生成AIで上がらなかった開発組織の生産性?! - AI駆動開発の実現に向けて取り組むべきこと
2025年、Findyそして世界中のあらゆる企業のエンジニア組織は生成AIの大きなうねりを受けて、今まさに変革を迫られています。
ちなみに、2023年〜24年はGitHub Copilotなども出てきており、AIがエンジニアの開発に浸透してくることは理解しつつも、そこまで大きく働き方を変える存在になると認知できていませんでした。便利だけどまだまだ精度が十分ではないというのもあったり、そこまで大きな働き方の変化をもたらさないと思いたいという正常化バイアスもあったように思います。
しかし今年の3月にセールスフォース社が「AI導入が成功したので今年はエンジニアを雇わない」という発表を行ったり、海外の企業でリストラが加速したことにより、エンジニアの採用ニーズが大きく変わるのではという懸念が業界を流れました。並行して各社のAIの精度も向上する中で、AIの活用を通じてエンジニアの働き方が間違いなく変わっていくというのが大筋のコンセンサスになってきました。
*ちなみに「今年は」でずっと雇わないと言ってないんですが、過度に「雇わない」が強調されてしまった気がします。
そして、Findyの存在意義そのものも投資家から問われる機会が増えてきました。「エンジニアの採用需要が減った際に、Findyの事業って生き残れるのか?」は何度も聞かれた質問です。そして、この変化の波を理解し、乗り切るためには、Findy自身がまずは徹底的にAIを活用していく方針を打ち出しました。
(ちなみにセールスフォースのUSのイベントでは昨年はAI活用を大々的に打ち出していたのですが、今年は人とAIの共生で全てがAIで解決するわけではないところにトーンダウンしていた印象と友人から聞いてもいます。)
AI無制限活用と現場の「肌感覚」
Findyのエンジニア組織では、生成AIを無制限で活用可能とし、新しいAIプロダクトは翌日には利用できる体制を情シス中心に作るなど、AIによる事業影響を最も受ける会社だからこそ、最もAIを利用し変化しないといけない存在として、取り組みを加速させてきました。Kiroが出たり、Codexが出たらすぐに使える環境を整備する、そして好きなだけ使って良いと、利用を推奨してきました。
その結果、新規事業のモック作りなどが加速し、現場からは「生産性が上がっている」という声も聞こえてきていました。肌感覚としては、社内のエンジニアはAIを使いこなし、良い方向に向かっていると、確かに感じていたのです。
データが示す現実:組織全体の生産性は横ばい
しかし、実際にFindy Team+でデータを見てみると、組織全体の生産性はそれほど上がっていなかったという現実を突きつけられました。先々週くらいにAI利活用機能をリリースしたので、Findy Team+のデータを分析しはじました。まずAIを利用しているマージ済みプルリクの割合は確実に増えています。

一方でAI活用後も、AI活用をしているマージ済みプルリク(Pull Request)割合は増えているものの、トータルでのプルリク数増加量は横ばいに近い状況でした。AI活用割合は増えているけど、全体としてのアウトプット量は同じということです。

また、ドリルダウンして、個人別に見ると、プルリク数が増えている人もいれば、減っている人もいることがわかりました。このデータから、AI活用における「二極化」の傾向が見えてきました。
ここでは、スキルレベルを以下の通り定義します。
ハイスキル層(シニア層):OSS活動などに積極的で元々アウトプット量が多く、生産性が高い人。実際に応用情報や基本情報の資格などを持っている人も多く、コンピューターサイエンスの知見も豊富。
成長が求められる層(ジュニア層):エンジニアになって数年程度で、今後の成長が期待される層。コンピューターサイエンスの知見については大学などで学んでおらず、絶賛勉強中
傾向として、ハイスキル層(シニア層)はマージ済みプルリク数が増えている一方で、成長が求められる層(ジュニア層)のプルリク数は減っている傾向が見て取れました。
【ハイスキル層の事例】
AI利用のプルリク割合は74%に達しており、3ヶ月比較で見ると320件から438件に増えている

