論文紹介:「イミ消費」を意図した観光ツアー商品の企画開発に関する分析と考 察 ―広島市内におけるsokoiko! の事業者インタビューと参加者事後レビューから見えるもの ―
目次
今回読んだ論文
山川 拓也(流通科学大学人間社会学部観光学科 准教授)
「 イ ミ 消 費 」を 意 図 し た 観 光 ツ ア ー 商 品 の 企 画 開 発 に 関 す る 分 析 と 考 察 ―広島市内におけるsokoiko! の事業者インタビューと参加者事後レビューから見 えるもの ―
Japan Tourism Management Review Vol.3 (2023)
感想
今までの学説や考え方の延長線上にあって、大きな驚きはなかったのだけど、フロー理論とは別の観点で考えられた論文でも、結論がフロー理論ベースで考えた場合とにかよるというのはおもしろい発見だった。
この論文に限ったことでは無いけど、旅行や観光における心理学やマーケティングが、どの一瞬を縦に切り割って分析しているか、と言う観点が重要だろうと思う。イミ消費は、たしかに「イミあるもの」を求めるとい考え方はあると思うけど、実際に満足度を調査する段階においては、より解像度を高くする必要がある気がする。
要旨
本研究では、消費者に正当な価値を伝播させる上で必要となる商品の企画開発とマーケティングの観点から、観光でのイミ 消費デザインを検討する足掛かりとして、イミ消費が意図される観光ツアー商品を媒介とする事業者と参加者との間における 価値伝播の様相を探索的に確認した。具体的には、広島市内で自転車を用いたコミュニティツーリズム事業となるsokoiko!の 観光ツアー商品を展開するmint社を対象として、事業者へのインタビュー調査とツアー参加者の事後レビュー(日本語・英 語)分析を実施した。結果、地域の歴史や文化的リアリティをストーリー化して案内するsokoiko!の事業コンセプトやmint社 の地元に対する愛着・想いが、参加者の消費経験を通して、ツアーの商品価値として共有される様相を確認できた。そこから は、消費者の共感を想起させるためのストーリーおよびストーリーテリング、仲介者の果たす役割の重要性が示唆された。
気になったポイント
その中で、株式会 社野村総合研究所の林裕之主任コンサルタント(当時) は、「『安さ』から利便性を求めるだけでなく、『非日常感 を楽しむために多少値段が高くても、品質が良いものを 買いたい』などへの変化が新型コロナによる外出制限も 背景に加速している。さらに、自宅で過ごすことが長く なったことで、生活環境を見直す機会が生まれた可能性 もある。できるだけ長く使えるものを買うなど、環境を 意識した消費価値観も若年層を中心に定着しつつある」 (経団連, 2021)と、イミ消費が注目される社会状況を説 明している。
「イミ消費」とは、ホットペッパーグルメ外食総研エヴ ァンジェリストの竹田クニ氏が名付けたものとされてお り、2010年頃から始まった新しい消費スタイルで、「商 品・サービスそのものが持っている機能や効能だけでは なく、その商品が付帯的に持っている『社会的・文化的 な価値』に共感し、選択する消費行動」を指す(密山, 2021)。「イミ消費」を2018年に提唱した同氏は、「「モノ 消費」から「コト消費」と言われて久しいですが、今の 消費者は「消費の意味は何なのか」ということを問い始 めています。「消費の意味」とは、これは○○産を100% 使っていて、これを買うことが社会貢献につながるな ど、いわゆるエシカル消費(環境や社会に役立つサービ スを選んで消費すること)と呼ばれるものです。社会と の接続の意味が消費にあり、それが「付加価値」になっ ていく。20世紀には考えられなかった要素が、消費の判 断材料に入ってきています」(Foodist Media, 2017)と 述べて、(1)環境保全/地域活性/サスティナブルな社 会の実現、(2)社会貢献/他者支援、(3)健康/予防、 (4)人・地域・自然等に対する感謝、(5)正義/フェア ネス、(6)歴史/文化の継承/保全、(7)これらを大 切にするライフスタイルの表現、といったキーワードが イミ消費を語る上での価値観になることを指摘している
これはつまりブランディングとかブランドのひとつの概念に含まれることで、2018年に新しく登場した概念ではないように思う。あと、序盤から思うのは、フロー理論観点で考えると、イミ消費は、「あくまでも表層に浮かんで認知できる範囲内である事象に意味づけをしたもの」で、ツアー価値の心理学的な本質というよりは、マーケティング上、認知されている選択可能な要素のうちの一部で、実際に選択肢として浮上してきている。という見方のほうがしっくりくる。あとは、口うるさく言われている観光における「ストーリー」という概念や「テーマ」という概念は、そのツアーの存在意味であるので、そういう部分とこの「イミ消費」は近接しているような気がする。
②『消費の美学』論
