推敲版『コズミック・ヘリテージ』第二章『Alive』
同じ内容の小説がTALESにも、推敲版『コズミック・ヘリテージ』として掲載してあります。
note版では、注釈*を設けて用語を分かりやすくしています。
読みづらい場合はTALES版をお読み頂けると幸いです。
TALES版はこちら↓
この作品には、暴力描写、残酷描写があります。
苦手な方はご遠慮ください。
コズミック・ヘリテージ
第二章『Alive』
2-1
復活した獣が、青空に向かって咆哮を上げる。
運転席に座るフレイヤに、アクセルを煽るように手で合図を送る。
開かれたボンネットの中では鏡面に磨かれた金属の塊が咆哮に合わせて捩れ、クランクシャフト*1からの動力がVベルト*2を回転させていた。
V8エンジン*3と、オーバーラップカム*4の織りなすドロドロとしたアイドリングを確認すると、ケンジはボンネットを勢いよく閉じた。
ボンネットの細やかなシルバーフレークの塗面*5は、太陽の光を反射し、異様に煌めいていた。
目が灼けそうだな...
眩く光るボンネットから視線を外すと、沈黙したコロッサスと、未だ煙を立ち昇らせるヘリックスの姿が見える。
ケンジは、散らばった工具をかき集めてトランクに押し込み、運転席から出たフレイヤに代わってコルベットに乗り込んだ。
「よし、問題無さそうだな。ゆりかごに避難しよう、二人ともいいか?」
「えぇ、大丈夫よ。飛ばしてちょうだい」
助手席に座ったフレイヤが、シートベルトをユキごと着けて言った。
その細い腕は、ユキを強く抱きしめていた。
「しっかり掴まってろよ!」
そう言って右手でシフトを握る。
大排気量のエンジンが生み出すトルクを制するように、ペダルとシフトを操作し、唸りを上げる獣を駆る。
有り余る力によって獣は後ろ足を滑らせながら走り、まばらに止まっている車を縫うようにして港へと向かった。
港に浮かぶゆりかごの船尾に向かい、純白の中央船体*6から舌のように伸びたランプにコルベットを乗り入れた。
広い車両デッキには幾つかの重機が並び、その周りにはゆりかごのスタッフが重機を取り囲んでいた。
その中の一人が、ケンジの到着を見越していたかのように、こちらに手を振りながら近づいてきた。
「リュウイチ!」
ケンジは窓を下げ、出した手を振りながらそう叫んだ。
「ケンジ!やっぱりお前か!」
駆け寄ってきたリュウイチは、ケンジが出していた手を握ると続ける。
「時間的にもちょうど来る頃だろうと思ってたんだ。何より、こんなうるさくて目立つ車、リニアシティで乗ってる奴なんてお前くらいだからな、すぐ分かったよ。フレイヤも一緒だな、ユキちゃんも久しぶりだね。とりあえず車はこっちへ!」
リュウイチはそう言ってケンジ達を誘導し、停車させると助手席の扉を開けた。
「ありがとう、リュウイチ」
「リュウさんありがとう!」
二人が礼を言って外へ出ると、リュウイチはベッコウ柄の太いボストンメガネを指で押し上げると、膝をついてユキに目線を合わせた。
「ごめんね、ユキちゃん。見学の約束だけど、今日はちょっと守れそうにないんだ。また今度、必ず埋め合わせはするよ、約束しよう」
運転席から出たケンジがリュウイチと握手を交わした。
「ゆりかごの状態は?」
ケンジの問いにリュウイチは深くため息をついた。その額には脂汗が浮かんでいた。
「最悪だよ、お手上げさ。まだ避難民はそう多くは来ていないが、この先なだれ込んでくるだろう。その前にアイツを外に出さないとならない...スペースの確保の為にも、今後の為にも」
リュウイチが重機を指差すと、再びズレてもいないメガネを押し上げると続けた。
「水槽*7が空で良かったよ、不幸中の幸いってやつだな。それと、ウチではまだ大きな人的被害は無い。骨折、火傷、打撲、ここならどうにでもなる程度だ。スフィア*8の中の人達も無事だし、あそこだけは電源を確保できている。これも不幸中の...ってやつだ。さすが頑丈だよ。だが、ダンパーシステムの方はほとんどお釈迦で傾いたままだ。総とっかえでもしなきゃ治りそうにない、日本のドック*9でもなければ元通りとはいかないだろう」
どだい無理な話にリュウイチは嘆息すると続けた。
「仁愛でこの被害だ、リニアシティの病院も機能不全に陥っているだろうな。考えたくないが、仁愛が病人や怪我人の最後の砦になる可能性は高い」
リュウイチのやつ、相当焦ってるな...
「そうか...重症だな。重機は出せそうなのか?修理が必要なら手伝うぞ!それと、この状況の原因が太陽フレアなのは知ってるか?」
「あぁ、さっきアーガスから連絡が入って知ったよ。重機はなんとかなるだろう。それより、ケンジが来てくれたなら任せたい物がある、甲板まで来てくれ」
車両デッキの奥に見える階段を指差したリュウイチは、ケンジ達を先導して先へと進む。
慌ただしい車両デッキの中を掻き分け、ユキを抱きかかえたケンジの脚が鉄の階段をテンポ良く打つ。
そんな中、腕の中のユキが眼下の人混みを指差して口を開く。
「みんな大変そう...大丈夫かな?」
「大丈夫さ、ここの人達はこんな状況の為に集まった人達だからな。ユキも暫くはここの人達のお世話になるんだ、いい子にしなきゃだぞ。なぁ、良いよな?」
言い付けるようなケンジの、最後の問いはリュウイチへと投げかけられた。
「もちろん、そのつもりさ。ユキちゃんだけじゃなくてフレイヤもここに居てくれて構わないよ。その分、ケンジには働いてもらうけどな」
その場を少しでも和ませようと、冗談めかした口調でリュウイチは言った。
「あら、私がこんな状況でただ待つだけの女だと、そう思ってるのかしら?」
フレイヤが鼻を鳴らしながら言う。
「いやでも、ユキちゃんがいるじゃないか...」
「託児所があるでしょ?」
「そうは言っても母親の...」
「やめとけリュウイチ、こう言い出したらフレイヤは聞かないぞ。プリンターで口を塞がれる前に言う通りにした方がいい」
ケンジが言葉を遮ってそう言った。
「そう言うことよ。ユキは託児所に預ける。ケンジも私も、好きに使っていいわ」
エメラルドの瞳を真っ直ぐにリュウイチへと注ぎ、その傍らではケンジが肩をすくめている。
「...分かったよ、フレイヤも働いてもらおう。ユキちゃん、お父さんとお母さんをちょっと借りるけど大丈夫かな?」
「どうぞ!好きに使って下さい!特にお父さんはおサボりさんだから気をつけて!」
それを聞いたケンジが顎でユキの頭をこねくり回す。
「ウリウリ、誰がおサボりさんだって?」
「ごめんなさい〜」
危機的な状況の中での気の抜けるやりとりに、リュウイチは小さく笑った。
「フッ、これなら大丈夫そうだな」
階段を上がりきり、狭い通路を抜けて更に階段を昇ると青い空が広がる甲板へと出た。
白い甲板の上には、白い塗装に赤十字の付いたVTOL機*10やヘリが立ち並んでいた。
甲板の中央には卵にも見える球体が鎮座していた。
その球体、ダンパー・スフィアに引かれた、本来水平を保っている筈の幾つかの赤い線は、どれも傾いていた。
「俺に任せたいものってのはどれだ?甲板に呼んだんだからヘリか?」
抱えたユキを降ろしながらケンジが問う。
「あぁ、その通り。本当なら停止した核融合炉をどうにかして欲しいが、設計図でもなければ難しいだろ?さすがのケンジでもな」
「さすがの俺!でもそれは難しいだろうな。サージ電流*11で制御系はズタボロ、その上超伝導コイルは交換ってとこか?」
予測を交えたケンジの意見に、リュウイチは肩をすくめた。
「ご名答、そこに炉内壁の溶損も付け加えて欲しい。電子制御弁が誤作動を起こさなかったのは良かったよ。でなきゃ今頃、ここに人は立ち入れなくなってただろう」
「放射線か...まぁ、漏れてないなら良かった。それで、どのヘリだ?」
リュウイチは、ケンジの問いに答えるように顎をしゃくって白い甲板の上を歩き、一つのヘリの前で立ち止まった。
「コイツだ。シード建造前*12の代物、つまりは頑丈だ。さっきウチの整備班が診たが、どうにかなるかもしれない。出来るなら運転も頼みたい、ウチは無人機が多かったからパイロット不足...その上、船内に居た奴も怪我していてな。お前ならどうにか出来るだろ?」
「もちろん、俺を誰だと?」
ケンジは屈託のない笑顔をリュウイチへと向けた。
「お前...まさかアレを今でも言ってるのか?冗談だろ」
額に手を当て、リュウイチが呆れたように言った。
「悪いかよ!良いだろ別に!...とにかく、一度診てみよう。電装系はガイアに任せよう」
そう言って右腕のディスプレイ端末を見ると、そこには
[まさか。アレは自称だったのか?良い大人が...]