【成長が求められる層の事例】
AI利用のプルリク割合は50%に達しているが、3ヶ月比較で見ると220件から142件に減っている

もちろんやっている仕事も期間によって異なるのでこの数字だけで生産性が上がっている、下がっているを断定はしにくいですが、結果的にはこういった傾向が社内で出てきており、アウトプット量に変化が表れています。
また、ハイスキル層は並列でAIを動かしているため、サイクルタイム(開発完了までの時間)は長くなるケースもありますが、プルリク数は増える傾向が出ています。並列でAIを動かすとは、まさにミーティングの前にプロンプトを書いておき、部下とのミーティングの後に出来上がったものをレビューするという具合です。
また先日お会いしたCTOの方はデスクにディスプレイを4つ用意して、それぞれで別のAIに依頼をしており生産性が爆上がりしているとのことでした。金融のトレーダーみたいですね。
この辺りは以下のようなデータに表れてきますが、この辺り並列処理をどう評価するかは次のテーマになりそうです

AI時代における新たな課題と「可視化」の命題
AIの本格活用を進める中で、生産性のデータだけでなく、いくつかの新しい問題も顕在化してきました。
まず、生産性は上がっているハイスキル層(シニア層)ですが、AIの対応速度が上がるにつれて、常に新しい技術やプロンプトに対応し、AIを使いこなすことが求められることによる負荷、「AI疲れ(バーンアウト)」が起き始めているメンバーも出てきているようです。実際にどこかで1ヶ月くらい休みたいなというコメントも出ており、並列処理を果たして8時間続けられるのか、脳が疲れすぎないかというのは大きな課題になりそうです。(Findy Team+としてはサーベイ機能を充実させていく予定です。)
一方、成長が求められる層(ジュニア層)に関しては、そもそもコンピューターサイエンスの基礎知識が足りていないケースがあり、プロンプトの書き方が不十分なために、以前よりも手戻りが発生している状況が見られるそうです。
また、海外の論文ベースでは、AIを利用したことで手戻りが発生していても、AIを利用している中で、「生産性が上がっている」と錯覚してしまうことも起きるらしいです。
上記を踏まえて、正直ベースこの1年間はFindy Team+はたまに見て、「うん、生産性結構いいから、いいね」くらいだったのですが、AI活用の正否をしっかり確認していくためにむしろ変化を見ていかないといけないという思いを強くしました。開発組織のイシューが経営イシューそのものになってきた感覚です。
やはり、自社プロダクトの話にもなってしまいますが、AI駆動開発を推進し、その効果を正しく把握するための「可視化」 が極めて重要になると感じています。
エンジニア組織における人事制度の転換期
これらの変化は、エンジニアのキャリアと人事・評価制度にも影響を与え始めています。AIを使いこなせるハイスキル層(シニア層)の市場価値は高まり、年収レンジはさらに上がっていくでしょう。その一方で、バーンアウトしない程度に、ペースを調整して働きたいというシニア層は、そこそこの年収で働くというニーズも出てくる可能性があります。
成長が求められる層(ジュニア層)は、基礎的なコンピューターサイエンスの知識をしっかりと身につけ、AIを活用できないと年収が上がりにくい時代になっていくかもしれません。
ただし、変化はチャンスでもあります。ソフトウェアエンジニアの活躍の場は、リアル、特にハードウェアなどの世界に広がっていく可能性があります。オフィスやリモートにこだわりすぎず、ディープテックやリアルテックに出ていけば、フィールド+ソフトウェア開発の知見を活かして年収が上がる可能性もあるでしょう。
今後の取り組み:変化を乗りこなすために
この変化を乗り越えるためにFindy自身もプロダクト開発のあり方、仕事の仕方などを変えていかないといけないフェーズにいます。現時点では個人レベルでは生産性が上がっていそうだが、組織全体ではまだまだというところで、今後組織全般にAI活用の効果を伝搬させていけるように以下に取り組んでいきたいと思っています。
AIを徹底的に使いこなす。一時的に生産性が上がらなくっても諦めない
ジュニア層のコンピューターサイエンスに関わる知識習得を支援
徹底した一次情報の収集とビジネスの理解度向上
(顧客やユーザー、先端にいる人との会話を増やす)
上記を通じて、AIで組織の生産性が上がり、顧客に提供する価値を上げれるプロダクト組織を目指していきます。
