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【映画批評】『エミリアペレス』意外なジャンルを組み合わせ見たことがない映画を創造、主人公の葛藤を丹念に描く。

はじめに

本作は、アカデミー賞で助演女優賞(ゾーイサルダナ)と歌曲賞を受賞した作品。鑑賞前は、ミュージカルだということと、性転換する話だという前知識だけで観に行ったが、蓋を開けてみると、リアリズムを突き詰めたドキュメンタリータッチでミュージカルをするという今までに見たことがない斬新な映画だった。

主人公は、別人に生まれ変わり、本当の自分として生きるが、今までの偽りの人生だと思ってた過去の人生が、本当の自分として生きる主人公を追いかけて、奈落の底に突き落としてしまう。

本作は、「本当の気持ちで、なりたい自分として生きることが人生においてどれだけ難しいことなのか」というテーマを、クライム、コメディ、ミュージカルなどさまざまなジャンルを交えて描いている。本作は、誰しも抱える問題なので社会に生きる人全てに届く人間賛歌だ。

物語

メキシコシティの弁護士リタは、麻薬カルテルのボスであるマニタスから「女性としての新たな人生を用意してほしい」という極秘の依頼を受ける。リタは完璧な計画を立て、マニタスが性別適合手術を受けるにあたって生じるさまざまな問題をクリアし、マニタスは無事に過去を捨てて姿を消すことに成功する。それから数年後、イギリスで新たな人生を歩んでいたリタの前に、エミリア・ペレスという女性として生きるマニタスが現れる。それをきっかけに、彼女たちの人生が再び動き出す。

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ストーリーテリング

メキシコの麻薬王マニタスは、裏社会で確固たる地位を築きながらも、「本当の自分じゃない」という葛藤を抱えていた。

「今までの自分の生き方は嘘だった。本当の自分は女なんだ」と全く別人として人生を生きたいと弁護士リタに依頼する。

主人公を助ける女性弁護士リタも葛藤を抱えていた。彼女は有能な弁護士だが、黒人の女性というだけで、男性弁護士のゴーストライターをしていた。彼女は「私はこれだけ実力があるのに実力を発揮できない、本当の自分で働きたい」という葛藤がある。そこに、麻薬カルテルのボスである主人公から、性転換の段取りを頼まれる。医者も見つけて、自分の嫁と息子たちも安全なところに住まわせるように全部やってくれと言われて、整形手術や地震や家族の偽の戸籍や住まいなどの段取りを全部行う。

主人公も弁護士も「なりたい自分になりたい」という共通の葛藤を持つ。「なりたい自分になりたいけど、人生はなかなか思い通りにはいかない」というのが本作のテーマで、映画の脚本においては、主要な登場人物が作品のテーマに即した同じ葛藤テーマを背負っていることが多い。

4年後、主人公と弁護士の二人は再会する。リタはイギリスで弁護士として確固たる地位を築いている。

そこに性転換してエミリアペリスという名前で暮らしている主人公がやってきて、「妻と子供と身分を隠した上で一緒に住みたい、その段取りをやってくれ」と頼まれる。
妻と二人の息子は、スイスでの生活にも慣れも平和に暮らしてきたのに、エミリアペレスという知らないおばさんと一緒に住まなければならない。
息子たちも最初は懐かないし、奥さんは、他の男と交際する。

メキシコにはギャングの犠牲となった行方不明者が沢山いる。エミリアペレスは、被害者家族に寄り添い、行方不明者を探したり、死体を見つける非営利の団体を立ち上げる。エミリアペリスは改心して、人のため、世のため尽くそうとする。彼女は、本当の自分として、世のため、人のために生きようと思うが、過去の自分の人生の家族を諦められなかったことで、悲劇的な最後を辿ることになる。
どうにか善人として生きようというエミリアペレスとそれに寄り添うリタ、元の奥さんとの関係性を立体的に上手に描いいていた。リタの目線を通してエミリアペレスの孤独を魅せるシナリオがよく出来ていた。

いくつかの既存のジャンルを組み合わせたことで全く新しい映画を創造

冒頭から、「こんな映画見たことがない」とドキドキした。
クライムサスペンスのようなストーリーと映像でミュージカルをするという映画はこれまで観たことがない。クライムサスペンス的な作風でありながら、登場人物の心の声をミュージカルにすることによって、暗いテーマをもうちょっと見やすいものに料理することに成功した。

映画が発明されて100年以上の歴史があるので、映画の表現手法はやり尽くされていて、ヒッチコックや黒澤明のように新しい技法を生み出すのはなかなか難しい。しかし、いくつかの映画の要素を組み合わせを新しくすることによって新しい技法を作るということはできる。今回は、本来なら明るいイメージのミュージカルを暗いクライムサスペンスの要素やリアリズムな映像と組み合わせたことで、新しい映画を誕生させ、それによってテーマが観客に刺さりやすいものとなった。

キャスティング

主人公が、男にしか見えなかったし、性転換後は全く女にしか見えなかったので、違う俳優が演じていると思っていたら、自身もトランスジェンダーの同じ俳優さんがやっていると知り驚いた。

今回、助演女優賞を受賞したゾーイソルダナも演じる弁護士の目を通して、主人公の破滅を描くという作品だったから、すごく大切な役割をうまく演じていた。

総括

自分は別人に変わったんだと言って、理想の自分として生きていくんだけれども、やっぱり人間は変わることができなかったというか、その今まで偽りだと思っていた人生の中にも大切なものがあって、その大切な家族っていう昔の人生の家族というものが、その人の生まれ変わった新たな人生というものを、やっぱりその昔の人生の家族というのが大切だと、あまりに割り切れなくて悲劇になってしまう。

自分の思い通り生きるのは生きづらい、ユング心理学によると、ありのまま生きる人間はありのまま生きることで苦悩し、自分を偽る人間は、本当の自分を見せられないことで苦悩するらしい。つまり、本当の自分として生きることは、どんなタイプの人間にとっても共通の課題なのだ。

それをミュージカルでやる。だから本当の自分にみんななりたいんだけど、本当の自分にはなれなくて、その偽り、自分として生きている人間っていうのと、社会ではどう本当の自分で裏表なく生きてるんだけど、生きられない。

クライムサスペンス、コメディ、ミュージカルなどさまざまなジャンルを超えて「観たことのない映画」を作ることに成功した傑作だ。
本作が自分らしく生きたいと願う人々に届くことを祈る。

演出☆☆☆☆
映像☆☆☆☆☆
物語☆☆☆☆☆
テーマ☆☆☆☆☆
97点

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