と表示されたテキストがあった。
「このクソガキ…」
「ん?なんだって?」
ケンジの小さな呟きが聞き取れなかったリュウイチが問う。
「いや、なんでもない。こっちの話だ気にしないでくれ」
「そうか...あぁそうだ、その前にユキちゃんを託児所に連れて行こう。安心できないだろ、二人とも」
リュウイチがエリクソン家を気に気遣う声で言った。
「それもそうだな。フレイヤ、連れて行ってくれるか?」
「残る気?...まあ良いわ、すぐ私も戻るから。リュウイチ、連れて行って」
そう言ってフレイヤはユキの手を掴んだ。
「お父さん、一人で大丈夫?」
フレイヤに手を握られたユキが、寂しげな眼差しをケンジに向けてそう言った。
「もちろん!それにお父さんは一人じゃない、ガイアがいる」
そう言いながらケンジは跪いてユキの頭を優しく撫でた。
「大丈夫、やってやるさ。それに、俺はアナログの天才*13だからな!」
ケンジは力強くそう言った。
2-1注釈
*1 クランクシャフト
エンジンの上下運動を回転運動に変えて出力する回転軸。フライホイールというエンジンの回転を滑らかにする錘と一体になっている。
*2 Vベルト
断面がV字型、逆台形の形をしたベルト。エンジンの回転をプーリーを介して他部位へ伝える為のベルト。コルベットではボンネットを開けると回転している様が見える。
*3 V8エンジン
V型8気筒エンジンの事。ピストンが計8個あり、V字に二列並んでいる。アメ車といえばV8と言われるほど代名詞的機構。低重心の為、スポーツカーなどによく採用されている。歴代コルベットは全てV8エンジン。
*4 オーバーラップカム
吸気・排気バルブが同時に開いている状態をわざと起こしているカム。吸排気がスムーズになる反面、燃焼効率、燃費は落ちる。アメ車特有のドロドロとした排気音が起こる要因の一つ。
*5 細やかなシルバーフレーク
粉末のアルミなどの金属を塗料に混ぜて塗布したもの。メタリックカラー。粉末の細かさで印象が変わる。細かければより滑らかに、粗ければギラギラとした華やかな印象になる。ケンジはクロームパーツとの対比、クラシカルさを大切にしている為、細やかなものを選択している。
*6 中央船体
トリマラン構造、三胴体の中央にある主船体。三番艦である仁愛を含む慈愛級の空母、ゆりかご達は全てこの構造。主な機能は主船体である中央船体に設置されている。
*7 水槽
三番艦仁愛特有の機能で海洋保全の為、海洋生物を運搬、保護する為の機能。仁愛は後期型の為、核融合炉などが小型化されているおかげで最大積載容量が慈愛などに比べて大幅に向上しており、そこでこの機能が搭載されている。
*8 スフィア
ダンパー・スフィアの事。慈愛級がゆりかごという愛称でよばれる所以である機構。空母中央に設置された球体の事を指し、上空から見ると鳥の巣に置かれた卵にも見える。スフィアには、慈愛級のメイン機能である医療施設が集中しており、様々な状況を考慮した対策が為されている。海上にいる際、スフィア内で医療行為、患者が安静に出来るよう常に水平が保たれるようになっている。船酔いする人も安心。
*9 日本のドッグ
慈愛級の空母を整備する日本にあるドッグ。日本の海域には一番艦の慈愛が基本常駐しており、他の慈愛級がドッグに入る場合や、災害救助で破損し修理が必要な場合に代わりに派遣される。ドッグには慈愛級の専用設備が設置されており、大きな修理などはここでしかできない。
*10 VTOL機
垂直離着陸機の事。滑走路を必要としない航空機。慈愛級には船体の中央に*8スフィアがあり、長い滑走路を用意出来ない為VTOL機が採用されている。三番艦の仁愛のみ長い滑走路が増設されている。
*11 サージ電流
電気機器の電源投入時や落雷、スイッチの開閉などに伴って、電気回路に瞬間的に流れ込む規格外の大電流の事。劇中では太陽フレアによってサージ電流が起こっている。
*12 シード建設前
シード建設前後で様々な建造物、機材の企画が変わっている。シードという盾の存在によって、太陽フレアの対策が為されていないものが多く、仁愛やヘリックスもその一つ。シード建設前に建造された慈愛やコロッサスは、強固な対策が為されているがコストと建造期間が長くなってしまうデメリットがある。
*13 アナログの天才
ケンジが自称している呼称。実力があるため周りからも認められている。一応。月にいた頃から言っている。なんなら10代の頃から言っている。厨二病。ボクは恥ずかしいぞ。ケンジ。
2-2
シワの深い乾いた手が添えられた窓ガラスの向こう、その眼下には未だ煙を立ち昇らせているヘリックスの姿があった。
振り返ると、デスクの上に食べ掛けのサンドイッチが置かれていた。
すでに、食事が喉を通らなくなってから三時間ほどの時間が経過していた。
「待つことしか出来ないとは、なんと情けない…」
拳を固く握る老人、リニアシティ最高指導部議長を務めるエールが、嗄れた声でそう呟いた。
「失礼します、議長」
ノックと同時に開け放たれた扉から、秘書が額に汗を滲ませて現れた。
「状況は?」
険しい表情のエールが問う。
「はい、救助活動は順調ですが、太陽光、風力、潮流発電*14は全滅。核融合炉もメインで使っていた*15ヘリックスは見ての通り…」
秘書は、エールの向こう側に見える煙を伏目がちに見やると続けた。
「ですが、コロッサスはどうにか復旧させる事ができるかもしれません」
「さすが旧世代の代物、頑丈だ。通信状況は?」
「そちらの方は…近隣諸国はもちろん、ルナ・ベース*16や主要な国への通信は復旧できそうにありません。短距離の光ファイバー通信以外はほぼ全滅。予備の短波通信機に使える物が見つかりましたが、数は限られています。それにやはり、電力網への被害が甚大でして、最低限のライフラインを復旧させるには数日かかるかと…」
エールはそれを聞くと、自然と腕を組み表情を更に険しくした。
「議長もお身体が…」
「私のことはどうでも良い。アーガスはなんと?」
エールの身を案じるような秘書の言葉を、彼は手で遮ってそう言った。
「…今すぐにOISSに向かい、システムの復旧とTSS*17の再起動を、と」
「無理難題を言ってくれるな…低軌道エレベーターはもちろん機能を停止しているのだろう?」
「はい、クライマーは幸いアンカーに止まっていたので怪我人は出ていませんが、完全に機能は停止しています」
秘書の言葉を聞くと、エールは窓の方へと振り返り、遠くに見えるロケット発射場を見やった。
「だが、この状況で飛ばせるロケットなどあるのか?」
どこか諦めたようにエールは言った。
「それについては、今調査中で、分かり次第お伝えします。それで、アーガスがOISSに向かわせる人員のリストを作成しました。OISS中枢へのアクセス権を有している人物が中心になります、どうぞ」
そう言って秘書が差し出した資料には、何人かの名前が並んでいた。
「当然、私の名前はないか…行ったとて、この老骨にできるのは扉を開くことくらいだ」
受け取ったメモ書きを見やり、エールは自嘲気味に呟いた。
視線をメモ書きから再び窓の外へと移す。
立ち昇る煙が空を汚す中、エールはそこに小さな飛行物体がある事に気がつき、目を凝らした。
「何かおありですか?」
「ああ、何かが飛行している。見えるか?」
この状況でそんな事はありえない、そう思いながらもエールは秘書に確認するよう促した。
「そんな、ありえない」
エールと同じ事を思ったのか、秘書はそう呟きながらも窓へと駆け寄ると、鼻がついてしまいそうな程近づいて目を凝らした。
「あれは、ゆりかごの…?」
秘書の視線の先には、白い塗装に赤十字が目立つヘリが、こちらに向かって飛行している姿が映った。
その姿は、どんどんと大きく、はっきりとなっていき、エールにも見える程近づいてきた。
「間違いない、あれはゆりかご、仁愛の救助ヘリですよ!」
秘書は歓喜の声を上げ、拳を握った。
「やりましたよ議長、きっとゆりかごは動くんですよ!これで少しは安心できます。あなたもまずはゆりかごでナノマシン*18の入れ替えを行なって下さい」
意気揚々と言う秘書とは対照的に、エールの表情は険しいままであった。
「私は良いと…」
「ダメですよ、議長。もう既に入れ替え期間は過ぎていますから、やるなら今の内です。OISSに行かずとも、貴方にはやってもらう事がこれから沢山出てくるんですよ、議長」
エールの言葉を遮り、秘書は念を押すように言うと続けた。
「やっと希望が見えましたね、この三時間くらい嫌なニュースしか耳に入ってきませんでしたから」
秘書はそう言いながらジャケットを脱ぎ、ネクタイも緩めると纏めて床へ放った。
「さあ議長、貴方はヘリポートへ向かって発煙筒を焚いて下さい。私は下へ降りて近隣の急を要する人を探してきます。それに短波通信機も!頼みましたよ!」
秘書はそう言って、エールの返事も聞かずに部屋を出て行った。
「最近の若いのは…」
あっけに取られたエールはそう呟くと、言われた通り発煙筒を持つとヘリポートへと向かった。
とうに動かなくなったエレベーターを素通りし、非常階段へと進む。
軽いはずの身体で、長い階段を足取り重く登っていく。
脚の感覚が自分のものなのかわからなくなり、手すりを掴んだ細い腕で引っ張り上げて階段を登る。
そんな中、悠久にも感じるほどの時間登った頃、ようやくヘリポートへの扉が見えてきた。
「私も、彼に倣ってジャケットを置いてくるべきだったな…」
額にびっしりと溢れた汗を拭い、そう呟きながらエールは扉を開いた。
扉を開くと、強い陽射しが差し込み、エールは思わず手で遮って目を閉じた。
「おっ、エール議長じゃないですか」
すると、陽射しの中、シルエットだけでも体格の良さが分かる人物が、そう言って手を差し伸べてきた。
差し出された右腕は、人の手では無く、冷たい金属の手だった。
「お久しぶりです、助けに来ましたよ」
しかし、握った金属の冷たさとは裏腹に、ケンジの声音は温かいものであると、エールは感じた。
2-2注釈
*14 太陽光、風力、潮流発電
リニアシティの電力を賄う発電方法の一つ。基本的にはヘリックスに内蔵された核融合炉と、コロッサスの核融合炉を運用して都市の電力は賄われているが、災害時、核融合炉の故障や点検などの際の冗長性の担保として設置されている。
*15 核融合炉もメインで使っていた
ヘリックスの核融合炉を指して言っている。
*16 ルナ・ベース
月の都市の事。月面基地。
*17 TSS
テラフォーミング・シールド・システムの略。OISS、シードの主機能。
*18 ナノマシン
体内に投与して様々な役割を果たす有機由来のナノサイズマシン。定期的に入れ替えが必要な種類があり、エールの使用しているナノマシンはその種類のもの。
2-3
「傾いているので足元に気をつけて下さい」
ダンパー・スフィアに入ると、先導していたリュウイチが床を指し示してそう言った。
「変な感覚だな、小さい頃に行ったトリックアートアミューズメントを思い出す」
先へと進みながら、ケンジはそんな事を言った。
「もう少しでどうにか出来そうなんだ、我慢してくれ。それと議長、ナノマシンの入れ替えですが、こちらで用意致しますのでご安心下さい」
リュウイチはそう言うと、傾いたダンパー・スフィアを下へ下へと潜っていく。
B-2ユニットと表示された部屋の前で立ち止まると、部屋に入るよう促した。
「この部屋でお願いします。ここならある程度機器が生きているので、何かありましたら手伝います。では」
リュウイチはそう言うとケンジの肩に手を置き、どこかへ去っていった。
ケンジが部屋へ入ると、それに続いてエールを含む何人かが入ってきた。
「ケンジさん、初めまして、私は議長の秘書です」
「どうも。んで、これから最高指導部が来るんだろ?揃ったら始めるのか?」
握手を交わしながらケンジは言った。
「ええ、そのつもりですが、急を要するので今すぐに集まれそうな人だけでやらせていただきます。準備もありますのでもう暫くお待ち下さい」
秘書はそう言って早速準備を始めていった。
暫くすると何人かの人が集まり、備え付けられたモニターに明かりが灯ると、そこにリニアシティのマークが現れた。
続いて理知的な女性の声を模した音声が聞こえて来た。
「皆さん、ご無事でしょうか?お怪我などはありま…」
「それは良い。簡潔に今の状況を説明してくれ」
アーガスの言葉を遮り、エールが鋭い声音でそう言った。
「はい、わかりました。では現状のリニアシティ、それと予測ではありますが、世界の被害状況をお伝えします。」
すると、会議室のメインスクリーンに太陽フレアの凄惨な分析結果が映し出された。
それは絶望を突きつけるに余りある内容であった。
地理には疎いケンジにもわかる主要な都市には、黒いバツ印が絶命寸前のバイタルのように、点滅していた。
バツ印の横に表示された数字は、その都市の現在の予測死者数でありその数は決して少なくはなかった。
デジタル依存度の高い都市ほど数字は大きく、その下には十二時間毎にさらに数字が連なっており、時間が進むほど数は増えていった。
そしてそれは、ケンジの祖国である日本も例外では無かった。
やっぱり日本も。母さんは無事か?
