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障害者雇用の引き継ぎで残すべきは、「対応」ではなく判断の理由 

引き継ぎ資料を作りました。前任者からファイルも受け取りました。
でも、担当者が変わった途端に、また一から始まりました。

「この業務、どういう経緯でこの進め方になったんですか」
「この相手とのやり取り、どこまで進んでいましたか」
「何かあったとき、誰に相談すればいいですか」
資料を見ても、答えが見つからない。
結局、前任者に連絡するか、上司に確認するかになります。

これは、特定の業務だけで起きる話ではありません。
担当者が変わるたびに、
判断の根拠がリセットされる組織で、繰り返し起きることです。

特に障害者雇用では、配慮の経緯や支援機関との約束など、
引き継ぎが難しい情報が多く、この問題がより顕著に出ます。

引き継ぎが機能しない理由は、資料がないことではありません。
判断の理由が残っていないことです。


資料には「何をしたか」しか書いていない

引き継ぎ資料に書かれているのは、たいてい「現在の対応内容」です。 

週1回面談している。
この業務を担当している。
このツールを使っている。
この手順で進めている。

これらは「何をしているか」の記録です。業務の引き継ぎとしては必要なものです。でも、これだけでは次の担当者は動けません。

なぜその頻度なのか。
なぜその手順なのか。
何かあったとき、誰に相談するのか。

この「理由と判断の流れ」が残っていないと、状況が変わったときに次の担当者は自分で判断できません。結論だけが引き継がれ、判断の根拠は前任者の記憶の中に残ったままになります。

配慮の内容、支援機関とのやり取り、本人との合意内容。 
「何をしているか」は資料に残っていても、「なぜそうしているのか」が抜けていると、次の担当者は同じ配慮を続けることはできても、状況が変わったときに自分で判断できません。

本人から「配慮を変えてほしい」と言われたとき、「前任者がそう決めていたので」としか答えられなくなります。

では、次の担当者が状況に応じて判断できるようにするには、
何を残せばよいのでしょうか。 

判断の理由を残すとは、何を書くことか

判断の理由を残すには、3つのことを言葉にしておく必要があります。 

1.何を確認して、どう判断したか

配慮を決めたとき、何が判断の根拠になったのか。
本人からどんな状況を聞いたのか。
主治医や支援機関からどんな情報があったのか。
現場からどんな相談があったのか。

この「判断の材料」が残っていると、
次の担当者が状況を読み解く手がかりになります。

2.どの条件になったら見直すのか
配慮は一度決めたら変えないものではありません。
本人の状況が変わることも、業務が変わることもあります。

「こういう変化があったら見直す」という条件が言葉になっていると、
次の担当者が「そろそろ見直すべきかどうか」を
自分で判断できるようになります。

3.誰に、どのタイミングで相談するのか
配慮の見直しを誰が決めるのか。
本人への伝え方は誰が担うのか。
人事が入るのはどの段階からなのか。
支援機関に連絡するのはどういうときか。

この相談経路が言葉になっていると、
担当者が一人で抱え込まずに済みます。

判断の理由を残すための、6つの記録項目

ここまでの内容を、実際の記録に落とし込むときは、
次の6つに分けて残すと整理しやすくなります。
・確認した事実
・本人や現場から出ている希望・相談
・今回の判断
・その判断にした理由
・見直す条件
・次に相談する相手

このとき、「本人や現場から確認した事実」と、「その事実をもとに組織としてどう判断したか」は、分けて記録しておくことが大切です。

たとえば、「本人から疲れやすいという相談があった」という事実と、
「当面は業務量を調整する」という判断を分けておけば、
状況が変わったときにも、次の担当者が改めて検討できます。

大切なのは、詳しい文章を長く書くことではありません。
次の担当者が記録を見たときに、「何が起きていて、組織としてどう考え、次に何を確認すればよいか」がわかることです。

個人の記憶を、組織の基準に変える

判断の理由が蓄積されると、個別事例が組織の判断基準に育っていきます。
「このケースのときは、こういう理由でこう判断した」が積み重なることで、次のケースを検討するときに、「これは似た状況だから、こう考えよう」と、過去の判断を参照できるようになります。 

障害者雇用では、「この人の場合はどう考えるか」と、個別に判断する場面が多くあります。でも、その判断理由が残っていれば、次第に「こういう状況では、こう考える」という組織としての基準が育っていきます。
 
属人化していたノウハウが、組織として使えるものになっていく。
担当者が変わっても、判断の質が下がりにくくなります。

引き継ぎは、日々積み上がっていく

引き継ぎが機能しない組織には、共通していることがあります。
引き継ぎを「担当者が変わるとき」だけに行う、特別なイベントとして扱っていることです。

でも、担当者が変わるときに慌てて資料を作っても、判断の理由は記憶の中にしかありません。「なんとなくそうしてきた」「前任者がそう言っていた」という状態で引き継ぐことになります。

引き継ぎを機能させるためには、
日常的に判断の理由を記録しておく仕組みが必要です。

面談のたびに、何を確認してどう判断したかを一言残す。
配慮を変えるとき、なぜ変えたのかを記録する。
支援機関とのやり取りで決まったことを、必要な関係者が権限の範囲で確認できる場所に残す。 

大がかりな記録作業にする必要はありません。
日常の判断の中に「理由を残す」という習慣が組み込まれていると、
引き継ぎが機能しやすい状態をつくることができます。 

担当者が変わっても止まらない組織の条件

引き継ぎが機能している組織は、
特別な引き継ぎをしているわけではありません。
日常的に判断の理由が残る仕組みがある。
誰が、何を、どのタイミングで記録するかが決まっている。それだけです。

逆に言えば、引き継ぎが毎回うまくいかない組織は、引き継ぎの方法ではなく、日常の判断設計を見直す必要があります。

あなたの組織では、担当者が変わったとき、「何を確認して判断したのか」「どの条件で見直すのか」「誰に相談するのか」まで引き継げているでしょうか。

「なぜそう決めたのか」が次の担当者に届く仕組みがあるか、一度確認してみてください。

担当者が変わっても判断が止まらない状態をつくるには、引き継ぎ資料を増やすだけではなく、現場・人事・管理職の間で、判断の理由と相談経路を共有できる設計が必要です。

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