小悪魔ちゃんは、本当に悪者なの?
「そんなことで疲れたって言うの?」
「まわりの人は、もっとやっているよ」
「ここで休んだら、置いていかれるよ」
夜、布団に入ってからこんな声が聞こえてくること、ありませんか。
不思議なのは、この声がとても具体的だということです。あなたの弱いところも、失敗した日のことも、全部知っている。当たり前なんですね。だってこの声は、あなた自身の声だからです。
わたしはこの声を、勝手に「小悪魔ちゃん」と呼んでいます。

もうひとりの声
いっぽうで、こんな声を聞くこともあると思います。
「今日はよく頑張ったよ」
「休んでいいんだよ」
「あなたはそのままで大丈夫」
こちらは「小天使ちゃん」。やさしい声です。
でも、正直に言うと、この声を素直に信じられる人は、それほど多くありません。「そんなの気休めだ」と思ってしまう。
信じられなくても、いいんです。それを責める必要はありません。まずは「二つの声がある」というところまでで十分です。

実は、同じ人です
小天使ちゃんと小悪魔ちゃん。この二人、同じ女の子なんです。
よく見ていただくと、制服の形も、ポーズも、ピースサインも同じでしょう。翼の色と、まとっている空氣が違うだけ。
つまり、あなたの中で争っているように見える二つの声は、もともと一人の中から出てきたもの。どちらも、あなたの一部なのです。
そしてもうひとつ。その二人を、こうして眺めているあなたがいますね。
声そのものではなく、声を聞いている側のあなたです。
この記事の最後で、またこの「眺めているあなた」に戻ってきます。

小悪魔ちゃんは、なぜ生まれたのか
心理療法の世界には、心をひとつのかたまりではなく、いくつかの「部分(パーツ)」の集まりとして見る考え方があります。厳しい声も、そのパーツのひとつ。
そして大切なのは、厳しい声は、たいていの場合、あなたを守るために生まれているということです。
手を抜いたら愛されないと感じた子どもは、叱られる前に自分を叱るようになります。
先回りして自分を責めておけば、他の誰かに責められたときの痛みが少しやわらぐからです。
期待に応えられなかった経験のある人は、はじめから自分を低く見積もるようになります。
期待しなければ、裏切られないからです。
どれも、賢いやり方です。少なくとも、その頃のあなたにとっては……。
IFS(内的家族システム療法)という技法では、心を「守り役」「傷を抱えた部分」などの集まりとして捉え、どのパーツにも悪意はないと考えます。厳しい声は、内側の傷ついた部分がもう痛まないように、前に立って盾になっている。そんなふうに見立てるのです。
またスキーマ療法では、幼い頃に身につけた考え方の型が、大人になってからも作動しつづけることを扱います。その型は当時のあなたにとって最適解でした。ただ、環境が変わった今も同じ設定のまま動いているために、生きづらさになってしまう。壊れているのではなく、更新されていないだけなんですね。
つまり小悪魔ちゃんは、見張り役なんですね。あなたが傷つかないように、いちばん危ないところに立って、ずっと目を光らせている。やり方はたしかに不器用です。言葉もきつい。でも動機のところを覗いてみると、そこにあるのは保護なのです。
追い出そうとすると、大きくなる
「こんなことを考えてしまう自分はダメだ」
お氣づきでしょうか。これもまた、自分を責めています。
小悪魔ちゃんを黙らせようとする声もまた、小悪魔ちゃんなのです。
抑えつけるほど、声は大きくなります。
追い出す代わりに、できること
氣づく 「あ、今は厳しいほうが喋っているな」と、少し離れたところから眺めてみます。声と自分のあいだに、すきまをつくるイメージです。
理由を訊く 「あなたは、何を心配してくれているの?」と問いかけてみてください。責めるためではなく、聴くためにです。
返事をする 「心配してくれてありがとう。でも今日はここまでにするね」。守ってくれたことを認めたうえで、判断はあなたがする。それだけで十分です。
ひとつだけ、お願いがあります。
内側に問いかけていく途中で、胸が苦しくなったり、思い出したくない場面がよみがえったりしたら、そこで中断してくださいね。
無理に掘り下げなくて大丈夫です。「今日はここまで」と決めることも、立派な自分の守り方です。
深いところに手が届きそうで届かないときは、ひとりで進めずに、専門家と一緒に開けていくほうが安全なこともあります。
からだのほうが先
不安が強くなっているとき、からだはすでに臨戦態勢に入っています。呼吸は浅く、肩は上がり、心拍は速くなっている。この状態のまま考えごとをすると、思考はどうしても悲観的な方向へ流れていきます。
ですから、順番としては、からだが先です。
息を吐く。肩を下ろす。あたたかいものを飲む。からだが緩まないと、思考は緩みません。小悪魔ちゃんと話し合うのは、そのあとで大丈夫です。
おわりに
小天使ちゃんも小悪魔ちゃんも、どちらもあなたを、今日までちゃんと生き延びさせてきた存在です。
どちらかを追い出す必要はありません。必要なのは、二人の声を聴きながら、司会役の椅子に、あなた自身が座ること。さきほどの「眺めているあなた」が座る椅子です。
今夜また小悪魔ちゃんが喋りはじめたら、こう言ってみてください。
「うん、ちゃんと聞こえてるよ。聞いてるよ。」
それだけでも十分です。
すべての心のパーツは、あなたの大切な声です。





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