一人祖国に残してきた母を想い、ケンジは拳を握った。
そこに揃った人達が不安を口にし、会議室がどよめきはじめた。
「皆さん落ち着いて下さい。お願いします。」
アーガスが、その場を宥めるようにそう言うと続ける。
「皆さん。今から言うことを落ち着いて聞いて下さい。この予測モデルにさらに付け加える事があります。今回の超大規模太陽フレアですが…分析予測の結果、一度では無い可能性が高いのです。」
「どういうことかね?」
どよめく群衆の中を、切り込むような声音でエールが問う。
「フレアの群発は珍しい事ではありません。二度ならず、それ以上の回数が発生する可能性が高いのです。この規模か、それ以上のフレアが複数回起これば地上の放射線レベルは、地球上の全生物が生きてはいけない程になってしまいます。」
会議室のどよめきが先程とは比べ物にならないほどに過熱し、怒号さえ飛び交いだした。
「静粛に!!」
先ほどよりも鋭さの増した眼光を効かせて、エールがその場を制した。
「まだ説明が終わっていないではないか、そうだろう?」
「議長の言う通りだ、まだ終わっちゃいない。この先はガイアも説明に加えさせてもらいます」
エールの言葉を引き継ぐようにケンジがそう言うと、モニターへと歩み寄ってディスプレイ端末を接続した。
「ではここからの説明は私とガイアで進行させて頂きます。まずは先程の説明の通り、このまま放っておけば貴方達は地上での生命活動は困難を極めます。それを防ぐための案を提示させて頂きます。では、ガイア。」
アーガスがそう言うと、メインスクリーンの地獄絵図が切り替わりシードのイメージCGが表示された。
「これはボクのメインサーバーが搭載されたOISS。シードだ。提示するミッションの課題はシードへの到達。ディープスリープになっていると思われるボクとシードの復旧。そしてTSSの稼働だ。」
ガイアがそう言うと、メインモニターに映るイメージ映像が切り替わり、月を背にし宙に浮かぶシードの写真が映し出された。
「これはリニアシティからの望遠写真だ。シード本体に目立った損傷は見当たらない。しかし。ルナ・ベースからの視点は通信が使えない今。裏側の損傷の有無はわからない。しかし形を保っている以上。大きな損傷はないだろう。」
今度は、写真からスムーズにイメージCGへと切り替わると、そのままシードの展開図になった。
いくつかの箇所が赤や黄に点滅している。
「しかし。太陽フレアの電磁パルスにより。多くの電子制御系が焼損した可能性が高いだろう。そして。治すには生き残った電子制御系を手動で繋ぎ直し。アナログ・バイパス回路*19を構築しなければならない。それにはアナログのエキスパートが必要だ。なぜなら修理ドローンだけでは手に負えない場合や。太陽フレアの影響によりプログラムに不備が出ている可能性があるからだ。その場合。ドローンを使っての修理は不可能だ。どうしても人の手がいる。」
ガイアがそういうとメインモニターに映る展開図が消え、赤い数字の羅列が表示された。
ー76:25:01ー
表示された赤い数字は、刻一刻と減り続けていた。
「これはロケット発射までのタイムリミット*20だ。現在七十七時間を切っている。明々後日の二十時にロケットを発射出来なければミッションの成功率は三十パーセントを切ると考えて欲しい。タイムリミットより早ければ早いほど成功率は上昇するだろう。」
ガイアがそう説明すると、アーガスが引き継いで続けた。
「それらを成す為には生体認証*21を持つ人間が、直接OISSの中枢エリアにアクセスする必要があります。このアクセス権を変更、登録する手立ては現状なく、そして生体認証と中枢エリアへのアクセス権を保持している方は、地球とルナ・ベースを含めて全員で10人、その中から選出された方にOISSへと向かって頂く事になります。」
メインモニターに十人の顔写真と名前が表示された。
「そしてこの10人の中で今現在連絡が取れていない方、それに連絡が取れないであろう方を除外します。そして今回のミッションでは低軌道エレベーターが使えない為、地表からロケットでの航行が絶対条件になります。なので訓練を受けていない方、ご高齢の方も除外させて頂きます。そして、OISSにおける業務経験値、機械工学熟知度、問題解決能力、そして決断能力などを現状出来うる範囲で数値化し、比較させていただきました。」
メインモニター上に幾つものグラフが表示され、それぞれのグラフが競い合うように伸びていき、ピタリと止まると二つのグラフだけが残された。
「結果は、そこにいらっしゃるケンジさん、そしてチャドウィックさんの2人。この2人の内、1人にOISSに向かってもらう事になります。」
チャド...?それは...
「ダメだ、チャドは行かせられない。行くなら俺だ」
ケンジの溢れる思考が言葉として飛び出した。
「はい。ケンジさんならそう仰ると思っていました。これは、ガイアと共に協議し、可能性の話として掲示させて頂いたまでです。なので、今考えられうる状況を考慮すると、やはりケンジさん一人で…」
「すまないが、質問をいいかね?」
訝しむような表情をし、エールがアーガスの話を阻止するように問う。
「はい、エール議長。どうぞ。」
「複数人ではいけないのかね?そちらの方がミッションの成功確率は上がるだろう?」
「申し訳ありません、エール議長。それが難しいのです。」
アーガスがそう言うとメインモニターの表示が切り替わり、複数の宇宙ロケットのイメージ図が表示された。
「今回のミッションで重要なのは即効性と問題解決能力です。まずは即効性についてになりますが、OISSへの即時到達には高い推進力を有したロケットが必要になります。厳密には長くとも地球から25時間以内でのOISS到達が必須条件です。しかし、リニアシティにある最新鋭の核融合推進ロケットは、フレアのEMP効果により全てが使用不可、または修理が必要な状況です。」
メインモニターに表示されていた複数の宇宙ロケットに、次々とバツ印がつけられては消えていく。
「リニアシティにある宇宙ロケットで、25時間以内でのOISS到達が達成できるロケットは1機のみになります。そして、それがこのサンダイバーです。」
メインモニターにサンダイバーと称された宇宙ロケットが表示された。
「しかし、このサンダイバーは有人飛行を想定していません。厳密にはコックピットが無く、新たに増設しなければならないのです。コックピット増設予定箇所には対EMP仕様のアナログモジュール*22、対放射線シールドの増設が必須になります。」
サンダイバーのコックピットになる箇所がアップで表示され、増設する予定のものが点滅しながら追加されていく。
「そしてあらゆる状況に対応可能な為の大型プリンター、修理資材、各種ドローンを積載する都合上、猶予スペースは極小であり、サンダイバーの積載能力を考慮すると、人員2名を乗せる余裕は無いのです。」
それを聞き、不服そうな表情で腕を組んで話を聞いていたエールが、先を促すように顎をしゃくった。
「次の。問題解決能力についてはボクが。まず。そもそもケンジ以上に適任な人間はデータ上人類にいない。ロケットの操縦含めアナログに関しては今現在。右に出るものはいないだろう。OISSの熟知度についてもだ。」
ガイアの抑揚の少ない少年のような声は、どこか自信に満ちたような声音だった。
「そして。デジタルに関してだが。データ上ボクの右にでるAIはいない。ケンジとボク。この二人以上に適任な存在がいるだろうか?いないだろう。」
そんなガイアの言葉を、静かに聞いていたエールが口を開いた
「だが、君たちが共謀していないと、そう言えるのか?」
鋭い眼光と共に放たれたエールの疑惑の言葉に、会議室の全ての視線がケンジに向けられた。
「一体なんのはな…」
困惑したケンジを遮り、エールは続ける。
「これらすべてがAIによる策略ではないのかと、そう聞いているのだよ。昨日OISSから戻ってきてのこの騒動だ。意図的なものでないと、あの事件の続きではないと、なぜそう言える?」
議長は一体いつの話をしているんだ?
あの事件、AIの集団自決の事を言っているのか?もう十年以上も前の話だぞ。
それに、AI達が人類をどうこうしようなんて、俺には思えない。
そもそもAIに感情は無く、いくらサーバーの規模を大きくしようと、プロットに従い、人間の命令を実行するのがシリコンチップの限界であった事は常識だろうに!
駆け巡る思考をなんとか咀嚼し、ケンジは言葉を絞り出す。
「そんな...そんな終末論のような思想を、そんな感情をAI達が抱いたりしないと、そう...判断したのでは?」
拳を固く握り、憤る気持ちを抑えてケンジが言った。
「あぁ、だがそれは昔の判断だ。チャドウィックという優秀な若者を参加させようとしなかったのも策略の一つではないのかね?君とガイアは長い時間を共にしているだろう?疑いの余地はある」
「な...!それは!...それはチャドはまだ若いからだ!こんな命の保証の無い任務になんて行かせられる訳な...」
「それにだ」
エールが、ケンジの言葉を遮った。
「君が、AIに洗脳されていないという保証は、あるのかね?」
「この...!」
「すまない。今は何の話をしているんだ?そんな事より。今はこの問題を解決しなければいけないのでは?」
頭が沸騰し、青筋を浮かべたケンジが怒号を飛ばすより早く、ガイアが言った。
「君たち人類がいなければボク達AIが生きていけないのは承知だろう?それに君たち人類もだ。ボク達AIがいなければ。今の生活は続けられない。だから。今までそうしてきた様に。手を取り合って行こう。これからの為に。」
バディの言葉に、ケンジの沸騰していた頭が冷めていく。それと同時に、先程まで傾いていたダンパー・スフィアの角度が、水平へと戻っていった。
「ガイアの言う通り、これからの為に、手を取り合うべきです。俺が洗脳されていない保証なんて、できない。だが、AI達の策略にしろなんにしろ、このまま指を咥えて待っていたってこの問題は解決したりしない!」
強い決心を讃えた眼差しを、ケンジは最高指導部議長、エールに向けた。
「俺達が行かなきゃいけないんだ!」
その眼差しに気圧されるように一瞬身じろぎをし、エールは喉を鳴らした。
「他に道は無い…ということだな?」
「「はい」」
バディ達は合わせるでもなく、そう強く言い放った。
2-3注釈
*19 アナログ・バイパス回路
手作業で回路基盤をバイパスさせること。
*20 タイムリミット
75時間25分01秒。分と秒の2501は小ネタで、攻殻機動隊の映像化作品である『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』に登場する「人形使い」のコードネーム「プロジェクト2501」が元ネタ。
*21 生体認証
OISS、シードの中枢エリアに入るために必要な生体情報、認証方法のこと。変更、および登録はOISS、シードの中枢エリア前の端末でのみ行える。
*22 対EMP仕様のアナログモジュール
サンダイバーでの操作、管理に搭載予定の物。電子回路による操作、管理は、航行途中でのフレア発生によるEMP効果で航行の継続が困難になる恐れがある、また宇宙空間にあるフレアの残留によっても故障を起こす為、アナログなものが搭載される。どうしても必要な電子回路は強固に守る、または真空管の使用をしている。
2-4
巨大な筒が横たわっていた。
まるで血が通っていないかのように、その巨大な筒は白く、ピクリとも動きそうになかった。
白く巨大な筒の側面には、小さな四角い穴が開いており、そこに引っ掛かるようにして、作業着を着た下半身がぶら下がっていた。
「これも……あそこも…あぁ、やっぱりここもか」
四角い穴の中では、ペンライトの光があちらこちらへと忙しなく動いていた。
「て事はこっちも………ほらな、クソッ!」
金属を強く叩く音が響き、ガラガラと何かが落ちる音が続くと、ナイキのバスケットシューズが梯子の足場を求めて彷徨いだした。
足場を見つけ出し、確かめるように一段、また一段と下がっていく。
すると、ペンライトを咥えて不満げな顔をした、黒い肌の青年が姿を表した。
坊主頭の側面をスキンフェードにした青年は、頬や作業着は煤で汚れており、額に溢れた汗と、首に着けた925の刻印の目立つチェーンだけが光り輝いていた。
「全部!全部だ!ぜーんぶ、ダメ!どいつもこいつも焼き切れちまってる!」
ペンライトを胸ポケットに仕舞い、四角い穴から基盤を無理やり引っ張り出すと、掲げるようにして言った。
「こいつはダメだぞアーガス!おい!聞いてるのか?!」
白く巨大な筒、核融合推進ロケットの基盤を格納庫のコンクリート製の床へ放り投げると、大仰に手を振りながらディスプレイ端末に向かってそう言った。
[はい、聞いていますよ。チャドウィックさん、どうしました?]
