🌸あべさんと看護師さん
わたしが入院していた時のこと。
たくさんの看護師さんにお世話になったはずなのに、
名前を覚えているのはたったひとりだけだ。
その人の名前は「あべさん」。
なぜ彼女だけの名前を覚えているのだろう?
それは、彼女が仕事の合間に「自分自身」をわたしに見せてくれたから。
彼女自身に触れることで、わたしは「あべさん」という人に出会ったのだ。
「あべさん」という物語
検温、点滴、ドレーンの処置
看護師さんの仕事は本当に大変だ。
みんな手際よく業務をこなしていた。
その中で特別「あべさん」はちがった。
彼女の看護には、身近な人肌のぬくもりを感じたのだ。
業務の合間にたくさん彼女の物語を話してくれたから。
「あの薬、実は強すぎるって途中で変えてもらったんですよ。
もうわたしびっくりしちゃって。」
点滴の調整をしながら、あべさんが話し出した。
その声を聞いて、ぼんやりと思い出した。
手術後、もうろうとしている私の上で一生懸命だれかに説明している看護師さんの姿。
「ああ、あれはあべさんだったのかあ。。」
気づいた時、一生懸命な姿を想像してなんかくすぐったくなった。
「来週からコロナ病棟に行くことになって、すこし緊張してるんです。
でも、やるしかない、やりますよ。」
彼女は一人息子さんの話もしてくれた。
わたしと同じ母親として、看護師として
毎日を懸命に生きているんだなあ
私の中にじんわりと彼女の物語が広がっていった。
びっくりした
悲しかった
腹が立った
彼女のストーリーに彼女の感情をのせて
「あべさん」は私の心の中に入ってきた。
だからわたしは今でも彼女の名前を憶えているのだ。
人と出会うということ
あべさんと話したのはたったの数日だった。
この数日であべさんは、たくさん物語を話してくれた。
人は、他人のなかに物語を感じたときに
その他人を人として見るのだと思う。
あべさんを取り囲むストーリーをみたことで
わたしはあべさんという人に出会うことができたのだ。
名前を覚えていない他の看護師さんたちも、
もちろんプロフェッショナルに、一生懸命に仕事をしていた。
患者の中には、そっと放っておいてほしい人もいるだろう。
でも、術後のわたしは、不安で、痛くて、心細かった。
人肌がほしかった。
そんな時に「あべさん」という人に出会えたことは本当にありがたかったのだ。。
仕事の中にも物語を
わたしの仕事は小売業。
たくさんの人に出会う仕事だ。
でも気づけばただ業務をこなしている日々が続いていることがある。
人が人と出会うことは
自分のことばで思いを相手に伝え、
自分の物語を少しずつ織り込みながら接することだと思う。
それがどんなに短い時間だとしても
わたしも「あべさん」のように
自分の物語を少しずつ仕事に織り込みながら、人と向き合いたい。
せっかく毎日仕事をするならば
ただ作業をするのではなくて、人と人が出会う場になったらやっぱりすてきだなと思うのだ。
忙しい日々。
人はどのくらいの人と出会うのだろう。
本音を話すのも、人とかかわるのも面倒くさいと思うこともある。
一緒に働く同僚ですら、マスクの下の素顔やその人の物語を見ることができない人もいる。
でも、せっかくそこに人がいるのだ。
自分を物語って、その人の物語をきいてみたい。
たった一言でも、その人にとって忘れられないぬくもりになるかもしれないから。
わたしは「あべさん」との出会いをきっとずっと忘れないと思う。
最後までお読みいただきありがとうございました🌸
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