『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学 全文公開:第1章の7
『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学が、文藝春秋社から刊行されました。
12月20日から全国の書店で発売されています。
これは、第1章の7の全文公開です。
7 清華大学が最先端分野で世界一になった理由
中国で質の高い論文が激増
基礎研究分野における中国の躍進ぶりは、いくつかの指標によって見ることができます。 まず論文数。日本の科学技術振興機構(JST)の分析は、中国が発表する質の高い論文の数と研究領域が激増していることを指摘しています。
ここで対象とされている領域は、物理、化学、生命科学、コンピュータ、材料などの151領域です。20年前には、中国が上位5位以内に入るのは2領域だけだったのですが、10年前に103領域に急増し、2017年には146領域に達しました。そのうち、数学、工学、材料などの71領域では、中国が首位となりました。
なお、日本が5位以内となる領域は激減しています。20年前には82領域あったのですが、それが18領域に減少しました。3位以内は2領域のみです。
AIやブロックチェーンなどの最先端の分野では、とくに中国の躍進ぶりが注目されます。中国のAI論文数は激増しており、上位10%(引用された回数)に占める中国の比率が、2020年にはアメリカに並ぶと予測されています。ブロックチェーンに関する中国企業の特許出願数は、アメリカの3倍に達しました。
コンピュータサイエンスでは、清華大学が世界トップ級
大学のランキングでも、同様の傾向が見られます。
イギリスの教育専門誌Times Higher Education(THE)が2019年9月に発表した2020年の「THE世界大学ランキング」によると、アジアのトップは中国の清華大50学(世界23位)、第2位は北京大学(世界24 位)です。東京大学(世界36位)は、アジア第5位でした。世界の上位200校に入る大学数は、中国が7校であるのに対して、日本は、東京大学と京都大学の2校のみです。
最先端の分野では、中国の躍進ぶりはもっと顕著です。コンピュータサイエンスにおける大学のランキングを、U.S. News & World Report 誌が作成しています。
それによると、中国の清華大学が世界第4位(2017年には第1位)でした。日本のトップである東京大学は、世界ランキングでは第94位です。
リープフロッグする中国の大学
なぜこのような状況になるのでしょうか? 中国政府が基礎科学の研究を重視して支援しており、巨額の資金を投入しているからだと説明されます。確かに、そうした事情はあるでしょう。
しかし、それだけではないように思われます。これは私の想像ですが、ここでも、リープフロッグが生じているのではないでしょうか? つまり、伝統的な分野に縛られることなく、最先端の分野に人材や資金を集中できるからではないでしょうか?
そして、それができるのは、中国の大学では、伝統的な分野の力が強くないからだと思われます。
そうなったのは、文化大革命によって、大学が破壊されたからです。清華大学は、文化大革命で紅衛兵の拠点となり、それまでの教授陣が一掃されてしまいました。中国の高等教育と研究のシステムは、ここで全面的に破壊され、過去との連続性が失われ、伝統が引き継がれなくなってしまったのです。いわば、焼け野原になってしまったわけです。 こうした状態のところに、1980年代以降、能力のある若い研究者たちがアメリカに留学し、帰国してから、何もないところに新しい分野を築き上げていったのだと思われます。
