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🌸わたしは母の誕生日を知らなかった

「このままじゃ大人になれない」
わたしは実家暮らしをやめた。

父は海外を拠点に仕事をしてばかりで
わたしは幼い時からいつも姉と母と3人で過ごしていた。
大きな家を建てても父はまたもや海外赴任。
姉も遠くの街にお嫁に行って私は母と二人暮らしになった。

「今日は晩ごはんたべるの?」
「早くお風呂入りなさい」
「休みだからっていつまで寝てるの」
「昨夜は本当になおちゃんとこにいたの?」
「帰ってくるまで寝れないわ」

実家暮らしだとわたしはいつまでも子供だった。

わたしはお金も稼いでる、お酒も飲める 恋人だってできた
もう何でもできる大人なのに

うっとうしくて、うるさくて、好きなことしたくて
鍵があるのに、なぜか押すと開いてしまう部屋のドアにもむかついて
母とはよく口論になった。

ある朝、母と大喧嘩をした。一方的にわたしが切れてしまったのだ。
新しくできた恋人が気に入らないらしい。
遊び人だのだまされてるだの、会ったこともないくせに。

勢いよく玄関を閉めて職場に向かい、重い足取りで帰宅した。
テーブルに並ぶ夕飯には目もくれず無視してそのまま部屋に入ると、机の上にたたんだ洗濯物が置いてあった。

下着に、タイツ、Tシャツ
きれいにたたまれた自分の服をながめながら、なんともいえない恥ずかしさがこみあげてきた。

母のもとに、ここにいては私はずっと大人にはなれない。
あのとき、そう思ったのだ。

私は、家を出た。
母ひとり、大きな家に残して。


泣きながら、アパートを飛び出した。
新しい生活は念願の一人暮らしのはずだった。
でもすぐに、恋人が転がり込んできた。

喧嘩ばかりの日々。帰らない恋人。
さみしくて切なくてわたしはふと母にあいたくなった。
電車に飛び乗り、見慣れた駅に降りる。

「はいはい、おいでよ。」

道の途中で電話をすると母はいつもの口調でそう言った。

実家に帰ると、母は冷凍庫から生協のおかずを何袋もチンしていた。
何を話していいのかわからず
母の趣味の歌の話や覚えたてのイタリア語をひたすら聞いていたら
だんだん景色が見えてきた。

テレビの横の小さなテーブルに白い花瓶に入った大きな百合の花が飾られている。そのとなりに花の絵が描かれた小さなカードがたてかけられている。

「きてくれて、ありがとうね。」

嬉しそうに笑う母の後ろにあるカレンダーが目に入った。
4月。。。今日は。。。

もう一度百合の花と姉の字で書かれたカードを見て、わたしは本当におどろいた。

今日は母の誕生日だったのだ。

母に会いたくなって、電車に飛び乗った日が母の誕生日だったということよりも、それを忘れていた自分にびっくりしたのだ。

毎年かかさず母の大好きな花をプレゼントしていた。
母の日といつもかぶるから、カーネーションじゃない花をいつも選ぶのが恒例だった。
バラや、百合、ガーベラ、チューリップ、今年は何にしようか
毎年忘れたことなんか、なかったのに。

母はこの誰もいなくなった家でひとり
誕生日を過ごすところだったのだ。

また、涙があふれた。信じられないくらい涙が出てきて
わたしは上を向いて子供のようにえんえん泣いた。

母は何も言わず、ぎゅうっと抱きしめてくれた。


「きてくれてありがとう」
母はまた同じことを言って手を振っている。

駅に着くと、その横にある花屋がしまるところだった。
わたしはあわてて、店頭に残っていた花束を手に取った。

来た道を戻るともう暗くなっていて
母のいる空間だけ明かりがともっている。

わたしは庭からそうっとまわって、縁側の上に花束を置いた。

わたしはこの日をずっと忘れないと思う。
不思議な神様のいたずらのような、思いやりのような力を感じた日だ。

最後までお読みいただきありがとうございました🌸


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