ヒットキャラクターの哀愁
通勤で運転する自車の中から、前の車のリアガラス近くに詰め込まれたピカチュウの群れを眺めていた。ただでさえ狭い車内空間だが、綺麗に並べられているというわけでもなく向きがバラバラで、こちらと目が合う個体の方が少ない。信号待ちの時間を利用して耳の形などを見てみるに、ピチューは交じっていない様子だ。この詰め込まれ加減だけを見ると愛玩されている、とはなかなか表現しづらいところもあるため、どちらかといえば大量発生中の獲物を駆除した帰りなのかもしれない。知らんけど。
ゲーム内ではかわいらしい姿のピカチュウだが、リアルに考えれば体毛のない、もしくはごく薄い動物というだけでなかなかの存在感がある。また『名探偵ピカチュウ』のようにもふもふの体毛があったとしても、彼らの体長は40cmあり、なおかつ分類は『ねずみポケモン』なのである。想像してみるとよろしい。古い建物や草むらから体長40センチのねずみが飛び出てくるところを。そりゃあ大量発生などしたら阿鼻叫喚だろう。しかも電気まであやつるのだから、住宅街やら繁華街やら工業地帯やらに出没したら害獣認定待ったなし、とさえ思われる。何かのはずみでレベルが上がったピカチュウが、ストレス発散にちょっとかみなり一発、それだけで辺り一帯大惨事に違いない。
しかしながらこの黄色いイキモノ、『ねずみポケモン』ではあるものの『げっ歯類』かと問われれば疑問の残るところである。現実のげっ歯類に相当するであろう他のポケモン、たとえばラッタやビッパなどと比べるとその違いは明らかで、ピカチュウの口周りをどれだけ観察してみても齧歯――必殺の前歯らしきものは見当たらない。あれか、それっぽい雰囲気だけで『ねずみ』の名を付けられたのか。世界一有名なあのマウスのように。そういえばあのマウスにも門歯がない。
あるいは、名前こそねずみであるものの分類上は別の生物の特徴を備えている、とも考えられる。トガリネズミがネズミよりむしろモグラなどに近縁なのと似た感覚だ。なんてこった、でんきタイプなのに実はモグラだったりするのか? いやしかし、生息域でわりと呑気に暮らしているピカチュウを眺めてみても、そんな大きな自己矛盾を抱えながら生きているようにはとても見えない。外見的にも、吻もなければ鉤爪もないので、かつてのモグラ目に分類されるような特徴は備わっていない。やはりピカチュウをモグラの近縁とするのはムリがある。ではポケモン図鑑に掲載された画像や種族値などから確認できる特徴から考えて、いったいどんな動物に近いといえるだろう。
長い耳を持ち、目の位置はどちらかといえば正面よりも側面寄り、そしてある程度すばしっこく……というところから考えると、最も近いのは兎形目、要はウサギではないだろうか。しかしそれでもまた問題が発生する。ウサギにはネズミと同じく門歯(前歯)があるのだ。ウサギがモチーフになっているポケモンのほとんどには特徴的な前歯が存在するのに対し、ピカチュウには存在しない。
ここでもう一度『うさぎポケモン』に着目すると、ミミロルやミミロップにはなぜか前歯がない。動画などで口を開けている状態を確認しても、やはりない。なぜか? ピカチュウとミミロルの共通点はさほど多くないと思われるが、歯に関係することであれば両者に最も関連性がありそうなのは『食事』だろう。ピカチュウは電撃で木の実を焼いて(≒柔らかくして)食べるというし、ミミロルは人間に愛玩される中で柔らかい食事を与えられる機会が多くなった、とも考えられる。なつき進化だし。つまり両者とも、柔らかい食事を摂ることによって門歯が退化していったとは考えられないだろうか。うさぎっぽいねずみ、っぽいポケモン。それがピカチュウ。いやでも、同じうさぎポケモンで火が使えるヒバニーには短いながら前歯が残っているので結局のところ空想というか妄想というか、ホントのところは知らんけど。
ともあれ二十世紀最後のヒットキャラクターと呼ばれたポケットモンスター、ちぢめてポケモン。生誕30周年を前に今や1000超を数えるポケモンたちの、特に代表的な存在であるピカチュウの、そのぬいぐるみ。詰め込まれた車のリアガラスからあらぬ方向を見つめ続ける、彼らの幸せを願わずにはいられない。
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