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(創作大賞2024)大正浪漫チックな花嫁は恋する夫とお勉強がしたい【第十六話】

 私だって、藤孝様と一緒にお布団の中でお勉強したいのに。

 私も今日は、そのつもりでいた。

 少しでも可愛く見られたくておしゃれした、手触りのいい綸子りんずの袖を揉むように握りしめる。

 うーん……。
 『お勉強』となったら、あの部分・・・・に藤孝様が、このきれいな指を入れたりなさるのよね?

 私はうつむいたまま、離してしまった藤孝様の手が、所在なさげにわきわきと動いているのを見ていた。

 あの失敗した夜……藤孝様のおしべに私の血が付いているのを見て、ひどく慌てていらしたから、やっぱりこの月のモノが終わるまでは、『お勉強』は控えた方がいいわよね。
 また血が出て嫌われたくないもの。

「痛いのを心配しているのなら、大丈夫。
 きちんとまた良太郎りょうたろう先生に、習ったから」

 私の両肩に手を置いて、説得されるように、ギンギンに強い目で見つめられる。

「そ、そういう事ではなくてですね……、えっと、ごめんなさいませっ」

 どうやって言い訳したらいいか、上手く思いつかなかった私は、藤孝様の腕の中から抜け出した。

 コンコンコン

「若様、お夕食のご準備が整いました」

 ちょうどいい時に、女中が声をかけに来る。

 あぁ、よかった。

「藤孝様っ、お夕食に行きましょう。
 さぁ、今日は何かしら?」

 私はわざとらしいほど、元気よく笑いかけた。

「あぁ、そうだね……」

 頭に石でも落ちてきたような顔をして、藤孝様は立ち上がり、一緒に食堂へ向かう。

 久しぶりに、皆で食べる食事は美味しかった。

 
 あぁ、幸せだわ。
 面倒な月のモノが終わったら、きっと藤孝様と一緒に『お勉強』できるのね。

 憂鬱ゆううつだった、この数か月が、たった一言の誘いで一気に帳消しになった気がする。

 早くアレが終わりますように。

 六日ほどたって、ようやく月のモノが終わり、期待した朝がきた。

「おはようございます。藤孝様」

「櫻子さん、おはよう」

 食堂で顔を合わせた私たちは、微笑みあう。

 だけど、なんとなく藤孝様の顔色が悪いような気がする。

「藤孝様、お顔の色がすぐれませんわね」

「あぁ、ちょっと最近寝不足で……」

 そう言って、私が差し出した手をかわすように、藤孝様は右手で両方の目頭を押して、目を閉じた。

「大丈夫ですか? また試験がありますの?」

「いや試験は、ないんだけどね。
 いろいろ考えることがあって眠れなくて……。
 ありがとう、櫻子さん。 大丈夫だよ」

 再び目を開けた藤孝様は席に着き、私が苦手で飲めない珈琲コーヒーを、大人っぽく渋い顔をしてすする。

 本当に、お身体大丈夫なのかしら?
 この間の日曜日は、デパートへ一緒に行って、ダメになってしまった銘仙めいせんの代わりに反物たんものを選んでくださったけど。
 自動車の中でも、私に触れないようになさっていたから……。

 藤孝様の身体の調子も気になるが、何か気に障ることをしてしまったのだろうかと、心配になる。

 だけど、ようやく月のモノが終わった今日は!
 何が何でも、はしたないと思われても!

 絶対に一緒に『お勉強』するんだから。

「あの、藤孝様。 
 今日は、なるべく早く帰って来てくださいませね」

 銀色の車に乗り込んだ藤孝様に、寒くないようにキツネの毛皮でできた襟巻えりまき(※マフラー)を渡した。

「何かあるの?」

 襟巻きを巻いた藤孝様は、少し首をかしげる。

「あの……お帰りになりましたら申し上げますわね」

 藤孝様からも、この間お誘い頂いたんだから、きっと『お勉強』を断られることはないわよね?
 

 昼間にも、少しよそよそしい藤孝様の様子が引っかかるけれど、きっと大丈夫なはず。

 私は嬉しかった藤孝様のお誘いを心のかてに、月のモノが終わるのを待っていた。
 

 今日もおしゃれして、お出迎えしよう。
 藤孝様に、たくさん一緒に過ごしたいと思われるように、可愛く着飾るの。

「なんだろう。 じゃあ、講義が終わったらすぐに帰るようにするよ」

「本当ですの? 嬉しいっ。 
 お勉強頑張ってくださいませね。
 お気をつけて、いってらっしゃいませ」

 銀色の車が一井家の敷地を出ていくまで、手を振って見送った。

 さあ、張り切っておしゃれしましょ。

 自室であれこれと、着物や帯を出して選んでいると、ドアが鳴った。

「はい、どうぞ」

 私の返事に、女中がドアを開け、要件を言う。

「若奥様、旦那様がお呼びでございます」

 お義父とう様? 
 なんの御用ごようかしら?

 女中の後について、お義父とう様が待っているという応接間へ向かった。

「旦那様、失礼いたします。 若奥様がいらっしゃいました」

 重いドアをゆっくりと開けた女中の後ろから、応接間に入る。

「ミツさん、ありがとう」

 女中にお礼を言って、お義父とう様へ声をかけた。

「お義父とう様、お呼びですか?
 なんの御用……」

 お義父とう様の向かいに座った、お客人の顔を見て、私はビックリしてしまった。

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