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彼女と花火と、お揃いが思ってたのと違った件

八月の夜は、昼間の暑さを引きずったままなのに、どこか浮き足立っている。
人の流れ、屋台の匂い、遠くで鳴る試し打ちの音。
それ全部が混ざって、今日は特別な日だと主張してくる。

悠斗は、その特別感に見合っていない自分の服装を、歩きながら何度も気にした。
白いTシャツに半ズボン、履き慣れたスニーカー。
涼しさ重視、動きやすさ重視、いつもの自分重視。

「……まあ、花火見るだけだし」

独り言は、少し弱気だった。

待ち合わせ場所に立っていた美咲を見つけた瞬間、悠斗は言葉を失った。

淡い色の浴衣。
涼しげなまとめ髪。
控えめなのに夏らしいメイク。
小物まできちんと揃っていて、「花火大会のヒロインです」と名札をつけても違和感がない。

「おまたせ」

「あ、うん……」

美咲は一瞬だけ悠斗を見て、ほんの少しだけ視線を泳がせた。
それだけで、悠斗にはわかってしまった。

(あ、これ、がっかりしてる)

口には出さない。
でも、期待していたあれもこれもが、すとんと落ちた音がした気がした。

花火は綺麗だった。
並んで歩いて、たこ焼きを分け合って、何度も空を見上げた。
それでも、悠斗の胸の奥には、小さな引っかかりが残ったままだった。

帰り道、人波が少し落ち着いた頃。
美咲が、ぽつりと言った。

「ねえ、悠斗」

「なに?」

「来年さ、初詣、一緒に行こうよ」

「うん」

「それと、成人式も」

美咲は前を向いたまま、続ける。

「お揃いの着物で行かない?」

その言葉が、思った以上に胸に刺さった。

(お揃い……)

花火大会での自分の服装。
彼女の期待を裏切ったという罪悪感。
それらが一気に頭を占領する。

「……考えておくね」

少し間が空いて、悠斗は言った。

「うーん……ok。お揃いにしよう」

美咲は嬉しそうに頷いたけれど、悠斗の頭の中では、なぜか「女の子用の着物」というイメージがぐるぐる回っていた。


九月。
十月。
十一月。

悠斗は、少しずつ髪を伸ばした。
スキンケアを始めた。
夜、こっそりイヤホンをつけて、YouTubeでメイク動画を見る。

(これ、思ったより奥が深いな……)

アルバイト代で、ファンデーションやアイシャドウを買った。
自分でも不思議なくらい、真剣だった。

着物と振袖のことは、さすがに母親に話した。

「……は?」

最初は、ちゃんと驚かれた。

でも、話を全部聞いたあと、母は腕を組んで言った。

「女装だけなら、お母さんが若いときに着た着物、使いなさい。成人式の振袖もあるわよ」

「え……いいの?」

「ただし、身体まで女性化するのはダメだからね」

そう釘を刺されてから、母は少し笑った。

「あんた、小さいから。ちゃんと化粧したら、女の子に見えると思うわよ」

悠斗は、その言葉に、なんだか胸が熱くなった。


元旦。

初詣の待ち合わせ場所。
悠斗は、人生で一番緊張していた。

和装。
女装。
外で。

恥ずかしくて、ずっと下を向いていた。

スマホが震える。

『どこにいるの?』

美咲からのLINE。

顔を上げた瞬間、美咲と目が合った。

「……え?」

次の瞬間、美咲は声を上げた。

「お揃いって、ホントにお揃いじゃない!」

目を見開いて、固まっている。

「そ、その……」

言い訳を考える前に、美咲は近づいてきて、悠斗の顔をじっと見た。

「……可愛い」

「え?」

「びっくりしたけど、普通に可愛い」

そのまま、にこっと笑う。

「行こ。女の子同士みたいで楽しいじゃん」

美咲は自然に手をつないできた。
悠斗の心臓は、初詣より先に限界を迎えそうだった。


成人式の日も、同じだった。

待ち合わせ場所で、美咲はまた固まった。

「……今回も!?」

そして、少し間を置いてから、真顔で言う。

「可愛いし、キレイ。反則」

「そ、そう?」

「うん。ほんと」

式のあと、美咲は楽しそうに続けた。

「ねえ、このまま普段も女の子の格好すれば?」

「えっ」

「だって、ずっと可愛いし。ミニスカートも似合うと思う」

悠斗が戸惑っていると、美咲はいたずらっぽく笑った。

「すね毛、気になるでしょ? ヒゲも薄いし、私の脱毛器でやってあげる」

「……」

可愛い。
キレイ。

その言葉が、胸の奥でじんわり広がる。

(……悪くない、かも)

照れくさくて、でも嬉しくて。
悠斗は、少しだけ未来を想像した。

「……フルタイム女装、考えてみようかな」

「うん!」

美咲は即答した。

「一緒に考えよ。お揃いで」

冬の空は澄んでいて、
新しい一年は、なんだかとても楽しそうだった。


あとがき

あけましておめでとうございます。
本作が、今年の最初の投稿です。

年の始まりに、少しだけ肩の力を抜いて読める物語を、と思いながら書きました。
花火や初詣、成人式といった行事の中で、
人と人の気持ちが少しずつずれて、
それでも最後には同じ場所に戻ってくる――
そんな空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。

noteでは、これからも
「大きな事件は起きないけれど、心に残る話」
を書いていけたらと思っています。

今年も、どうぞよろしくお願いいたします。



同じ空の下で二十歳になった。隣を見るたび、友だち以上の“好き”が少しずつこぼれてしまう。

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