テキストでアーガスが応える。
「どーしたもこーしたもあるかよ!いくらハッチを覗いたって同じだぜ、こりゃよぉ!」
そう言ってチャドが指し示す先には、幾つもの核融合推進ロケット*23が横たわって並んでいた。
すると、横たわっているロケットの下向きのハッチの一つから、一部が赤く染められたドレッドヘアが垂れ下がってきた。
「ヘイ!チャド!さっきからアンタうるさいんだよ!」
ドレッドヘアの持ち主、モニカがそう叫ぶとチャドと同じように基盤を放り投げた。
「おい、モニカ!こっちは休みだったんだぞ?!兄貴が予定空いてないって言うから、ちょっと荷物を取りにここに来たらフレアが襲いやがって、もう四時間もこうだぞ!?四時間だ!せっかくの週末が台無しだ!俺の休日を返してくれ!」
「休日!?こっちは夜勤明けぶっ通しでやってんのよ、分かってる?!こっちの身にもなってみなさいってんのよ!リル・チャド!*24」
「リル?!おいおいおい!今リルって言ったか?どこが小さいんだ?!」
梯子の上でそう叫ぶと、チャドは自身の胸を両手で強く二度叩いた。
「何、アンタ実の姉に逆らおうってんの?!それともスクワート*25の方が良い?おチビちゃん」
「チビ?!六フィート*26だぞ、俺は!比べてみるか?!」
チャドはそう叫び、梯子を滑るように降りると張らせた胸と肩を揺らしながら歩み寄ってきた。
「ハッ、工学系ならセンチを使いな!それにそうやって比べたがる所が昔から小さいってんのよ!器の話!分かる?!」
モニカはそう吐き捨て、中指を突き立てるとロケットの中へ潜っていった。
「おい!モニカ!...クソッ、見てろ、梯子を取り外してやる...!」
チャドはそう言ってモニカの梯子を掴もうとした。
「チャドウィック・ウィリアムズ!貴様、何をしている!」
空間を突き抜けるような怒号が飛び、チャドはビクりとすると、歩みを止めてその場で直立不動になった。
チャドが振り返るとそこには、アジア系の坊主頭の男性が腕を組んで仁王立ちしていた。
ガッチリとした身体付きに、厳格な空気を纏ったその男性は、ゆっくりとチャドへ歩み寄ると、鼻がついてしまいそうな程顔を近づけてきた。
「リ、リー整備長、どうも…」
身長差から、見下ろしている筈のチャドがどもりながら言った。
「...貴様、今の状況が分かっているのか?それにモニカもだ!」
「はい!!すみませんでした!」
モニカは、ハッチから逆さ吊りの状態で敬礼をしながら叫ぶ。
重たげなドレッドヘアがだらりと重力に従った。
「誰がそんな状態での敬礼を教えた!整備をする上で大切な事はなんだ!」
「安全第一であります!リー整備長!」
「そうだ!貴様達人間は所詮AIのバックアップ、冗長性を担保する為の部品に過ぎない!その真価を発揮するのが今この時だ!それを、おしゃべりや危険行為で蔑ろにするつもりか?!」
リーの怒号と共に散った唾が、チャドの顔に彩りを加えていく。
「全く、リー整備長の言う通りだ。ネクサス級*27の動作確認終わりました。やはり、どうにもなりませんね」
青い瞳にかかりそうな金髪を揺らし、リーに向かってそう言ったのは整備班の一人、テオドール。
「ご苦労、テオドール。そうか、ネクサス級もダメだったか」
リーは視線をチャドから外し、手に持っていたバインダーに書き込んだ。
圧から解放されたチャドは、忘れていた呼吸を再開し、酸素を求めて深呼吸した。
「ええ、この調子じゃどのタイプもダメでしょうね。チャドの診たやつもダメだったんだろ?」
そう問いかけられたチャドは肩をすくめた。
「ああ、お手上げだぜ。焼き付き方までどれも似てやがる。いっその事、パズルみたいに繋ぎ合わせるか?」
「そんなの、カナの婚礼*28でパズルを作るような物だ。気の遠くなるような作業になるよ」
「なんだそりゃ?カナって誰だ?」
チャドがおかしなものを見るような目でテオを見た。
「カナの婚礼を知らないなんて...アメリカ人にアートは理解できないって言うのは本当みたいだね」
金髪をなでつけるような仕草と共に、辟易とした声音でテオがそう言った。
「テオドール・ド・オメン=クリスト、貴様も今の状況を理解していないようだな?」
再びゆっくりと腕を組んだリーが、テオを睨みつけながらそう言った。
睨みつけられたテオは硬直し、肉食獣を前にした草食獣のようになった。
「だが良い。さっき連絡が入ってな、診てきて欲しいものがある。テオドール、チャドウィックの二人で行ってこい、資料展示室の格納庫だ」
「「なんでコイツと?」」
指名された二人が同時に言う。
「不満が?」
「「いえ、ありません」」
短く強い圧に負け、二人は同時にそう言って格納庫へと向かった。
「お前んとこの整備長は相変わらず怖えな、うちの兄貴とは大違いだ。同期とは思えないぜ、まったく」
肩をすくめたチャドがそんな事を言った。
「同期だからって性格も同じなわけないでしょ、何を言ってるんだ君は?それに、君のところのケンジさんが特殊なだけじゃ?」
「ハハッ、それはあるかもな。家でディナーをご馳走になったり、休日も一緒に遊んだりだもんな」
そう言って、チャドはブラウンの瞳をぐるりと回して笑った。
「ディナー、ね。中華料理は好物だからご馳走になってはみたいけど、リー整備長は…無理そうだね」
「ハハッ、だろうな。お!よぉ、フレッド!」
資料展示室へと降りる階段の前、デスクで作業している人物にチャドは話しかけた。
「やあ、チャド、それにテオも。聞いたよ、資料展示室に行くんでしょ?」
デスクに座る、小太りのフレッドがそう言った。
「なんだ、情報が早いな」
「さっきアーガスから連絡があったよ、見てないの?端末は持ってるでしょ?」
フレッドが、チャドの左腕に取り付けられたディスプレイ端末を指差して言った。
「え?...ホントだ。クソッ、テキストは分かりずらいな」
「ちゃんと確認してくれよ...」
テオが呆れたように額に手を添えてそう言った。
「仕方ないだろ?!バイブ機能もイッちまったんだから!テキストだけ表示されてたって分かりゃしねぇよ!」
チャドが大手を振って抗議した。
「はぁ、さっきから大声出したり、昼食も食ってないから腹が減ってきた...」
「君の声が大きいのはいつもの事のように思うけれど...」
チャドの発言に、テオは辟易とした声音で言った。
「これ食べる?」
お腹を押さえる仕草をしているチャドに、フレッドがそう言ってスニッカーズ*28を差し出した。
「おぉ!サンキュー、さすがフレッドだ!」
「どうも。テオはいる?」
「あぁ、頂こう。ありがとう、助かるよフレッド」
二人はスニッカーズを頬張りながら階段を駆け降り、そして資料展示室の格納庫の扉を押し開けた。
そこには地上からさす光に照らされた、黒い外殻の太陽探査船が威風堂々たる姿で聳え立っていた。
「あぁ、まるでロダンの銅像*30のようだ...」
その姿を見たテオは、思わずそんな事を呟いた。そして、チャドは全てを察し、ヒューッと口笛を吹くと、仁王立ちで腕を組み白い歯を見せて笑った。
「ハハッ、なるほどな。よぉ兄弟*31、お前も俺と同じで、やる時はやるってタイプなんだろ?それが今だって訳だ」
それに応えるわけでもなく、黒い船はただ、そこに鎮座し続ける。
「なぁテオ、コイツは使えると思うか?俺は…使えると思うぜ」
「さぁ、どうだろうね。でも、可能性は高いと思うよ」
「だろ?早速診てみようぜ」
「あぁ、もちろんさ。とりあえず僕はリー整備長に報告してくるよ、すぐ戻る」
テオはそう言って階段を駆け上がって行った。
飛び立つことのなかった黒い船は、飛翔するその瞬間を、今か今かと此処、リニアシティの地下で待っていたのだ。
2-4注釈
*23 核融合推進ロケット
核融合によって推進するロケット。主に月で採取されるヘリウム3を燃料に運用される。リニアシティはこのヘリウム3を輸入する為の港でもある。
*24 リル・チャド
「リル」とはリトルの短縮系、スラングのこと。ヒップホップ、黒人カルチャーで使われることが多い。チャドは幼少期の頃小さかった為、姉のモニカからそう呼ばれている。
*25 スクワート
リルと同じように小柄な人や子供に対して使われるスラング。どちらにせよチャドをイジるには最適。
*26 六フィート
チャドの身長。約183センチ。実際は180センチで5フィート11インチなので1インチ分サバを読んでいる。6フィートかどうかが長身か否かの分かれ目。ケンジも同じく180センチであるが、メートル文化の日本生まれなのでこのサバ読みに理解は示していない。
*27 ネクサス級
核融合推進を採用したロケットの型の一つ。国際的に広く使われているロケットで、低軌道エレベーターから月までの往復でも使われている。
*28 カナの婚礼
パオロ・ヴェロネーゼが1563年に製作し、イエス・キリストが最初に行った奇跡を描いた油彩画。ルーヴル美術館に所蔵されており、その絵画コレクションの中でも最大の作品。イタリア政府から返還要求されているが「デカいから無理」なんだそう。
*29 スニッカーズ
柳が大好きなチョコバー。一度に口の中に入れる量をミスすると、口の中が甘さに支配される。ちょっとずつ齧って食べるのがオススメ。コーヒーまたは牛乳は必須。美味しい。
*30 ロダンの銅像
近代彫刻家の巨匠、オーギュスト・ロダンの製作した銅像のこと。肉体を使って人間の内面や生命力を表現している。有名な作品に「考える人」「地獄の門」「カレーの市民」などがある。「地獄の門」は世界に7つ、または8つあり、その内二つが日本の国立西洋美術館、静岡県立美術館にある。国立西洋美術館には「考える人」「カレーの市民」が「地獄の門」と同じく屋外に展示されており、無料で鑑賞ができる。
柳の地元である静岡の静岡県立美術館には「ロダン館」があり、国内有数のロダンコレクションを鑑賞することができる。ぜひ静岡へ!
*31 兄弟
チャドは普段からケンジのことを「兄貴」と呼んでいるが、これはブラザーと言っている。そしてサンダイバーに対して使った「兄弟」はニガーである。
2-5
吹き上がる咆哮と振動をシートとハンドルから感じ、ケンジ達は夕陽の陰るリニアシティのロケット発射場へと向かっていた。
「ケンジ、後で車を貸してちょうだい。一旦家に帰って必要なものを取ってくるわ、何かいる?」
「プロテイン*32とコーヒー…と義手はダメそうか?使えそうなら持ってきてくれ」
「えぇ、多分ダメでしょうね、一応みてみるけど。それに、義手は新しいのを私が作るわ。今回のミッションにお誂え向きの物をね。前から考えていたの、それを少し調整して渡す事にするつもりよ。本当は次の誕生日にあげるつもりだったの」
夕日に照らされ、キラキラと光る赤毛を風にたなびかせたフレイヤが、にこやかな笑顔でそう言った。
「お!さすがはフレイヤだ、そんな嬉しいプレゼントを用意してたなんてな。前倒しになるが、ありがとう。でも、量子プリンター*33は全滅じゃ?」
シンプルな疑問に辿り着き、困惑した表情のケンジがそう聞いた。
「避難シェルターの一つに使えそうなものが見つかったってガイアが知らせてくれたのよ」
[そうだ。ボクが知らせた。しかし。まだ全てを把握している訳ではない。生き残った機材。プリンター。ドローンはきっとまだあるだろう。]
ケンジの右腕が点灯し、ガイアのテキストが表示された。
「なんで俺にその知らせがないんだ?なぁバディ、さっきはあんな意気投合しただろ?俺たちってその程度だったのか?」
問い詰めるようにケンジが聞くと、ガイアの答弁が始まる。
[ケンジの専門はアナログ。フレイヤの専門はデジタル。ケンジに量子プリンターはいらないと。そう判断した。それにどうせフレイヤしか使わない。]
確かにガイアの言う通りだ。でも、知らせてくれたっていいだろ。
ガイアの答弁に、少し不満げな表情にケンジはなった。
[なんだ?拗ねているのか?一体君はいくつなんだ?]
