早く辞めたい。という泣き言からはじまった大学の入学式。
桜が舞う大学の入学式。
笑顔があふれるその会場で、僕は心の中で泣いていた。
岡山の田舎から東京へ。
初めての寮生活が始まった18歳の春。
しかも10人部屋という、なかなか特殊な環境。
「今度こそ、友達ができるかもしれない」
高校時代にうまくいかなかった友人関係をリセットできる気がして、
少し期待していた。
でも、現実は違った。
寮の部屋に閉じこもって、ただ泣いてばかりの自分がいた。
本当は、一人で過ごす時間が好きだった。
だけど常に誰かがいる空間に、どうしても馴染めなかった。
いじめられたわけじゃない。
むしろ、寮の人たちはみんな良い人だった。
それでも、心がついていかなかった。
「早く実家に帰りたい」
「もう大学も辞めたい」
そんな気持ちで、ずっと出口を探していた。
理想のキャンパスライフと、目の前の現実。
そのギャップに押しつぶされそうだった。
──そして迎えた、入学式の日。
母が、はるばる岡山からやってきた。
満面の笑みで「来たよ」と手を振ってくれた母。
でも、今の状況を話すことはできなかった。
「苦しい」なんて、言えるわけがなかった。
期待してくれている母の顔を見て、ますます言えなくなった。
帰り際に、「元気ないけど、大丈夫?」と聞かれたとき。
その一言に、危うく涙がこぼれそうになった。
あの春から半年間は、正直つらかった。
でも、辞めることもできずに月日が流れ、秋になった。
不思議と、少しずつ慣れてきた。
誰かがそばにいることにも、少しずつ順応できた。
そして、心を許せる友人もできていった。
今の自分だったら、絶対に寮生活は選ばない。
でも、あの頃の自分だったからこそ経験できた時間だったと思う。
知らない世界に飛び込んだからこそ、
はじめて見えた自分の弱さと強さ。
大学生活で一番記憶に残っているのは、
あの涙から始まった春の入学式と、10人部屋の寮生活だ。
