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『どうすれば日本人の賃金は上がるのか』:全文公開  第4章の2

どうすれば日本人の賃金は上がるのか』 (日経プレミアシリーズ)が9月13日に刊行されました。
これは、第4章の2全文公開です。

2 「成功者」といえる年収はいくらか?
 そうなる人の比率は?

国家公務員の給与:本省課長なら年収1200万円を超える
 
1節でも述べたように、毎月勤労統計調査などの賃金調査から得られる情報は、個人の位置を正しく知るためには、十分なものとはいえない。なぜなら、賃金統計は、あらゆる雇用者を対象にしているため、対象についての具体的なイメージを摑みにくいからだ。
 日本人全体を対象とした統計には様々な人々が含まれているため、どのような人たちと比較しているのかが把握しにくい。年齢別、学歴別などの統計で項目ごとの平均値を見ても、やはり、対象のイメージがはっきりしない。
 自分の給与が日本社会の中でどの程度のものかを見るためには、対象のイメージがはっきりしているものと比較するのがよい。

 対象のイメージがはっきりしているものとして、まず、国家公務員の給与を見よう。図表4―2には、国家公務員のモデル給与を示す(2020年度)。
 技術職と事務職で若干の差があるが、50歳から54歳までの本省事務職課長の場合で、1266万円となっている。局長になると1700万円を超え、事務次官になると2000万円を超える。しかし、ここまで昇進できるのは、ごく一部の人だ。

 本省の課長になれば、国家公務員として「成功した」といえるだろう。したがって、「成功」の目安は、俸給が年1200万円台ということになる。

民間企業では、年収1000万円超えが「成功」の目安
   国家公務員の給与は、民間給与を参考にして決められている。対象とされているのは、事業所規模50人以上の民間事業所だ(業種によっては、この範囲に中小企業も含まれる)。
 人事院「令和3年職種別民間給与実態調査の結果概要」によると、平均支給月額は、部長クラス(平均年齢52・8歳)で、70万7786円だ。ここで、「平均支給額」とは、従業員に対して支払われた、きまって支給する給与(時間外手当を除く)の年平均額だ。
 この他に、ボーナスが4・3 2カ月となっている。ボーナス分を加えた合計を計算すると、図表4―3のようになる。部長クラスで年収1155万円になる。

「成功者」と呼べる年収がもらえる人は、
大卒者の5分の1
すべての人が部長になれるわけではない。そこまで行けるのは、「成功者」といってよいだろう。ではこの段階まで行ける人は、どの程度いるのだろうか? 「民間給与実態調査」(国税庁)によると、年収が1000万円以上の人の比率は、全体の7・1%だ(男性、2020年)。
 民間企業従業員の中でこれだけの人の給与が1000万円を超えているというのは、それなりに重要な情報だ。
 ただ、もう一つ知りたいのは、そこにたどり着く確率だ。それを知るためには、前記の情報だけでは十分でない。
 なぜなら、日本の賃金体系は年功序列的なので、若いときに所得が低いからといって、低所得者だということはできないからだ。時が経てば、給与が上がると期待してよい。
 高収入者は50代に多いので、50代における収入が1000万円を超える人の比率は、全年齢についての平均値である7・1%より高いはずだ。

 ここでは、前記の人事院「職種別民間給与実態調査」を用いて、つぎのような計算を行った。この調査が対象としている総人数は約338万人だ。それに対して支店長、部長の人数は11万人だ。
 いま、従業員は、23歳から60歳までの各年齢に同数だけ分布しているとし、支店長、部長は50代であると仮定しよう。すると、50代の従業員数は91・4万人であり、そのうち11万人が支店長、部長になっている。
 したがって、50代の従業員数に対する支店長、部長の比率は、11/91.4=12%ということになる。
 しかし、これは従業員数50人以上の企業についてのものである。この他に50人未満の企業があり、また自営業者がいる。
 法人企業統計調査によれば、資本金5000万〜1億円未満の企業の一企業あたり従業員数が85人であり、これより資本金が少ない企業の場合には、一企業あたりの従業員数はより少なくなる。そして、これらの企業の従業員総数が、全体の約半分を占める。
 したがって、仮に従業員50人以上の企業における支店長、部長だけを「成功者」と考えるなら、その人たちが50代の総就業人口に占める比率は、右で計算した12%よりは低くなるはずである。
 結局のところ、50代の男性における「成功者」の率は、7・1〜12%の間にあることになる。ここでは一応の目安として、10%と考えることにしよう(注)。
 日本の大学進学率は、1990年代以降、ほぼ50%だ。したがって、前記の人々は、大卒者の5分の1程度にあたる。つまり、大卒者の約5分の1が「成功者」といえる年収に到達することになる。
 なお、以上では年収のみに着目して「成功者」を定義した。しかし、人間の幸せが収入だけで決まらないことは、言うまでもない。収入が少なくても幸せな人は大勢いるし、逆に、収入が多くて不幸な人もたくさんいる。

(注)『日本経済2021-2022―成長と分配の好循環実現に向けて―』内閣府(2022年2月)、「付図3―3 世帯主の年齢階級別に見た再分配前所得の分布」によると、世帯主年齢が45〜54歳、55〜64歳の場合、再分配前所得が1000万円以上の世帯の比率は約20%となっている。

日本の「成功者」の年収は、アメリカ修士の初任給程度
 
では、海外の事情はどうだろうか? アメリカで年収1000万円は、ほぼ大学院卒の初任給のレベルである。
 第1章でも触れたが、トップクラスのビジネススクールであれば、MBA(ビジネススクールの学位)取得後、1700万円程度の年収が直ちに得られる。ボーナスを加えると2500万円程度になる。30歳になるかならぬかの人たちが、これだけの収入を得られるのだ。
 他方、「国家公務員の給与(令和3年版)」(内閣官房内閣人事局)によれば、日本の公務員で大学院卒、総合職の初任給は、383万円でしかない。
 アメリカの場合、巨大IT企業で上級のエンジニアに採用された人々は「成功者」といえる。第1章で見たように、彼らの年収は1億円近くなる。
 先に定義した日本の場合の「成功者」年収とは、10倍程度の開きがある。アメリカと日本の違いに呆然とせざるを得ない。


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