品川から小田原の間で、「氷結無糖」をチェイサーに本業をロスカットした話。
国内最大級のスタートアップの祭典が幕を閉じた。
京都の街に渦巻く起業家たちの圧倒的なパッション、未来のバリュエーションを賭けたヒリつくようなピッチ、そして深夜まで鳴り止まないネットワーキングのトラフィック。
そんな最高密度の3日間を駆け抜け、今、私は帰りの新幹線のシートに深く身体を沈めている。心地よい脳の疲労感の中で、ふと、この旅の「始まり」の瞬間のことを思い出していた。
時計の針を、数日前の「行き」の新幹線へと巻き戻したい。
結論から言おう。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の投資プロフェッショナルとして、また一本のテキストにエッジを求め続けるクリエイターとして、私は戦いに赴く前に、どうしても片付けなければならない「重大な含み損」を抱えていた。
本業の、未処理の残務タスクである。
■ タイムリミットは「小田原」まで
数日前の水曜日、品川駅の新幹線ホーム。
私の脳内CPUは、すでに深刻なメモリ不足を警告していた。
これから向かう京都は、日本中の最先端の知性と熱量が集まる高ボラティリティな市場だ。そんな場所に、日常のドメスティックなタスクを抱えたまま突入するのは、投資家として致命的なリスクを意味する。現地では1秒たりとも脳の流動性を下げたくない。つまり、京都に着陸する前に、手元のタスクをすべて「ロスカット(強制清算)」する必要があった。
品川を出発して、新幹線が最初のチェックポイントである小田原を通過するまでの時間は、わずか十数分。
この超短期決戦のトレードを制するために、私は品川駅のホームのキヨスクで、冷徹な進行管理(リスクヘッジ)に基づいた「防衛布陣」を調達した。
新幹線の折りたたみ式テーブルの上にデプロイされたアセットは、以下の通りだ。
・氷結無糖 レモン 7%(ロング缶)
・サラダチキン(スモーク)
・てりやきチキンカツ&マヨのロールサンド

「これから仕事のタスクを片付けるのに、なぜアルコールをインベストするのか?」
普通のビジネスマンなら、そう首を傾げるかもしれない。だが、40代単身赴任ビジネスマンの夜間運用において、これは極めて合理的なスイッチング戦略なのだ。
■ 高タンパク布陣と、脳内CPUのオーバークロック
まず、特筆すべきは「サラダチキン(スモーク)」と「てりやきチキンカツ&マヨ」という、徹底的なチキン(鶏肉)への集中投資である。
出張中のカオスな外食マーケットに備え、移動中のインフラとしては極力「高タンパク・低炭水化物」のポートフォリオを組みたい。サラダチキンのストイックなスモークの香りで脳を引き締め、そこに「てりやきチキンカツ&マヨ」という、少しのジャンクさと濃厚な乳化油脂(マヨネーズ)のコクをマージする。
このマヨネーズの脂質が、脳の潤滑油として機能し始める。
そして、チェイサーとして执行(デプロイ)されるのが、キリン氷結無糖レモン(7%)だ。
一般的な甘いサワーは、血糖値の急上昇(ボラティリティ)を招き、作業パフォーマンスの低下というインシデントを引き起こす。しかし、無糖。それも7%という絶妙なアルコール度数は、日中の業務で凝り固まった脳の「余計な雑念(ノイズ)」を瞬時にロスカットし、目の前のタスクへの集中力を極限までオーバークロック(ブースト)してくれる。
■ タスクが清算された時、新幹線は居酒屋になる
新幹線が加速し、多摩川を越えて神奈川の夜へと滑り込んでいく。
MacBookを開き、Wi-Fiのセッションを確立した瞬間から、私のタイピングは限界速度に達していた。
氷結無糖をグッと喉に流し込み、キレのある酸味で思考のバグを排していく。未返信のメールを爆速で処理し、稟議書のKPIを監査し、保留にしていたスケジュールを次々と確定(利益確定)させていく。スモークチキンを齧り、マヨネーズのロジックに浸りながら、ひたすら画面と対話する。
気がつけば、車内アナウンスが「まもなく、小田原」を告げていた。
パタン、とMacBookを閉じる。
画面が暗転した時、私の手元に残っていたタスクは文字通り「ゼロ」になっていた。完全なるロスカットの執行。ポートフォリオの健全化である。
タスクという重荷から完全に解放された瞬間、目の前の折りたたみテーブルは、ただの「移動車の座席」から、極上の「居酒屋新幹線」へとそのバリュエーションを跳ね上げる。
窓の外を流れる暗闇の街灯を眺めながら、残りの氷結無糖をゆっくりと味わう。この瞬間の利回りは、どんな優良銘柄の配当をも遥かに凌駕する。
■ 戦う前に、整えるということ
多くの人は、目的地に到着してからが本番だと言う。
しかし、プロフェッショナルの戦いは、すでに移動中の「新幹線の三等座席(普通車)」の中で始まっているのだ。
どれだけ過酷な戦場に向かうとしても、自分自身のインフラ(脳と身体)を最適な状態にビルドしておくこと。そのためには、時にはコンビニのサラダチキンとマヨネーズ、そして一本の缶チューハイさえも、冷徹なロジックによって最強の武器に変えることができる。
小田原を過ぎ、新幹線はさらに速度を上げて熱海、そして静岡へと突き進んでいく。
私の脳内メモリは完全にクリーンになり、京都での巨大なマーケットを受け入れるための準備が、完璧に整っていた。
さて、京都での激闘を終えた今、帰りの新幹線では何をデプロイしようか。
私のカバンの中には、3日間で獲得した、未来を変えるかもしれない新しいアセット(名刺)が、ずっしりとホールドされている。
