避雷屋のコバルトさん
「となり、空いてるかい?」
と、避雷屋のコバルトさんは声をかけられた。雨が止むまで静かにここにいようと思ったのが、五分前。まだ、一杯目のカクテルさえ飲み終えていない。
「空いてはいるけど、雷屋がなんの用?」
まあまあと言いながら、雷屋は避雷屋のコバルトさんの横に座った。
「あんた、避雷屋だろ?」
「人は勝手にそう呼んでいるが、俺は避雷屋じゃない、コバルトだ」
コバルトさんはやっと、カクテルに口をつけた。
「人が勝手に呼んでいるなら、あんたは避雷屋だ。あんたがそばにいると、そこには雷は落ちないって聞いたぜ?」
コバルトさんは雷に打たれたことがない。打たれるほうが珍しいって? そんなことないさ、この町の人間は生まれて死ぬまでたいてい三度は雷に打たれる。打たれても死ななかったやつの遺伝子が子孫に受け継がれるから、この町の人間は雷に強くなっちまった。
けれどなぜかコバルトさんは生まれてこの方、一度も雷に打たれていない。いつしかコバルトさんの半径10メートル以内は安全だとされた。だからコバルトさんは「避雷屋」と呼ばれているってわけだ。
「だからなんだと言うんだ。この町の人間は、雷なんて怖くないじゃないか」
「あぁ、確かに雷に打たれてもちょっとビリッとするくらいなもんさ。でも、あんたは他の雷も避けちまう、それが問題なんだ」
「他の雷ってなんだ?」
「たとえばものを盗んだ子どもが、親に落とされる雷だ。あんた、最近子どもが寄ってきたりするだろう?」
そういえば、子どもにまとわりつかれることがあるな、とコバルトさんは思う。あれはただの雷から逃れるためじゃなかったのか。
「あとは、たとえば恋に落ちるはずの男や女。あんたがいると恋の稲妻を落とせない」
雷という漢字をそのまま顔をにくっつけたような雷屋の風貌から恋の稲妻なんて言葉は笑っちゃうんだけど。でも最近の少子化にコバルトさんの影響があるていう学者もいたから、あながちそれも間違いじゃないのかもしれない。
「とにかくあんたは、俺の商売の邪魔なんだ」
「俺は商売で避雷屋をやっているわけじゃない。人が勝手にそう呼んでいるだけだ」
「なんだっていいけどよ、決着を付けようぜ」
「決着ってなんだ?」
「俺があんたに雷落とすか、あんたがその雷を避けるか」
「ここで、か」
「あぁ、ここで、だ」
いくらコバルトさんといえども、雷屋が手に届く距離で雷を落とせば、避けるのは至難だろうな。この町のやつらだって、この距離じゃさすがに「ビリッ」ていう程度じゃきかないさ。だからやめときなって。
コバルトさんが「命は賭けない主義なんでね」と言うと、雷屋は「命を賭けて守りたいものはないのか」と聞く。
「命を賭ければ、争いがはじまるんだ」
「じゃぁ、どうやって大事なものを守るんだ」
「大事ものは、守るんじゃない、見守るんだ」
「じゃぁ、見守ってみようじゃないか」
雷屋はそう言って、コバルトさんに向かい、雷を落とした。
あたりが光でいっぱいになる。
それでどうなった。
どうなったかは、コバルトさんに聞いてみよう。
どうなったの、避雷屋さん。
「俺は避雷屋じゃない。コバルトだ」
それしか言わないから、雷屋にも聞くか。
「雷屋じゃない、ロベルトだ」
コバルトさんとロベルトさんは、青いカクテルを飲み干した。
