見出し画像

「オケバトル!」 94. ゲリラライヴと楽しい音楽会


94.ゲリラライヴと楽しい音楽会


「つまりだね」
 会場全体を包んでいた大爆笑の渦が収まりかけたところで、審査委員長の長岡幹が気を取り直して状況を整理し始めた。
「Bチームは、番組が招いたゲストの学生さんを、勝手に舞台に乗せたという訳なんだね? 小太鼓のエキストラとして」
「まあ、そういうことになりますよね」
 少しでも空気を穏やかにするべく、レギュラー審査員の青井杏香が優しい口調でBチームを代弁した。
「でも、そうしなかったらBチーム、どうなっちゃってたでしょうね」
「ティンパニ奏者が自分の楽器を捨てて、小太鼓やるきゃなかったろうね」
 長岡は憮然と話に付き合う。
「そしたらティンパニに穴が空く......」
 杏香が宥めるように続けた。
「ティンパニって、オーケストラの心臓部というくらい、リズムやテンポをつかさどる重要パートなわけですし、破綻することなしに突き進んでゆくのに、特に注意が必要な今回の序曲などで果たす役割は、大きいですからね。華やかなコンサートマスターとはまた別な、指揮者の陰のサポート役として、ブレーキをかけたり、逆に巧みにリードして勢いをあおったり。たとえ音自体は楽曲上で目立たなくても要のティンパニ、抜けるわけにはいきませんよね」
 そして委員長をやんわり諭す。
「どのみち、これが最善の道だったんですよ」
「いや、そんなのはズルすぎだ」
 長岡の憤りは治まる気配知らず。
「しかも我らがスタッフに、告げ口するなと脅迫するなんて!」
「もちろんあれは有出さんの際どいジョークで、鈴音さんも調子を合わせてただけですよ」
 杏香がくすっと笑う。
「その挙げ句が、ナチの親衛隊もどきの扮装CGで、番組側から大逆襲されちゃったんですから、まあ、おあいこってことでないでしょうか」
 楽譜貼り付け事件に、ソリスト転落騒動といった、ディレクター藤野アサミによる悪質極まりない数々の仕掛けについては、これまでもバトラーらと共に振り回されてきたが、今回は謝罪などするものかと長岡は腹を据えた。
 ズルすぎる掟破りを企んだBチーム。首謀者の有出絃人がナチもどきの悪人に仕立てられた光景は、不快どころか、悪事がバレたこの期に及んでは、むしろ痛快ですらあった。
 しかも有出の、あまりに見事に決まりすぎの扮装と冷酷ぶりは、番組史上に残る名場面!
 鬼アザミの奇想天外な悪仕掛けを、今回ばかりは悔しくも認めざるを得ない長岡であった。

「ズルや脅迫、仕返しの応酬による波乱の展開となりましたが、〈泥棒かささぎ〉の演奏そのものの、AB対決の勝敗はどうなりますでしょうか」
 司会の宮永鈴音が頃合いを見計らって話を戻した。
「BはズルしたからAの勝ち」
 長岡は、まだふてくされている。
 あ〜、あえて演奏そのものって言ったんですけど......と思いながら鈴音が首を傾げるも、長岡はマイペースで話を進める。
「以前も言明したはずなんだがね。勝手に部外者乗せたら許さないって。本当なら首謀者も関係者も即刻脱落で、ズルしたチームは当然負けとなる訳だが、番組も仕返ししたってことで ——— えー、私はとんと知りませんでしたがね ———、今回は首謀者関係者の脱落、見逃すが、今後は容赦しませんからな。番組の許可なしに部外者を勝手に舞台に乗せたりしたら」
 そこまで語ってから、再び結論を言い渡した。
「ともかくBは負けね」
「岬さん? ゲスト審査員として、純粋に演奏に関しては如何でしたでしょうか?」
 司会に促され、
「あ、でも私はBチームの演奏、完璧なくらい洗練されてて、しかも迫力も満点で最高だったと思います。Aの方々は、確かに勢いとか圧倒的でしたけど、どうしても粗削りに聞こえちゃいましたし」
 ゲストの岬彩菜は一生懸命語ってから、こそっと付け足しておくのも忘れない。
「あ、小太鼓が私のオケ仲間だからって、ひいき目に見てる訳ではありませんので」
「粗削りでも、勢いとか力強さを求める聴き手が多いのは事実ではありますが」
 ゲスト審査員同様、Aチームに敬意を払い、一応は前置きをした上で青井杏香も感想を述べる。
「木管が1管編成だとか不利な状況の中でも、純粋に、原曲の本質を正確に捉えていたのは有出さん率いるBチームに違いないので、私はBに」
 司会の鈴音が話をまとめるまでもなく、多数決でBチームの勝利が決まり、客席からは安心のため息が、舞台からは諦めのため息がもれる。

