ねむれないよる
眠れない夜。自他ともに認める早寝早起きの私にも、そんな夜はある。それは大抵の場合、頭の中で反省会をしているからだ。
アルコールのせいで火照る身体と、妙に冴える頭。隣室の物音や、遠く走り去っていくバイクの排気音が、不思議と、耳元で聴こえる気がする。私は静けさを求めるように、記憶の中に潜って、その日一日の反省会をする。私のふとした言葉で、誰かを傷つけてはいないか。意思が強すぎて、不快な思いをさせていないか。もっと良い伝え方があったのではないか。反省会の議題の大半は、言葉の扱い方に関することだ。
そんなことを考えながら、この文章を書いていると、救急車のサイレンの音が聞こえて来た。ちょうど日を跨いだくらいの時間だ。何があったのかは分からない。でも、同じ町に住む、同じ眠れない時を過ごしていた誰かが、何らかの形で、夜の闇に吸い込まれてしまったのだ。微かな繋がりを持つその誰かが、明日の朝を迎えられることを、私はただ祈ることしかできない。
そうしてまた、私は私の中に潜っていく。夜が少しずつ近づいてくる。明日も私は言葉という刃物を使って、人を傷つけてしまうかもしれない。それが誰かにとって、眠れない夜の理由になってしまうかもしれない。それでも私は、言葉を使わずにはいられない。
せめてそれが、鬱蒼と生い茂る森を切り開くナタになってくれるように、あるいは誰かの心の膿を出すためのメスになってくれるように、私は自分の刃物を研ぎ澄ませていく。そのための眠れない夜なのだから。
