ザシキワラシ日記001
私のそばにはずっとザシキワラシがいる。いつもにこにこ、にたりにたり、けたけたと笑いながら、長いおかっぱ頭(LOKP)で家の中を歩き回っている。およそ人間とは思えない不思議な生命力を発揮しながら、人間界をフラついている。かれこれ18年と少し一緒にいるが、いまだに訳が分からない。言葉を用いないその暮らしぶりは、わりと理にかなっていて、野生動物のように率直だ。私はそれを美しいと感じている。
心理学を学ぶことにした時、大学で『アヴェロンの野生児』という本を推奨された。当時はあまり興味がなく、図書館でパラパラと立ち読みした程度だったが、いわゆるオオカミに育てられたと推測される、フランスの人間界で捕獲された四つん這いの子どもの話だ。言葉を用いず、行動はオオカミからの学習によるものとされていた(気がする)。年齢相応の知能の遅れは、生育環境による後天的なものと考えられたが、現在では、生まれつき知的障害のある捨てられた自閉症児だったという説がある。捕獲されたのち、人間界では生き残ることは出来なかったが、それでよかったと思う。
わが家を彷徨っている我が娘たるザシキワラシは、まさにその生まれつき知的障害のある自閉症児だ。生態は野生児さながらで、毎日全裸で、人間界のルールはほぼほぼ無視したまま今ここの暮らしに至る。今でこそウチとソトの差異は分かっているが、幼い頃は、洋服が気持ち悪いとソトでも全裸になろうとしたものだ、ははは(汗)。
笑いたいと考える前に笑い、泣きたいと考える前に泣き、誰かをぶっ飛ばしたいと考える前にぶっ飛ばす。同様に歌い、踊り、叫ぶ。拾い食いは普通で、食事の前には必ず臭いを嗅いで安全を確認する。好きなもの以外は食べないスタイルを貫徹し、腹ペコなんか気にしない。自由だ。それは自然界の理にかなっている。四つん這いで歩かないのはたまたま二足歩行を学習したからだろう。
こういう人は概ね踊るとか歌うとか歩き回ることが好きなようで、この人もやはり幼い頃から踊り、歌い、歩いていた。楽しいので笑う。にこにこ、にたりにたり、けたけたと。人間と視線を合わせることなくいつも30度上向きに空(くう)を見ているその表情は、一切を受け入れて世界の懐に入る覚者のようですらある。そんなありさまを見ながら私は、この上なく幸せな気持ちになる。この人は、私に福を呼ぶザシキワラシだと確信したものだ。
この訳の分からない美しい存在を世にシェアし、私がかれこれ18年受けてきた福を皆さんにもお裾分けしていくべく、気の向くまま『ザシキワラシ日記』を書き留めていきたいと思う。