牧野(2015)は、消費者行動研究の立場から「消費を 通して得られる感性的経験」に着目し、「消費経験論」の 研究枠組みとともに「快楽消費」の概念を掲げたヒルシ ュマンとホルブルック(Hirschman and Holbrook)の 延長に位置づける形で、『消費の美学』論を説き起こした (牧野によれば、感性と美学は“aesthetics”の英語を同 じにする)。牧野は、「感性」の言葉を多義的であるとし つつ、その要素を消費者の知覚だけではなく感情にまで 広げて理解して、「感性とは、知覚した事物に対して感情 反応と価値認識の両方を生じる働き」(牧野, 2015)と定 義している。
ちょっと専門用語多くて、難儀するが、「知覚した事物に対する感情反応」とか「消費を通して得られる感性的経験」という事象は、なんとなくフローっぽいような気もする。
これらの議論からは、文化的消費に内在する「意味的 価値としての学び」と、消費者の感情反応と価値認識の 双方に関係している「感性的共感」の存在が浮かび上が ってくる。「意味的価値としての学び」に関し、間々田 (2021)では、「とくに、娯楽性の少ない趣味や、教養を 身に付ける活動については、文化性の高い行為として消 費社会以前から称揚されてきたものが多い」とされ、そ の上で消費を介した自己実現との関連性が指摘されてい る。このことは、社会的・文化的価値を消費基準とする イミ消費の輪郭を理解するにあたって示唆的と思われる。
んーこれはおもしろい。例えば文化性が高い学びが称揚されていたというのは、もしかすると、承認欲求によるフロー状態がその行為の源泉だったという気がしないでもない。
旅行者の観光経験から観光と学びの関係を捉えた国内 研究には、観光の一形態としての「学ぶ観光」の概念化 (フンク, 2008)、ネイチャーツーリズム体験を通した参 加者の学びの体系化(横溝他, 2015)、地域の記憶を継承 する「学びのプログラム」に関する複数事例比較(斉藤, 2020)、「思い出に残る観光経験(MTE)」後の旅行者の 行動意図形成に影響を与えるツアーガイドの有無と参加 者自発性の程度(五十嵐・直井, 2021)等の関連研究の 蓄積がある。
フンク(2008)は、知識そのものが観光資源となって 地域が観光者の学ぶ場所になる可能性を検討する中で、学 ぶ要素を含む観光旅行の全体的概念を「学ぶ観光」と表現 した。教育とレジャーの接近・統合によるエデュテイン メント(edutainment)化の進展について指摘したUrry (2002)を参照しつつ、活動中心の休暇やSIT(Special Interest Tourism)が増加する中で、観光動機でもある 好奇心が旅行者の学びに繋がるとしている。
このあたりでいう「学び」というのは、満足度に結びつくかという観点で言えば、「学びによってフロー状態になれば」という但し書きがつく気がする。
横溝他(2015)は、自然観光体験ワークショップでの 調査を通し、参加者の情感に影響を与えた出来事とその 情感を定量的に視覚化し、想像力を刺激する観光体験か ら展開される「知識に繋がる学び」と偶発的新発見から 展開される「状況判断の学び」の方向を示し、それらが 相互的かつ連続的に生起することで参加者の情感高揚と 探究心に繋がるとした。
この知識につながる学び、と状況判断の学び(偶発的新発見と書いてあるので、A-HAか)それぞれが表面上行われている裏側でどういう心理が発生しているか、ということかなと。
斉藤(2020)は、ドイツ国内での複数事例の分析か ら、各種の「学びのプログラム」が軸となって、「地域の 記憶の継承」と「観光交流を含む文化交流」との間に均 衡的な構図が形成される時に、参加者の学びと地域社会 の双方にとって有益な成果が生まれるとした。
五十嵐・直井(2021)では、「思い出に残る観光経験 (MTE)」後の旅行者の行動意図形成に影響を及ぼすツ アーガイドの有無と参加者自発性の程度を調べるため、 Kim(2009)によるMTEの評定尺度スケールを用いて の定量分析をおこなった。その結果、旅行者の行動意図 に対し、「制限のない楽しみ」や「意味や学び」ができた というMTEの評価が正の、「新奇性のある経験」や「地 元の人や文化とのふれあい」ができたというMTEの評価 が負の影響を持つこと、ガイドなし観光での参加者の自 発性を伴う観光経験が「制限のない楽しみ」の経験を促 進して行動意図を強めることを示している。
この論文は以前読んだものだけど、新奇性や地元の人との学びが負の評価になっているのは、データ取得に問題があったからではないだろうか。。怪しい。制限のない楽しみがパラテリックフローであることはありうると思う。