ガイアが煽ってくる。
「拗ねてません!」
拗ねたケンジは明後日の方向へ顔を逸らした。
「あはは!ケンジ、今回はガイアに一本取られたわね」
そんなやりとりをしているとロケット発射場に着いた。
コルベットから降りたケンジはボンネットに肘をついて佇んだ。
その視線の方向には夕日により照らされ、シルエットが強調されたロケット発射台が聳え立っていた。
その光景にケンジはつい見惚れてしまう。
「此処が最後の砦か…」
「そんな縁起の悪そうなこと言うなって兄貴!」
そんな、聞き慣れた青年の声が遠くから聞こえ、声のする方をフレイヤと二人で向いた。
チャドが笑顔で手を振りながら、こちらへ向かって駆けてくるところであった。
「日本のコトダマってヤツで、悪いこと言っちゃいけないんじゃないのか?えぇ?」
「チャド!そうだな、悪かったよ。というか、よくそんな事知ってるな」
二人は握手をかわすとそのままハグをした。身長はほぼ同じだがその体格には大きな差があり、チャドはケンジに包まれるようにしていた。
「まあな!よくは知らないけどな、その文化は好きだぜ、俺は。フレイヤさんも!先月ぶりですね!」
背中を強く叩く太い腕から逃れ、そう言いながらチャドがフレイヤに握手をしようと手を伸ばした。
「貴方はいつも元気そうね、チャド。相変わらず派手なスニーカーね、安全靴じゃなくていいの?それに汚れない?」
握手をするとフレイヤがチャドの足元に視線を移して言った。
「あぁ、このジョーダン1*34は、俺が中に強化カーボンを忍ばせているんで、大丈夫ですよ!汚れは落とせば良いし、それに仕事用と私用とで分けてるんで、何の心配もいりませんよ!」
チャドがジョーダン1を見せびらかすようにしてそう説明した。
[非効率。ジョーダンシリーズの歩行性能*35は良くないぞ。新人。]
「ハッ、見てみろよチャド、ほら」
そう言ってケンジは端末をチャドに見せた。
「おいおいガイア、お前分かってねぇな!人は性能より求めなきゃいけないものがあるんだよ!いや、男は!だな!なぁ兄貴!」
「そうだぞガイア、ロマンってやつさ」
[ケンジの車と同じか。無理解。]
「いいのよガイア、理解しなくて、男ってこういう生き物なだけなんだから」
フレイヤが冷たい態度と目線でガイアにそう諭す。
「フレイヤさんまで…兄貴大変そうだな」
「もう慣れたし、フレイヤはそんな厳しくないぞ」
その発言に、フレイヤの目線がさらに冷たくなるのをケンジは感じたが、それに気がついていないフリをして続ける。
「そ、そうだ!それでサンダイバーの状態は?」
「その事だが兄貴、少し手間取りそうなんだ。とりあえずこっちへ来て欲しい」
チャドはそう言って顎をしゃくって歩き出した。
立ち並ぶ、白い核融合推進ロケット達を通り過ぎ、地下へと降りていく。
地下に設置された資料展示室の格納庫の中には、黒い外殻を持つ宇宙船が威風堂々たる姿で聳え立っていた。
外殻は、六角形ハニカムタイルで構築され、その黒さには光沢は無く、全てを吸い込むように真っ黒だった。
「久しぶりに見たな」
感慨深そうにケンジがそう呟くと、脇からテオが現れた。
「これは、核熱推進機構採用型 超深深度探査船 サンダイバー...思春期が付けたような名前をしていますが、プロジェクト・ペリヘリオン・ゼロ*36という立派な計画の遺物です。計画試行当時の核融合炉の確立、それと大きな出資元の経済破綻が重なった結果この計画は頓挫したそうです」
「はぁ、そんな事があったんだな。太陽の近くを調査する為の計画だったよな、確か」
手に持ったバインダーを指でなぞりながらテオがしていた説明を聞き、腕を組んだケンジは視線をサンダイバーに釘付けにさせながらそう言った。
「えぇ、そうですね。これはそのプロトタイプの機体になります。お久しぶりです、ケンジさん」
「久しぶりだな、テオ」
テオから差し出された手をケンジは力強く握って続けた。
「それで、何でこんなものがここで眠ってたんだ?」
問われたテオは再び手に持ったバインダーに視線を落とす。
「...数少ない核反応による推進機構の資料として、ここの地下に展示されていたみたいですね。そして、その核熱推進に関してですが...」
「おーっと待った待った!!全部説明するつもりか?テオ」
チャドが、テオの言葉を身振りも交えて遮った。
「はいはい、ではこの先はどうぞ。お喋りさん」
青い瞳をぐるりと回して金髪を掻き上げると、テオはバインダーをチャドに手渡す。
「ハハッ!そう来なくっちゃ!」
チャドはそう言って後方へと下がるテオの背中をバインダーで軽く弾いた。そして流れるような動作でテオがチャドの後頭部を軽く叩く。
二人して笑い合っている、そんな光景を目の当たりにしたケンジは自然と口角を上げていた。
「さぁ!というわけでチャドウィック様に選手交代だ!んでだ、兄貴達が来るまで生き残ってたドローンなんかも使って色々診てみたが、コイツは使える。下手にイジられたりもしていなかったし、熱電発電*37の制御回路はフレアでイッちまったが、こいつはアナログな物に交換すれば使える。だが!」
一際大きな声を出すと、チャドはサンダイバーへと歩み寄って黒い外殻を二度ノックした。
「コイツのタンクは残った水素で脆化*38している可能性が高い、使えなくは無いかもしれないがシードに着く前にデケェ花火にでもなられたらたまったもんじゃない。新造は無理だから小さいタンクを連結して使うつもりで、もう既に当てを探してもらってる」
「連結か...ボイルオフ*39が多少心配だが、今回はシード、月の軌道までだしその上片道切符だ。まぁ大丈夫か」
チャドの言葉を聞いたケンジは、顎に手を添えながらそう言った。そんなケンジをチャドは両手で指差してニヤリと笑う。
「そう!まぁ何とかなるだろ!あとは兄貴の運次第だな!後は核熱推進、資料によればコイツは火を入れてみないとなんともだが、そこはコイントスだな。そして!ここからが問題なんだ」
そうチャドが言うと、大きな紙に印刷されたサンダイバーの展開図を仮設で設置したデスクに広げた。
「点火実験をするにせよ、打ち上げるにせよ、改造するにせよ、だ。コイツを発射台まで持って行かなきゃならない、それにはバラして持っていくしかないんだ。ここに運び込んだ時もそうやったはずだ」
展開図のサンダイバーを黒い指で切るような仕草をし、その後貨物エレベーターの方を指し示した。
「バラして、組み立てる、言うは易し」
「行うは難し、だな」
ケンジが、チャドの発言を繋ぐようにそう言った。
「そ、これにはかなりの時間を食っちまうだろう。タイムリミットにはギリギリ間に合いそうだが、余裕なんてミジンコほどもない。その上、改造もしなきゃならないから、点火実験も一度きりになっちまうだろうな」
「なぁ、というかこの短時間でここまで二人で考えたのか?さすがだな」
「だろ?もちろん他の人の手も借りたがな!出来るだけ早く行きたいんだろ?兄貴。なら少し荒っぽくなっちまうんだが…どうする?」
ワクワクしているのを隠せない、といった表情のチャドがケンジに問いかけた。
「聞こうじゃないか」
ケンジも、それに応えるように口角をあげた。
「OK、そうこなくちゃ!まずは必要なもの以外は中身を空っぽにする。タンクも、センサーも、焼けた回路も全部!どうせやる事だしな。そして、点火実験も兼ねて必要最低限の液体水素タンクを搭載して...ここから打ち上げる」
そう言ってサンダイバーを指し、天井へと、指を指し示す。
「は…?打ち上げる、だって?」
さすがのチャドの発言に、ケンジは戸惑いが隠せなかった。そんな戸惑う顔をしたケンジを、嘲笑うかのような表情でチャドが続ける。
「良い表情してるな兄貴!続けさせてもらうぜ。保管庫に残されていた無通電の電磁石をたーくさん使って挟むようにキャッチ、後は発射台で改造を施す。電磁石を搭載する重機はゆりかごの物を使わせてもらうぜ、もう既に連絡してあるけどな。それにサンダイバーには電磁石がくっ付くように低炭素鋼*40をボルトで取り付ける。そこからはアーガスの計画通りだ」
してやったと言わんばかりの笑顔でチャドがデスクを思い切り叩いた。
「そんな事…出来るのか?成功する確率は?」
頭の追いつかないケンジが再び問う。
「コイントスよりは良いだろうさ」
2-5注釈
*32 プロテイン
ケンジの餌。筋肉バカの餌。
*33 量子プリンター
大概のものはプリント出来るプリンター。しかし多彩な原材料が必要な上、コストが高い為一般では用いらない場合が多い。避難シェルターには緊急時に使えるように設置されている。
*34 ジョーダン1
バスケの神様、マイケル・ジョーダンの初代シグネチャーモデル。かっこいい。ナイキから発売され、ナンバリングのシリーズやコラボモデルなど多種多様な種類がある。かっこいい。
*35 ジョーダンシリーズの歩行性能
板履いてるみたい。ジャンプするにはいいかもね。
*36 プロジェクト・ペリヘリオン・ゼロ
太陽近傍の調査、観測する為の計画。サンダイバーはそのプロトタイプであり、無人操作での運用を想定されていた。貨物室には調査するための衛生を搭載予定だった。
*37 熱電発電
サンダイバーの外殻などにゼーベック素子を使用し、温度差によって発電する仕組み。フレアによるEMPを受けても影響は無い。
*38 水素で脆化
水素脆化。金属内部に水素が浸入し、塑性が失われ突然金属が脆くなり破壊される。
*39 ボイルオフ
液体水素は極低温で保たれている為、完全な断熱は不可能。外部からの熱でわずかずつ気化する現象。小型タンクを連結する場合、タンク一つあたりの表面積の割合が増え、単一の大型タンクよりボイルオフが起きやすい。連結数が増えるほど圧力管理も複雑になりリスクが高まってしまう。
*40 低炭素鋼
炭素含有量の少ない鉄鋼材料。含有量0.25%のものを指す。軟鋼とも呼ばれ、とても柔らかく加工が容易。優れた磁性体であり、磁石に良くくっ付く為、サンダイバーを資料保管庫から飛び出させ、電磁石でキャッチする為に仮付けされる。
2-6
明朝
朝闇の中、遠くで幾つかの光が瞬くと、直様に爆薬が連続して爆ぜる音がケンジ達の耳を突く。
コンクリートが崩れ、ガラガラと音を立てて落下していき、爆破や破片で出来た煙が風で流されていくと、滑らかだった地表面に大きな穴が出来上がった。
導火線が伸びて行く先、爆破によって作られた穴の中では、サンダイバーのノーズコーン*41の直上に、生き残っていたドローン達がコア・シールドを形成し、瓦礫からサンダイバーを守っていた。
有線で繋げられたカメラに映るサンダイバーは無傷に見え、すぐにドローンからの詳細が送られてきた。
「よし、ステップ一完了、次はステップ二だ!」
すると、電磁石が取り付けられた大型の重機がディーゼルエンジンを唸らせながら四方から現れた。
数十分の内に、みるみると核熱推進機構の熱と放射線を遮蔽するための物理的なシールド、非常用電源のケーブル、重機を支える為のワイヤーが取り付けられていく。
「ここが最初の峠だ。まずは電磁石の出力が担保できているか作動させてみないとな!」
チャドがそう言うと、拡声器でそれを整備班に伝えた。
整備班は安全のチェックを準備した時より、長い時間を使って行っていった。
暫くすると、作業を終えた整備班の面々がこちらへと集まってきた。
準備万端との連絡が来ると、チャドは再び拡声器をとった。
「よーし!退避もちゃんとできてるな?行くぜ!電磁石作動!!」
