『超「超」勉強法』潜在力を引き出す プリンキピア 第2章の3 全文公開
『超「超」勉強法』 (プレジデント社)が3月31日に刊行されました。
これは、第2章の3の全文公開です。
3「勉強で重要な2割」をどうやって見出すか?
何が重要かを見出す必要がある
「力を分散するのでなく、重要なことに集中せよ」と述べました。これは、ある意味では当然のことです。
ところが、実際にそれを行なおうとすると、そう簡単ではないことが分かります。
第一に、「重要部分である2割」が何であるかは、必ずしも自明ではありません。「どうやって重要なことを見出すか?」という問題が、実際には簡単でないのです。
PCのキーは、重要なものが大きくなっています(リターンキー、スペースキー、シフト
キーなど)。だから、重要なキーが何かはすぐに分かります。
しかし、一般には、このような形で重要度が分かるのは、むしろ例外です。それにもかかわらず、重要度には差があるのです。
本章の2で、全体の2割でしかない「売れ筋商品」が全体の売り上げの8割を占めると述べました。しかし、どの商品が売れ筋かは、必ずしも明らかではありません。
つまり、重要なことがすぐに見分けられるとは限らないのです。それを見分けることが、2:8の法則を応用するうえで決定的に重要な意味を持っています。
前節で強調したように、勉強では、重要な部分に努力を集中する必要があります。しかし、そのためには、「何が重要な点か?」を知る必要があります。
ビジネスの場合、「選択と集中が必要」といわれます。では、どこに集中するのか? それを誤れば、「的外れ」になってしまいます。
2:8の法則の原理自体は、品質管理の分野で、昔から広く知られていました。その場合に重要なのは、「何が2割なのか?」を知ることです。
トートロジーに陥らないために
重要な部分がどれかを探し出す方法が分からないと、2:8の法則は使えません。「重要なものが2割ある」というだけでは、一般的な原則を述べただけで終わってしまいます。それだけでは、現実の問題に適用することができません。
整理法に関する本は山ほどありますが、それらのほとんどは、「要らないものを捨てよ」と言うだけです。そして、「要らないものをどうやって識別するか?」という方法論を示していません。これでは、トートロジーに過ぎず、ノウハウになっていません。
「ノウハウを示していないノウハウ書」が世の中に氾濫していることに対して、私は怒りに近い感情を持っています。
2:8の法則について書かれた本も、いくつもあります。それらを読んで不満に思うのは、「どのようにして、重要である2割を見出すか?」に対する答えを与えていないことです。
仕事のうえで要点を押さえることがうまい人も、多くの場合は、直感で行なっています。「なぜそこが重要と分かったのか?」と問われても、適切に答えられない場合が多いでしょう。実際には、長年の経験を通じて見つけ出したり、偶然に見出したものが多いのでしょう。仕事の場合には、何が重要かをいつも意識していれば、だんだんカンが働くようになってきます。そして、重要でないことに努力を集中している場合には、それを修正しなければならないという感覚が生まれるようになってきます。
ところが、勉強の場合には、重要な箇所を見出すための方法論を示すことができます。これについて、以下に述べることとします。
教師の役割
まず、何が重要かを教えるのが、教師の役割です。
良い教師とは、「どこが重要なのか」を教えてくれる教師です。良い教師は、教科書に書いてあることがすべて同じように重要ではないことを知っています。「重要なところだけを取り出すと体系的にならないから、重要でないことも教えざるをえないのだ」ということを知っています。
教科書に比べて講義が優れているのは、重要な点を強調できるからです。逆に言えば、それを示せない教師は無能です。
アメリカに留学したときに印象的だったのは、教授がcrucial という言葉を連発したことです。This assumption is crucial. というように。
important というのとは少しニュアンスが違います。This assumption is crucial とは、「その仮定を置くかどうかで、結論がまったく違ってしまう」という意味です。学習で重要なのは、crucial なこととtrivial(些細)なことを、はっきり区別することなのです。
こう言われれば、学生の側でも、どれが重要かと常に意識するようになります。そのうちに、カンが働くようになってきます。
過去問勉強法
良い教師に恵まれない場合は、どうしたらよいでしょうか? あるいは、独学で勉強しているために、教師がいない場合には?
