『超「超」勉強法』 潜在力を引き出す プリンキピア 第2章の4 全文公開
『超「超」勉強法』(プレジデント社)が3月31日に刊行されました。
これは、第2章の4の全文公開です。
4 ヘリコプター勉強法で重要な箇所を見出す
高いところから見れば重要な点が分かる
重要な点を見出すためのいくつかの方法を3で述べました。では、もっと一般的な方法があるでしょうか?
勉強については、あります。第1章で述べた「ヘリコプター勉強法」です。
そこでは、連立方程式を使えばツルカメ算が簡単に解けるように、「進んだ方法を使えば、初等的な問題は簡単に解ける」と述べました。
ヘリコプター勉強法は、重要な事項は何かを把握するためにも有効です。高いところから全体を俯瞰すれば、重要なものが分かるからです。これを「鳥の目法」と呼ぶことにしましょう。
道を歩いたり、ドライブをしたりする場合、人によって目的地へのルートの認識法に差があります。ある人は、地図を頭に思い浮かべ、それと照合しつつ現在地と目的地の関係を把握します。これに対して、目の前に現れるつぎつぎの目標物との関係で把握している人もいます(例えば、銀行の角を右に曲がり、つぎの信号を左に曲がるというように)。
前者が鳥の目による全体把握です。これは、全体をまず把握し、それを用いて部分を理解しようとする方法です。鳥が上空から地上を眺めるようにして、対象を理解しようとするのです。
それに対して後者は、アリの目で部分部分を見ていることになります。部分から全体を理解しようとしているのです。多くの人は、この両者を組み合わせているでしょうが、私が強調したいのは、前者です。
「基礎が重要」という考えは、一つ一つの部分を理解し、それらを積み上げていくことによって全体を理解しようというものです。しかし、こうした方法で理解するのは難しいのです。
ここで述べているのは、それとは逆の方法です。まず全体をつかんで、それによって部分を理解しようとする方法です。
「鳥の目法」で、なぜ重要な点が分かるのでしょうか? それは、全体を把握すれば、個々の部分がどのように関連しているかが分かるからです。そして、重要性とは、個々の部分が全体に対してどのような位置にあるかで決まるものだからです。
「鳥の目法」は、まず全体の鳥瞰図を得て、それをもとに各部分の重要性を評価しようとい
う方法です。
できるだけ早く、高いところに登る
この方法は、とくに数学の場合に有効です。できるだけ早く、できるだけ高い場所に登ってしまうのです。すると、そこに至るまでの概念や理論の位置づけが分かり、なぜある概念が必要なのか、個々の概念がどのようにつながっているのか、どの程度の重要性のものなのか、といったことが分かります。進んだ段階から見れば、それまでのところはよく分かるのです。
したがって、できるだけ早く、できるだけ広い範囲をざっと勉強してしまうべきです。例えば高校1年生なら、高校の全課程をできるだけ早く勉強する。理解できないことが多少残っても構わないで、どんどん進むのです。
学校の勉強の場合には、教科書という格好の手引きがあるので、できるだけ早く、教科書を最後まで読んでしまえばよいのです。
この方法によって、「どのようなことを学ぶのか」という概略をまず把握します。高校の全課程で学ぶべき内容はどの程度のものかを把握すれば、勉強は楽になります。
軍隊の行軍の場合に、目的地が分からないと疲れるけれども、目的地を知り、そこまでの地図があれば疲れないのと同じことです。
生徒の間で、「こんなことまで知っているぞ」という背伸び競争があり、進んだことを勉強するインセンティブが働く環境(第1章の6参照)があると、とてもよいと思います。
なお、本を読む場合に全体を俯瞰するための具体的な方法としては、目次の活用があります。教科書や参考書を読んでいるとき、頻繁に目次を参照するのです。すると、いま学んでいることが全体の中のどのような位置にあるか、他の部分とどのような関係にあるかがつかみやすくなります。
ヘリコプターの力を借りて高いところに行く
ところで、「高いところに行け」と言っても、「ではどうやって高いところに行けるのか? それこそが問題だ」という意見があるでしょう。
第1章の6では、自分の足で一歩一歩登るのでなく、ヘリコプターに乗って頂上まで行ってもよいと提案しました。