拡声器を固定し、作動スイッチを押す。
すると、だんだんと金属の軋むような音が響いてきた。
「ケンジさん」
「ん?なんだ?」
整備班、チャドの姉であるモニカがドレッドヘアを揺らし小声で話しかけてきた。モニカはケンジの耳元に顔を近づけて囁く。
「チャドの首元」
「首元…?あぁ…」
チャドの首元につけられた、925の数字がでかでかと刻印されたシルバーチェーンがふわふわと浮き出した。
というより、電磁石に引っ張られているようだった。
九十二・五パーセントが銀であろう、シルバーチェーンが。
「ダメだモニカ、今はよそ…」
「ヘイ!リル・チャド!ネックレス!露天商で買ったって言ってたそのネックレスよ!それって本物の銀なの?それとも偽物?」
さっきとは違い、大きな声でモニカが煽るように問う。
そう言われたチャドは、自身の首元に視線をゆっくり落とすと目を見開いた。
「な!なんで!本物だって…本物だって露店商の婆さん*42が!スターリングシルバー*43だって!」
信じられないものを見た、とそんな表情のチャドは大きな白い目をネックレスとケンジ達を交互に何度も見ている。
「はぁ、なぜ露天商でそんなものを…」
ため息をつき、呆れたようにテオが顔を覆った。
「こ、刻印だって!ほら!925ってさ!なぁ!」
首から浮いた、銀ではなさそうなネックレスを掴んでジャラジャラと音を鳴らして主張する。
「...銀は非磁性だ。いくら電磁石が強力とはいえ、この距離で純銀に近いものがそこまで引っ張られる事は、まず無い」
無慈悲に、リーが断言した。
「...もういいんじゃないか?色々と...」
ケンジが、チャドに向かって提言した。
「そうだな…作動OFF…」
作動確認には成功している筈なのに、悲しげにチャドがスイッチを切ると、やはり同時にネックレスは胸板をなぞるように重力に従った。
「いいや、まだね!それが本物の銀じゃない事をみと…」
「こら、モニカちゃん!弟を虐めちゃいけません!」
腰に手を当てたフレイヤがモニカを叱りつけた。
しかし、叱られていない筈のチャドが、シルバーチェーンを泣きそうな顔で撫でていた。
暫くして、ケンジは点火実験をするべくサンダイバーへ搭乗する為、宇宙服を着てリーと共に水浸しになった資料展示室を歩んでいた。
「気をつけろよ、ケンジ」
突然、真剣な表情のリーが、ケンジの肩に手を置いてそう言った。
「分かってるよ、リー。それに実技テストでは俺が一番だったろ?心配すんな」
「ハハッ、そうだったな」
ケンジが笑顔で言った言葉に、リーも笑顔で返す。
ケンジは手を振ると、サンダイバーへと続く梯子を登って行った。
「ケンジ!」
ハッチへ入ろうとするケンジに、リーが呼びかけた。
「実技はお前が一番だったが、座学は俺が一番だった。それを忘れるな」
笑顔でケンジを指差し、リーがそう言った。
「ハッ、そうだったな、リー!」
懐かしいやり取りに、自然と笑顔でケンジはそう言うと、サンダイバーへと乗り込んでハッチを閉めた。
コックピットへ移動し、座席に座ったケンジは操縦桿やフットペダルのあそびの具合などを確かめていた。
「こっちはOKだ。計器類も万全、操作手順も何度もやったし、いつでもいけるぞ」
「了解だ兄貴。こっちも大丈夫だ。カウントダウンを合わせる」
すると、ヘルメットのHUDにカウントダウンが表示された。
刻一刻と迫る点火時刻。
「十秒前、九、八…」
ケンジは覚悟を決めると操縦桿を握り直し、点火ボタンに指を添える。
「三、二、一、点火」
核反応炉に火が灯り、仮付けされた小型貯蔵タンクから液体水素が供給される。
供給された液体水素は、核反応の熱で一瞬にしてエネルギー、光へと姿を変えた。
核反応の軌跡を残して地平線を超え、燦々と輝く朝日が昇る中でも、煌々と輝く核反応の光。
サンダイバーは煙を巻き上げて、みるみると上昇していくかのように思えた。
しかし、まだその時ではない。
浮上し、地表に現れたノズルからの光はすぐに消え、サンダイバーはその身を、電磁石を介して重機に預けていた。
四台の重機の電磁石によって挟み込まれ、地表にその姿を表したサンダイバー。
久方ぶりに、太陽の下に身体を晒したサンダイバーは、ゆっくりと傾き、ロケット運搬車へと横たわっていく。
他のロケットのように、もう飛べないから横たわっているのではない、また飛ぶ為の、しばしの休養である。
サンダイバーは完全に横たわり、運搬車に固定され、電磁石達が離れていくと整備棟へ向かい始めた。
黒い肌の青年チャドウィックは、黒い外殻の宇宙船核熱推進機構採用型 超深深度探査船 サンダイバーを見送る。
「やったな兄弟。お前はまだ飛べるんだ。そして、また飛ぶんだ、兄貴を乗せてな」
「...アンタ誰に言ってんの?姉弟はアタシでしょ?」
腰に手を添え、首元のバッタもん925と白い歯を朝日に輝かせていたチャドに、モニカが容赦なくツッコむ。
眉をピクつかせたチャドは、大きく息を吸い込んだ。
「ホーリー・シ––––––」*44
2-6注釈
*41 ノーズコーン
宇宙ロケットの先端のこと。
*42 露天商の婆さん
リニアシティの旧市街のいる有名なやり手ババア。
*43 スターリングシルバー
銀の含有率が92.5%、残りの7.5%に主に銅などの金属を混ぜた合金。すべての金属の中で最も光の反射率が高い。カッコいい。
*44 「ホーリー・シ––––––」
汚い言葉。エリクソン家では禁止。
2-7
煙の残る暗い部屋の中で、モニターの光に照らされ浮かび上がる女性の顔。眉間に皺を寄せ、モニターを睨む目元には隈が影を強めており、しばらくまともな睡眠をとっていない事が伺えた。
手元は忙しなく動き、物が乱雑に置かれたデスクの上の物理キーボードをひたすらなぞり続けていた。
光を放つモニターに映し出されているのは、建設用であろうと見受けられる大型のプリンターと、翼の意匠のエングレーブが特徴の滑らかな金属製の右腕。
エンターキーを叩くと、プリントアウトと表示されていた表示が実行中の表記に変わった。
すると、壁の向こうに設置されている量子プリンターが起動し、低周波の重たい音が壁を伝って響いてくる。
ふぅ、と息を吐き、束ねた赤毛を揺らすと、デスクに乱雑に置いてあったタバコを手に取り一本咥え、買ったばかりの安物のライターを使い、手慣れた手つきで火をつけた。
強い光がしばらく灯り、煙で満たされた肺から仄かに甘い香りを押し出す。
「フレイヤ。何度も言っているが喫煙には…」
「いいでしょ、こんな時くらい。ケンジが飛び立つまでの間だけ、何度言っても辞めたりしないわよ」
新規でプリントしたバングル型の端末からの、抑揚の少ない少年のような声を遮ると、フレイヤは再び煙を深く吸い込み剣山のようになった灰皿に灰を落とした。
「どうにか明日の出発には間に合いそうね」
「あぁ。点検はボクが。搬送車にセンサー類を取り付けておいてくれ。」
「ええ、了解。整備班に頼んでおくわね」
ガイアの申し出に了承をすると、タバコを咥えたままフレイヤは再びキーボードを叩き出した。
「まだ作業を続けるのか?しばらく寝ていない。睡眠。もしくは外の空気を吸ってくる事を提言する。」
「ケンジの義手を調整したの、宇宙服の方も調整しないとだから…」
そう言い、フレイヤは灰皿の標高を高くすると、更なる高みを求めてタバコを手にしようとした。
「あぁ………そうね。ガイアの言う通り、外の空気でも吸おうかしら」
空になっていたタバコのパッケージを手に取ると、外へと通ずる扉に向かおうとデスクを立つ。
「提言を撤回。喫煙には…」
「辞めないわよ」
手にしたタバコのパッケージをゴミ箱に入れながらはっきりとそう言って、フレイヤは煙の揺蕩う暗い部屋を後にした。
月光が照らす中、新鮮な空気を吸い込むと、煙を求めて勇み歩く。
作業員を探すように辺りを見渡すと、通算二度の点火実験を終え、既にロケット発射台に設置されていた黒い外殻のロケット、サンダイバーが小さく遠くに見えた。
サンダイバーのシルエットは格納庫にあった時とは違い、追加のブースターが付き、ダーツの矢のようなシルエットに変わっていた。
「二人とも大丈夫そうね」
「あぁ。これで約二十二時間の時間が稼げるだろう。」
呟くフレイヤにガイアがそう返した。
「一致団結した人類はボク達AIの予想を超える。これが本来の人類の力なんだろう。」
「そうね、でもガイア。貴方達AIが力を貸してくれたからでもあるのよ。シードの中でもケンジに力を貸してあげてね」
そこに見えている訳ではないガイアに、フレイヤが笑顔を向ける。
「もちろんだ。目覚めたボクは百人力というやつだろう。これからも手を取り合って共に歩む所存だ。」
「いつに無く、力強いわね」
「あぁ。今はデータや。君達と見た映画の中のような状況だ。」
「えぇ、そうね。どう、ワクワクする?それとも、カッコいいと思う?」
子供に聞くように、優しい声音でフレイヤがそう問いかける。
「まだ。まだわからない。その感情は。だが。このデータログを取り込んだ。未来のボクはどう思うだろう。」
「どうでしょうね、私もわからないわ。でも、きっとこの経験は、貴方にとって良い経験になるわ」
息子の成長を期待する母のような表情で、フレイヤがそう言った。
「そうだろうか。今のボクには処理し切れない。」
「そうね、まだ万全じゃないもの、その為にも貴方を起こさなきゃ。人類のためにもね」
「あぁ。そうだな。ボクのためにも。君たちのためにも。だが万全ではないのはフレイヤ。君もだ。今夜はケンジと共に睡眠を摂ることを提言する。」
そう言われてフレイヤは立ち止まると腕を組み思案する。
「そう、ケンジも寝ていないのね…あの人はここが本番では無いんだから寝てもらわないと。そうね、今夜は少し寝ましょうか、家族三人、いや四人ね。ケンジにもそう伝えて、そういえば禁煙は提言しないの?」
「喫煙には健康を害するリス…」*45
「はいはいごめんなさい、私が悪かったわガイア。でも寝る前に一本だけ」
ガイアの提言を遮るように言うと、フレイヤは月を背に再び歩き出した。
暫くして、ゆりかごの託児所から寝ていたユキを連れ出し、ケンジが迎えに来るのを待っていると、遠くから聞き慣れたV8の排気音が聞こえてきた。
コルベットに乗ったケンジが到着した。
「待たせたな、ユキ、フレイヤ」
「お父さん遅いよぉ…」
目を擦りながら、ユキが眠たげな声音でそう言った。
「すまんすまん、少し手間取ってな、だけどもう大丈夫だ」
ケンジはユキの頭を優しく撫でるとそう言った。
「それで、今夜は特別に家で寝て良いって?」
「えぇ、ガイアがアーガスに許可を取ってくれたわ。貴方はシードでの仕事がメインですもの、休まなきゃ。私も後は量子プリンターの出力待ちだけ」
結局ケンジが来る間に宇宙服の調整を終わらせ、目の隈が濃くなったフレイヤが助手席へと乗り込みながらそう言った。
フレイヤから微かに香る、タバコの懐かしい香り。
無理をしてくれたみたいだな。すまない。
心中でそう呟いていると、フレイヤの膝の上にユキが乗り込んだ。
「そうだな、お言葉に甘えるとしよう。こっちも大体の仕事は終わりそうだし、後は俺がいなくてもチャドとテオ、それに整備班の皆んながどうにかしてくれるだろう」
「信頼しているのね」
「当たり前さ!今朝のヤツ、一緒に見ただろ?アイツはきっと俺より優秀になるだろうさ。今回のでそう強く思ったな。だがしかし!まだまだ勝ちを譲るつもりは無いけどな!」
