✨️【掌編】いたいのいたいのとんでいけ
鳩がいたから。
ひらりと上から舞い降りて
おしりを揺らして歩いてる。
揺れるたびきらきら七色に光るから
どうしても捕まえたかったの。
後ろからママの声がする。
鳩、意外とはやいな。
まって、まって
ゴン
石ころの地面が目の前に立った。
鳩はパタパタしたあと、横の遠くにひらりと舞い降りてる。
わたしはそれが悲しかっただけ。
「ほぉら、みなさい。痛いした?」
ママの顔で鳩が見えなくなった。
そう言われるとだんだんおでこがジンジンしてきて
悲しくて、痛くて涙がぽろぽろ出てきた。
もうすぐ声を上げようと息を吸ったとき
ママがおでこをそうっと触って
何かをつかんでそれを両手でクルクル丸めてる。
何を丸めているんだろう?
わたしはそれが気になって声を上げるのを忘れてた。
クルクル丸めた何かをまたつかんで
その手を大きく振りかざす。
「とおいお山にとんでけっっ」
何かをぶん投げた。
もう一回つかんで
「いたいのいたいのとんでけっっっ」
おでこのジンジンよりも
ママの繰り返すしぐさがおかしくて
鳩のキラキラも、悲しいのも
くしゃくしゃに丸まって
とおいお山へとんでったんだ。
暗い夜の帰り道
視界には黒い道路と交互に見える変な足。
頭のスクリーンが浮かび上がる。
やらかした。いろいろやらかして
かっこ悪いみじめな自分がいる。
あっちにはキラキラした人たちがいて、
追いつこうと追いかけても
キラキラしながら離れてく。
いたい、いたい?どこが、いたい?
おでこに手を当てる。
指先に体温と鼓動を感じて
わたしはそれを掴む。
手のひらをみつめると、冷たい風が吹いた。
もう一度掴んで腕を振りかざす。
向こうの街頭に放り投げると、
後ろからおじさんが追い抜いてった。
ちょっとおかしくなって、ぼやけた道をまっすぐ歩いた。
病室は、夜のにおいがした。
少しだけ開いた窓から
風が入れてよとカーテンをゆらす。
わたしは母の細く、乾いた手を握って
小さく上下する白いシーツを眺めていた。
静かに響く機械音がわたしをぼうっとさせる。
頭には沢山の言葉がいるくせに、口から何で出てきてくれないの。
痛い、痛いよ。お母さん。
おでこに何度も手を当てて、掴みとる。
強く握って両手で抑え込む。
丸めて丸めて、硬く丸めて
わたしは大きく振りかざす。
「いたいのいたいのとんでいけっ!」
おかしな格好で叫ぶ母がいる。
周りにかまわず、ただ私が泣かないように。
遠くへ
遠くへ
とんでいけ
痛みはまだまだ手の中に。
いたい、いたいよ、お母さん。
何度もつかんで、何度も振りかざす。
もう一度
もっと、もっと遠くへ。
風がようやく入れたか、おでこをすうっと吹き抜けた。

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