55歳、俺、母になる!?⑥【#創作大賞2025#エンタメ原作部門】
スマホ画面を見つめたまま、
俺は数秒フリーズした。
いや待て、心の準備もへったくれもないぞ!?
てか俺、女として“同級生に会う”なんて
未経験すぎるっての!
どうする?
出る?
出ない?
いやそもそもこの状況、どう説明すんだよ。
「えっと……実は中身おっさんなんだわ」
……言えるか!!
寝たふりだ。これしかない。
既読もつけない。
俺は空気。おっさんの本能がそう言ってる。
(スマホが震える)
《部屋、アパートの2階だったよね?》
ぎゃー!!!
なんでそこまで覚えてるんだ!?
てか、来る気マンマンじゃん!?
待て、待て、落ち着け。
日記に書いてあったのは……
「中学の同級生」ってだけ。
情報、それだけ。
思い出話なんてされたら詰む!!
くそっ! どうするんだ、俺ぇ!!
──ピンポーン♪
ついに来たあぁ゛
玄関からは「美弥ー?いるー?」という、声。
俺は決意した。
よし、体調悪いことにして帰ってもらおう。
演技だ。なりきれ、俺。
美弥になりきるんだ、おっさん健一!
「……よし、行くぞ。バレるなよ、俺。」
中身だけがガチガチのビビリ顔で玄関へ。
ドアをそっと開けると、茶髪ショートのスラッとした女性が、ニコッと笑って立っていた。
……誰このモデルみたいな人。
( って、莉緒か! )
「久しぶり、美弥〜!ごめんね急に。
この前会った時、住んでる場所の話になったでしょ?
アパートは違うけど、部屋番号が一緒じゃん!
って。それ思い出してピンポンしてみたの!」
え、そんな話してた!?
どこでそんなフラグ立ててたんだ美弥……!
俺だけ知らねぇけど!?
「……う、うん。びっくりした……」
「家、入っていい?
飲み物とお菓子買ってきたから一緒に食べない??」
やばい、これはマズい。
入られたらアウトだ。
俺の演技力じゃ10分もたない……
「えっと、今ちょっと具合悪くて……」
「えっ!? 体調悪いの? 大丈夫? 看病するよ!!」
ちょっっ! 勘弁してくれー!
君は悪くない、
むしろ優しいけど!
今日美弥になったばかりのおっさんには
キツすぎるのよ!!!
「だ、だいじょぶ! ほんとちょっと気持ち悪いだけだから……寝てれば治るっていうか……」
なんとか引き下がらせようとするも、
莉緒は心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
きょ、、、距離近い。
(美弥じゃないって……バレたか?!)
部屋に入れちゃダメだと悟り、
笑顔を必死にキープする。
「 ごめんねぇ〜、こんな時に。
でも、どうしても顔見たくなっちゃってさ。
この間の美弥、元気なさそうだったし!」
……
………それ言われると、断りづらいんですけど?
( 美弥も『また会いたい』って書いてたしな…… )
日記を読んだ後の健一だからこそ
美弥の気持ちを尊重すべきか??と考えた。
その時。
視界の隅に、
机の上の母子手帳とエコー写真が映った。
うわあぁぁ!!
「ちょ、ちょっと待ってて!!」
一瞬のすきをついて、
健一(美弥)は猛ダッシュでそれらを回収。
ベッドの布団に突っ込んで、平然を装って戻る。
「な、なんでもないの! 足つっただけ!」
明らかに不自然な動きに、莉緒がジッとこちらを見る。
(バレた……? いや、まだセーフか……?)
「…やっぱり美弥が心配だからさ、少しだけ入れてよ!なんでも手伝うから! 皿洗いでも洗濯でも、風呂掃除でも!!」
「いや…でも…体調悪いっていうか……」
「だからこそでしょ!!」
……だよねー。
それ言われたら、ぐうの音も出ない。
突っぱねたら逆に怪しいし……
くっそ、こうなったら――
「…わかった。少しだけなら」
莉緒の顔がパッと明るくなった。
…………
…………わかりやすいな、こいつ。
いやいや!そうじゃないだろ!
