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静けさの奥に、火の記憶――御嶽山 王滝口より


旅の途上で立ち寄った山である。
元より予定にはなかった。だが、人生の風景というものは、こういう「予定外」がしばしば輪郭を描く。とは言え、山なので準備はしてある。

深夜、東京を発ち、まだ夜の底にあるうちに車を走らせた。
夜明けの空に背中を押されるように、田の原駐車場に辿り着いたのは5時を大きく超えた頃。
山は、すでにそこに、ただ在った。言葉もなく。ただドッシリと。

夜が明け、旅の一歩目が始まる。

御嶽山。
標高3,067メートル。
信仰と火山が共に眠る山である。
かつて噴火で多くの命が奪われたこの地には、今も複数の火山シェルターが点在しており、それを見かけるたびに「ここはただの登山道ではない」と知らされる。

祈りのかたちが、風の中で揺るがぬ存在となる。

人の祈りと自然の脅威。
それらが同じ場所に静かに共存している――そんな空気があった。

歩き始めてすぐ、「八合目」の標識。
こんなに早く?と驚くも、道は整っており、視界は広く、歩みは軽やかだった。

背中越しに、山の静けさが語りかけてくる。


だが、山が優しいのではない。たまたまこの日が静かだっただけのことだ。

そして、祠。
木と石の素朴だが、立派に作り替えられた。
祈りの形は、時に言葉より多くを語る。
私は黙って帽子を取り、しばらくその前に立ち尽くした。

火山は眠っているだけかもしれない。
そして「歴史」は、記録ではなく「未来への教え」なのだと思い出す。

登っているとき、人は目の前の一歩に集中する。
だが下山して振り返ったとき、その山が心の奥に静かに根を張っていることに気づく。

次に来るときは、もっと時間をかけて、
あの静けさのなかに身を置いてみたい――そう思った。

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