「頼っていいんだ」って思えた、25歳の夏。
「今から車椅子の方をご案内します!」
インカム越しにそう叫んだのは、25歳の夏、熱海のホテル。
頼るのが苦手な自分にとって、それは“はじめてのお願い”だった。
当時リゾートバイトで、熱海の老舗リゾートホテルで働いていた。
今もその傾向があるが、その頃は特に人に頼るのが苦手だった。
相談やお願いが遅れがちで、「まぁ、なんとかなるでしょ」とひとりで抱えがちなタイプ。
とはいえたいていのことは、それで乗り切れた。
でも、その日はどうにもならなかった。
夏休み中の金曜日。ホテルは満室。
なのに、スタッフは病欠続きでギリギリの人数。
レストラン会場は、明らかに人手不足だった。
焦りと熱気が漂う中、スタッフ同士もどこかピリピリしている。
けれど不思議なことに、声かけはいつも以上に活発だった。
「何かあったら言ってね!」
「こっちは自分がやるよ!」
「こっち手伝ってください!」
全体が、まるでひとつの生き物のように動いていた。
だからこそ、「連絡しない」という選択肢はなかった。
一人の判断の遅れが、会場全体の流れを止めてしまうから。
そんな中、自分が案内を担当したのは、車椅子をご利用のお客様だった。
丁寧に対応したい気持ちはある。
でもこの日は人手が足りず、すぐに次の案内も控えていた。
このまま自分が離れてしまうと、次のお客様の対応が完全に止まってしまう
——そう思った瞬間、自然と声が出た。
「今から車椅子の方をご案内します!案内係、代わってもらえますか!」
インカムでそう伝えると、すぐに返事が返ってきた。
「OK!任せて〜!」
声の主は、18歳のスタッフ。高校を出たばかりの少しやんちゃな子。
でもそのときは、驚くほど頼りがいがあって、かっこよかった。
あのとき思い切って“お願い”をしてみたことで、はじめて感じた。
頼るって、楽しい。
誰かと一緒に場をつくるって、こんなに心強いんだ。
それ以来、考えが少し変わった。
誰かに「お願いしたい」と感じたとき、
「話を聞いてほしい」と思ったとき、
迷惑かも…と勝手にブレーキをかけるのは、実はすごくもったいないことかもしれない。
頼られることで救われる人もいる。
「任せて」と言えるチャンスをもらえることで、心の距離が近づくこともある。
自分が声をかけることで、相手も「話してみようかな」と思ってくれるかもしれない。
あの日、助けてくれた彼は、嫌な顔ひとつしなかった。
むしろ笑顔で軽やかに動いてくれて、ほんの少しだけど、心が通った気がした。
助けてほしい。話を聞いてほしい。
そう思ったなら、その気持ちに、素直に従ってみよう。
その一歩が、誰かとつながるきっかけになるかもしれない。
頼ることは、つながることだ。