「 おっ邪魔しまーす♪♪ 」
ソファに座った莉緒が、ふっと真顔になった。
「この間さ、美弥が私に仕事のこととか聞いてくれたじゃん?」
あ、えっと……日記に書いてあった日のことか。
「なんか、悩みがあるのかなって思って」
莉緒の視線が、“美弥”をじっと見つめる。
「美弥って、昔から愚痴とか言わないし弱音も吐かないじゃん。だから言いたくても言えないのかなって」
……美弥、そうだったのか。
だから日記で、自分にだけ弱音吐いてたんだな……
「帰っていく後ろ姿が寂しそうで……
思いつめてないか気になってたんだ」
やめてくれ、それ聞いたら俺まで泣きそうだ……
「仕事、辞めたいなら辞めたらいいと思うよ。
美弥なら絶対また、いい場所見つかるって!」
莉緒の言葉が、真っ直ぐ胸に刺さる。
「……ありがと、莉緒」
つい健一としての本音がこぼれた、
その瞬間。
「……ねぇ、美弥って……いつも私のこと、
りっちゃんって呼ぶよね?」
ピキィッ。
空気が、凍った。
(……終わったァァ!!)
顔が引きつり、目が泳ぐ。
(りっちゃん!? 日記には書いてなかったよ!?
美弥さぁぁん!?)
「さっきから“莉緒”って呼ぶから…
なんか……変。」
「え、いや……
そ、そういう気分っていうか!
今日は “呼び方かえたい日” でさ!」
喋れば喋るほど自分で墓を掘ってる。
莉緒は腕を組み、ジッと俺を見つめた。
(やべぇ、完全に“事情聴取モード”だ……)
「なんか今日の美弥、話し方も雰囲気も違うしさ……」
その瞬間、脳が警告を発した。
《逃げろ!!》
「ご、ごめん、ちょっと、
具合悪くなってきたから、ト、トイレ!!」
叫びながら立ち上がり、トイレにダッシュ。
ドアを閉めて鍵をかけ、もたれかかる。
(クッソ……どうすんだこれ。完全に疑われてる…)
落ち着け、俺。
選択肢はふたつ。
①全部バラして「実は俺、55歳の男で妊婦でさ〜☆」と説明する地獄←
②ごまかし切って、帰ってもらう。
——選ぶなら、②しかない。
(気持ちから“美弥”になりきれ……!)
顔をバシバシ叩いて気合いを入れ、
トイレから出た。
「ごめん、ちょっと貧血っぽくて……
大丈夫、もう落ち着いた…!」
笑顔を作ってリビングに戻ると——
「ねえ、これ……」
莉緒が、申し訳なさそうに
母子手帳とエコー写真を手に持っていた。
(オワタ。)
「ベッドに隠してたけど……これ……」
莉緒は不安そうに見つめてくる。
完全に、詰んだ空気。
「ごめん……さっき美弥が慌ててベッドに隠した時、ほとんど見えちゃって……
勝手に見て本当にごめん!!でも、これって……」
彼女の声が震える。
「妊娠……してるの?」
動揺して息が詰まる。
「ち、違っ……つまりこれは……えっと……!」
口から出たのは――
「 誰にだって、秘密の一つや二つあるだろォ!?」
……完全に男口調だった。
莉緒の目が、細くなる。
「……なんか今、完全に“男”みたいだったよ、ね?」
(しまった……完全にやらかした……)
「ご、誤解だって! 違う、そういうんじゃ――っ
ちょっとトイレ!!」
逃げるように立ち上がる。
――ぐらり。
視界が、白く霞む。
「ん、、あれ……?」
心臓が重く脈打ち、視界が歪む。
「美弥!? 顔、真っ青だよ…!!」
莉緒の声が焦りを帯びる。
でも、もう反応できない。
――がくりと膝が崩れ、身体が倒れ込む。
「美弥っ!!」
莉緒の叫びが遠ざかる。
(ダメだ……動け…ない…)
最後に見えたのは、莉緒の不安そうな顔。
――視界が、真っ暗になった。
──第⑦話へつづく
