見出し画像

ショートショート 『忍び忍ばず夢芝居』 #シロクマ文芸部

夜中に天井裏を駆け回る、何かがいる。

忍者・・・?

忍者はあんなにドタバタしない。

ネズミだ。


忍び・・・か。


眠れない日々が続いた。

忍びはどんどんエスカレートしていき、お米の袋に穴があくようになった。


どうすればいいんだ。

睡眠不足と不安で仕事もはかどらないまま、家へと向かう。

帰宅したタイミングが良かったのか、忍びの侵入口を突き止めた。
逃げる姿は可愛らしくもあるが、やはり憎たらしい。

コラッ!
忍びめ!
とうとう年貢の納め時だ!

穴をふさいで勝利を確信した。


ドンッ・・・

コン

コンコン


ダンナ・・・

ダンナ・・・


穴の向こうから、声が聞こえる。


ダンナ

最近、仲間たちが毒のようなものでバタバタとヤラレちまっている。

あっしももう歳だ。
いつヤラレちまうか分からねぇ。
ダンナが食いもん隠すもんだから、ずっと食えてねぇし先は長くねぇ。

ダンナのおさばきを受ける前に、ひとつだけ願いを叶えてほしいんだ。

聞いてくれるかい?


忍びは話せるのか?
わたしに話しかけているのか?


まぁいい。
なんだ?話してみろ。


仲間から聞いたんですが、人間たちの世界には、人間たちがあっしたちに夢中になっている夢の国があるってぇーじゃないですか。

そんな夢の国に、死ぬ前に一度でいいから行ってみてぇ。


・・・分かった。

明日、休みだから連れて行ってやろう。


バカバカしいとは思いながらも、とりあえず虫カゴを買ってきてその中に忍びを入れた。

一人で夢の国に入るのは恥ずかしかったものの、たとえネズミだろうが誰かの最後の願いを叶えてあげられると思うと、気分が上がった。


あちこち周り、気がつけば夜のパレードまで楽しんでしまっていた。



これでいいかと尋ねると、忍びは微笑みながら頷いた。

そっと閉じた忍びの小さな目から、涙がこぼれ落ちた。


最高でしたよ・・・ダンナ

もう思い残すことはないですわぁ・・・


その言葉を最後に、もう忍びは目を覚ますことはなかった。


忍び・・・

夢の国に行ったのか・・・



今夜は眠れそうだ。



こちらの企画に参加させていただきました。
夢の国、もうずいぶんと行っていません・・・

#シロクマ文芸部


いいなと思ったら応援しよう!