【書評】クール脳はなぜ「かっこいい」を買ってしまうのか
ブランドとは何かを理解するにはこの本がピカイチ。 pic.twitter.com/Pmzf7WFEnc
— なぁさん|しょぼい起業家 (@nst_nakata) January 3, 2025
『クール脳はなぜ「かっこいい」を買ってしまうのか』は、アメリカ・カリフォルニア工科大学の神経科学者スティーヴン・クォーツと、その研究をサポートするマーケティング専門家アネット・アスプが共同で著した一冊です。
邦訳版の副題にもあるように、「無意識が明かす消費と経済の秘密」をテーマに、脳科学や心理学の視点から「なぜ人は“かっこいい”と感じるものにお金を払いがちなのか」を解き明かしていきます。
アップルやクラフトビール、SUV車、さらには“ノームコア”などのファッション動向を例にしながら、私たちの消費行動を左右する「クール」なイメージの背景を深く分析しているのが特徴です。
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1. 本書の概要
本書は大きく分けると、「クールという概念の正体を神経科学的に探るパート」と「クールが経済やマーケティングに与えるインパクトを事例とともに論じるパート」に分かれています。
従来、マーケティングの世界では“イメージ戦略”や“ブランディング”などが重視されてきましたが、本書ではさらに踏み込んで、「脳がどのように『クール』を感じ、その印象がどのように購入行動につながるか」を科学的に解説している点に強みがあります。
脳科学の研究を通じてわかったのは、「クール」と感じる対象に出会ったとき、人間の快楽中枢や自己評価に関連する領域が活発に働くということです。
そこには、単なるブランド志向だけでなく「仲間との共有感」「自分らしさの投影」「社会的ステータス」などが大きく関係しています。著者たちは、そのような神経活動と消費行動のつながりを実験や統計データを交えて丁寧に解説していきます。
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2. 「クール」の変遷
本書の興味深い点のひとつは、「クール」という概念が時代とともにどのように変化してきたかを追跡しているところです。かつては、ある種の“反逆精神”や“サブカルチャー的”な要素が「クール」の中核をなしていました。
例えば、50年代〜60年代のアメリカにおけるビートニクやヒッピー、あるいは70年代以降のパンクなど、主流から逸脱するようなスタイルこそが若者の「かっこいい」象徴になっていたわけです。
しかし21世紀に入ると、アップルのiPhoneやスターバックスのコーヒー、クラフトビールといった、一見すると“主流”に見えるブランドや商品も「クール」とされるようになります。むしろ、今ではそのほうが大多数の支持を集めているのが現状です。
この変化には、テクノロジーの進化と情報共有のあり方が大きく影響しており、著者たちは神経科学の観点から、その「クールの主流化」を実証データとともに解説してくれます。
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3. 脳科学とマーケティングの接点
本書の核心部分は「クール」への脳科学的アプローチです。たとえばMRI(磁気共鳴画像装置)を用いた実験では、人間が「かっこいい」と感じる対象を目にしたとき、脳のどの領域が活性化されるかを調べています。その結果、自己の価値判断や社会的地位に関わる領域が強く反応することがわかりました。
つまり、「クール」とは単に「見た目がいい」や「流行っている」といった表面的な印象だけでなく、「これを選ぶ自分は他人からどう評価されるだろうか?」という社会的意識や、「これを持っていると自分が満たされる」という内面的報酬の要素が複雑に絡み合っているというのがポイントです。
マーケティングの世界では、ビジュアルやキャッチコピー、ストーリーテリングなどで「かっこいい」イメージを打ち出そうとしますが、その背景には消費者の脳をいかに刺激して「欲しい」という感情を生み出すか、という神経レベルの仕組みが潜んでいるのだと著者たちは述べています。
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4. 具体例:アップル、クラフトビール、SUV
本書の事例として頻繁に登場するのが、アップル製品です。アップルは自社製品を“クール”に見せるために、極限までミニマリズムを追求したデザイン戦略や広告を実践してきました。
かつて「パーソナルコンピュータの代名詞はマイクロソフト」と思われていた時代に、あえてカラフルなiMacを打ち出したり、独自性を徹底的に押し出したりすることでユーザーに「自分は周りとは違う」という満足感を与えました。このように、ユーザー自身の“アイデンティティ表現”として機能した点がアップルの強みでした。