二つ目は、観光案内をストーリー化している点である。 例えばPEACE TOURの場合だと、ポイントとなる場所を 「点」で案内するのではなく、平和都市・広島の戦前・ 戦中・戦後復興を巡るルートを1本の映画をみるような 「線」で再構成し、地域の文化的背景をよりリアルに感 じてもらえるようにしている。2017年のPEACE TOUR 黎明期は「点」で案内する、いわば「史跡巡り」であっ た。参加客の現場評価こそ高かったものの、ツアー終了 時に依頼した事後レビュー投稿がされない、投稿があっ ても内容が希薄であるといった問題を感じていた。熟考 の末、2018年11月からストーリーとしての「線」で繋 ぐツアー内容に切り替えた結果、sokoiko!として目指し たい「非観光地の街めぐり」に変革することができた。 また同時に、参加者による事後レビューの評価も格段に 向上・充実した。
このあたりが結構おもしろい研究テーマだと思うのだけど、点だった場合、マイクロフローが単発でしか生じず、ディープフローまで至らないのではないかとおもう。 伏線やAの答えがBなどの連続性が、記憶力や思考の強度に与える影響を調べて、フロー状態にどれくらいの影響を与えているか調べたい。
Sokoiko!の参加者が日本語で投稿した45件のレビュー (219文・5353語・異なり語数:1011語)での頻出語を 分析したところ、図表1の結果が示された。
結果に見られる具体的特徴として、「知る」、「思う」、 「感じる」、「分かる」、「学ぶ・学べる」、「考える」、「実 感」、「理解」、「発見」といった、参加者の内発的動機付け と関連する行動を示唆する言葉が数多く確認された(10 語・出現合計119回、図表1の※1)。そして、「平和」、 「街」、「人」、「歴史」、「ストーリー」、「今」、「復興」、「地 元」、「現在」、「日常」、「普段」、「当時」、「未来」といっ た、sokoiko!のコンセプトに関係し、商品に包含された 意味を想起させる言葉も多く確認された(13語・出現合 計111回、図表1の※2)。更には、「良い」、「ありがと う」、「楽しい・楽しめる」、「満足」、「感動」、「素晴らし い」、「丁寧」、「快適」といった、ポジティブな事後評価 の言葉についても確認した(9語・出現合計56回、図表 1の※3)。その一方、ネガティブな印象を抱かせる可能 性を有する表現の言葉は「疲れる」のみで、出現回数も 限定的だった(1語・出現合計3回、図表1の※4)。
このあたりにフロー理論が見え隠れしているように思う。
次に、参加者によって英語で投稿された150件のレビ ュー(740文・12773語・異なり語数:1431語)での頻 出語を分析した結果、図表2の結果が示された。
結果に見られる具体的特徴として、「learn(学ぶ)」、 「feel(感じる)」、「explore(探索する)」、「find(見つけ る)」、「insight(洞察)」、「think(考える)」、「understand (分かる・理解する)」といった言葉が確認された(7語・ 出現合計119回、図表2の※1)。また、「history/historical (歴史/歴史的な)」、「story(物語・ストーリー)」、 「peace(平 和)」、「local(地 元)」、「people(人 々)」、 「culture(文化)」、「life(生活)」といった、ツアー内容 との関連を想起させる言葉が確認された(8語・出現合 計211回、図表2の※2)。そして、「great(偉大な)」、
「recommend(推薦する)」、「fun」(面白い・楽しい)」、 「thank/thanks(感謝・ありがとう)」、「good(良い)」、 「friendly(友好的な)」、「amazing(凄い)」、「fantastic (素晴らしい)」、「informative(有益な)」、「enjoy(楽 しむ)」、「excellent(優秀な)」、「knowledgeable(博識 な)」、「wonderful(素晴らしい)」、「interesting(興味深 い)」、「best(最良の・最善の)」、「perfect(完璧な)」、 「lovely(素 敵 な)」、「nice(良 い・快 適 な)」、「worth (価値がある)」、「awesome(素晴らしい・畏怖するよう な)」、「enjoyable(楽しい・愉快な)」といった称賛を表 す様々な表現の言葉が数多く確認された(22語・出現合 計533回、図表2の※3)。
これらの口コミ情報とフロー理論を相互的に関係性を調べる研究もありえそう。
話し方が上手で、かなりの量を喋っていたのにほとんど頭に入ってきた。
ガイドのShinさんの、リアルなんだけど重すぎない話し方がとても良かったです!おばあちゃん大好き!がとても伝わる話し 方で、悲惨な事実をただ重たくさせるのではなく、心にすうっと入ってくる感じにさせてくれます。最後の言葉も心にしみま した。
ガイドの説明は分かりやすくて、引き込まれて行く感じで、スポットスポットで重要なキーワードが記憶に残る案内でした。 ツアー参加の翌日、東千田公園で早速友人にツアーで学んだ内容をガイドさんと同じように話ました。「おおおお」という反応 を見て、ガイドさんの伝え方の凄さにも改めて実感しました!