「番組側の容赦なきイタズラのおかげで、逆に問答無用敗北の難を逃れたBチームでした」
 そこで長岡が審査委員長としての意地で、大きく手を挙げ待ったをかける。
「Aからは脱落2名ね。だけどBはズルの代償で、脱落4名ね」
 えーっ!? それじゃあ勝ったことにならないじゃないの! と騒ぎ出すBチーム。
「待って下さい」
 ついにズル仕掛け張本人の有出絃人が客席から立ち上がった。
「首謀者は自分で、Bの仲間は皆、事情を知らされてないので、責任は自分にあるんです。だから脱落は僕1人ってことにして頂けないでしょうか」
 CG扮装でヒドイ目に合わされても、今度ばかりは流石に低姿勢である。
「知らされてなくても知ってたはず。Bの皆さん? 一緒に舞台に乗って、一緒に演奏してて、知らぬ存ぜぬでは済まされないんですからね」
 低い声で語り、長岡は悪どい笑みを浮かべた。
「有出くん、きみへの最大の罰はだね、自分の独断掟破りのせいで、罪もない仲間が4人も犠牲になるってことなんだよ。自分だけは生き残って ——— これ、決定ね。君は生き残るの ———、針のむしろの気分を味わいたまえ」
 穏健派の青井杏香も、この決定は仕方あるまいと認め、有出絃人に向かって、どうぞ諦めてといったニュアンスを含む同情の頷きを投げかけるのであった。
 恐ろしく冷ややかな空気に便乗し、司会の宮永鈴音が静かに語り出した。
「そして次なる課題は......、楽しい課題が文書にて、既にリハーサル室に届けられています。バトラーの皆さま、どうぞお覚悟を」
 声を落として小悪魔っぽく告げつてから、ばっと明るく切り替え、波乱の「かささぎバトル」をまとめゆく。
「改めまして、ゲスト審査員の岬彩菜さんと、突然のエキストラ大役を見事にこなして下さいました金光時生さんでした! お二方とも、ありがとうございましたー!」

 ズルもせず真面目に頑張ったのに、負けをみたAチーム。
 勝ったのに、4名もの脱落を強いられたBチーム。
 誰もが複雑ながらも、若いゲストの学生2人に対し、会場は大きな拍手に包まれた。




♪ ♪ ♪    楽しい音楽会 開催  ♪ ♪ ♪


基本内容

・名曲コンサート
・土曜日14時〜 入場無料
・バトルホール(駐車場、送迎あり)
・前半45分、休憩15分、後半45分

注意事項

・全員が舞台に乗らずとも、何らかの形で貢献すればOK。
・演目、アレンジ、ジャンル自由。
・トーク付きの場合、台本は事前に宮永鈴音に。
・どちらのチームが前半か後半かは相談で。
・合同演奏は不可。但し、ソロが主体となる曲においてのソリストの貸し借りは自由。
・本日中に各チームで、街頭で配布する己の演目案内チラシを事務所のパソコンでデザインし、データを提出、必要枚数を申請のこと。申請した枚数は全て人の手に渡る形で使い切らねばならず、余分が出た際は減点される(ゴミ箱に捨ててはならない)。
「楽しい音楽会」の副題として、「軽井沢に集った演奏家有志による」と記載のこと。奏者の写真も氏名も掲載は不可。
チラシの下方 1/4 程度に、主催TV局名や代表電話番号、会場名及び地図、送迎バス時刻表などを記載するスペースを空けておくこと。
・チラシの拡大ポスターA1サイズを両チームに10枚ずつ配布するので、街中の各所に許可を得て貼らせてもらうこと。貼りきれなかった分は減点。
・明日、有志による5〜10分程度の街頭パフォーマンスを、午前と午後、計2回、指定時刻と指定場所にて、両チーム時間差で遂行し、集客に貢献すること。曲はプログラム中から選曲。
その他、個別に許可を得られた場合に限り、他所でのパフォーマンスも自由。
・入場にはチラシが必要となり、戻りチラシの数がチームの得点となる。1枚で5名まで入場可能。仲間どうしや家族連れの場合は、連れの人数分も得点に加算される。
・終演後の観客との交流は不可。本公演がバトルシリーズの一環である事実は伏せられ、奏者の名前も明かされない。
・広報活動用にチーム全員が乗車可能な、ドライバー付きバスを1台ずつ、加えて乗用車を必要数、用意する。大型楽器運搬用車両の手配はないので、街頭パフォーマンスは軽装備にて遂行のこと。
・受付、客席誘導等、ホールスタッフは全て当方にて手配する。