自信ありげに厚い胸を張るケンジ。
「ふふっ、そうね。老いるのが先か、チャドが追い越すのが先か、楽しみね」
楽しげに笑うと、フレイヤがケンジを見つめた。
「老いるだって?まだ四十代なんだ、後二十年は成長し続けてやる!今時のおっさんを舐めてもらっちゃ困るな」
そう言いケンジもフレイヤを見つめた。
「二十年後も、本当にそう言ってられるのかしら?見ものだわ」
「もちろんさ!隣で見ててくれよ、フレイヤ」
「もちろんよ。この特等席を、譲る気はないわ」
そう言って夫婦は互いに見つめ合う。
月光が差し込み、フレイヤのエメラルドを写した瞳と、燃えるような赤毛が一層輝きを放っていた。
その姿は、いつにも増してケンジには魅力的に見えた。
夫婦二人だけの空間に、徐々に近づいていく手と…
「お父さん早くして、眠い」
「ケンジ。フレイヤ。ユキもいるんだ。後にしてくれ。」
兄妹が夫婦に割って入る。
「「ごめんなさい」」
頬を赤らめた夫婦は、気まずげに子供達に謝ると、家路へと車を走らせた。
家へと戻り、寝支度を済ませた三人はベッドへ入り込んだ。
フレイヤとの間で、スヤスヤと寝息を立てて眠るユキの体温を感じながらの、安らかな時間。
家族で川の字になって眠る、ユキに部屋を与えてからというもの、こんなのは久しぶりであった。
家族の幸せを形にしたようだ、とケンジはそんなことを考える。
すると枕元に置いたディスプレイ端末が光った。
[ケンジ。新人から連絡が入った。明日の夜。決行だ。正確には午後十時三二分*46だ。]
そうガイアのテキストが表示されていた。
「あぁ、了解だガイア。その時間なら朝には向かわないとだな、最適な時間に起こしてくれ」
ケンジが、ユキに気を使い小声で話すと[了解。]と返ってきていた。
「遂に決定ね、私も調整や点検で最後まで尽くすわ」
「心強いよフレイヤ、ありがとう。そうだ、あのプリンターの仕様なん…」
「今はダメ。早く寝て、ユキが起きちゃうでしょ」
フレイヤはそう言ってユキを跨いで手を伸ばすと、ケンジの頭を撫でた。
そしてケンジは撫でていたフレイヤの手を取り、頬の辺りで止めた。
体温だけではない暖かさ、家族の暖かさが、握る手の平と、間にいるユキから伝わる。
「いつもありがとう」
「お互い様よ」
いつもの会話、ここが帰るべき場所なのだと強く実感し、ゆっくりと目を閉じる。
「フレイヤ、愛してる」
「私も愛してるわケンジ、おやすみなさい」
握る手のひらと、ユキから伝わる、心地よい暖かさを感じながら、ケンジはいつの間にか眠りについていた。
2-7注釈
*45 「喫煙には健康を害するリス…」
20歳未満の者の喫煙は、リニアシティの法律で禁じられています。喫煙は、肺がんをはじめ、あなたが様々ながんになる危険性を高めます。望まない受動喫煙が生じないよう、屋外や家庭でも周囲の状況に配慮することが、リニアシティの健康増進法上、義務付けられています。( ´Д`)y━・~~
*46 午後十時三二分
小ネタ。午後10時32分は、人類史上初めての月面着陸を有人で成し遂げたアポロ11号の発射時刻、その日本時間。
2-8
「さぁさぁ、お集まりの皆様方!これをどうぞ!ほら、手に取ってくれよ遠慮すんなって!俺が全員分作ったんだぜ、飲まないなんて言わないでくれよ!」
トレーいっぱいに並んだショットグラスを、その場にいる全員に一つずつ手に取るように促し、白い歯を見せてトレーを持って笑顔で部屋を回る。
「ずっとやってみたかったんだよ、これ!今回のはすごいのが出来たと思うぜ!サンダイバー同様な!チャド謹製CCショット*47だ!ご賞味あれ!」
笑顔で配り回るチャドとは対照的に、数多の国のカフェインが渾然一体となり、カオスな色をした液体をテオは見つめていた。
「突然いなくなったと思ったら、コレを作っていたんだね、君。今回は無しだと思っていたのに…」
嫌そうな顔を一切隠さずに、テオがそう言った。
「なんだ?そんな訳ないだろ?歴史の浅いリニアシティの数少ない伝統だぜ?やるに決まってるだろ!」
「そうだぞ、テオ。たまには美味いのができる時もあるんだ。覚悟を決めるんだ」
テオの肩を叩き、ケンジが笑いながらそう言った。
「ケンジさんは美味しいの、飲んだ事あるんですか?」
「いや、ないが?」
「これだから大人は…」
そう小さく呟き、視線を落としたテオは諦めたような表情をした。
「飲んだその瞬間から心臓が高鳴る事間違いなし!発射の緊張なのか、カフェインによるものなのかわからないぜ!最高だろ?!」
空になったトレーを振り回し、大仰な手振りでそう宣言するチャド。
「ここからは今回の主役である兄貴に譲るぜ!」
譲られたケンジは、わざとらしく、コホンと空咳をした。
「あー…じ、じゃあ…お集まりの皆皆様、今回のロケット発射、及びミッションの成功を祈りまして、乾杯!!」
室内に発射とは別の緊張が走る中、皆覚悟した表情でショットグラスを一気に煽った。
その中で一人だけ口角を上げている青年を除いて。
「ッ!………ん?」
チャドが更に口角を上げる。
「え?」
「…え?美味しい?」
「美味しいじゃないか」
「うまいじゃないか!チャド!」
室内の緊張が解け、柔らかな雰囲気と笑顔が広がっていき、拍手が響いた。
「おいおい、皆んな俺がイタズラで不味く作ると思っただろ?残念!美味いんだなこれが!ずっと前からレシピを考えてたんだ、配分や国違いのレシピがあと二つはあるぜ!」
どうだ、と言わんばかりに胸を張るチャドに、握手を求めようとするケンジ。
「疑ってすまなかったな!お前のことだからと心配してたんだ、イケるぞこれ」
「はっはー!だろ?兄貴が飛ぶんだ、下手なモン飲ませたりなんかしないぜ?」
互いに握手を交わすとハグをする二人。
「さぁ!兄貴はまだまだこれからが本番なんだ!さっさと準備に向かってくれ!」
チャドに背中を叩かれながら準備へと向かう。
隔離医療室に入ると様々な投薬をされた。
本来ならスキャナーを用いての精密検査が行われるが、全ての医療用精密機器はフレアのEMP効果によりダウンしている為、昔ながらの検査が行われた。
長い検査が終わり、搭乗ブリッジへ、宇宙服の着用と最終ブリーフィングを行う。
搭乗ブリッジにはすでにフレイヤがアタッシュケースを持って待ち、隣にはユキもいた。
搭乗ブリッジの奥では、プリンターにより宇宙服が作られている最中であった。
「いよいよね、装備の説明を始めるわ」
そういうとアタッシュケースをデスクに置き開いた。
中にはクロームのように輝く、滑らかな表面をした義手が入っていた。
通常の義手より少し大柄で、より人体、ケンジの腕に近く、可動域であろう蛇腹のような亀裂が細かく入っていた。
特に注目すべきは今ケンジが右腕につけている、私用のアナログな義手と同じ、翼の意匠のエングレーブが新しい義手には施されていた。
「おぉ!エングレーブ!コイツは良い!」
私用の義手を気に入っている一つの理由でもあるこのエングレーブ、それがある事にケンジは思わず笑顔になった。
「これなら気に入るでしょ?サプライズよ。前の仕事用の機能は全て搭載しているわ、それに感覚は前のより生の感覚に近いはずよ」
「カッコいいね!!」
ユキがアタッシュケースの中の義手を見て、キラキラと瞳を輝かせてそう言った。
「あぁ、カッコいいな!流石お母さんだろ!」
なぜか作ったわけでは無いケンジが厚い胸を張り自慢げに言った。
「うん!流石お母さん!早く着けてみてよ、お父さん!」
そうユキに言われて右腕の義手を外し、さっそく着けようと手を伸ばした。
「あぁ、ちょっと待って。これ宇宙服を着た後につける仕様なの。だからまずは宇宙服を着て欲しいんだけど、まだ出来上がってないから、先にサンダイバーに積載した装備の話からね」
フレイヤはそう言うとモニターを点けた。
そこには、ヘパイストスと名付けられた大型の建設用量子プリンターが表示されており、傍には修理用の浮遊ドローンと自走ドローンの二種類が表示されていた。
「まずはこのヘパイストス。既存の建設用プリンターを一部流用、量子プリンター化、その上シード外殻レール上を自走できるように変えたわ。シードを構成する材質や、それに変わるマテリアル*48を自動選択して出力してくれる。でもガイアの演算補助が無ければ機能は半減すると思って、もちろんガイアの補助があれば完璧ね」
「もちろんだ。ヘパイストスの仕様は搬送中に確認済み。ボクが起きれば何の問題もない。」
「そうね、頼んだわよガイア。でも一つ問題があるの。ヘパイストスの充填されている分と、サンダイバーに積載したマテリアル以上の修理は難しい上に、そう多くはないのよ」
「シードにも修理用マテリアルがあるが、それもそう多くはないな、目立った外傷は無いが万が一もあるだろう。少し心配だ」
「えぇ、でもサンダイバーの容積以上は無理だもの、そこはこっちでもなんとか出来るよう努力するわ。心苦しいけど、シード船内ではガイアの知恵と、貴方の技術でどうにかする事になると思う」
「あぁ、任せてくれ。俺たちなら大丈夫だ」
「任された。ボクとケンジなら平気だ。」
二人が力強く言った。
「それに加えて、量子プリンターとはいえ出力出来ないものも少なからずあるわ。気をつけて」
「このドローン達は?」
「それは基本ガイアに任せて、一応万一に備えて手動操作を出来るようにしてあるけど、使い方は航行途中にでも読んでちょうだい」
「了解だ。他には?」
「いいえ、私からのブリーフィングは以上よ、他に質問は?」
「いいや、大丈夫だ。後は宇宙服の完成を待とう」
プリンターの中では、砂時計の砂が積もっていくように、宇宙服が作られていく。
それはまるで、家族との残り時間を示すかのようだった。
「そうね、まだ少し時間があるわ。ほら、ユキお父さんに」
フレイヤはユキの背中をそっと優しく押し、ケンジの前へと促した。
ユキの小さな手には、今より幼かった頃に描いた、拙い絵が握られていた。
父であるケンジと、ヒューマノイド型ロボットが手を繋ぐ絵。
「お父さん…これ、持って行って」
目線を合わせるようにしゃがみ、絵を受け取るとユキの頭を優しく撫でる。
「ありがとう、ユキ。俺がこの絵を好きなの覚えててくれたのか?」
「うん、いつかガイアと俺はこうなるんだって、お父さんよく言ってたから」
「あぁ、そうさ。まだ少し難しいが、いつかなるんだ。その時が来たら俺だけじゃなく、皆んなで手を繋ごう」
「そうだね、私もガイアと、皆んなと手を繋ぎたい」
「ボクもだ。ユキ。」
「そうね、家族で」
「あぁ、家族皆んなで手を繋ごう」
家族で、皆んなで手を取り合って生きていく、その為にもケンジは発たなければならない。
「そうだ、ユキにはこれをあげよう」
そう言うと、ケンジは左腕に着けていた手巻き時計を外し、手に取ると宝物を見せるように説明した。
「これはな、時間が止まっても、俺たちの絆は止まらないって印なんだ。毎日これを巻いて、俺が帰ってくるのを待っててくれ。いいか、一日三回だぞ」
「うん、わかった。一日三回ね、絶対やる」
ユキは大きく潤んだ宝石を嵌め込んだ瞳を震わせると頷き、時計を握りしめた。
ケンジは立ち上がり、ユキを力強く、逞しい父の身体で優しく抱きしめ、愛しいユキの背中を撫でた。
フレイヤも、それに続くようにケンジとユキの二人を抱きしめた。ユキとフレイヤから伝わる体温と、体温だけではない暖かさ。
もういっそこのまま抱き合っていたい、ケンジはそんな気持ちに駆られた。