クラフトビールやSUV車についても同様です。大手ビールメーカーの画一的な味では満足できない層が「ちょっと違う、こだわりを感じるビール」を求め、クラフトビールが台頭してきました。SUVも「オフロードを楽しむ自分」「アクティブなライフスタイルの自分」というイメージを作りやすい乗り物として人気を博します。
これらはいずれも、「ブランドを通して自分を演出する」ことが可能な商材であり、それこそが「クール」と感じられる理由なのです。
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5. ノームコアと「クールの逆説」
ノームコアとは、いわゆる「究極にノーマルな服装」を好むファッションスタイルのこと。個性を主張しすぎない落ち着いたデザインをあえて選ぶことで、他者とは違うクールさを演出する動きがニューヨークなどの都市圏を中心に広がりました。
本来なら「普通」であるはずのスタイルが、逆説的に「かっこいい」となる現象は、まさに「クールの定義」を曖昧にしながらも同時に拡張しているといえます。
本書では、こういった動きも「自分らしさの演出」という欲求と「周りの目を気にしすぎないクールさ」の両面を満たすものとして位置づけています。ノームコアによって顕在化したのは、「流行に流されない自分」をアピールしたいという人々の無意識のニーズでもあると著者たちは指摘しています。
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6. 読後の感想と学び
(1)マーケティングにおける新視点
脳科学をベースにしたマーケティング論は数多くありますが、本書の特徴は「クール」という主観的かつ曖昧な概念を一貫して取り上げ、その脳内メカニズムをひもといている点です。
商品やブランドに“何かしらの魅力”を感じる背後には、自己認識や社会的な評価欲求が潜んでいることを実証データを交えながら解説してくれるので、マーケティングに携わる方には新たな切り口として非常に有益です。
(2)消費者としての自覚
読み進めると、「自分もこういう心理でものを買っていたかもしれない…」とハッとする瞬間がしばしばあります。
自分が持つブランド志向、あるいは“みんなとちょっと違うものを選びたい”という衝動など、消費行動を振り返るうえで多くの示唆を与えてくれます。
(3)「クール」の定義が広がる面白さ
従来の「クール」は、どちらかといえば反主流的でアンダーグラウンドな意味合いを持っていましたが、本書ではアップルやスタバなど、メジャーブランドですらクールになりうることを示しており、時代の変化を感じさせます。
同時に、ノームコアのようなミニマル志向も「クール」とみなされるようになるなど、多様化する価値観を理解するうえでも非常に参考になります。
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7. こんな人におすすめ
- マーケティング担当者や起業家
消費者心理をより深く理解し、自社ブランドや商品を「クール」にアピールしたいと考える方には一読の価値があります。
- ブランド志向やサブカル系の動向に興味がある方
流行の表層をなぞるだけでなく、それがなぜ売れるのか、なぜ人々の心を掴むのかを科学的に知りたい方におすすめです。
- 自分の消費行動を見直したい方
買い物が好きで、しばしば「何でこれ買ったんだろう?」と思う人や、“みんなが持っているから”という理由で買いがちな方も、自分の心理を客観視するきっかけとして読んでみると新たな発見があるかもしれません。
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まとめ
『クール脳はなぜ「かっこいい」を買ってしまうのか』は、「クール」という言葉の曖昧さを丁寧に解きほぐしながら、人間の脳と社会性がいかに消費行動に影響を与えているかを掘り下げる意欲的な作品です。
アップルやクラフトビール、SUV、ノームコアなどの具体例を豊富に挙げているため、専門的な脳科学の知識がなくても読み進めやすい点が魅力的でしょう。
本書は、私たちが普段当たり前のように感じている「かっこいい」「魅力的」といった感覚が、実は脳の働きによって巧みに操作されているかもしれない――そんな疑問を抱かせてくれる一冊です。自分が“クール”だと思う対象を見直すだけでなく、社会のトレンドやブランド戦略を俯瞰して眺める視点が身につくはずです。
消費のメカニズムに興味がある方やマーケティングに関わる方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
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