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「完璧な煮卵」を仕込む時、私は冷徹な投資家になる。

平日の東京で、ビジネスの戦場を生き抜くための私の自炊は、「タイパ」と「コストカット」の極致だ。 包丁やまな板を洗うコストすら嫌い、鍋にカット野菜を袋からドサッと直接投入し、ツナ缶をオイルごとパカッと開けて混ぜるだけのパスタ。それをフライパンのまま限界の胃袋へダイレクトに流し込む。 そこにあるのは、脳のメモリを1ミリも消費しないための、冷徹なエネルギー補給でしかない。タイパを突き詰め、感情を極限までオフにした、いわば「マシーンの燃料補給」だ。

だが、そんな合理性の塊のような私が、土曜日の夜、ワンルームのキッチンでiPhoneのタイマーをじっと見つめながら、妙にヒリついた時間を過ごしていることがある。

ターゲットは、ラーメンのトッピングであり、それ単体でも最高のおつまみとなる「煮卵」だ。

世間では「卵を茹でるだけ」と簡単に言うが、投資家目線で言わせてもらえば、ゆで卵ほど不確実性に満ちたハイリスク・ハイリターンなアセットはない。なぜなら、殻を剥くその瞬間まで、内部の「ポートフォリオ(黄身の凝固状態)」が完璧にコントロールされているかどうかが、完全なブラックボックスだからだ。

私が今回目指すのは、白身はぷるんと弾力を持ちながら、黄身の中心部だけが「ねっとりと濃厚な液体」として留まっている、あの打率数パーセントの「奇跡の半熟(ストップ高)」状態。

そのためには、徹底的なサプライチェーンの統制が必要となる。

まずは、お湯が完全にボコボコと沸騰した鍋を用意する。そこに冷蔵庫から出したての卵を投入するのだが、ここで私は1秒のロスタイム(機会損失)すら許さないためのガバナンスを執行した。


ザルを丸ごと鍋にインして茹でる。 タイマーの電子音が鳴り響いた瞬間、お湯を捨てるコンマ数秒のタイムラグすら「損切り」し、ザルごと一瞬で引き上げて氷水へダイレクトに強制移送(冷却)するためだ。余熱による内部のインフレ(加熱)を完璧にシャットアウトする、我ながら完璧なリスクヘッジの設計である。

設定時間は「6分30秒」。 卵をキンキンに冷ますための5〜10分のデッドタイム(待ち時間)すら、私はシャワーを浴びるというスマートなタイムマネジメントで有効活用した。1ミリのリソースも無駄にしない。これがプロの仕事だ。

シャワーから上がり、完璧に熱を奪い去った卵の殻を剥く。 ここからは、今回の隠し味である「牡蠣醤油」をベースにマージした特製スープへの「長期保有(漬け込み)」プロセスに入る。

ここでタッパーを使うのはナンセンスだ。卵が完全に浸かるまでに無駄なタレ(原材料コスト)を大量に消費してしまう。コスト最小化・リターン最大化を狙うなら、選択肢はフリーザーバッグ一択である。


卵を入れてギュッと空気を抜き、密閉する。 最少の調味料コストで、卵3個を360度くまなくホールド。浸透圧のロジックを最大限にハックした、完璧なソリューションがこれだ。

これを冷蔵庫へデポジットし、一晩じっくりホールドすれば、翌夜には至高の現物資産(煮卵)が完成する。 激務で脳のメモリを使い果たし、限界状態でワンルームのドアを開けた私が、これを自家製チャーシューと共に口へ放り込めば、一週間のストレスは完全に相殺されるのだ。

平日の夜、私がワンルームのキッチンでタイマーを睨みつけている理由。 それは、どれだけ未来が不確実であっても、「自分の手で100%コントロールできる完璧な果実」が、そこには確かに存在するからだ。

……まあ、色々と偉そうに語ってみたが、実は私自身、普段は黄身が限界までパサパサに固まった「100%完熟派」だったりするのだが。 自分の本能(主観)を損切りしてでも、煮卵というプロダクトの市場ニーズ(半熟)に完璧にコミットしてみせる。それもまた、投資家としてのプライドなのだ。

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