんはここまで歌唱力が素晴らしかったのかと再認識させられるほどの素晴らしい歌声だった。桜井さんの歌声には非常に力強さがあり伸びがあった。それを一番感じさせてくれたのが『HowBout a Dance?』。この曲はボニーのソロパートなので、ボニーの歌声によって成り立つシーンだが、本当にうっとりするくらいよく出来ているシーンだった。もちろん演出も歌詞も音楽も素晴らしいのだが、それは桜井さんの歌声があって初めてその魅力も引き立てられると思う。見事だった。
次に、クライド・バロウ役を演じた柿澤勇人さん。柿澤さんの演技は、舞台『オデッサ』(2024年1月)で演技を拝見したことがある。
柿澤さんは非常にチャーミングな芝居をする辺りが素晴らしいと通り越してずるいなと感じる。クライドは、アル・カポネに非常に憧れの念を抱いていた。アル・カポネは最も有名なギャング・マフィアである。当時のアメリカは禁酒法など強い法律に敷かれていた中で、法律を犯してまで酒を販売して社会に反抗した英雄のような立場である。そんなアル・カポネと同じように、自分も社会に反抗して自由を手に入れることによって有名になりたいという無鉄砲ぶりが彼の魅力だった。
そしてそんな役を、柿澤さんが演じることによって熱くチャーミングに仕上がっている。ボニーとの出会いのシーンは、そんな彼の情熱とお茶目な感じがボニーを虜にしたことが窺える演出になっていて素晴らしかった。客席からもおそらく柿澤さんファンと思われるであろう女性の歓喜も聞こえてきた。柿澤さんだからこそ出来る歌唱力と演技で、彼にしかできないクライドが披露されていたように思える。
バック・バロウ役を演じた小西遼生さんと、妻のブランチ役を演じた有紗瞳さんのペアも素敵だった。
序盤の美容院のシーンで、脱獄してきたバックに対して早く刑務所に戻るようにとブランチが指図するあたりがとても好きだった。バックは、脱獄して会いたかったとブランチにハグされるのを想像していたのだろうか。しかしブランチはクリスチャンだったので、彼との時間よりもクリスチャンとしての信念を優先してそのように言ったことが、個人的に深く心に染み入った。クリスチャンの信念て凄いのだなと。
しかし終盤のシーンで、ブランチは最愛のバックという夫を亡くして心を痛めているのに、ボニーとクライドを逃したという罪で逮捕されてしまうのは本当に無念だなと思う。あんなにクリスチャンの信念に縋って、罪を償った後のバックとの穏やかな夫婦生活を夢見ていたのに、それを叶えることができずバックは死に、ブランチは牢屋行きになってしまうのは本当に辛く悲しいことだなと思う。それでもブランチはクリスチャンとしての信念を曲げないのか気になる所である。
ボニーの母役のエマを演じた霧矢大夢さんも素晴らしかった。霧矢さんは名前からして宝塚歌劇団出身だろうなと思ったがやはりそうだった。
非常に厳しそうなボニーの母親であったのが印象的だった。最初からクライドのことをよく思っていなかったのも、世の中に対する不信から来るのだろうか。
しかし終盤で、ボニーがギャングとして指名手配されて追われる身になっても、幼馴染のテッドはボニーを捕まえないといけなかったが、エマは自分の娘を庇い続けたのが興味深かった。

【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは、ボニー&クライドが生きた1930年代のアメリカと音楽について考察していこうと思う。
1930年代というと、アメリカでは世界恐慌が起こって不況に苦しんでいた時代でもある。当時のアメリカ大統領であったフーバー大統領はこの世界恐慌による経済対策が難航してしまって長期化させてしまったため、政府に対する信頼も墜落し、次期大統領であるルーズベルト大統領が世界恐慌に対してニューディール政策を行ったことで知られている。それまではアメリカ全土に渡って不況が続いたのである。
劇中では、アメリカ国民たちが配給制のスープをもらいに並んで食事をするシーンがある。当時のアメリカ経済の深刻さが窺える描写である。
また、当時のアメリカでは禁酒法という法律が制定されていた。これは飲酒が禁止なのではなくお酒を製造することが禁じられているのだが、これもアメリカ全土に渡って非常に大きな影響を与えた。これによって出現したのが、アル・カポネに代表されるギャングマフィアたちである。アル・カポネはそんな厳しい禁酒法が敷かれた時代にシカゴで、高級ホテルを根城に密造酒販売・売春業・賭博業の犯罪組織を運営していた。そしてその組織は非常に勢力を強めて裏社会のボスと化した。
1920年代のアル・カポネらギャングマフィアたちは、ただお酒を密売する程度に留まったのだが、世界恐慌によってアメリカ全土が不況に晒されるとギャングマフィアたちは犯罪にも手を染めるようになった。殺人や銀行強盗などの犯罪が多発しアメリカの治安は悪化していった。
劇中では、とにかく犯罪を起こして刑務所に送られた男性が数多く登場する。バックもクライドもそうであるが、ボニーの夫もまた犯罪を起こして刑務所送りになっている。もはや犯罪を犯さないと生きていくことすら難しい状況に陥っていたのかもしれない。
だからこそ、当時のアメリカの中では政府は当てにならないという不信感をかなり強めていったのだと思う。このまま政府に国を任せても自分たちは苦しいだけ、だからこそそこから自由になってやりたいことをやる生き方をしようという風潮がギャングマフィアの中で起こったのだと考えられる。
そういうアイコン的存在の一つとして、アル・カポネももちろんそうだが、ボニー&クライドもまたそのアイコンの一任者だったと言われている。政府に反抗して自分たちで自由な生き方を手に入れるという発想は、当時のギャングマフィアや貧困層からすると希望のようにみえ、それを英雄化していく見方も強まったのである。ボニー&クライドは、そういう貧困層やギャングマフィアたちにとって希望であったのである。
だからこそ、当時の保安官たちは、そういうギャングマフィアたちを英雄化してはいけないとして、必死で彼らを追い逮捕して処罰していったのである。
またここに、ブランチのようなカトリック教徒もいることも興味深い。カトリック教徒たちは、自分たちの教えに従って罪を犯すことを許さず生きていたと思う。たとえ自分たちの生活が苦しくなったとしても、きっと神の思し召しがあると信じて生きてきた。しかし、ブランチのように報われないこともあって非常に胸が痛い思いもする。
そんなシリアスで暗い時代であるにもかかわず、全体的にオールドアメリカンな明るい楽曲でミュージカル化されている点が今作の見どころでもある。
当時アメリカ南部で流行っていたオールドスタイルの音楽を取り入れて、ラグタイムやブルーグラスといった音楽ジャンルを取り入れてその穏やかなメロディと味わい深い楽曲で作り込まれている。これがまた今作の世界観を上手く形作っていて良いなと思う。
本当に時代背景と共に観ていくと見どころもたっぷりあって自分も捉えきれていない要素も沢山あるように思うが、また機会があったら観劇したいと思うしこの時代のことをもっと深く知りたいなと思う。

↓瀬戸山美咲さん過去演出作品
↓桜井玲香さん過去出演作品
↓柿澤勇人さん過去出演作品
↓小西遼生さん過去出演作品
↓太田将熙さん過去出演作品

