【読書】『酒を主食とする人々』高野秀行 著 2025年 本の雑誌社
前回読んだ『なぜヒトは脂質で痩せるのか』(金森重樹著)の中に、「古代エジプト人はパンとビールの民だった」という章がある。古代エジプトでは最も早く農耕が定着し、小麦、大麦からパンとビールがつくられ、これらを主食とする食文化になり、結果として糖質主体の生活を続けた王族(ファラオ)たちには血管の石灰化や動脈硬化が痕跡が多くみられるようになった、と書かれている。
一方、本書ではエチオピア南部に酒を主食として生きている民族がいて、あの高野秀行がこれをテレビの取材として現地でドキュメントしてくる、という話だ。結果として題名のとおり「酒を主食」とするデラシャという民族は現存している。
話は高野が『酒を食べる』(砂野唯著)というデラシャ族の食生活を研究した本を手に取ったことから始まる。その後テレビの取材テーマとして選ばれて現地に行くことになるのだが、このあたりの経緯は高野節の文章で面白く読んでいただきたい。
『酒を食べる』によるとアフリカではソルダムというモロコシ(トウモロコシの親戚ではなくイネ科、世界の五大穀物のひとつ)が主食の一つとされていて、通常は柔らかい団子か餅として食べる。ところが、デラシャ族では、これを発酵させて酒にする。こうすると通常ではデンプン質ばかりで栄養が足りないが、酒ではタンパク質を構成するためのアミノ酸ができるため、人間が生きるために十分な栄養が摂取できるというのだ。
『なぜヒトは脂質で痩せるのか』と『酒を主食とする人々』は両方とも読みたい本であったが、たまたま重なった。内容は全く別のことが書いてあるにしても、「酒」と「栄養」のことが書いてあり、偶然というのは面白い。
デラシャ族の酒は「パルショータ」であり、ソルガムとアブラナ科のブランコという葉を一緒に三日かけて発酵させ「ブランコ」を作り、これにソルガムの粉を混ぜて一週間発酵。さらに石臼でひいて一ヶ月発酵させて「シュッカ」という発酵物を作る。シュッカにソルゴムの粉をまぜて練って団子にして煮込み(糊化)、さらにソルガムの粉を加え麦芽をふりかけて糖化を一晩たつと酒母「ソカタテ」になり、更に水とソルガム粉のペーストを加てさらに一晩たったものを水で薄めるやっと出来上がりになる。
「シュッカ」づくりは日本の味噌づくりと似ているようだ。味噌は味噌の状態で保存し、湯で溶いて味噌汁になる。最後にうすめるパルショータと似ているといえる。しかし、日本人でも一日中味噌汁だけでは栄養が足りない。一方パルシュータは本書の最後の方に出てくるが何日もパルシュータだけで生活することもできる。完全食品でもある。
高野がデラシャ族の中で生活して感じたことは(これはチャガという酒を常飲するコンソでも同じ)、固形物の接種が少ないので体が楽、ということだ。軽く感じるという。これは冒頭に書いた金森も同じことを言っている。彼は週の食事は6回だ。
日本人は米を主食として、炭水化物の多い食生活になっている。一方、『なぜヒトは脂質で痩せるのか』の中にもでているが、アメリカでは良質のタンパク質、脂質をメインにして淡水化物の摂取をおさえる食事が推奨されるようになってきた。高野は現地の病院に行き、医師からデラシャ族は健康で、最近のグローバリゼーションによる肉と油が入ってきてからの方が悪いらしい。
何で「健康」になるのか認識を改めなければならない、と、同時にデラシャ族と暮らしてみたい。できれば、ずっとなどと思う酒飲みであった。
