捨てられた「あなた」を拾い上げる方法
「あなたには、誰にも言えない“自分の闇”がありますか?」
……もし、そう問いかけられたら、
多くの人は少し困った顔をすると思います。
闇。黒。悪。恥。
そういったものを「見せないこと」こそが社会性だとされる時代において、“自分の中のブラック”を語るのは、あまりにも危うい行為です。
それでも僕は、いや、「僕たちは」と言った方がいいでしょうか。
この本に収められたひとつひとつの章を通して、自分の中にある、目を背けたくなる衝動や、否定してきた感情に、そっと名前を与えなおすことを試みました。
この本では、月・火星・土星・冥王星・リリス・ネッスス・キロン
いずれも「シャドウ(影)」を扱う天体たちを中心に取り上げています。
なぜ、あえて“光”ではなく“影”なのか。
それは、今の世の中が「善性だけを求める空気」で満ちているからです。
「もっと前向きに」「ポジティブでいよう」「優しくあれ」
それ自体は否定すべき言葉ではありません。
ですが、それが“できない自分”を責めてしまう人にとってはどうでしょうか。
たとえば、土星のシャドウは、
「もっと頑張らないと」「まだ足りない」「ちゃんとしていないと見捨てられる」
という内的な“ルール”を生み出します。
心理学で言えば、過剰適応や条件付き自己肯定、あるいは過緊張型の愛着スタイルと重なる部分があります。
そして、そうした内在化された“他者の声”が、自分を支配してしまう。
これはもう、心の内に“見えない上司”や“全能の親”を抱えているようなものです。
また、冥王星のシャドウは、
「捨てられたら終わりだ」「相手に心を見せた瞬間、全てが壊れる」
という極端な“オールオアナッシング”の感覚を生みます。
これも、心のトラウマ研究やPTSDの視点から見れば、回避的・支配的な対人関係パターンの根源としてよく知られています。
でも、誰もそれを説明してくれなかった。
多くの人は、「考えすぎだよ」「重いなあ」「被害妄想じゃない?」と切り捨ててしまう。
だからこの本では、その感覚をただ否定せず、「そう感じてしまう理由がちゃんとあるんだ」と言語化していくことを大切にしました。
そして、どうしても言及しておきたいのが
「月欠損」という考え方
です。
「甘えられない」「感情を預けられない」「優しさに傷ついてしまう」
そんな人が、「共感ベースの世界」に馴染めないのは、決してわがままでも、冷たいからでもありません。
それは、月の“安心機能”が育たなかった過去があるだけなんです。
心理学ではこれを「愛着障害」や「安心の定義が持てない状態」とも呼びますが、占星術の視点を通すことで、もっと象徴的・立体的に見えてくることもある。
「月が欠けていた」というよりも、「月をうまく使えない環境にいた」というほうが正確でしょう。
こうした背景を持つ人が、「人に頼って」「もっと感情を出して」などと求められるたび、“できなかった過去”を否定されたような痛みが蘇ってくる。
それはもう、努力や気合いでどうこうできる領域ではないのです。
“この人、なんか苦手”
“なぜかイライラする”“なぜか引き寄せられてしまう”
そういった“理由のわからない感情”に心をかき乱されたこと、ありませんか?この本の中で特に繊細に扱ったのが、リリス、ネッスス、キロンの章です。
これらはどれも、「語られなかった、でも確かにある」感情の象徴です。
リリスは「欲望の否認」「本能の抑圧」「恥じた衝動」などを映す鏡。
この星が示すものは、時にあまりに赤裸々で、人に言うのはもちろん、自分でも見たくない。
ですが、心理学の言葉を借りればそれは
“投影”や“同一化の拒否”という仕組み
として捉えられます。
「ぶりっこが嫌い」「媚びる人がムカつく」「自信満々な人を軽蔑してしまう」
そんな感情の奥には、「本当は自分もそうありたかった」「でも許されなかった」という抑圧された欲望が眠っていることがある。
リリスは、“そうなれなかった自分”の影を、他人の姿に映し出しては、怒りと嫌悪で守ろうとする。
でも、それは悪ではなく「願いのかたち」だったのだと気づけたとき、暴れる衝動は生きる力へと変わる。
ネッススは、「加害と被害の境界線が曖昧なトラウマの記憶」を象徴します。
「悪意はなかった」と言われても消えない痛み。
「そんなつもりじゃなかった」で済まされてしまった傷。
心理療法では、こうした感情を扱うのに非常に繊細な配慮が必要になります。
なぜなら、被害と加害が入れ替わる“ねじれ構造”が起きるからです。
誰かに傷つけられた人が、無自覚にまた誰かを傷つける。
そうして、「自分さえ我慢すれば」「私が悪いのだろう」と、他人の責任まで抱えてしまう。
ネッススを扱うというのは、
“暴力の連鎖を終わらせる”という選択
でもあります。
それは、怒りでも、赦しでもなく、「語られていなかった痛みを、もう一度言葉にする」という、非常に静かで、でも力強い営みです。
そして最後にキロン。
これは、「癒えない痛み」「繰り返す弱さ」「でもそれを抱えながら誰かの力になる」という、まさに“ヒューマニティの核”のようなテーマを持ちます。
心理学の世界では、“傷ついたヒーラー(Wounded Healer)”という言葉があります。
これは「癒されていない人には人を助けられない」という意味ではありません。
むしろ、「癒されていないからこそ、他人の痛みに共鳴できる」ことを表します。
キロンの章は、おそらく一番優しいトーンで書かれていると思います。
なぜなら、キロンだけは、「痛みを抱えていること」を否定しないから。「完全でなくても、存在していい」そう言ってくれる天体だからです。
ここまで紹介してきたリリス・ネッスス・キロンに共通するのは、どれも「見せてはいけないもの」「言ってはいけないもの」とされてきた感情です。
でも、誰だって人間です。
怒ったこともあるし、誰かを羨んだこともあるし、無意識に人を突き放したこともある。
そんな“最低な自分”に向き合ったときにだけ、
はじめて人は「他人の最低さ」すら許せるようになるのではないでしょうか。
『あなたの中の ブラックなあなた』は、いわば、
「語られなかった心の声の拾い集め」
です。
占星術や心理学を使っていますが、これは学術書ではありません。
僕は心理学が専門です。
ですが、この本の中では、あえて“きれいな理屈”だけでまとめないようにしました。傷ついた経験を、無理に「意味あることだった」と昇華しない。誰かに理解されなかった過去を、「しょうがなかった」と片付けない。
そういう場所が、必要だったのだと思います。
土星は、「ちゃんとしなさい」と言います。
冥王星は、「すべてを支配するか、されるかだ」と囁きます。
月は、「甘えたいなら、正しいやり方で甘えてみせろ」と求めてくる。
リリスは、「あなたは本当は汚い人間なのでは?」とささやき、
ネッススは、「自分が悪かったんじゃないのか」と罪悪感を掘り返し、
キロンは、「癒されないまま、人を助けるなんて偽善だ」と責めてくるかもしれない。
でも、それでもいいじゃないかと、言いたかったのです。
それでも、息をしている。
それでも、生きてしまっている。
それでも、「大丈夫だった」と言える日が来るかもしれない。
もし、まだ「自分の影とどう向き合っていいかわからない」という方がいたら、この本が、少しでもその手がかりになりますように。
「それでも、あなたは“あなた”だった」
どうか、あなたがあなた自身の味方であり続けられますように。