このあたりのフローにいれる技術論というような領域が存在すると思う。
ここまで、sokoiko!を展開するmint社へのインタビュ ー調査と参加者事後レビューの分析から、sokoiko!の観光 ツアー商品を媒介とする両者間の価値伝播の様相を探索 的に確認してきた。全体的な結果として、地域の歴史や 文化的なリアリティをストーリー化して案内しようとす るsokoiko!の消費経験を通し、事業のコンセプトや地元 への愛着・想いといった「意味」が日本人・外国人を問 わずツアーの参加者に伝播し、商品価値として共有され ている様相を確認できた。また、英語による参加者レビ ュー分析から得た結果では、「Shin」「Toby」「Tomomi」 「Yui」といった案内ガイドの個人名が頻出語として抽出 され(4語・出現合計178回、図表2の※4)、共起ネット ワーク分析でも日本語の場合と比較してガイド個人の人 格(personality)を強調する語句のつながりを確認した (図表6、図表7、図表8、図表9)。これらについては、
観光ツアー商品の内容に対する参加者の認識や印象変化 を促す上で、消費者の「共感」を想起させていくための ストーリーならびに編集・表現スキルとしてのストーリ ーテリング(storytelling)、そして、ツアーの企画者や ガイドといった観光における仲介者の果たす役割の重要 性を示唆している。
消費者からの共感を得るためのストーリーやストーリ ーテリングの重要性については、商品の企画開発やマー ケティング分野においてこれまでにも方法論的に指摘さ れてきた。ストーリーについて、油谷(1992)は「過去- 現在-未来といった時間的継起によって様々な現象を認 識したり理解しようとする時に必要な概念であり、空間的 な知り方というよりは時間的な知り方のことで、平面的理 解というよりは何らかの共感的な理解に際して必要なコ ンセプトである」という。またQuesenbery and Brooks (2010/UX TOKYO訳, 2011)は、ストーリーの特長 として、「聞く人に内容を覚えてもらい、説得し、楽しま せる効果」があることを指摘した上で、「ストーリーテリ ングのプロセスは、素材を集める、ストーリーを作る、 使う、共有するといったフェーズに分かれており、リサ ーチ結果やデザインのインサイトを共有したり、新しい デザインアイデアを探索する際に役に立つ」ことを述べ ている。
ストーリーテリングとフロー状態については前回の論文で関連性があるというのはすでにわかっている。どういうストーリーテリングだと、参加者がフロー状態にはいるのか、ということだけど、この論文ではそこまで踏み込んで方法論までは言及していない気がする。
。本田(2021)によれば、ストーリ ーとナラティブでは『演者』『時間』『舞台』という構成 要素を共にするが、それぞれにおいて相違点がある。一 つ目の『演者』は「物語の主体変更」を意味し、ストー リーの場合には企業やブランドが主人公で消費者は聴衆 的な位置づけとされることに対し、ナラティブの場合は 消費者が主人公で企業やブランドは物語の中に存在する 演者の一人と見なされる。二つ目の『時間』については 「時間軸の違い」を指す。両者とも物語の起点は同じ 12) だが、ストーリーには起承転結があって過去の話が現在 完了形であることに対し、ナラティブは主人公となる消 費者の未来体験をも含む現在進行形の「終わりのない物 語」と認識できる。三つ目の『舞台』については「舞台 設定の違い」を指す。ストーリーの舞台となるのは、企 業が属する業界であったり、事業環境だったりする。そ れに対し、ナラティブの舞台は周辺との関係を含む社会 全体となる。ストーリーは企業の声や思いを体現するも のだが、ナラティブは社会の集合的な考えや価値を体現 するもの(本田, 2021)と捉えられている。
ナラティブは主人公がゲストで未来志向。という考え方は面白い。そのほうがフロー状態に入りやすいのかどうかは考える必要がありそう。
参考文献
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Japan Tourism Management Review Vol.3 (2023)
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