「え〜、何〜? 何か面倒くさいんですけど」
「まず45分のプログラム考えて、その中から路上パフォーマンスの曲選んで、集客用のチラシを作るわけね。今夜のところは」
「どうだろう? 先週みたいに、午前、午後、夜間と立て続けに1日3曲こなす課題よりは、まあ楽しそうだし、楽なんじゃないですかね」

 といった反応は、Aチーム。
 負けのせいで、今回は木管からはファゴットと、弦楽器内のくじ引きでヴァイオリンから脱落者を1名ずつ出すことになり、気まずい空気の中、何だかヤル気も失せ気味である。

 ジャンル自由なら、映画音楽とかはどうでしょう? という意見が出され、どうでも良いし面倒だから、そうしましょうと、すんなり決定。
 路上パフォーマンスは有名どころのメドレーで、音楽会では、SFとかミュージカルとか、映画のタイプごと、あるいは作曲家ごとに、メドレーを数種類用意し、後半は寸劇を交えてストーリー性を持たせるアイディアが採用される。

「上之さん、前に『海の上のピアニスト』の寸劇で、哀愁のトランペッター役、演じられたって言われてましたよね」
「海の上の......、いいですね!」
「モリコーネ! 是非やりましょうよ」
 で、後半の寸劇もすんなり決定。上之忠司のソロは、さぞかし映えるであろうと、ヤル気の出なかった面々も、段々楽しみになってくる。

「私、演劇部に居たので台本、書きます!」
「映画音楽、考えましょう!」
「あたしも! 結構詳しいんです」
「ミュージカル系ならお任せあれ」
「楽譜、探して来ます! 多分、メドレー版もあるんでないかな。わざわざアレンジしなくても」
「俺、チラシのデザインやりますよ。いつも自主開催の演奏会してるので」

 といった具合に、各々が自ら得意な役割を張り切って買って出た。
 当の上之忠司は、自分はOK出してないんだがなあ? と不思議に思いながらも、哀愁のトランペッター役にイメージを持ってゆくことにする。
「楽器店のオヤジ役、セリフだけの役者が必要。あと、できればプロレベルの腕前のピアニストが欲しいんだがな」

 となると、やはり有出絃人さん?
 彼が、海の上のピアニストになるわけね。
 って、主役? え〜、やだあ。美味しいとこ彼に持ってかれちゃうの?
 ソリストの貸し借り自由って、結局はそういうこと?
 ちょっと悔しいけど、上之さんが言われるなら。



 一方のBチームは、4名もの脱落者を強いられようと、責任を一身に被らされたリーダー有出絃人に気を遣い、落ち込みモードなんてどこ吹く風。意識して悔しさを遠ざけ、わあー、何だか楽しそう! と、皆がワクワク、無理やり気分を高めていく。

 それでも、まずは嫌なことを決めてしまわねばならない。
 4名の脱落者。
 有出絃人は審査委員長長岡の命によって、脱落は許されず。木管楽器が既に1管編成であることからも、いよいよ金管からも1名くらいは抜けてもらうしかないですね、というのが妥当な線。
 金管で残っているのは、トランペットとトロンボーンが2名ずつと、ホルンが3名。
 トロンボーンはテナーとアルト、はっきり分かれているわけだし、やはりホルンかトランペットから1名か。
 となると、Bチーム新参者である春日拭子が当然の如く、自ら脱落を立候補する。はい、拍手。
 残るは弦楽器からの3名で、小太鼓くん助っ人の提案を最初に持ちかけた多岐川勉が、責任を取るべく名乗りをあげるが、それでは今後、誰もが脱落罰を恐れて提案すらできない雰囲気になりかねないと却下。
「これで管楽器と打楽器は、ほぼ半分になったわけで、弦も同じように考えると、最初の人数から半分になるとして、この先、落とせる人数は......」
 生き残っている木管楽器の誰かが、ご丁寧に計算してくれた。
「ヴァイオリンがあと4人、ヴィオラが1人、チェロが2人、コントラバスが1人」
「その8名が落ちると、オケ全体が、ちょうど半分になるんですね?」