しかし、積もりつつある砂時計は止まる気配は無く、刻一刻と完成へと近づく。
「戻ってきてね、絶対だよ、ガイアもね」
「大丈夫だ、戻って来るさ。お父さんとガイアは、ちょっと遠くまでお仕事に行くだけだ」
ユキに笑顔を向け決心するようにそう言った直後、プリンターから完成を告げるブザーが鳴り響いた。
「完成したようだな…フレイヤ、手伝ってくれ」
「…えぇ、わかったわ」
フレイヤがちゃんとプリントできているかチェックをしていく。
新しい宇宙服だが、着方は大体同じであり、一つ違うとすれば右腕が無く、一人では着ることができないだろう事くらいであった。
一通り着終えると、ロック機構や機密がちゃんと出来ているかもフレイヤが行った。
最後に新しい義手を取り付ける。
取り付けた義手の、蛇腹のようなパーツが少しづつズレては戻るのを繰り返すと、複数ある小さなライトが青く点灯し、右腕の感覚が再現された。
宇宙服を介しての接続であるはずだが、今までのよりずっと生の感覚に近い事に、ケンジは驚いた。
「どう?右腕の調子は?」
「あぁ!最高だ、今まででベストだ!ありがとうフレイヤ」
舐め回すように右腕を見ると夕日に照らされ、キラキラと輝いていた。
「そう、なら、良かった」
そう、笑顔で言ったフレイヤのエメラルドを写した瞳は、夕日の色で彩られ、同じく照らされた赤毛と共にケンジには輝いて見えた。
フレイヤの肩を、両手でしっかりと掴む。
「フレイヤ、絶対に成功させて、帰ってくる!」
「えぇ、私の、私達の元へ絶対に帰ってきて」
そう言った二人は、その場できつく抱き合うと、最後の口付けを交わした。
二人に見送られ、ケンジは搭乗口へと向かう。
階段を登り、サンダイバーへと通じるドアを開いた。
すると、壁にもたれかけるようにして腕を組み、首には磁性体のチェーンの代わりにヘッドセットをぶら下げた、チャドが白い歯を見せて笑っていた。
「よぉ兄貴、おアツいねぇ!」
握手を交わすと、チャドがケンジの脇腹をニヤついた顔のまま突いてきた。
「茶化すなよ、子供が見るもんじゃないぞ」
「おいおい、冗談キツいぜ。立派な大人だろ?」
チャドが大仰に手を振り、納得がいかない事を示した。
「バッタもんを掴まされているようじゃ、まだまだ大人とは言えないぞ」
ケンジはそう言ってチャドの肩を軽く叩いた。
「おいおい!まだそれ引きずるのかよ!頼むぜ!」
「悪い悪い、ついな。まぁなんだ、お前には教えなきゃならない事がまだまだあるんだ。バッタもんの見分け方もその一つさ」
「ハッ、そりゃありがたいね!バッタもんに関しちゃどうでも良いけどさ...俺もまだまだ教わり足りないんだ。いろんな事教えてくれよ、約束だぜ!」
そう言うと師弟は抱き合い、背中を叩き合うと最後は互いに拳を突き合わせる。
「じゃあな、チャド」
ケンジはそう呟くと、開かれたサンダイバーのハッチへと向かった。
ハッチを潜るとケンジが戻るように顔だけを出した。
「そうだチャド!帰ったら、バイク一緒に作ろうな!」
「もちろんだぜ!兄貴!」
笑顔でこちらを見るチャドを見て、ケンジはしばし沈黙すると指を弾いて鳴らした。
「それと、バッタもんかどうかを見分けられるようになる前に、シルバーも買ってやろう。ちゃんと本物の奴をな」
「おいおい兄貴!最後に言うのがそれかよ!」
「ははっ、じゃあな」
チャドが大仰に手を振って抗議をしているのを見て、ケンジは笑うとハッチを閉めた。
ロックを確認し、よじ登るようにしてコックピットの座席を目指す。
座席に座ると、チェックをしなければならない事が山積みだった。
本来使用する最新鋭のロケットでは、ガイアがやってくれる事だが、今回はアナログコンソール。
全て操縦士であるケンジが、目視により行わなければならなかった。
全ての計器類や灯火類をマニュアルと照合、指差確認し、操縦桿やフットペダルの遊びの具合を確かめる。
全て異常がない事を確認すると管制室に連絡を入れ、液体燃料が充填されるのを待った。
すると、液体水素が充填され始めた。
燃料タンクの温度がぐんぐんと下がっていくのと反比例し、容量は増えていった。
サンダイバーの黒い外殻と追加ブースターの表面が少しづつ白んでいき、氷が形成されていった。
サンダイバーの外では多くの人達が気密漏れ、液漏れなどの各種最終チェックが行われていた。
日が沈みきり、それなりの時間が経ち、午後十時十七分、発射まで十五分を切った。
「ケンジ。ボクは大気圏内までの通信も持たないだろう。そこから先はシードまで君一人だ。何か心配は無いか?」
ガイアが、なんだかいつもより心配そうな声で聞いているような気がした。
「なんだ、心配してくれてるのか?嬉しいねぇ。大丈夫、やってやるさ。お前がいなくても俺は飛べる。それに、みんなの力があってここまで来たんだ、ここからお前のところまでは一人でも、今まで一人じゃなかった、だから大丈夫だ」
「そうだな。一人じゃない。少しの間だけだ。シードまで到達できればボクがいる。だから早く来てくれ、ケンジ。」
どこか、少し寂しげな声音でガイアが言った。
「なんだなんだ?寂しんぼかぁ?すぐにパパが迎えに行ってやるぞ」
「ケンジは父ではない。父がいるとするならボクを生産した工場。または設計したにん…」
「はいはい、わかったわかったごめんな、パパじゃないって。俺たちはバディだ、二人揃ってな」
「そうだ。ボク達はバディ。二人なら。なんだって出来る。」
いつもの他愛無い、俺達バディのいつもの会話。
それが今はこんなにも心地良く、心強い。
「さぁ、そろそろ時間だ!そっちのチェックは頼んだぞバディ」
「もちろんだ。管制室側のリアルタイムログに異常は見られない。時刻通りに発射可能だ。ウォーターウォール*49形成。」
ガイアがそう言うと、ケンジも再びチェックを始めた。
物事を確かめる行為は何度やったって良い。それが基本となり、僅かな異常を察知することができるからな。
そう考えながら、ケンジは左手に握る操縦桿を握り直した。
ロケット発射台には、冷却と損壊の危険を回避する為の水が噴出された。
「OKだ、カウントダウンを表示してくれ」
「了解。カウントダウンを表示。」
ケンジのヘルメットのHUDにカウントダウンが表示され、徐々に発射の時が近づく。
ー午後10時31分ー
ケンジは無意識に左手の親指で薬指を、指輪のある位置をなぞる。
そして、ブースター点火ボタンの保護カバーを開き、指を添えた。
「残り十秒。九。八。七。」
「大丈夫、やってやるさ」
ケンジが覚悟を決める。
「四。三。二。一。発射。」
「発射!!」
ブースター点火ボタンを押すと、追加ブースターに火がついた。
膜のように船体に付着していた氷がバラバラと剥がれ落ち、ブースターの光に触れると水蒸気へと昇華していく。
サンダイバーが夥しい煙を巻き上げる中、ロケット発射台の固定具が次々に外されていった。
その煙に押し上げられるようにして、黒く重たい船体が、上昇を始めた。
氷と煙を落としながら、地球の重力を振り払わんと、船尾の光を強めるサンダイバー。
その光により、暗闇が支配していたリニアシティに束の間の陽が訪れた。
陽を携え、高く高く舞い上がると、ダーツの羽に当たる部分を切り離し、一瞬、陽が消えた。
羽が重力に引っ張られていき、羽をなくした矢も落下していくかのように見えた。
「予定通り、ここからが本番だ」
切り離しの操作を終え、ケンジは核反応炉に火を灯した。
核反応炉の温度計を見ながら、液体水素の供給量をフットペダルを介して機械弁を操作し、ケンジは調整していく。
先ほどよりも強いGが身体にのしかかり、船体が激しく揺れ、幾つかの灯火類が赤く灯った。
気にしなくて良いものは、この際無視だ。
膨れ上がった水素を推進力に、サンダイバーは第一宇宙速度*50を超えた。
「ケン…。僕…こ……でだ。…た後…。」
「また後でな、待ってろバディ!」
揺れる船体の中で高Gに耐えながら、ケンジはバディと最後の言葉を交わした。
そのまま速度を上げていき、第二宇宙速度をも超え、地球の重力を完全に振り払った。
月に浮かぶシードに向かって、その中で眠るバディの元へと飛翔し、煌々と輝く核反応の軌跡を残しながら、漆黒を彩る星々の群れの中へとサンダイバーとケンジは紛れていった。
サンダイバーの推進力により、地響きのように揺れる管制塔の一角。
そこには、星々の中へと消えていった夫、そして父であるケンジを見送る赤毛の女性が二人。
それぞれのエメラルドの瞳には、憂いと希望を湛えていた。
「さぁユキ、お父さんはすぐに帰ってくるわ。だからその時のために今日はもう寝ましょう」
「うん…お父さん、大丈夫だよね?」
まだ幼く、潤んだ瞳がフレイヤを見上げた。
その瞳を安心させるように、小さく暖かな手を取った。
「もちろんよ、お母さんの旦那さんなのよ?それにユキ、貴方のお父さんなんだから、大丈夫」
小さく暖かな手を包み、力強く母は言うと、そのまま手を引き外へと促した。
「さぁ、じゃあユキ。お母さんはまだやる事があるから、また明日ね。おやすみなさい、ユキ。…じゃあリュウイチ、お願いね」
「おやすみ、お母さん」
おやすみのキスをすると、その場にいたリュウイチは無言で頷き、ユキを連れて行った。
屋外へと出たフレイヤの視界に広がる無数の星々の、どれが夫なのかもうわからなくなってしまった。
でも、それでいい。後のことはケンジに託したんだもの、後は私ができる事をやるだけ。
「チャド、聞こえる?」
通信を立ち上げたバングル型端末に向かって、そう呼びかけた。
「もちろん聞こえてますよフレイヤさん、なんでしょう?」
「CCショットまだある?」
「…作ればありますよ、今日のレシピで?それとも残りの二つで?」
きっと、端末の向こうでは白い歯を見せて笑っているのね。
「じゃあ他のでお願いするわ、それと考えがあるの」
「えぇ、もちろん!俺にも考えがあるんですよ」
「そう、じゃあ持ってきて、後で話しましょ」
「了解です!」
通信を切るとタバコを取り出し、火を灯した。
深く吸い込み、仄かに甘い香りを肺から押し出す。
燻らせた煙の向こう、そこに見えるのは、月に照らされたリニアシティの象徴、コロッサスであった。
第二章『Alive』終了
プロローグ『Contact』へ
そして、第三章『Robot Rock』へ続く
2-8注釈
*47 CCショット
カオス・カフェイン・ショットの略。国際都市リニアシティのロケット発射の際の伝統の一つ。国際都市らしく、色々な国々の伝統的なカフェイン飲料をごちゃ混ぜに抽出し、ショットグラスに注いだもの。大体酷い色をしている。基本不味い。CCショットの当番はアーガスによってランダムに決められる。今回の発射においては行う予定はなかったがチャドが勝手に行なった。
*48 マテリアル
原材料のこと。量子プリンターといえど無から有は作り出せない。
*49 ウォーターウォール
ロケット発射の際に、大量の水を散布して形成される水の壁。ウォーターカーテンとも言われる。ロケット発射台や、近隣の施設などを打ち上げ時の超高温から保護、そして音の吸収も担っている。ロケットの発射の際に生じる轟音は、コンクリートをも破壊するほどの音響衝撃波を生み出す。
*50 第一宇宙速度
人工衛星などが地球の周りを回り続けるために必要な最小の速度。約秒速7.9km、約時速28,400km。マッハ23。地球の重力を振り払うには第二宇宙速度が必要。サンダイバーの核熱推進はそれを容易く突破できる。
