外国貨物と内国貨物〜その荷物は、いつ“日本のモノ”になるのか〜
夜の保税地域というのは、少し変わった場所だ。
巨大なコンテナが規則正しく並び、オレンジ色の照明がその上から静かに降っている。
風が吹くと、遠くで金属の何かが小さく鳴る。
たぶん、あまり長くいる場所ではない。
けれど仕事柄、僕は長いあいだ、そういう場所にいた。
外国から届いた貨物は、日本の港へ到着しても、すぐに「日本のモノ」になるわけじゃない。
法律上、彼らはまだ“外国貨物”という名前で呼ばれている。
地理的には日本にいる。
でも法律的には、まだこちら側には来ていない。
たとえば、ベトナム製のシャツがあるとする。
そのシャツはコンテナ船に揺られ、何日も海を渡って横浜港へ着く。
クレーンで降ろされ、保税蔵置場へ運ばれる。
でも、その時点ではまだ自由じゃない。
輸入許可が下りていないからだ。
税関への申告。
関税。
消費税。
他法令。
そういういくつかの境界線を通過して、はじめて貨物は“内国貨物”になる。
もちろん、シャツそのものは何も変わらない。
昨日と同じ布地だし、同じ縫い目がある。
急に高級になるわけでもない。
変わるのは、世界との関係だけだ。
僕は昔、この感覚がわりと好きだった。
貨物には、“こちら側”と“あちら側”がある。
そして税関という場所は、その境界線の上に静かに存在している。
輸入許可が下りると、貨物はトラックへ積み込まれ、日本中へ運ばれていく。
ショッピングモール。
コンビニ。
郊外の衣料品店。
やがて誰かがそのシャツを買い、袖を通す。
でも、その服が少し前まで“外国貨物”だったことを思い出す人は、たぶんほとんどいない。
それでいいのだと思う。
世界の仕組みというのは、多くの場合、気づかれないまま動いている。
深夜の港みたいに。