 コンサートマスター交代劇で、既にチームに居心地の悪くなっていたヴァイオリン女性がまず先に潔く立候補。誰も反対してくれなくて、感謝の拍手と共に脱落決定。残りの2名は、この先も活躍を期待したい、頼れる別所正道と浜野亨を除いた弦楽器全体からのくじ引きで、名もなきヴァイオリン男性と、コントラバスからは強面リーダーっぽい男性が落とさてしまう。

 気の毒な4名を拍手で手厚くお見送りしてから、さあ! 気持ちも新たに厄介な課題に取り組みますか!
 全員で相談してもごちゃごちゃになりそうだし、実行委員会に委ねては? といった意見も出て、誰が委員に? 有志にお任せ? ということで、弦からは、かろうじて脱落の難を逃れた若手の多岐川勉、脱落免除のお礼のつもりで浜野亨が名乗りを上げ、管からは、ファミリーコンサートや学校巡りなどの豊富な経験を買われたベテラン紺埜怜美が推薦される。
 有出さんも! と声がかかるが、
「僕が入ると、またしても全部仕切っちゃうことになるから、お三方に任せますよ」
 と、本人は遠慮する姿勢。実はアイディアも限りなくあるのだが、仲間の自由な発想を優先させ、自分はあくまでも演奏面での口出しに留めておく腹づもりであった。

「では私たち、リハ室の外で話し合ってますから、何か思いついたら遠慮なく言いに来て下さいね」
 と、3人は相談に入りゆく。
「思うんですけど」
 まずは多岐川勉が提案する。
「先に効果的な街頭ライヴの曲を決めちゃうってのはどうですかね?」
「確かに。いかに集客できるかが、重要ですものね」
「それに合わせて全体のプログラム決めれば」
「街頭ライヴにちょっと面白いアイディアあるんですけどね」
 更なる提案を持ちかけるトムくん。
「前に何かで見たんですよ。オーケストラの主旋律を抜いたパートから、まず1人で何気に演奏始めて、旋律がないから一般人は何の曲かよく分からないわけで、そのうち楽器が少しずつ増えてくのに、やっぱり分からない。いったい何の曲? ってな感じで引きつけて、人数やパートが増えるにつれて曲の輪郭もそのうち姿を表し、ああこの曲かあ! って、最後には主旋律もはっきり出て有名な曲の大合奏になってゆく」
「それ、面白い!」
「いいですね! 私も賛成!」
「で、何の曲でした?」
「それが、うちらオケ人にとってはすぐ分かる当たり前すぎる曲だったから、忘れちゃって」

 じゃあ、どんな曲がいいですかねえ? と、3人で、あーだこーだと考えを巡らせ、親しみやすく楽しそうということで、チャイコフスキーの〈花のワルツ〉が候補に上がる。
 となると、自動的に《くるみ割り人形》の組曲でプログラムの半分を占め、残りは、街頭ライブ同様、何の曲でしょう? と、クイズ形式で、有名曲を紹介してゆけば、楽しい音楽会になりそうですねと、大方の方向性が見出されていった。

 早速チームの皆に提案すると、一同大賛成。反対派はおらず、こんなに迅速に決まるとは! と感心しつつ、実行委員会の3人に感謝する。
 中には、えー? 真夏にくるみ割り人形? クリスマスのお話ですよね? なんて呟く輩もいたが、組曲の初演は春だったはずと誰かに言われ、あ、そうしでしたかと素直に引き下がる。

「じゃあ、他にも主旋律ナシでクイズになりそうな曲をいくつか、皆んなで知恵を出し合って下さいね。僕、ひとまず《くるみ割り人形》の楽譜、調達して来ます」
 と言うトムくん。彼らの一生懸命な様子に、有出絃人も何とか乗り気モードに切り替え、
「ハープはピアノで代用するとして、チェレスタは是非あったらいいな」
 と、一緒に地下2Fのライブラリーと楽器庫に向かうことにする。


「実は金光時生くんの連絡先、ゲットしてあるんです」
 ここでまた、多岐川勉から秘密の会話がこっそり持ちかけられる。
「彼、地元ですし、先輩の岬さんにもお願いしてもらって、集客、手伝ってもらえないかと」
「最強の助っ人になるね! それならルール違反にならないし」
「もしかしたら彼ら、まだそこいら辺でスタッフと雑談とか、インタビュー受けてたり、ラウンジでお茶してるかもですよ」
「楽譜はいいから、任せた!」
 絃人の返事を聞くまでもなく、ダッシュでエントランス方面に向かうトムくん。
「ズルではないし、掟破りでもない」
 絃人は静かに自分に言い聞かせた。

