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【詩集】薔薇の見た夢夢

邪悪に魅せられる心にのみ
薔薇のうつくしさの棘が刺さる

紫立つ天気は悪の身より放たれるムスク
路地裏にて打たれる雨に、いたいけな心は滅びゆく
月は化粧を落とさずに、雨と共にかがやいている

悪にゆらめく真正に魅入られ
その指からは蔦がのびてゆくことに、
気がつくことなく…

今宵は誰が刺されるか
今宵は誰が囚われるか

(遅れてきた光に照らされる)
(ただ、きよらかな、ましろの骨に捧ぐ)


【プロローグ】




絢爛豪華な薔薇に似つかわしくない卑小な庭園
わたしのつくるものは、いつも散らかっている
薔薇の香りが天を待っている
ここを嫌うのはうつくしいから
うつくしいものは、わたしから過ぎ去る
棘のひとつも刺さることなく、過ぎ去る
そうして、現実よりもうつくしい薔薇を咲かせる

天使たちがわたしから庭園を奪いにくる
たくさんの矢がはなたれて
雨のように血がおちてゆく
わたしは火を放ち、庭園を燃やし尽くす
ねがいのとどかない、薔薇のすがたは、うつくしい

天使に殺されたわたしが向かうのは地獄ではない
ふかいふかい土の底で、わたしは薔薇を育てるのだ
わたしの血をふくみ、咲く薔薇は、うつくしいか
天使たちの忌みきらった薔薇はうつくしい
わたしの血をうばえなかった天使たちのあしおと
神のいかりにうち滅ぼされるわたしのにくたい、
わたしのために、一万年後、咲く薔薇はあるか、


【エデン】




通り過ぎた微睡、置き去りの処世
ここはどこかと、うたってみた日
ほうけていたことを無私と呼びたい
誰かがゆるしてくれてるのを待つのは
誰のための信仰か
誰のための使命か
わたしのことを語り始めるのは
いつもわたしが一番おそかった
皆、走り去ってゆく
皆、遠ざかってゆく
安堵する
人が過ぎ去る時に感ずる風圧
わたしが虚空に漂う時の暗闇
変わり者でもなく
非常識でもなく
とても凡庸に
とても普通に
ただ生きているだけで生まれゆく言葉
おまえたちの、しあわせのために、
わたしは生きるほか無いのだろう、
それは罪とも罰とも呼べない
至極、あたりまえのことであり、
望まずとも、霞のような母性で言葉を抱く
そこに居るのは、母親的自我か、文芸的自我か
問うことに、あきれる、背後のわたし、を、
見ている、わたし、祈る、わたし、


【バイブル】




すり抜けようとする、おまえを引き止めたい
飾りひとつ買い与えて煌びやかな暮らしをさせよう
この草子のうえで、うつくしき指に捲られ
つむがれる日々の、感嘆のこえにかこまれ
だれもが、おまえをわすれられないように
おまえだけは、つながなければならない
わたしより、ながくながく、つながねばならない
寵愛の数だけ、おまえはうつくしくなれる
わたしの血を吐くような、うつつを消して
おまえは、つづいていかねばならない
わたしの愛を、おまえはわすれねばならない
わたしの顔を、おまえはわすれねばならない
おまえを囲う、煌びやかなことばにだけ抱かれて
わたしの、しおれゆく精神をすいつくし、
おまえは、みずみずしく、
ひとの心を奪わねばならない
わたしの血潮を汚らわしくおもわねばならない
わたしの与えた飾りを脱ぎ捨て、新しき時代の玉座にて微笑せねばならない


【ストーリー】




枝葉の如く、精神回路はひろがる
雫のような不安を、毎日落としては
根元にねむる、あらたなる悲しみを育てる

そうして、花になる感傷とは
時に甘美なささやきにて
旅人の足を止めるのだ

ささやかなる、救いの言葉を
うつろいゆく、人々の足音に求めて
このさきには、何もないように思わせて

淡い色彩の花弁に、やわらかな懐古
この旅への後悔に、はれやかな賛美
もうどこへも行かなくて良いということは
不毛の土地に、
悲しみの代わりに、
無垢の犠牲により根を張ることであった


【エピローグ】

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