例えば、ファイナンス理論の論文で、「ボラティリティ」という言葉が出てきたとしましょう。これは統計学の基礎概念の一つなのですが、統計学を勉強したことがない人は、この言葉を見て、「私は統計学を知らない。その勉強には大変な努力が必要だ。だから、私はこの論文を読めない」とあきらめてしまうでしょう(「ボラティリティ」とは、第6章の4で説明している「分散」の平方根である「標準偏差」と同じものです)。しかし、時間がなければ、最低限の必要事項を調べるだけで読み進んでもよいのです。
この目的のために、昔であれば、百科事典を用いました。いまなら、ウェブで調べるのが便利です。「ボラティリティ」についての簡単な説明は、すぐに見つかります。それを読めば、「おおよそどのようなことか」は、理解できます。学生時代に統計学をきちんと勉強しなかったビジネスパーソンでも、理解できるでしょう(ただし、ウェブにある解説は誤っている場合も多いので、注意が必要です)。
専門家には、このような方法をとることに反対の人がいると思います。そして、「麓から一歩一歩登ってこそ頂上をきわめる歓びがある。ヘリコプターで頂上に行っても意味がない」と言うでしょう。だから、百科事典やウェブで答えを見てしまうというのは、ルール違反だと感じてうしろめたく思う人が多いのです。
しかし、この意見はサディズムでしかありません。高山の素晴らしい空気や眺望が目的なら、ヘリコプターで望む高さまで連れて行ってもらってもよいのです。
実際、われわれは日常生活でこうした方法を多用しています。自動車を運転するのに、内燃機関の原理について正確な知識を持っている必要はありません。それより、アクセルの踏み加減を体得するほうが重要です。あるいは、テレビを見るのに、半導体の知識は必要ありません。
受像機の操作を知っていれば十分です。
勉強についてこれと同じことをやるのが、「ヘリコプター勉強法」です。
IT機器ではヘリコプター勉強法がとくに有用
PC(パソコン)やスマートフォンなどの実用的な道具に習熟するための原則としても、「ヘリコプター勉強法」は有用です。PCそのものだけでなく、エクセルなどのアプリケーションソフトの使い方についても、このことがいえます。
パソコン教室に通って、あるいはマニュアルを読んで、基礎から一歩一歩進むのでなく、とにかく現在必要な操作を誰かに教えてもらって習得するのです。
最初に機器を買ってきたとき、動作環境の設定や周辺機器の接続などを全部自分でやろうと思っても、無理です。「基礎から一歩ずつ」という考えにとらわれている限り、いつになってもスマートフォンを使えないでしょう。
右で「誰かに教えてもらう」と言いましたが、「誰か」とは、IT機器に詳しい人を指します。ある程度の規模の職場なら、このような人が必ずいるはずです。彼らと仲良くなって教えてもらうのです。どうしても見つからなければ、誰かに専門家を紹介してもらい、彼らに家庭教師役を頼みましょう。ある程度の知識を持っているなら、別に家庭教師に頼る必要はありません。いまでは、ウェブで検索すると、この種のアドバイスを簡単に見つけることができます。ですから、独力で習得できます。
エクセルの使い方などであれば、ウェブにいくらでも解説記事があります。印刷物の解説書は一般的な読者を相手にしているため、万人向きの内容になっており、個別の問題に対して役に立たないことが往々にしてあります。しかし、ウェブの記事なら、自分のニーズに直接応えてくれるものを容易に見出すことができます。
ところで、これまで強調してきたように、学校の勉強では、重要な点が変化しません。しかし、IT機器についての実用的な勉強では、変化します。例えば、30年前であれば、ウィンドウズを使うためにMS-DOSという基本ソフトについて学ぶ必要がありました。しかし、いまではMS-DOSについて何も知らなくともウィンドウズを使うことができます。
重要な点が変化する分野では、「基礎から一歩一歩」という方法をとっていては、いつになっても実用的知識まで辿り着きません。「とにかく必要なことをマスターする」ことが必要で、そのためにはヘリコプター勉強法は不可欠です。
なお、ヘリコプター勉強法の有効性に対しては、異論があるでしょう。とくに、基本的な認識能力を育成しつつある年齢では、このような学習法は適切でないとの意見があると思います。
しかし、「最初に全体的な概念に触れておくと、たとえそれを十分に理解できなかったとしても、あとの内容の学習を早める」という心理学実験の結果があります。だから、この方法は、小学生の勉強にも応用できるものだと私は思います。