 エントランスの外に、正面駐車場に向かう2人の姿を見つけ、多岐川勉は良かった、間に合った! と心から喜んだ。明日、皆で外出した折に、公衆電話から密かに連絡が取れなくもなかったが、それでは遅いのだ。
 2人に追いつき、事情を説明する。
「ちょっと待って」
 話の途中で手を挙げて、岬彩菜がさえぎった。
「はい。時間巻き戻し」
「えっ!?」
「また反則とか言われちゃ嫌でしょ。今の話は聞かなかったことに。こちらから質問するから、あなたは答えるだけにして」
「OKです」
 すっかり感心してトムくんも了解する。彩菜は慎重に切り出した。
「次の課題って、もう決まったんですか?」
「明後日の土曜の午後、一般向けの無料演奏会の企画と、その集客の為の街頭パフォーマンスを明日、軽井沢の駅前で競い合うことに」
「演奏会は事前申込制?」
「予約も受付けるそうですが、飛び込みで大丈夫みたいです。僕たちが作って配ったチラシが入場券代わりに。チラシがより多く回収できたチームに高得点なので、路上ライヴの段階で、いっぱい集客しておかないと」
「路上ライヴの時間って決まってるんですか?」
「まだ分からないけど、各チーム時間差で」
「場所が特定されてるなら、路上ライヴ申し込むフリして、管轄の警察署に空き時間を確認すれば良いのでは? どちらのチームかは分からないとしても、僕、早速問合せてみますよ」
 言葉を選びつつの2人のやり取りに、金光時生も案を出す。
「私たち地元だし、家族や知り合いに声かけて、たくさん集めますね。路上ライヴも、演奏会にも」
「集まれど、Aチームだったらスルーするとか?」
 時生くんの配慮を、トムくんは慎重に遠慮する。
「それはちょっとAが気の毒。今回は公平に勝負したいし、気に入ったチームのチラシを持ってきてくれれば。えっと、多分僕らは〈花のワルツ〉になるかな。少し変わったスタイルの」
「駅前だけですか?」
「指定は駅前。あとは他でも許可さえ得られれば、どこでもライブOKみたいです」
「駅近ショッピングモールのフードコートに最近、街中ピアノ置かれてるみたいですよ。周囲もかなりのスペースだから、皆さんで演奏できるのでは?」
「それは助かる情報! 是非そこでもやりましょう!」
「今から一緒に下見に行ってみます?」
 彩菜のありがたき提案であったが、
「あ〜、ザンネン。僕らはバトル中、敷地内から出ちゃいけないルールでして」
 残念がるトムくん。
「脱落するまでは隔離状態。1日だけ休暇でお許しが出たけど、基本はここに缶詰めなんですよ。でも、ありがとうございます」
「それは厳しいですね」
「だから明日、街に出れるのは嬉しくて」
「駅前周辺で、ゲリラライヴかあ! 楽しみですね!」
 時生くんも、すっかり乗り気。
「ん〜、ゲリラライヴって、既に有名なアーティストが、ファンに予告ナシに強行するってニュアンスじゃなかったですかね?」
「オケバトルが放送されたら、皆さん有名人だから、いいんですよ」
「時間、早送りってことで」
 2人におだてられ、ちょい嬉しくなるも、釘はきちんと刺しておく。
「えっと、オケバトルの話とか、このパフォーマンスがバトルシリーズの一環であることは、お仲間にもまだ秘密にしといて下さいね」
「了解です!」2人の声が綺麗にハモる。

 では明日、駅前にてお会いしましょう!
 彩菜嬢運転の車に乗り込む彼ら。トムくんは心からの感謝を込めて颯爽と敬礼して見送るのだった。




95.「街角少年と花のワルツ」に続く...

 
 
★ ★ ★ 今回の脱落者 ★ ★ ★

Aチーム(2名)
生きた化石のファゴットおじさん
貧乏くじの、名もなきヴァイオリン

Bチーム(4名)
春日拭子 Tp. 新参の身分ゆえに自ら犠牲に
交代劇で気まずくなった 名もなきコンミス Vn.
貧乏くじの、名もなき Vn. & Cb.男性





いいなと思ったら応援しよう!