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『シャボン嬢』 【シロクマ文芸部】

みなさん、こんばんは。
今週のシロクマ文芸部のお題は「シャボン玉」から始まる創作です。
小牧部長、どうぞよろしくお願いいたします!

『シャボン嬢』

シャボン玉が眩しい青空に吸い込まれてゆく。
公園で無数のシャボン玉を吐き出している女性は、白髪交じりの髪をひとつに束ね、その瞳は感情を失ったグレーだった。
「シャボンおばさん、今日もいたね」
「聞こえちゃうよ・・・」
「ヤバっ」
女子高生らしい二人組は彼女を避けるように公園を横切る。

聞こえた言葉には反論の余地もない。

彼女は自分の半生を振り返っていた。
たくさんあった分岐点。
どの選択をしたのかが鮮明に思い出され、次にやってくるのは後悔だ。

 もしもあの時、安易な選択をしなければ。
 もしもお見合い結婚を受け入れていれば。
 もしも、キャリアアップなんて性に合わない高望みをしなければ。

今の私に何が残ったというのだろう。
もがいた。
でも、生活保護を受けながらのこの体たらく。
幸せだったあの頃に帰りたい。

そう思った時に蘇える記憶あった。
まだ少女の頃、両親も健在で大好きなシャボン玉を青空に向かって吹いた時、ふと、シャボン玉の中に虹色の髪をなびかせて飛ぶ少年と目が合った。
彼は少し驚いたような顔をして、隣のシャボン玉へと飛んだ。
そして辺りのシャボン玉を渡って姿を消した。

幻だったのかもしれないけれど、シャボン玉を吹いていればまた彼に会えるような気がして、公園に来てはシャボン玉を吹き続けている。
「100 均のシャボンじゃ、ダメかな・・・」
この行動自体が無意味とわかっているのに縋らずにはいられない。
そしてまた大きく息を吸って空を仰ぐ。

チラチラと瞬くうちに虹色に輝く光には見覚えがあった。
「おや?同じ人間に二度会うとは珍しい」
彼はまた驚いたようだが、今度はにっこりと笑った。
そのシャボンがはじけると、目の前には彼が立っていた。
「ねぇ、夢じゃないわよね」
あまり積極的ではない私の必死の声。
「夢かどうか決めるのは君だよ」
「じゃあ、夢にしない。私を一緒に連れて行って!」
それまでの人生で一度も言ったことのないほどのドラマチックなセリフが口をついて出た。
「ま、これも縁だね。ほら、君。もう初めて僕と出会った時の姿になっているじゃないか」
背も縮み、手のシワもないあの頃の私に戻っていた。
そして私の髪は彼と同じ虹色に変わっていた。
「もう戻れないよ」
「戻らなくていい!」
差し出された彼の手を取った瞬間、背中に羽根が生えたように体が軽くなった。

一陣の風が吹き抜けて、すべてのシャボンが弾けた。
「あれ!?シャボンおばさんは?」
女子高生達はきょとりと佇んでいた。

〈了〉

#シロクマ文芸部
#シャボン玉


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