教師に教えられなくとも、直感的に重要な点を見出すことができる学生もいます。しかし、誰もがそうした能力を持っているわけではないので、方法論が必要でしょう。
私は、さまざまなことを独学せざるをえなかったので、この類のノウハウを意識して求めました。
私は、大学では応用物理学を勉強したのですが、4年になってから経済学の勉強をしたくなり、経済学の知識を持っていることを採用者に示すために、国家公務員試験の経済職を受けました。
これは、毎日遅くまで研究室で実験を続ける、厳しい時間的制約の下での勉強でした。とにかく効率的に進めなければなりません。そこでどうしたかというと、公務員試験の過去問題を見たのです。経済学に関する知識がゼロの段階で、教科書を最初から順に学習するのでなく、過去問題だけを見ました。そして、経済学辞典を買ってきて、意味の分からない用語(例えば、「価格弾力性」というような、日常用語でないもの)を引いて、意味を勉強しました。
私は、大学受験のときから、「過去問題集」とか「傾向と対策」という類の参考書があることを知っていましたが、あまり使いませんでした。しかし、このときにはもっぱら過去問に頼ったのです。
体系的に学問を究めようとするのではなく、試験で良い成績を取ることだけが目的なら、過去問題で勉強するのが最も効率的です。
この方法は、程度の差こそあれ、誰もがやっているでしょう。例えば、運転免許の筆記試験で、交通法規をすべて覚えるのは大変です。しかし、過去に出題されたことを勉強すれば、たいていは通ります。
もし経済学を教えるなら、あるいは経済学について(ある程度専門的な)本を書くなら、「経済学は、どのような基本問題に答えようとしているのか?」「経済学の基本的な方法論は何か?」「経済学の限界は何か?」といったことを重点的に話したり書いたりします。
しかし、公務員試験でそうした問題が出てくることは、まずありません。こうした「深遠
な」問題に対しては、論者によって意見が違うし、客観的な採点も難しいからです。専門の学術書と試験とでは、重要な点が違うのです。
したがって、深遠な問題について高い識見と深い洞察を持っていても、試験で良い成績は取れないでしょう。試験に出てくるのは、答えが客観的に決まっている問題なのです。
入門教科書を見る
良い教師がいない場合に重要な点を見出すもう一つの方法は、入門用の簡単な教科書を見ることです。ここには、(専門の学術書とは違って)重要なことしか書いてありません。
ローマ史を勉強するのに、最初にギボンの大著『ローマ帝国衰亡史』を開くと、途方に暮れてしまうでしょう。しかし、入門解説書を読めば、何が重要な点かが分かります。そこには、ポンペイウスやハドリアヌスのことは書いていないかもしれませんが、カエサルとオクタビアヌスは必ず載っているでしょう(後で述べる「ヘリコプター勉強法」に即して言えば、入門教科書は非常に強力な「ヘリコプター」なのです)。
私は高校で世界史を取らなかったので、ずいぶん後になってから自分で勉強しました。公務員試験の勉強をしたときのように時間的な制約はなかったので、最初は世界史の事件を題材にとった小説から読みました。
西洋史なら、ローマ帝国、十字軍、大航海、エリザベス女王、フランス革命、そして現代史です。シュテファン・ツヴァイクの著作には、面白い歴史ものがいくつもあります。
面白いから、自動的に右のような選択になったのですが、いま考えてみると、小説になるような事件や人物は、世界史全体の立場から見ても重要である場合が多いのです。つまり、これは、世界史の重要な部分なのです。
「牛に引かれて善光寺参り」といいますが、私は、面白さに引かれて自然に世界史の重要な「2割」を勉強したといえるかもしれません。
図書館の本を見ると、重要な箇所が分かる
アメリカの大学院の授業では、「リーディング・アサインメント」というものがあります。講義を受ける前提として、来週までに読む必要がある参考文献のリストです。
ところで、英語を母国語としない留学生には、これはかなり大変な課題です。英語を速読できないというハンディキャップがあるからです。「1週間のうちに厚い本を
10冊読め」などというリーディング・アサインメントも稀ではないのですが、とても対応できません。
そこで私がどうしたかを述べましょう。
私は図書館に行ってアサインメントの本を借り出し、本を下から眺めたのです。すると、ページが黒くなっている部分が見えます。ここは、大勢の学生が読んだ箇所です。
多くの学生は、その本を最初から最後まで一様に読んだのではなく、黒くなっている部分を読んだのです。つまり、その部分こそが「重要な点」です。多くの場合に、それは本全体の2割にもなりませんでした。
これは、速読ができないためにやむなく取らざるをえなかった対応ですが、いま思えば、リーディング・アサインメントへの対応としては、正しい方法だったと思います。「こんなにたくさんは読めない」とギブアップしてしまうことに比べれば、ずっと積極的な対応です。
なお、図書館の本には「ここが非常に重要」とか、「この記述はおかしい」などの書き込みもあり、大変有益でした。「図書館の本に書き込みをしてはならない」という注意は間違いだと、私は思っています。「図書館の本には、有益でない書き込みをしてはならない」とすべきでしょう。
重要な事項を知るためのもう一つの方法は、ウェブの検索を行うことです。検索は、中学生でも簡単にできるでしょう。
例えば、ローマ史を勉強しているのであれば、「古代ローマの政治家」というキーワードで検索したときに上のほうに出てくる人が重要な人です。
一般に、検索で上位に出てくるのが重要な事柄です。上位に来るのは張られているリンクが多いサイトであることが多く、必ずしも重要性を意味するとは限りませんが、多くの人が重要と思っていることを表すと考えてよいでしょう。
書籍の場合には、索引の活用も有効です。索引に登場する概念は、重要なものだからです。
ところが、日本の書籍には索引がないものが多いので、このように使えないのが問題です。
